ガールズトーク(2)
「アコだって、言うこと聞くのに」
「嫌がるあいつに迫ってるのに?」
「それとこれとは別だもん」
「あーうん。そういう積極的なところはいいと思います。でも、気の引き方が間違ってると思うよ。男の好みに合わせちゃったら女は終わりだって」
「だって」
「自分だって楽しくないでしょ? したくもない髪形して着たくもない服を着てほんとは肉が好きなのにあたし小食なのとか言ってサラダしか食べれなくてビジュアル系の曲を思いっきりシャウトして歌いたいのに愛してるとか会いたいとか繰り返す歌を歌ったりさ」
「えー、アコは男の人が喜ぶならテレサ・テン歌っちゃうよ?」
「はあ? ないわあ、絶対ない。会社のオジジどもは桃色吐息とか魅せられてとか喜ぶけどさ、ぜっったい喜ばせたくないもん」
「それで可愛がってもらえるならそれでいいじゃん」
「ま! 世渡り上手! でもわかっててもそれができない女だっているわけだよ」
「……三咲さんて、アコのお母さんに似てるかも」
「へ?」
「お母さんも、バリバリ仕事してて家の中のことはあんまりで、なんで掃除してないんだってお父さんが怒ってよくケンカになって」
「あー……」
「ちょっと掃除機かけるくらいで怒られずにすむならやればいいのにってアコは思ったけど、お母さんはとにかくやらなくて、それでお父さんは出ていっちゃった」
「そっか」
「なんでそんなに意地になるんだろうって、アコにはわからない。言われた通りにしてれば平和ならそのほうがいいじゃん」
「それは人によるかな。客観的に見ればほんの小さなことでも、本人にとってはそれを譲ってしまったら自分の存在価値が揺らぐってほどのことだってあるから」
「むずかしくてわかんない」
「ごめんごめん。でも、アコちゃんのお母さんて、私に似てるって言うなら、全然気にしない人なんじゃない?」
「そうなの、お父さんがいなくなっても気にしなくて」
「あはは。親近感わくわあ」
「アコはお母さんが嫌いではないけど、お母さんみたいになりたくないなって」
「そっか」
「アコはかわいいお嫁さんになりたい。企業戦士な旦那様のお世話をして、美味しい料理を作っておうちの中をピカピカにして、夜には癒してあげるの」
「なんかさっきから、アコちゃんの価値観て昭和だね」
「ダメなの?」
「ダメじゃないよ。専業主婦だって立派な職業だもん。でもそれをわからせるのって女の社会進出を認めさせる以上に大変だと思う。それに今の世の中男の収入をあてにしてたら何かあったときに貧困女子まっしぐらだからね」
「違うもん。アコが言いたいのはそういうことじゃなくて」
「あーごめん。ほんとはわかってる。男に尽くしたいってことでしょ。それはそれでつくし世代まっしぐらだよねえ」
「なんかムカつく」
「あーごめん。ほんとごめん。駄目だよね、集団的なものの見方」
「わかんないけどそうだよ。アコはアコだからね」
「だよねえ。でもさ、ぷっ、くくく……企業戦士はないわあ」
「三咲さんもワーキングママだもんね! 働いてるってだけでエラそうにさ」
「……いや、ほんと。そうだね。男の大嫌いなところと同じになったらダメだね。反省」
「働きすぎがよくないんじゃない」
「そうだねえ。確かに」
「だからアコだっておんぶにだっこになるつもりはないよ。いろいろバイトしたことあるけどどれも楽しいし」
「偉い偉い」
「そういうことじゃなくて。好きな人にはいろいろしてあげたいもん。アコのいいところヨッシーに見てもらって喜んでもらいたい」
「それならやっぱり〈自分〉をなくしちゃうのはダメだよ」
「自分……」
「アコちゃんらしさってことね。自分らしさで勝負しないとさ、ちゃんと好きになってもらえないよ」
「アコらしさで勝負してもヨッシーは振り向いてくれなかったもん」
「そうかな」
「え」
「めんどくさいオトコだからさ、あれ。口に出してる気持ちがほんとなわけじゃないんだよ。自分でもわかってないんだよ、きっと。誰にだってあるけどね、そういうこと」
「……わかんない」
「うん。アコちゃんはそのまんまなコだもんね。とってもいいと思うよ。そのままでいなよ」
「わからないよ……」
「鳴ってる」
「え」
「私じゃないからアコちゃんじゃない?」
「……ほんとだ、ことちんから」
「電話? 早く出なよ、ほらー」
「……ことちん? うん、アコだよ。……うん、大丈夫。……え、そんなことないよ……うん」
「ちょっと貸して。よっ……あ、ことちゃん? 私、私。三咲さんだよー。今アコちゃんとごはん食べてるの。ことちゃんもおいでよ。あ、でも打ち上げとかあるのかな? なら無理は言わないけど…………え、来る? そうこなくっちゃ。ええと、場所はねえ……」