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鴉の黙示録  作者: 雨宮妃里
第13章 狂気のさえずり
229/261

側近として

 命からがら敵陣を脱出した――と云っても、やられっぱなしで帰っては稼業の男としての名が折れる。


 敵の手に落ちた料亭から一時退却した後、俺は京谷興業の事務所へと向かった。村上市田端町にある古びたビルだ。


 勘が正しければ、そこに会長が居るはず。


 そんな予感は見事に的中した。駐車場には黒塗りのセダンやバンが複数台停まっており、執事局のものだとすぐに分かった。


 どうやら考えることは同じである模様。俺がビルに入ると、中に居た恒元の頬が緩んだ。


「おおっ、涼平! 無事だったか!」


「ええ。会長もお怪我ようで幸いでございます」


「村雨が露払いをしてくれてな。おかげで何とか逃げることができた。まあ、我輩の盾になって何人か死んだが」


「そうですか……まあ、ここまで来れば奴らも迂闊には手が出せねぇはずですよ。本気で戦争を始めるには兵数が少なすぎますから」


「そうだな……だがな、涼平。私はこのままで良いとは思っておらぬぞ」


 恒元のその言葉に俺は頷く。


「……ええ。俺もそう思います」


 すると恒元は皆に言い放った。


「お前たち! 報復かえしだ! 態勢を立て直し、すぐさま関西の賊党どもを撃ち倒す!」

 事務所に居るのは俺と恒元の他には生き残った執事局の助勤21名、組長の京谷俊樹以下京谷興業構成員53名、それから櫨山重忠と成り行きで居合わせることとなった村雨耀介という顔ぶれだ。


「よっしゃあ! やってやろうじゃねぇか!」


「おうよ兄弟! 煌王会のクソどもを一人残らずぶっ殺してやる!」


 鼻息を荒くする酒井と原田。助勤たちも意気揚々としている。まあ、先ほどの煌王会との乱戦で自陣から犠牲が出たとなれば当然であろう。


 しかし、そこへ異を唱える男がいた。


「会長。憚りながら申し上げます」


 重忠であった。


「何だ?」


「さっきの戦いで本家と京谷組併せて20名近い死人が出ています。ケガ人も多数いることですし、今すぐに煌王会やつらとやり合うのは避けた方が良いのでは」


 すると恒元は「ほほう」と笑った。


「まあ、お前の懸念はごもっともだがな。ここで何もせずに帰るわけにはいかんのだよ」


「しかし、敵は今日の今日で既に500の兵を連れて来ているのですよ。迂闊に攻めかかって勝てる数ではないでしょう」


「その500も先ほどの戦いで数を減らしているだろう。撃滅できないこともあるまい」


「お言葉ですが浅はかでございます。ここは一旦赤坂へ引き上げ、態勢を立て直すべきです」


 食い下がる重忠に、恒元は鋭い眼光で彼を見据えた。


「重忠よ、何を臆しておるか。中川会は関東博徒の棟梁。外敵を前に腰を及ばせては名折れとなろう。勝ち負けなど問題ではないのだ」


「しかし……」


 重忠は口籠るが、そこへ恒元は言った。


「お前は大国屋一家の五代目であろう。ならば、その頭脳をフル回転させて最善策を考えよ」


 するとそこで声が上がった。


「恐れながら申し上げます!」


 皆の前に進み出たのは京谷組長。「恐れながら」との前置きに恒元の鋭い目が光る。


「何だ、京谷? お前も異論あるのか?」


「へい。恐れながら、この一件はいったん棚上げとしちゃあ頂けねぇでしょうか」


「お前は今の話を聞いておらなんだか!?」


 怒気を強めた恒元の声にも京谷組長は堂々と反論する。


「さっきの戦いで京谷興業うちには沢山の死人が出まして、生き残った連中も半数がケガを負っております。そんな状況下での喧嘩は、いささか分が悪ぅございましょう。ですから櫨山の兄貴の仰る通り、ここは一度赤坂へお帰り頂いて……」


