2話 シャルロット様との出会い
教育委員会に入り、オーリスさんに話を伺う。
「ヘンリー。仕事が決まったぞ」
「本当ですか!」
「あぁ。依頼主がきているから話してくれ」
「あ、ありがとうございます」
依頼主が来ているのか...。もっと正装でくればよかったと後悔しながら依頼主が来るのを待つ。そこから数分して部屋に中年男性が入ってきた。
(公爵家に比べれば身なりがそこまで良くないが、貴族であることは間違いないだろう)
すぐさま椅子を立って挨拶をする。
「ヘンリー・ラビットと申します。この度依頼をしていただきありがとうございます」
「君がヘンリーくんか。私は男爵家であるハイーラ・リークレットだ。よろしく頼む」
「よろしくお願いいたします」
「早速だが本題に入らせてもらう」
「はい」
リークレット家...。没落貴族として有名だ。でも俺にとってそんなこと関係ない。
仕事内容の予想としては今まで通り家庭教師が妥当だと思うが、公爵家の件もあるし護衛の仕事かもしれないし、家庭教師とは限らない。でも今の俺に選択できる権利はないし、なんでも仕事はやる予定だ。
「今回、私の娘であるシャルロット・リークレットの家庭教師をしてもらいたい」
「家庭教師ですか...」
また家庭教師ができるのは嬉しいが、今回は公爵家の時ほど自信がなかった。ライラお嬢様に言われたこともあるが、リークレット家と言えば...。
「ダメか? ヘンリーくんは公爵家で家庭教師をしていたと聞いているがもうやめてしまったのか?」
「ぜひこのお話、受けさせていただきたいです」
「そうか。それはよかった」
「では後ほど依頼内容を送らせていただくよ」
「はい」
ハイーラ様が部屋を出て行ってから、オーリスさんが部屋に戻ってきて少し話す。
「了承してくれたか?」
「はい。ですがリークレット家ですか...」
「あぁ。でも君ならできると思っているよ」
「善処します」
リークレット家の噂は俺ですら知っている。男爵令嬢は魔法を使うことがものすごく苦手ということ。苦手ということだけならここまで有名にはならない。でも男爵令嬢であるシャルロット様は基礎魔法ですら使いこなせないと聞く。爵位は魔法が使えなかったらはく奪されてしまう。そのため貴族の人なら誰だって基礎魔法が使える。だからリークレット家が今後爵位をはく奪されてしまうかもしれないということで有名である。
「まあ無理だったらまた他の人に依頼するからそこまで気にしないでね」
「はい」
話が終わって教育委員会を後にする。宿に戻ろうとした時、銀髪の女性がいじめられているのを見かける。
「お前魔法もろくに使えないんだろ? 本当にカスだよな」
「だよな。なんでお前が貴族なのかわからないわ」
「...」
もしかして...。今の会話を聞いてある人物が頭に浮かぶ。
「ねえキミたち。何話しているのかい?」
「チィ。またなシャルロット。次会う時にはせいぜい魔法が使えるようになるんだな」
一人の男性がそう言って、全員去っていった。取り残されたのは俺と泣いているシャルロット様の二人。気まずい...。まずは話しかけようと思った。
「シャルロット様でよろしいでしょうか?」
「なんで私の名前を? どなたですか?」
やっぱりか...。
「俺はヘンリー・ラビットと申します。この度シャルロット様の家庭教師をやらさせていただくことになりました」
「...。どうせまた私を見限っていくんでしょ?」
シャルロット様の目が光っていないのが分かる。
「そのようなことは致しません」
「みんな最初はそう言うのよ!」
今のシャルロット様には誠心誠意言うしかない。
「シャルロット様はなぜ魔法が使いたいのですか?」
「...。家を継ぐため」
「でしたら一度だけ俺にチャンスをくれませんか? 必ずシャルロット様が魔法を使えるようにします」
「...。もしそれでも使えなかったら?」
「シャルロット様に一生ついて行きます」
「え? あなたは何を言っているのかわかっているの?」
「はい」
そう。俺は今専属契約をすると言った。誰しもが伯爵家以上の家と専属契約をしたいと思うだろう。逆に言えば没落貴族となんて専属契約したいとは思わない。なんたって専属契約をしたらずっとその家に仕えるのだから。でも今の俺にはこれしかできない。
「なんでそこまでしてくれるの?」
「それは俺もシャルロット様と同じ境遇であったからですよ」
「そっか...。じゃあもう一度だけ頑張ってみる」
「はい。数日後からリークレット家に向かわせていただきますのでよろしくお願いいたします」
「うん」
そしてシャルロット様と別れた。はっきり言ってここまでするなんて馬鹿げているに決まっている。でもシャルロット様と昔の俺を重ねてしまった。なんせ俺もずっとアバや他のみんなにけなされていたのだから。
でもこれで後戻りすることはできない。俺はシャルロット様を磨き上げて他の奴らを見返させる。それをするにはまず俺と同じように魔法祭に出てもらわなくちゃだな。
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