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鴉の黙示録  作者: 雨宮妃里
第13章 狂気のさえずり
230/261

中川恒元の思惑

 夜の店というものは、何故にくも酒が美味いのだろう。


 喜びに胸が震える気分でも、憂さの立ち込める気分でも、カウンターに座ってグラスを傾ければ不思議と全てが些末事に思えてくる。


 酔いが心を蕩けさせるのではない。酔いが心を穏やかにしてくれるのだ――カウンターに肘をつき、グラスに入ったバーボンを眺めながらそんなことを思った。真ん中では氷の塊が揺れている。


 この光景を眺めているだけで不思議と情念が落ち着いてくるから酒は好きだ。


「……マスター、もう一杯注いで貰えるか」


 そう声を発した直後、扉が開いて女が入ってくる。


「遅くなってごめんなさいね。この辺りの道路が混んでいて」


「そういや墨田区で工事が行われるって話だったな。錦糸町も含まれてたとは」


 ここは錦糸町にあるバー『STRAY』だ。寡黙な店主が作り出す空間では秘め事を話すのに最適であるが、今日ばかりはあまり声を潜めずとも良いと互いに感じていた。


「まあ、座ってくれ」


「ええ」


 女をカウンター席の俺の隣に座らせる。そしてマスターに注文した。


「俺と同じやつを頼む」


 マスターが「かしこまりました」と頷いたのを見てから俺は云った。


「それにしても珍しいな。あんたが俺に酒をご馳走してくれるなんて」


 すると女はこう返したのだ。


「あら、当然じゃない。何せ今日は宴なんですもの」


 ああ、そうだったな――俺は内心そう思った。華鈴の家での鍋パーティーの翌日ということで何だか申し訳ないような思いも心を包んでいるが、今日くらいは気にせず楽しむとしよう。


「じゃあ、乾杯といくか」


「ええ」


 俺たちはグラスを鳴らした。そして俺はバーボンを呷る。そんな俺を女はじっと見つめていた。


「ふふっ、こうして飲むのも久しぶりだわねぇ」


「ああ。そうだな……まさか昨日の今日で会えるとは思わなかったぜ」


「今の時期ならではのことよ」


「へぇ? 投資家にも閑散期があるのか?」


「まあね」


「へへっ、道理でメールの返信が速かったわけだ」


 そう云って俺はバーボンを流し込むと云った。


「なあ、覚えてるか? 俺たちが出会った日のことを」


 すると女は少し考えた後にこう答えたのだ。


「……ええ、勿論よ。あそこで涼平はあたしに銃を向けて『一緒に来い』と迫ってきたんだもの」


「おいおい、それじゃあ俺が無理やり関係を迫ったみてぇじゃねぇか。あれは恒元公の差し金だぜ」


「うふふっ。分かってるわ。冗談よ、冗談」


 まあ、その辺は彼女の言う通りだろう。とてもではないが、俺たちの出会いは真っ当とは云えないものだ。


 銃を向ける側と向けられる側。


 中川恒元の命令でこの女――藤城琴音を誘拐しようと六本木へ向かったのが2年前の冬の日のことであった。あれから色々と紆余曲折はありつつも、こうしてふたりで酒を酌み交わす仲になったのだから人の世とは奇妙なものだ。