 しかし、恒元は首を横に振った。


「退却など言語道断! たとえ負けたとしても外敵に背を向けるわけにはいかん!」


「……どうしてですかい?」


「決まっておろう! 我らは関東博徒の惣領だからだ!」


 あくまでも声高に叫ぶ恒元に、京谷組長は困惑した表情を浮かべる。


「そんなプライドで……お命を無駄にするってんですかい?」


 その言葉に恒元が噛みついた。


「貴様、今何と言った? 『そんなプライド』とは何だ? 貴様には関東博徒としての誇りが無いのか!?」


「……俺は若輩者ですがっ! ここに詰める53人の親分なのです! 彼らの命を預かる身として迂闊な作戦には賛同いたしかねます!」


 重苦しい雰囲気が事務所内を支配する。京谷の言葉が恒元の怒りに火に油を注ぐ結果となったことは言うまでもない。


「よく言ったな、京谷。ならば貴様および京谷興業を本日付でぜつ……」


 その瞬間、俺は咄嗟に声を発していた。


「でしたら会長! 俺に案があります!」


「涼平……?」


「会長の仰る通り、敵を前にしての撤退なんざ言語道断でしょう。現に、シマの一部が煌王会やつらに占領されちまったかもしれねぇわけですからね。元傭兵として意見具申させて頂きますが、こういう状況ではまず相手の様子を完全に把握することが先決です」


 すると恒元は頷く。


「……確かにそうだな。お前の策を聞こうか」


 俺は一礼すると言った。


「では、手短に説明いたします」


 そして作戦を説明すること数分――皆の表情に不安の色は隠せないが、他に妙案があるわけでもなし、俺の提案を採用することとなったのだった。


「うむ。お前の言う通りだ。撤退するにも、攻撃するにも、相手に兵がどれだけ居るのか知る必要がある。それには敵陣へ乗り込んで情報を得てくるのが最善であろう」


 恒元の言葉に俺は頷く。


「ええ。そうです」


 そして一同を見渡して言った。


「皆、聞いてくれ! 俺が今から単騎ひとりで敵の様子を見てくる! その間に総本部と連絡を取って増援を呼んでくれ! 3時間もありゃ充分だろ!」


 すると重忠が手を挙げた。


「その前に涼平君……本当に行く気か?」


「ああ。そのつもりだぜ」


 そんな俺に酒井と原田も異を唱える。

「次長。いくら何でもお一人は……」


「そうですぜ兄貴。危ねぇですよ」


 ただ、俺の意思は変わらない。


「へへっ。やすいもんよ。千人を一人で倒した俺にとってはな」


 皆が渋い顔をする中で恒元は何食わぬ表情をしていた。今まで主君の盾となって数々の修羅場を潜り抜けてきた俺の腕を信じてくれているのだろう。尤も、俺が物見へ出るという献策が無ければ事務所全体が厭戦気分に支配されてしまいそうだったので、積極攻撃を主張する身としては多少危なくとも側近を遣わせる他なかったのだろうが。


「んじゃ、行ってくるわ」


 俺は事務所を後にして煌王会やつらの陣へと向かったのだったが――思わぬ随行者の姿があった。


「……まさかあんたも付いてくるとは思わなかったぜ」


「何だ、不満か」


「いや、別に」


 村雨耀介だ。彼は余人という自らの立場を理解していたか、先ほど白熱したディスカッションが交わされている最中も口を開くことが無かった。腕組みをして壁にもたれかかる姿は存在感たっぷりだったが、それでもなるだけ目立たぬよう空間の隅で息を潜めていたのである。


 無論、裏社会の生ける伝説たる残虐魔王というだけあって、中川会の人間は皆、彼に話しかけづらかったであろうが。


 そんな村雨組長は俺が物見に出た途端に無言で俺の後をついてきた。一体、如何なる魂胆であろうか。


「まだ暴れ足りねぇ気分か?」


「それもあるが、心配でな。お前に隠密の仕草の心得があるか否か」


「へっ。言ってくれるじゃねぇか。せっかくだが心配ご無用だ。何せ元傭兵で隠密行動には手慣れてるもんでな」


戯言ざれごとではないぞ。真に案じておるのだ」


 そう云えば村雨組の居候だった10代の頃の俺は隠密行動が何より苦手だったな。標的の背後を密かに尾行していたつもりが全く気配を消していなかったために易々と気付かれてしまったり、途中で大きな音を立てたがために見つかったりと失敗談は枚挙に暇が無い。かつての俺を知る村雨組長が心配するのも当然と云えようか。


