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嫉妬まみれの婚礼

 アケライ達がシャムルに到着する頃には、流石の朝日もようやく昇り始めていたが、それでもまだまだ早朝の時間帯ではある。しかし、何やら「祝賀ムード」に包まれているシャムル城は、丸ごととっくに目覚めているらしい。そこには慌ただしい様子と、嬉しそうな空気とが満ちていた。


「……何があったのだろうな、この様子は」

「さぁ……しかし、こうもすんなり入れてもらえるとなると……」

「嫌な予感がしますね」


 ルーシンとユンルァはともかく、アケライはある意味で警戒対象であるだろうに。その最低限の警戒心も忘れているのか、城下町の民に混じってあっさりと城壁内に案内されれば。逆に警戒心を募らせるのも、自然な反応である。そうして、やっぱり何かの行事に集められたらしい町人達に揉まれて移動をしていると……この「祝い事」の正体が薄らと漏れ聞こえてくる。


「……聞いた?」

「えぇ、聞いたわよ、もちろん。あのメイシャン様にとうとうお婿様が見つかったそうね」

「そうらしいわ。なんでも、化け物憑きになったアンフィ様をお鎮めになった英雄なのだとか」


 婿殿の名前はなんて言ったっけ……と、好奇心を余すことなく漏らしている町娘達の会話に、顔を見合わせるアケライとルーシン。メイシャンと言えば、例の看守・ハッキヤムが仕えていると明言されていた相手だったかと思う。そして……どうやらこの幸せな空気はそのメイシャンの婚礼が決まったことによるものらしい。町娘達の噂に花婿の名前が挙がることはとうとう、なかったが……アンフィを鎮めたという内容があった時点で、アケライの尋ね人である可能性は非常に高い。


「……まさか、相手はスイシェン……なのか……?」

「どうでしょうね? しかし……」

「そうさね。……さっきの話だと、違う可能性の方が低い気がするよ。……なるほど。あ奴らはシェンちゃんを婿殿にする気かね」


 それはスイシェン自身の意思なのだろうか? それとも、花婿を演じさせられているだけなのだろうか? もし、そうだったとしたら……。


「アケライ、落ち着きな。とにかく今は状況を確認する方が先だぁね。ただ……」

「ただ……?」

「もし、シェンちゃんが納得した上での婚礼だったのなら、お前さんは身を引いた方がいいかなと、あたしゃ思うよ。……あの子の人生は、あの子の物だ。本当は最初から最後まであんたが決めていい物じゃぁ、ないのさね」

「……」


 冷静なはずのアケライの顔に、明らかな焦りと怒りとを読み取っては、ルーシンが先回りをするものの。アケライもそのことは痛いほどに理解しているはずなのに、腹の中でグツグツと膨らむ不快感に答えを出す事もできなかった。そして、その感覚が「嫉妬」なのだということを、アケライは認めることもできなかった。


「ふむ……アケライをして、そんな顔をさせるなんてな。アズラは本当に、罪な男だな」

「……いや。彼はアズラじゃなくて、スイシェンです。だけど……そう、ですね。アズラの面影をスイシェンに無理やり当て嵌めていたのは、他でもない……私なのでしょう。だから、スイシェンが望んだ婚礼だった場合は……」


 自分が諦めた方が互いに幸せなのでしょう。

 そこまで小さく呟いて、やはり気持ちを持ち直す事もできずに肩を落とすアケライ。しかし、この状況はある意味でアケライ自身の傲慢が生み出した結果でもあるだろう。

 アケライは表立ってその美しさを誇ることも、奢ることもしたつもりはなかったが、同時に「自分は美しい」という自覚くらいは持っていた。そして、その美しさがあれば、スイシェンが自分から離れていくことは絶対にないと、慢心していたのである。自分は強く、美しい。今までだって彼女に声をかけて「鎮められた」男は数えきれないし、アケライの方はその数は自分の魅力の証だと割り切っていた。そして、彼女が一時たりとも「よそ見」をしなかったのは、アズラのみを唯一の伴侶として求めていたから……に尽きる。

 だが、その唯一の伴侶に「仕立てた」拠り所が、今まさに奪われそうになっている。手塩にかけて育てた運命の相手が、たった少しの間離れただけで横取りされようとしている。もちろん、その思考こそが呆れる程に身勝手なワガママであることも間違いないのだが。……今のアケライに、その驕慢を正す余裕もないのだった。

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