「時が流れるのって本当に早いわよね。あの頃は敵同士だった私たちがこうして仲良くお酒を飲むようになるなんて」


「ああ、まったくだ……」


 俺はバーボンを飲み干すとマスターにもう一杯注文した。そんな動作を何か可笑しそうに眺めていた琴音が悪戯っぽく云う。


「あらあら。今宵は私の奢りなんだから、そんな安酒を頼まなくったって良いでしょうに」


「……この店じゃこいつがお決まりなんだ。価格で選んでるわけじゃねぇよ」


「ずっと変わらないわね。あなた。夜のお供はバーボンのロック、例外は無し……ふふっ、まるでお爺さんみたい」


「おいおい、これでもまだ23だぜ?」


「へぇっ。それじゃあ私と出会った頃は21歳か。その辺の大学生と変わらないじゃない」


 よく考えれば確かにそうだな。呟くように「まあな」と応じた俺をじっと見つめ、琴音は感慨深げに言った。


「そのくらいの年齢としで中川会きっての殺し屋と呼ばれてたなんて……」


 そう云ってどこか寂しげな表情を浮かべた琴音。俺はそんな彼女にこう返す。


「あんただって他人ひとのことは云えねぇぜ。初めて会った時からずっとな」


「それはそうね。何せ28歳で日本一のお金持ちになったんですもの」


「おいおい。それを自分で言うかよ」


 天才的な先読みの眼で若くして莫大な富を築いた女相場師と、裏社会の帝王お抱えの殺し屋。運命の戯れとしか思えないような奇妙なめぐりあわせだ。


「でも、私よりあなたの方が何百倍も何千倍も凄いわよ。中川会の……いえ、恒元公の力がここまで強くなったのは、ほぼほぼあなた一人の努力の賜物みたいなものじゃない」


 横目で俺に微笑んでグラスを傾ける彼女を俺はじっと見つめた。


「いや、俺なんか凄くねぇぜ」


「……どうしたの? そんな物憂げな顔をして」


「あんたの力が無きゃ、俺は今頃どうなってたか分からねぇからな。俺なんか、ただ言われるがままに人をあやめてまわっただけのヒットマンさ」


「銀座の抗争のことを云っているの? あなた自身が何と思おうと、あれは麻木涼平の大手柄よ。あなたのおかげで眞行路一家のブラックマーケットは壊滅した」


「……」


「あなたの活躍で救われた人は多いはずよ。少なくとも眞行路一家が都庁と結託して人狩りに暗躍することは無くなった」


「……だが、それが結果として中川恒元の力を強大なものにしてしまった。凶暴な魔獣を倒したつもりが、新しい魔獣を目覚めさせちまったんだ」


 元の木阿弥――だが、俺の心の中を見抜いたのか。彼女はこう答えたのだ。


「そんなに悲しそうな言い方に聞こえないわね」


 俺は思わず息を呑んだ。琴音は続ける。


「確かにあなたは中川恒元を暗黒の帝王として即位させた。でも、その帝王の力が無くてはあなたの理想としていることは為せない……違う? 恒元公を利用してやれば良いのよ。何だかんだ言って、あのお方は自らの意に沿って動く相手にはお優しいから」


 その瞬間、俺の両頬が自然と緩むのが分かった。直後、思わずこう尋ねたのである。


「あんたも思うのか? 恒元公を上手く操縦してやろうって?」


「思うも何も、そうする他ないでしょう。眞行路親子が遺した人脈を引き継ぎ、あの方が政財界を完全に掌握した今となっては」


 やはり、俺が考えていたことは間違ってはいなかった。笑みがこぼれてしまったのはそれに確信が持てたからだ。


「……っ」


 ますます表情が柔らかくなる俺。そんなこちらの様子を覗き込むように凝視した後、琴音は吹き出すように言った。


「うふふっ、そんなに嬉しいのかしら。私が同じ考えだったことが」


「あ、ああ。そりゃあ東大に合格できるだけの頭脳アタマを持った才女に肯定して貰えりゃ、安心するっていうか自信も湧くっていうか」


「ふふっ。可愛いわね、涼平。あなたって思ったよりも繊細なのね。良くも悪くもだけど」


「……初めて言われたぜ」


「まあ、それはそうと。これから中川恒元の力はこの国のフィクサーと呼ばれるくらいに強くなるでしょうから。その暴走を側で諫止する人間の役割もまた重要になるわ。魔獣の力を利用するだけじゃなくて、しっかりと手綱を握らなくちゃね」