 少し気恥ずかしい思いに駆られながらも俺たちは村上駅から電車に乗り、坂町駅へと向かう。敢えて車を使わないのは彼らに悟らせないためだ。


 煌王会にとって現状の村上市は完全にアウェーな敵地。ゆえに一般市民を巻き添えにしてでも攻撃を仕掛けるだけの度胸は連中には無いだろう。


「ローカル線とはいええつ本線ほんせんはNR東日本北陸エリアの中でも利用客が多い。これだけ客が乗ってりゃ流石の煌王会も電車の中で撃ってはこれねぇだろ」


「油断はならぬぞ。あの橘という男は真に見境が無い。おかげで我らも横浜で幾度となく苦杯を舐めさせられておるわ」


「どれだけ兵隊を使い捨てにしようが勝てればOKってか。しょうもうねぇ野郎だな」


「だが、それだけ冷徹に采配が振るえるということは剛毅果断に組織を動かせるということだ」


「凡愚な男に見えて凡愚ではない……か。そういう奴がいちばん危ねぇかもな」


 そんな会話を交わしながら俺たちは目的地への到着を待ち、電車を降りた。そして数分後、料亭『滝のぼり』の付近に辿り着く。


 双眼鏡を覗き込みながら俺は言った。


「やっぱり占拠されちまってるか……見た感じ100人は居るみてぇだな」


 すると村雨組長が口を開いた。


「涼平よ、お前は南蛮王の故事を知っておるか?」


「ああ、確か中華の三国時代に諸葛亮が南方の異民族の親玉を八回に渡って降伏させ、いずれも敢えて逃がしたってやつ」


「橘とて我らにしてみれば南蛮も同然。奴を殺したところで、また新たな敵が我らの行く手を阻むだろう」


「……橘を敢えて殺さずに生かし、恐怖を与え続けることで煌王会全体を大人しくさせるってわけか」


 村雨組長は不敵に笑った。


「左様だ。橘が我らの恐ろしさを胸に刻み込めば、いずれ煌王会やつらは手出しできなくなる」


 その言葉で俺はひとつの閃きを得た。まあ、問題は俺が奴を生きたまま拉致して帰ったところで、恒元が「殺せ」と云えば意味は無いわけだが――それでも今ある戦力で煌王会全体を撃滅する戦いを行うよりかは効率的と云えるだろう。


 俺は村雨と共に料亭の敷地へと近づいてく。


「涼平。私が正門の前で敵を引き付けるゆえ、お前は裏から忍び込んで店の中を探せ」


「ああ、俺は構わねぇけど。あんたは良いのか?」


「その手の小技に関してはお前の方が慣れておろう。それにお前の申す通り、私は暴れ足りておらぬゆえな」


 フッと笑い、俺は肩を鳴らす村雨を見送った。そして料亭の裏口へと回り込む。


 建て替え工事を施したばかりなのか。老舗の料亭にしては珍しく、その店は真新しさを醸し出していた。


「さてと……」


 俺は裏口の戸を静かに開ける。そして、中へと忍び込むと物陰から様子を窺った。


 元々中川会で貸し切っていたために、店内に一般客の姿は無い。よって、ちょうど店の中では煌王会の構成員たちが酒盛りをしていた。


 憎らしいほどの我が物顔で。


「へへっ。まさかこんなにもあっさり中川会の連中を追い払えるとはな」


「奴ら、真っ青になって逃げて行きやがったよな。同じ極道として恥ずかしいぜ」


「しかしよ、あの麻木涼平って野郎は化け物みてぇに強かったな。俺の空手八段の甥っ子が簡単に殴り殺されちまった」


 その発言に思わずドキッとするが、どうやら俺の潜入に勘付いているわけではないらしいので胸を撫で下ろす。


 すると、直後。


 ――ドーンッ!!


