step4.デート(9)
はーっと額を押え、自分なりに会話の流れを組み立ててから由基は口を開いた。
「あのね、アコちゃん。君みたいな女子高生が俺みたいなおっさんを誘ったりしたら、それってどう思われるかわかる?」
「どうって?」
「まず援交かってなるよね」
「援交でもパパ活でもないって言ったじゃん!!」
激昂してアコが立ち上がる。今までのきゃらきゃらした嬌声とは違う、生の怒声だった。
「なんで高校生が年上の人と恋愛するとすぐに援交とか言われるの!?」
由基が顔を強張らせながらどーどーと手つきで宥めると、アコはどすんとベンチに座り直し頬を膨らませたままオレンジジュースを飲んだ。
「……年をちゃんと言ってなかったかな。俺は三十七ね。君は?」
「十七」
「ほら、親子みたいな年の差じゃない。普通に考えれば恋愛感情なんか持たないって。だから援交かと思っちゃう」
「普通ってなに!? それにうんと年の離れた夫婦だって世の中にはいるじゃん。アコ知ってるもん」
「うん。まあ、それは確かに。大人になるとさ、年の差が気にならなくなるっていうのはある。みんな同じ社会人て立場になるしね。でも、今の君と俺とは違うだろ。はっきり言ってさ」
由基はここははっきり伝えなければならないと声を張る。
「俺は女子高生と恋愛とかって考えられない。俺から見たら君は子どもでしかないんだ」
また反射的に怒鳴られるかと身構えた。が、アコは沈黙したまま目の先の池の水面を見つめていた。鴨の番が泳ぐ水辺からの涼風が彼女の前髪を揺らすと、アコはぱっと丸く目を見開いてにっこりと由基の顔を見た。
「でもアコは、ヨッシーを好きになっちゃったんだもん」
清々しい笑顔に由基は毒気を抜かれてしまう。
「好きになったら、全力で落としたいって思うのが当然だよね」
恋愛脳のポジティブさ、ハンパねえ。だがここで引くわけにはいかない。
「それならもっと正直に言うよ。君と一緒にいるとね、俺はつらい、しんどい」
「え」
「アコちゃんみたいに若くて細くておしゃれで、自分から光ってるみたいに生命力が溢れてて、それが若さってものなんだけど、そういう女の子にそばにいられると、気分が落ち着かなくて息が苦しくて疲れるんだ」
「ヨッシーそれって」
アコはなぜか目をキラキラさせて身を乗り出す。
「それって恋じゃない!? アコのこと好きになっちゃったんだね!」
ち、がーう!!
「違うんだよ、アコちゃん。俺が胸が苦しくなるのは、精神的に追い詰められて体に影響が出てるからで」
「違わないよ。ほら、吊り橋効果ってやつ。怖くてドキドキするのを好きでドキドキしてるんだと勘違いしてラブラブになるんでしょう。ヨッシーのドキドキだってアコのことが好きなドキドキに変わるかもしれないじゃん」
「変わらないよ」
無性に苛立たしくなって由基はこれまでになく冷たい声を投げつけてしまった。口を開けたまま、アコの顔も凍りつく。
「だいたいそれって、錯覚で好きになるってことだろ。言ってしまえばまやかしだ。君はまやかしの恋心なんかでいいの?」
みるみる色を失いアコはしょんぼりとうなだれてしまった。髪型をアップスタイルにしているためうなじがむきだしになり、そのか細さに庇護欲をそそられる。気持ちが揺らぎそうになる。余計なフォローを入れたくなる。だが由基は心を鬼にしてアコの反応を待つ。
「でもアコは、ヨッシーが好きなんだもん」
ぽつりとつぶやいて、アコはそろそろと由基へと目を上げる。
また堂々巡りだ。由基は顎を上げて目を閉じる。どうすりゃいいんだ。