「分かってるさ。もしもって時には俺が恒元公をお止めする」


 俺はグラスに注がれたバーボンを一気に飲み干した。そんな俺を面白そうに眺めていた琴音がふと思い出したように云う。


「そういえば……華鈴ちゃんとは上手くいってるのかしら。正式に付き合い始めたって聞いたけど」


 飲んでいたアルコールを吐き出しそうになってしまった。慌てて喉の奥へ流し込み、尋ね返す。


「あんた、その話をどこで?」


「恒元公から聞いたわ。あの方も呆れてらっしゃったわ。『華鈴のことになると涼平はいつも顔が赤くなる』って」


「そ、そうか。まあ、上手くいってるぜ。心が溶けちまうくらいにな」


「心が溶けるって……もう、涼平ったら」


 琴音は絵に描いたような苦笑いを浮かべてため息をついた。俺は頭を掻きながら答える。


「いや、まあな。俺は華鈴にベタ惚れで、あっちも俺に夢中なんだが、俺としてはもう少し、何つうか。その。恒元公の言ってたことも分かるんだよ」


「……何よ?」


「その、何だ。『他の女とも程よく遊んでおけ』って。そうした方が男としての格も上がるって、あの人は言ってたからよ」


 すると彼女はさらに深いため息をついた後、悪戯っぽく笑って云うのである。


「なるほどね。でも、だからってよりにもよって会長のお妾さんと遊ぶのは命知らずなんじゃないかしら」


「いや、あんたとはそういうつもりじゃ……」


「うふふっ。分かってるわ。でも、本当にあなたって可愛い人ね」


「……からかうなよ」


 俺はグラスに残ったバーボンを一気に飲み干した。そしてマスターにもう一杯注文する。今度は肴で小皿料理も頼んだ。


 そんな俺を慈しむように見つめていた琴音が云った。


「ねぇ、涼平。あなたは私の理想のタイプなの」


「……は?」


 突拍子もない言葉に面食らってしまう俺。彼女は云うのである。


「だから私、あなたのことが大好きなのよ」


 ああ、いつもの流れか。程なくして店主が供してくれたアーモンドをひと口かじった後、俺はこう返した。


「あんたも命知らずだな。恒元公の怒りを買えば何されるか分からねぇってのに『大好き』だの『愛してる』だの」


 すると彼女はまた悪戯っぽく笑う。そして云うのである。


「だって、本当のことなんですもの」


「……ったく、あんたはよ」


「うふふっ。それにね、前にも話したと思うけど。私はあなたみたいな人が好みなのよ」


 彼女に「俺のどこが良いんだ?」と尋ねた俺。すると目の前の悪女は頷いてみせた。


「だってあなた、強いじゃない。私のために戦ってくれたし、私を守ってくれたし。自分でもよく分かんないけど、昔からそういう男の人に弱いのよね……私。自分から体を許しちゃうっていうか……」


 そう艶めかしい言葉を紡ぐや否や、隣に座る俺へ絡みつくように急接近してきた琴音。心なしか、その瞳が潤んでいるように見える。


 そして。


「……お願い。これからも私のことを守って」


 か細い声で囁いてきたのだった。


 彼女の台詞が耳へ飛び込んできた瞬間、自分の中で何かに火が付くのが分かった。所詮、俺もまた魔獣のようなものなのかもしれないな。


「ああ。守ってやるさ」


 そう呟き、俺は琴音の手を力強く握り返す。次の刹那、およそ本能的に手が彼女の肩へと伸びた。もはや止められまい。


「好きだ。琴音」


「私もよ。涼平」


 そして俺たちはそのまま唇を触れ合わせた。互いの舌が絡み合う。それが引き金となり、俺は琴音を押し倒すようにしながらカウンターへ乗りかかったのである。


「安心してくれや。あんたのことは何があろうと守ってやるからよ」


 そんな俺の耳元で彼女は囁くと、ゆっくりと目を閉じたのだった――が。


「……あのぅ。お熱いとこすみませんがね」


 店主の苦々しい声が響いた。


「ここはモーテルでもラブホでもねぇんですよ。こっから先がしたいなら、他所へ行ってくださいますか」


 その言葉に俺たちは顔を見合わせ、カウンターから降りた。互いに顔が真っ赤になっていたことは云うまでもない。


「ちょ、ちょっとお手洗いに行ってくるわ」


 気まずさに耐えかねたか。琴音は逃げるようにトイレへと向かった。


 それによって生じた沈黙の間を何とか繋ごうと煙草に火を付けた俺に、マスターが言った。


「随分と仲がよろしいようで」


 どこか皮肉の色を含んだ声色だった。


「浮気は感心できねぇってか。客の色恋に口を挟むとは、意外に野暮なことしやがるんだな」


「そりゃあ、目の前であんなもん見せつけられちゃ。誰だって文句のひとつくらい言いたくなりますよ」


「へっ。そいつはすまなかったな」


 煙を吐き出しながら返した俺の台詞にマスターはあからさまに顔をしかめた後、こんな言葉を口にしたのだった。


「これ以上、失望させんでくださいや。坊ちゃん……」


「はあ? 何だって?」


「……あ、いや。漱石の『坊ちゃん』みてぇだなって話ですよ。無鉄砲なのも良いですが、少しは節操ってのも必要でしょう」


「あのなぁ、俺は節操も無く女を抱いてるわけじゃねぇぞ。惚れた女に対して真っ直ぐ接してるだけだ。そいつを世間じゃ浮気って呼ぶことは百も承知だが、あんたに無鉄砲云々と小馬鹿にされる筋合いはねぇよ」


 少々語気を強めた俺の反論に真顔で聞き入っていたマスターは、少しの余韻を入れ込むと吐き捨てるように呟いた。


「ふっ、やっぱり腐っても鯛か。お顔は似ておられる」


「似てるって? 誰に?」


「いえ、何でもありません。ちょいと出過ぎたことを申しました。どうかお許しくだせぇ」


 そう云って頭を下げたマスター。俺は「へっ……」と短く応じた後、ふと気になって尋ね返した。


「……ところであんた、さっき『坊ちゃん』がどうのこうの云ってたよな」


「はい? ああ、あの小説のことですか?」


「漱石の中でも『坊ちゃん』が好きとは珍しいな。あんなのは国語の教本に載ってる児童文学みてぇなもんだろ」


 すると彼はグラスを磨きながら言ったのである。


「……坊ちゃんは、あっしの理想ですから」


「ほう。赴任早々生徒から舐められる新人教師が理想とは驚いた」


「ですが、筋を通す男です。あっしもあのように生きたいと思っている……いや、思っていた時期がありました」


「その言い方じゃ諦めたってことか」


 すると彼はこう答えたのだった。


「30代の半ばくらいの頃にね。若き日に思い描いてた夢や理想も、歳を食ってみると馬鹿馬鹿しく思えてくるもんです」


 どこか寂し気に語ったマスター。思い返してみれば、この男も元は俺と同業の人間という話だったような。だとすれば、その頃に何かしらの挫折を味わったということか……あれ? 待てよ? よくよく考えると、彼の顔は以前に何処かで見かけたことがある気がするぞ?


