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試作品の女神

 こんなにも安心して眠れたのは、いつ以来だろう。

 包容力の高い羽毛布団に包まれて、ヌクヌクとした余韻を噛みしめつつも……メイシャンはぼんやりとしながら、尚も婿殿に甘えようと身をよじらせてみるものの。そこにはただただ、ぽっかりと空いた連れない余白が広がるばかり。そうして一気に眠気も吹き飛ばしては、メイシャンは部屋を見渡すが……そこに、スイシェンの姿はなかった。


「……お前、様……?」


 一体、どこに行ってしまったのだろう。折角、初めて心の底から身を預けられそうな相手が見つかったというのに。その婿殿が隣にいないなんて、寂しいにも程があるではないか。


 自分を守ってくれると言ってのけた男は数知れずとも、実際にそれを最後まで実行できた男は今まで、1人もいなかった。何せ、メイシャンはバダルハの眷属であり、言わば彼の娘であり……暗黒神の人格の1つでもある。そして更に深い事情を解剖すれば、メイシャンはバダルハがハッキヤムに命じて作らせた女神のプロトタイプでもあった。


 ラハイヤにできることが、バダルハにはできない。同格の存在として生まれたはずの太陽神は自分のための伴侶を作り出すことができるというのに、暗黒神が作り出すことができるのはせいぜい「見た目だけは美少女」な死神くらい。しかもラハイヤはバダルハの人格の1つでもあった、荒神にさえにも新しい名前を与えては、福の神として仕立てる始末。ラハイヤは光り輝く魂を作る事もできれば、荒んだ魂さえも磨き上げることもできる。

 その現実を前に、魂さえ工面できれば美しい女神を作り出せるのかと、バダルハはハッキヤムに選り抜きの魂を与えては「自分だけの女神」を仕立てようとしたが……結局、生み出されたのはただただ、可愛いだけの娘のみ。バダルハにしてみれば、明擅(メイシャン)の存在は理想の女神……明禮(アケライ)には程遠い。その上、メイシャンは憎らしい程にバダルハに似て、ワガママだった。暁の明星を(ほしいまま)にしようにも、どこまでも憧れには届かない。


 そんな境遇で生まれ落ちたメイシャンは見た目こそ嫋やかではあるものの、実の中身は凶暴そのもの。自身もそれなりの能力を持ち得ているとなれば本来、「守られる側」になる事さえない。ハッキが姫様のワガママを埋める意味も含めて連れてきた男達は誰も彼もが皆、情けない程に彼女よりも弱く……メイシャンに良いように弄ばれては、ハッキの実験台に食い殺されるのが常だった。だから、次の「婿殿候補」がハッキが差し向けた実験台……「魔が者」にさえも抵抗し、あまつさえ屠る程の実力を持つ狩人だと聞かされた時は、メイシェンとしてはまずまず、「遊び相手」としては及第点のつもりでもいたのだが……。


(……今回の婿殿は“大当たり”ですもの。今更失うなんて、悔しいじゃない。それに……)


 彼がメイシャンを花嫁だと認識しているのが彼女の魅力によるものではなく、どこまでもハッキの妖術のお陰だと知っている以上、このまま「取り逃す」のは惜しいにも程がある。しかし、そんな事を一方的に考えれば考える程、何故か心の奥がまたチクリと痛むのにも、気づいて。メイシャンは慌てて、本心を誤魔化すついでにいそいそと衣服を着込む。だが、いくら誤魔化して強がってみたとしても。その痛みが本当は何なのかを、メイシャンは誰よりもよく知ってもいた。


(ふふ……何だか私、馬鹿みたい。まぁ、それはともかく……今は旦那様を探さなければ。だって、彼ならこの痛みも慰めてくれるもの)


 その痛みは強いて言えば、彼を「家族ぐるみで」騙していることに対する罪悪感であり、引け目でもあるのだろう。そして、出会いが例え「こんな形」だったとしても……彼が相手であれば、メイシャンの方も飽きることなく根気強く向き合える気がして。少しだけ父親の思惑に反抗しては、試作品の女神は婿殿を探しに寝所を飛び出した。

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