 入り口の方から轟音が響いた。そうして組員たちが騒ぎ出す。


「大変だ! 敵襲だぞっ!」


 村雨組長が暴れ始めたようだ。こちらも負けてはいられない。


 ほくそ笑みながら、俺は館内の探索を開始した。

 まあ、流石に橘はこの料亭には居ないか――そう思いつつも、俺は気配を消して物陰に隠れながら従業員の控え室や厨房などを見て回った。だが、やはり標的の姿も見当たらない。


 そうして二階へと上がった時だった。微かに人の声が聞こえてきたのである。どうやら奥の個室ようだ。


 俺は声を頼りにその部屋へと向かったが、しかしそこは物置だったようで人っ子一人居ない空間が広がっているのみだ。


「……おかしいな」


 するとその時である――俺の耳に微かな物音が聞こえてきたのだ。それは隣の部屋だった。


「ん……もしや?」


 建物の構造が入り組んでいる所為で音の反響を上手く感じ取れなかったようだが、それでも俺はその部屋から人の気配を感じた。


「よし」


 小さく呟き、俺は壁に手を当てて隣の部屋へと侵入する。そして慎重に歩を進めた先には――やはり標的の姿があったのである。


「よお」


「……っ!?」


 橘は慌てて立ち上がろうとするがもう遅い。既に俺の間合い《テリトリー》だ。


「動くんじゃねぇ!」


 銃を突きつけながら凄む俺に奴は両手を上げてわなわなと声を震わせて云った。


「ば、馬鹿な……まさか、こんなにも早く戻ってくるとは……」


「そいつはこっちの台詞だぜ、俺もまさかあんたがまだ料亭に居座ってるとは思いもしなかった」


 直後、橘は声を上げる。


「お、おいっ! 宝生!」


 時代劇でお馴染みの「出会え出会え」ってやつか――ため息をつく俺の周りを数人の男たちが囲む。その中には宝生も居た。


「銃を捨てろ。麻木涼平」


 こちらに銃口を向けながら闘気を発した彼に、俺は言った。


「捨てろと言われて素直に捨てる馬鹿はいねぇぜ。間抜け野郎」


 そしてその瞬間、身を翻して奴に肘打ちを放つ。


 ――グシャッ。


 生々しい音と共に宝生は倒れた。云うまでもなく高速回転だったので、あちらからすれば避けるも何もあったものではなかった模様。


 回った折に衝撃波も発生したようで、宝生の顔からはおびただしい量の血が流れでいた。これは致命傷だな。


「そ、総本部長!」


「お、組長オヤジ!」


 俺はその隙に橘に改めて銃を向け直し、動揺する組員たちに言い放った。


「これで分かったろう。テメェらじゃ俺は倒せねぇんだよ。このままじゃ総本部長のみならず七代目会長までが死ぬことになるぜ。道を開けろ」


 無論、俺の意を悟ったのか橘は絶叫する。


「ひ、怯むな! 相手は一人だ!」


 橘がそう叫んだ瞬間だった。俺は咄嗟に手刀で奴の両足の腱を切断する。そしてすかさず飛びかかり、その身体を床に押さえつけた。


「ぐあっ」


 苦悶の表情を浮かべる橘に俺は言った。


「悪いが中川会うちに来てもらうぜ。大人しくしてりゃ命だけは助けてやる」


 そうして組員たちが呆然とする中、俺が橘を引きずろうとしていた時のことだった――突如店の外で轟音が鳴ったのである。


 ――ドドーンッ!