 脳内で自然と子供の頃の情景が想起される。俺は何の気なしに尋ねた。


「あんた。昔、中川会系列の組に居たって言ってたよな」


「え、ええ。そうですが」


「それってもしかして。川崎の……」


 ところが、その瞬間。


「お待たせ」


 トイレから琴音が戻ってきた。


「ああ、もう済んだのか」


 俺はそう呟いて煙草を灰皿に押し付けた。どうやら琴音は今までの会話を聞いていない模様。彼女は自らの新たな注文を述べた。


「マスター。ギムレットをお願い」


「かしこまりました」


 そう答えたマスターが酒を作り始めた。会話が途切れてしまったが……まあ、良いか。気を取り直してグラスを手に携え、愛しい女の顔を見つめていると、そんな彼女は俺に云ったのだ。


「ねぇ。涼平」


「ん?」


「さっきはごめんなさいね。私ったら、つい……」


 琴音は申し訳なさそうな面持ちで云ったのである。俺は思わず笑ってしまった。そしてこう返す。


「謝る必要なんてねぇよ。むしろ謝らなきゃいけねぇのは俺の方だ」


 すると彼女はきょとんとした顔になった後、少し照れくさそうに云うのだった。


「……じゃあ、おあいこってことで良いのかしら」


 その台詞が妙に可愛らしく見え、俺は心が昂った。そして、彼女のグラスに自分のグラスを触れ合わせながらこう返す。


「ああ。おあいこだ」


 すると彼女は嬉しそうに微笑んだ後、小さく呟いたのである。


「……ありがとう」


 ああ、やはり俺はこの女に惚れ込んでいるようだ。改めてそう実感したのだった――が。


「お待たせしました」


 またもやマスターの言葉で我に返った俺。差し出されたギムレットに口をつけた琴音は、ひと口飲むなり言ったのだ。


「あらっ? これって……もしかして?」


 その反応に俺はきょとんとするが、マスターは嬉しそうに頷きながら言った。


「ええ、愛媛県産のライムを使いました。いかがですか」


「とても美味しいわ」


「そいつは良かったです。『味で勝負するなら原材料は全て国産に限定すべき』って社長のご助言のおかげでこの店も活気づいてきました。まあ、私としてはちょいと寂しい方が雰囲気があって好きなんですが……」


「何言ってるの。飲み屋は儲からなきゃ意味が無いでしょう。うふふっ、でも好評なら嬉しいわ」


 そう云ってグラスを置いた琴音。そんな彼女は思い出したように俺に話題を振ってきた。


「愛媛と言えば、自憲党の賀茂幹事長。あの勢いはいつまで続くのかしらね」


「ああ、あのオッサンか。右翼に大人気だよな」


 国政与党『自由憲政党』の幹事長、賀茂かも欣滔きんとう


 小柳首相との関係悪化に伴い解任された前任者に代わり、50歳という若さで幹事長に就任した党内きっての出世頭。アメリカとの関係を重視する現内閣の外交姿勢を「対米従属」と批判し、自由憲政党の結党時の党是である「自主憲法制定」と「反米外交」を声高に主張する姿勢は、保守派や右派層から熱狂的な支持を受けている。


 その人気ぶりたるや、自憲党の支持基盤として名を連ねる各圧力団体がこぞって「賀茂欣滔氏を次期首相に」と叫ぶほど。そんな大物政治家の選挙区が愛媛県今治市だったというのだ。


「まあ、あのオッサンが総理になるってことはねぇだろうけどよ」


 俺は煙草を取り出しながら云ったのである。そして続けて云う。


「あの男は確かにすげぇんだろうが、どうもいけ好かねぇ。何つうか『俺は偉い』ってのをひけらかすような態度が鼻につくんだよな」


「うふふっ。あなたもそう思うのね」


 その返答に微笑む俺に琴音は「まあ、私の場合は政策が好きになれないんだけど」と切り出し、言葉を続けた。


「賀茂さんの理想は日本を戦前の体制へ戻すこと。つまりは大日本帝国の復活よ。日米安保を破棄し、自衛隊を軍に戻し、再び軍備増強へ舵を切る。その考えに賛同する国民はたくさんいるでしょうね」


