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step5.ソイフレ(2)





「はっはっは。添い寝フレンドね。そんでホテルに戻ってしっぽりピロートークかましたの? 女子高生と」

「するかバカ」

 由基は不機嫌に吐き捨てる。また巡回に来た三咲みさきが「ねえねえJ K とデートはどうなったの?」としつこいからついつい事の顛末を話してしまった。由基の方にも誰かに愚痴らなければやってられないという気持ちはあったわけだが。


「アコが一緒に寝てヨシヨシしてあげる。大丈夫、寝るだけだから」

 あの後、テンションを取り戻して言い募るアコの言葉の内容から、ソイフレなる単語が意味するものはなんとなくわかった。もちろん「結構です」と全力でお断りして逃げ帰った。疲れきった由基のライフはもうゼロだったのである。


 結局会話は噛み合わないままでおそらくアコは何ひとつ納得しておらず、このまま放置するのは危険な気がして「また今度話そう」と言い置いて別れた。


 ようやく自宅に帰って倒れこむようにして数時間眠り、カーテンが開けっぱなしの窓から月明かりがさしこむ頃になっていったん起き出し、スマートフォンをチェックした。アコからラインにメッセージが届いているのではと予想していたのだが、唯一あった新着メッセージは琴美からだった。


『猫ちゃん。元気にしてます。お腹が空くとお母さんを探して動き回るので目が離せないようです。明日母と獣医さんに連れていきます』

 琴美の家で用意してもらったらしい小綺麗な寝床でリラックスして眠る子猫の画像が添付されていて、由基は癒されるのと同時に少し寂しくなってしまった。『ありがとう。よろしくお願いします』と返事をすると、琴美からすぐにお辞儀をする羊のスタンプが届いた。


 その後、カップラーメンを食べる間にも気にしていたのだがアコからのメッセージは届かなかった。公園ではあんな態度だったが、考えを変え見切りをつけてくれたのだろうか。


 そう思いもしたが確認する術がなくて落ち着かない。こっちからメッセージを発して墓穴を掘りたくはないし。


 落ち着かない気持ちで風呂をすませてテレビのニュース番組を見て、さて寝直そうと布団に入ったとき、着信音がした。今度こそアコからだった。

『ヨッシー、今日はありがとう。おさかなもペンギンもかわいくて、ハンバーガーはおいしくてとっても楽しかったです。また一緒におでかけしたいな』

 メッセージを眺めてどう返事をしようか由基は迷った。乗りかかった船というか、この子を放っておくわけにはいかないのでは、という気持ちになっていた。


 スマホの画面を睨んで沈思している間に、アコから続けてメッセージが来た。

『今、電話していい?』

 由基はふううっと長く息を吐いた後、自分から通話のアイコンを押した。

『え、ヨッシー!?』

 即座に通話に出たアコの声は裏返っていた。

「なんで驚いてるの?」

『え、だって……』


 自分から電話をしておいてなんだが、言いたいことが浮かんでこず由基は黙った。「電話していい?」と尋ねたわりにアコもなかなか話を切り出さない。しばらく気まずい沈黙が満ちた後で、ふと思い出して由基は口を開いた。


「天使が通ったね」

『え?』

「って言うんだよね。急に会話が途切れてしんてなっちゃう瞬間のことを。えーと、今の状況のことをそう言いたいわけじゃないけど、こういう言葉があるよって」

『ヨッシーは物知りだね』

「フランスの言葉だからだよ。菓子作りの用語にはフランス語とドイツ語が多くて、研修のとき講師がマメ知識を披露したりするんだ」

『ふうん』

 アコがうなると、また沈黙がおりた。

『天使が通ったね』

 笑い混じりにアコが言って、由基は「そうそう」と相槌を打った。


『アコね、ヨッシーが言ってたこと、考えてみた。アコは考えるの遅いしバカだからよくわかんないけど、もっとちゃんとしなさいってことなのかなあって』

「うーん、そこまで偉そうなこと言うつもりはないけど。それにアコちゃんはバカではないと思うよ。俺のクルマのナンバーすぐ覚えたり、居場所にあたりをつけたり」

『ああいうときにはね、我ながらすごく頭が回るの。なんでだろ』

 恋愛脳おそるべし。

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