「ああ。確かにそういう思想の奴らは多いな。今の自憲党を支えてる層の大半がそんな手合いだろう」


 俺はそう答えた後、紫煙を吐き出した。琴音は言う。


「でも私はね、現実主義者リアリストだから。賀茂さんの考え方には賛成できないの」


 そこで彼女はグラスに口をつけた後にこう続けたのである。


「……まあ、これはあくまで私の個人的な意見だけど。日本はどう頑張ってもアメリカには勝てっこない。賀茂さんは『日本が核武装すればアメリカをも超えられる』って息巻いてたけど、アメリカは既に国際社会で盤石の地位を築いてる。いずれは経済制裁で締め上げてくる。核を持ったところで、せいぜいイランや北朝鮮の二の舞になるのがオチだわ」


「まあ、そうなるだろうな」


 俺は頷いた。彼女は続ける。


「結局ね、いくら軍備を強化してもアメリカには勝てないのよ。だから私は『自主憲法制定』と『反米外交』を掲げてる自憲党を支持したくないの。もし仮に賀茂欣滔が次の総理の座に就いたら、それこそ戦前の日本に戻るわ。平和も民主主義も無かった頃の国にね」


 琴音がこの場において賀茂の話題を出した――要するに、賀茂の支持をめぐる中川恒元の動向が気がかりなのだろう。「確かにな」と、俺は言った。


「あれが総理になったら日本はお先真っ暗だ。しかし、おそらく今年の秋の総裁選に賀茂は出馬するだろう。俺の読みじゃ議員票の本命は和泉官房長官だが……それでも断言はできねぇ。恒元公が和泉と賀茂のどちらを選ぶかで情勢は大きく変わってくるぜ」


 恒元は現内閣で官房長官を担う和泉いずみ義輝よしてると長年の盟友関係にある。されど強い日本の復活を目指す恒元の政治思想の根源が賀茂と似通っていると俺は見ていた。もし、賀茂を総理に据えた方が己の理想とする国づくりを体現しやすくすると考えれば、その時は友をあっさり切り捨てることも厭わないだろう。


「ねぇ、涼平。あなたから恒元公を説得して貰えないかしら。秋の総裁選では必ずや和泉さんを勝たせてくれって」


 まだ2月だというのに随分と切羽詰まっている様子の琴音。考えてみれば無理もない話である。何せ、賀茂は彼女のような小柳構造改革の副産物を糧に成り上がった新興財閥を敵視し「自分が総理になったらああいう連中の金儲けを許さない」と表明しているのだから。


「まあ、申し上げる分には構わんが……俺よりあんたの方が言うことを聞いて貰えるんじゃねぇか」


 そう答えた俺に彼女はこう返したのである。


「いいえ。あなたの方が聞いてもらえるわ」


 その台詞は妙に寂しげだった。俺は少し考えてから言ったのだ。


「……どうしてそう思う?」


 すると琴音はこんな答えを返したのである。


「だって、私は所詮ただの妾で女だから。あの人が望むのは、あくまで自分の言うことを聞いてくれる都合の良い女よ。決して対等なパートナーなんかじゃないわ」


 恒元の愛人として屋敷へ招かれ、夜な夜な彼に愛撫されている琴音。彼女は自らの立場の空虚さを悟っていたのである。


 カネの話とセックスだけを乞われる、恒元の欲を満たすための存在でしかないという自分自身を。


「琴音……」


 俺はそう呟いてグラスを空にした。そしてこう続ける。


「……まあ、あんたがそう言うなら、俺なりに努力はしてみるがな」


 すると彼女は少し間を置いてから云ったのだ。


「ありがとう。でも無理はしないでね?」


 その台詞には切なさが滲んでいた。おそらく彼女も気づいているのだろう――俺が恒元の言いなりになっていることを。


 惚れた女を前にして弱音を吐くなど、男として恥も外聞もあったものではない。だが、俺は漏らさずにはいられなかった。


「さっきあんたも言ってくれたように、俺は恒元公の力を利用して自分テメェの為すべきを為すつもりだ。そのためには、あのお方に上機嫌でいて貰う必要がある。もし、権力に憑かれて暴走するようなことがあったら、その時は俺が何とかするが……そいつは俺たちの夢を叶えた後だ。全ての弱者を救うっていう、俺とあんたで見た夢をな」


 つまり、今は中川恒元にひたすら媚を売って追従する他ないと云いたかったのである。


「情けないと思ってくれて構わねぇさ。俺も、つくづく自分が嫌になる。どうしてああまで忠を尽くしてるのかってよ」


 そうして「まあ、結局俺は何も変わらんな。今も昔も中川恒元の操り人形でしかねぇってわけだ」とため息をこぼす俺に、琴音は大きく首を横に振った。


 そして彼女はこう続けたのである。


「涼平が操り人形なわけがないじゃない。とっくに糸は切れているはずよ」


 その台詞は妙に切なげだった。俺は少し間を置いてから云ったのだ。


「ありがとな。そう言って貰えると嬉しいぜ」


 そう云って笑いかけた俺に、暫くは微笑み返していたが……やがて琴音は俺を抱き寄せた。


「琴音?」


「大丈夫よ。私も、一緒だから。涼平はひとりじゃないから。二人で立ち向かっていきましょう」


「琴音……」


 ああ、どうやら彼女は俺の表情に悲しみの色を感じてしまったようだ。その抱擁と言葉に俺は胸が熱くなるばかりだった。


 まったくもって自分が情けない――如何に返して良いのか返答に迷ったが、俺は出来る限り笑顔を作って口を開いた。


「……心強いな。あんたとこういう仲になれて良かったぜ」


 すると彼女は少し間を置いてからこんな言葉を紡ぎ出したのだ。


「やっぱり私が見た通りの男ね、涼平は。可愛い」


 そう云って俺から離れた彼女の表情はどこか寂しげでもあり、嬉しそうでもあった。そんな彼女に俺が何か言おうと口を開きかけた時、マスターが言った。


「お二人さん、よろしければこちらをどうぞ。うちみたいな店にゃ似合わねぇ一品でしょうが季節は冬でございますんで」


 彼がテーブルの上に置いた物体を見て俺は目を見張った。カセットコンロの上にはぐつぐつと煮えたぎる鍋。


「えっ! マスター、こんな料理も作れるの?」


「へい、若い頃にちょっとばかり学ばせて貰ってましたもんで。昔取った杵柄ってやつでございます」


 琴音も驚いている。それもそのはず、蓋が外された鍋の中には豚肉と白菜、ネギが美味そうな湯気を放っていたのだから。


「こいつは……」


豚鍋ぶたなべでございます」


「浮かんでる白いやつは何だ? 豆腐にしちゃあ随分と弾力がありそうだが」


「餅ですよ」


「餅!?」


「ええ、味噌との相性は抜群でございますんで。さあ、どうぞ。私からのサービスでございます」


 鍋料理に餅を入れるとは奇妙だが――何とも美味そうだ。俺はマスターが椀に取り分けてくれるや否や、箸で摘まんで口へ運んだ。


 すると直感的な歓声が出る。


「美味い!」


 餅の弾力は予想していたよりも柔らかく、味噌とよく合っていた。白菜やネギにもしっかり味が染みている。


 豚肉も脂が乗っており、噛む度に口の中で豊潤な風味を醸し出してくれる。こんなに美味い鍋があったとは驚きだ。


「味噌も見た目ほどしつこくなくて全然飽きねぇ……何だこりゃ……すげぇな」


「ふふっ、本当に美味しいわね」


 琴音も気に入ったようだ。


 鍋を共につつけば、自然と会話が増える。それでいて気分も上を向くから尚更に良い。


「この餅も絶品ね。よっぽど上質なお米でついたのでしょうね」


「ああ……そうだ、餅と云えば新潟に行ってきた。なかなかに熱い戦いだったぜ」


「恒元公からベッドで聞いたわ。涼平、大活躍だったそうじゃない」


「ベッドの上で……あ、いや。大活躍ってわけでもねぇさ」


「またまた謙遜しちゃって。でも、極星連合との手打ちが成らなかったんでしょう? それどころか煌王会とも戦争になりそうな勢いだとか」


「まあな。あればっかりは向こうの出方次第ってやつだな」


 決して明るくはない話題のはずなのに、自然と悲壮感が漂わない。これは美味い料理と美味い酒がもたらす精神的な錯覚であろうか。


 ともあれ、俺たちは鍋を平らげるまで黙々と食べ続けたのである。そして数分後――空になった鍋を見てマスターは言ったのだ。


「お粗末様でございます」


 ああ、この料理が美味かったことはもちろんだが……どこか懐かしい感覚が俺を包み込んでいた。


 餅を入れる豚鍋など斬新であるはずなのに。どういうわけか、食べたことがあるような気がしていたのだ。


 これを学術的には既視感デジャヴと呼ぶのだろう。いや、味覚だから「既味感」か。


 名称はさておき、俺はこの料理が妙に気になった。


「なあ、マスター」


 嬉しそうに「はい」と応えた彼に俺はこう続けたのである。


「今の料理はどこで?」


 すると彼は少し考え込んだ後にこう答えたのだ。


「さあ、どこだったか……何しろ昔の話ですからねぇ……」


 そんな返答に琴音が言った。


「まあ、それは残念ね。でも、本当に美味しかったわ」


 その台詞には寂しげなニュアンスがあった。琴音もこの料理の正体を知りたいと願ったのだと切に思う。されどもマスターは「豚鍋」としか言わなかった。


「こいつは昔、私がお仕えしていた……兄貴分の好物でございましてね。作り方を教わって、よく作ったもんですよ」


「なるほどな。だからこの料理の作り方を知ってたってわけか」


 俺は納得した。マスターは懐かしそうに語る。


「あの頃は家事もろくに出来ねぇ、それこそ暴れることしか能がぇチンピラだったでしたから。姐さん……あ、いや。その兄貴分の奥様にあれこれ教えて貰ったもんです。料理以外にも、挨拶の仕方やら掃除やら……本当に頭が上がらなかったもんで」


 だいぶ深い恩があるようだ。


「その兄貴分は、今は?」


 俺がそう尋ねると彼はこう答えた。


「もう死んじまいましたよ、15年前にポックリとね」


「……そうか」


 俺はそれ以上何も言えなかった。マスターの口調に悲しみの色を感じたからだ。


「まあ、この歳になって思い返すとね。あの兄貴分のことが懐かしくて仕方ねぇんですわ。今じゃすっかりジジイになっちまいましたが、あの頃は無鉄砲も良いところの若造でしたから。皆でバカやってたあの頃がいちばん楽しかったかもしれませんね」


 琴音もまた興味深そうに聞き入っている。


「バーをやる前は裏の世界に居たって話は前にしてたけど……ねぇ、その兄貴分ってどんな人だったの?」


 彼女が尋ねるとマスターは目を細めた。


「そうですねぇ……一言で云うなら『男の中の男』ってやつです。そりゃあもう喧嘩っ早くてね。でも、根は優しい方でしたよ。若い頃はよく川崎の街を一緒に飲み歩いたもんです。まあ、私はからっきしの下戸だったんで専ら聞き手でしたが」


「へぇ……そんな人が……」


 そう呟いた琴音を見て、マスターは懐かしそうにこう続けた。


「姐さんにもお会いさせてみたかったですな」


 俺は思わず尋ねた。


「その人はどうして亡くなったんだ?」


 すると彼はこう答えたのだ。


「事故だって聞いてます」


 俺は確信した。彼の云う「兄貴分」とやらが俺の亡き父、麻木光寿であると。父が身罷った時期と一致したのである。


 このマスターは父のかつての部下だったのだ。立場的には弟分。料理を任されていたくらいだから幹部にも等しい地位だ。


 されど俺には記憶が無い。幼少の折、この大きな瞳が印象的な顔の人物と遭遇した記憶がまるで無い――どういうわけか。


「……」


 まあ、そのうち想い出すだろう。そう心の中で結論付けて会話を一旦締めくくり、俺は次なる酒を注文した。


「バーボンのロックとギムレットを頼む」


「かしこまりました」


 それから俺は琴音と時を気にせず話し込んだ。互いの近況や日常における発見やこぼれ話、それに難しい話も少なからず混ぜて。


「ほんっと、総理ったら困ったものよ。せっかく献金してあげたのにぃ。ひどくない?」


「ああ、ひでぇな。その点じゃ恒元公の方がマシかもな。あの人は口約束でもわりと覚えてるからな」


 いつしか話題は互いが抱える日頃の不平不満や愚痴を披露し合う内容へと変わっていた。


 色々とおかしかろうが、20代と30代の若者なのだ。年齢的には自然な光景とも云えよう。


「はあー。でも、話してすっきりしたわ。ありがとね、涼平」


「俺もだぜ。こうして話すのも楽しいもんだよな。良い時間だ」


 俺が23歳なのに対して琴音は30歳である。悩みを聞いて貰う相手としては同世代で1歳下の華鈴と話すより遠慮なく胸の内をさらけ出せる……と思ったが、あまり調子に乗りすぎると華鈴に気付かれて喧嘩になりそうなので程々にしておかねばなるまいが。


「それじゃあ、またね」


「ああ、また飲もうな」


 閉店間際の0時過ぎ、俺たちは近いうちに再び会って情報を交換し合おうと約束して別れた。


「……」


 無言で空を仰ぎ見ると、澄んだ空の漆黒を星が美しく彩っている。自分たちは中川恒元という怪物を共通して操ろうと試みる同志――そのことを改めて感じられたからか。琴音という女が以前にも増して愛おしく思えた夜であった。


 その翌日。


 赤坂の中川会邸では会議が催されていた。一般的な組における幹部会に相当する「理事会」だ。


 従来は会長と理事たちの合議により組織の方針決定を担う機関とされていたが、中川恒元が権力を強めた2006年1月以降は「中川会三代目の親政を輔弼する機関」と化していた。云ってしまえば、会長の絶対王政始動に伴い規模が縮小されたのだ。


「しかし、極星連合の動向は不穏ですな。いつ関東に南下してくるか分かったものではない」


 理事のひとりがそう呟くと、別の男が応じた。


「まったくだ。今は秋田の内紛にかかりきりで動けないにせよ、いずれ中川会うちと真っ向からドンパチやる気だぜ」


 その台詞を聞いた他の理事たちは口々にこう述べたのである。


「手打ちが結べなかったのは痛ぇよなあ」


「奴らが本気で攻めてくりゃ、銀座の戦争で疲弊しきった今の組織では応戦にも限度がありますぜ」


「輝虎の野郎もとんだ置き土産を遺してくれたもんだぜ」


 するとまた別の男が言った。


「んなことより喫緊の懸案事項は煌王会でっしゃろ。極星連合はともかく、煌王のアホどもは明確にうちに敵意を向けてるんでっせ」


 彼の言葉で皆の顔が渋くなる。カレンダーの日付は2006年2月14日。一昨昨日の新潟での和平協議が失敗に終わったことを理事たちは青い顔で憂いていた。


 だが、直後に飛んだ一言で彼らが顔に浮かべた不満の気配は瞬く間に消し飛ぶ。


「何だね? 皆、我輩のせいだと云いたいのかね?」


 皆の視線を集めたのは金屏風を背にした上座で憮然と頬杖をつく中川恒元だった。その台詞を聞いた理事のひとりが、慌ててフォローする。


「そっ……そんなことはございませんよ! 会長!」


 すると他の者たちも次々にこう述べたのである。


「そうですとも! 煌王会と極星のアホどもが悪いんです!」


 そんな彼らに恒元は鼻を鳴らした。


「フン、まあ良い。極星連合の南下への備えについては各組が持ち回りで防衛を行うことにしよう」


 皆、銀座の戦乱に巻き込まれた痛手からまだ回復していないというのに――されども恒元に反論を申す親分は居なかった。


「ははーっ!」


 眞行路輝虎が持っていた人脈や利権を我が物とした恒元は政財界の大半を掌握し、強大な権力を振るうようになっていた。


 昨年末から一月にかけて、恒元は旧御七卿の親分たちに経済封鎖を行った。輝虎から奪った表社会の人脈を駆使し、自らに従順でない親分衆のシノギをあの手この手で冷え込ませ、経済的に干上がったところで中川会総本家に恭順を誓わせたのである。


「……」


 理事会が催される会議室はモダンな洋室だ。30畳ほどの広さの部屋の中央に位置する長机の周囲を苦々しい顔の理事たちが囲んでいる。


【理事長 篁豊斎】


【理事長補佐 門谷次郎】


【理事 越坂部捷蔵】


【理事 森田直正】


【理事 酒井義直】


【理事 原田和彦】


【理事 本庄利政】


【理事 田山傑婁】


【理事  原吉邦】


【理事 井上孝一】


 このうち理事長補佐の木札が一枚倒れたままだが、こちらは空席。櫨山重頼が粛清されて以来、後任が決まっていなかったのだ。


「……うむ。では、良い機会だ。次の理事長補佐は水戸の森田一家の森田直正総長に任せようと思う」


 恒元の言葉に皆は「異論なし!」と声を揃える。まあ、異論があるはずも無いか。


 なお、森田は本庄の傀儡に成り下がったままだ。弱みを握られて以来、ずっと彼の言いなりらしい。


「では次の議題に移ろう。この度、組織が新たな門出を迎えたことに伴い理事を増やそうと思うのだが……」


 恒元がそう切り出す否や、篁たちがコクンと頷いた。


 中川会の理事は直参組長の中から選出される。銀座の戦乱で理事の職にあった直参親分が討たれたり、引退に追い込まれたりしたことで欠員が生じ、ヒラの理事も7席ほどが空席になっていたのだ。


「こちらには三代目岡田組の岡田幸雄組長、沢津一家の沢津政樹総長、松田組の松田信吉組長、四代目西山興業の西山卓也組長を昇任させる」


 恒元により名が呼ばれた者たちは皆、執事局次長助勤の父――つまりは中川会本家の譜代とも呼べる親分衆である。


 本家の権力強化を為したいのは勿論、旧御七卿に連なる親分衆を快く思っていない恒元にしてみれば当然とも云える人事。色々と不満はあろうが、誰もが黙って従う他ない。


 ところが、次に紡がれた言葉は意外なものだった。


「続いて眞行路秀虎と櫨山重頼、この2名はそれぞれの組を継承し、我輩の盃を呑ませた後で理事に昇任させる」


 皆がざわついた。眞行路と櫨山は旧御七卿。まさか幹部陣に迎えられるとは誰も思ってもいなかったであろう。


 まあ、旧御七卿の二組織を掌握したと世に知らしめる意味の人事だろう。そう思い、恒元の背後で護衛に当たっていた俺は心の中で「強かだな」と呟いた。


 ところが、その直後。俺は度肝を抜かされる。


「そして執事局次長の麻木涼平を理事と執事局次長の兼任とする。以上をもって新たな理事の陣容を……」


「お、お待ちください!」


 他でもない。声を上げたのは俺自身だった。


「どうしたのだね、涼平?」


「い、今、俺を理事と……」


「ああ。言ったよ」


「なっ……」


 どういうことなのだ。騒然とする議場の中で俺は呆気にとられ、ただただ言い淀む他なかった。

涼平を理事に!? 恒元の思惑とは……? 次回、組織にさらなる激震が走る!

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