 相変らず村雨組長が派手に暴れているらしいな。すぐさま俺は橘の体を担ぎ上げ、脱出するべく来た道を戻る。


 そうして裏口に停めてあった車を拝借するとトランクを開けて橘を押し込み、エンジンを起動させる。ここは逃げるに尽きる。


「おーいっ! 村雨さんよっ! 目的達成だっ! 引き揚げるぞっ!」


 すると俺の声に応じるように、村雨組長が料亭の外へ出て車飛び乗る。そして俺を見るなり言った。


「涼平よ、橘はどうした?」


「ああ、奴なら後ろのトランクだ」


 その言葉に村雨組長は一瞬驚いた表情を見せたものの、すぐに納得したようだ。


「ふむ……流石だな」


 しかしそんな会話を交わしている間にも俺はアクセルをベタ踏みし続け、車を急発進させた。組員たちの制止を振り切りながら車を走らせ、携帯電話で恒元に連絡する。


「会長。用件だけ言います。橘を拉致しました。ですから今すぐに赤坂へ退却してください」


『なっ!? 何だと!? 何が……いや、分かった。よくやってくれたな。それでは赤坂で会おう』


 理解力のある主君で助かった。電話を切ると、助手席の村雨が声をかけてきた。


「これこそがお前の狙いだったのではないか」


「えっ?」


「この街に兵を進めてきた煌王会を自分一人だけで打ち払い、中川殿や直参たちを戦場いくさばへ出さない。さすれば中川会が煌王会と真っ向からぶつからぬと考えたのであろう」


 まったく。残虐魔王の勘の鋭さには昔も今も敵わないな。


「へっ。まあ、そんなトコだ」


 その理由は他でもない。煌王会と組織ぐるみでぶつかるには今少し戦力が足りないと感じていたのだ。

 昨年の銀座継承戦争で中川会は会長の権力こそ強化されたが、直参たち傘下組織は執事局や酒井組、原田一家などの本家譜代を除いて悉く疲弊。俯瞰的に見れば組織力は低下しているのである。


 内紛で強くなる組織などあるはずも無いから当然の結果と云えよう。そんな状況下で煌王会と戦うのは心許ないと思った。


 ゆえに俺は物見を名目に単騎で出陣し、村上市に居座る煌王会勢力を俺一人の手で一掃しようと考えていた。その隙に恒元を赤坂へ逃がすことで、本格的な抗争への発展を防ぐ――村雨組長の入れ知恵で、その作戦を少し変更しただけであった。


「あんたのアドバイスが無けりゃ俺一人で大暴れしてたかもな。それでも今、組織全体でぶつかるよりはマシだ」


 俺は笑って応じたが、村雨は神妙な表情を浮かべていた。そしてこう続ける。


「……だがな涼平よ。煌王会やつらはお前の想像以上の強者つわものだぞ」


「ああ、分かってる。めちゃくちゃ強い奴が居たな、真壁とかいう」


「貸元『真壁まかべぐみ』組長、真壁まかべ仙太郎せんたろう。お前と互角ということはよほどの腕だな」


 曰く、今の橘の切り札とも云える人物らしい。非松下組出身者ながらも、その喧嘩の腕を買われて20代の若さで幹部の椅子に座っているのだとか。


「あいつは俺の技を完全に見切っていた。それだけじゃねぇ、俺と同じ技を使いやがった……あんな技をどこで……」


「何にせよ、鍛錬を欠かさず己を磨いておくことだ。今の中川殿と煌王会の間柄を考えれば、いずれぶつかることになる」


「……当然だ。今度会ったらぶっ殺してやる」


 そう云ってハンドルを握る手に力を込めた俺。車は一般道から高速道路へ入り、関東へ向けてひた走る。


「涼平よ」


「ん?」


 一つ目のサービスエリアを超えた辺りで村雨組長が声をかけてくる。


「お前は今の己の立場を何と心得ておるか? 中川殿の側近となった我が身を何と思う?」


「それは……」


 俺は少し考えてから答えた。


「……身の丈に合っているかは分からねぇ。けど、曲がりなりにも自分が権力を持つ側に立ったとは思ってる。だからこそ、振る舞いには気を付けるようになった」


「ほう? それで?」


「今までは恒元公の護衛だけしてりゃ良かったが、あの人が組織を動かすにあたっての意見を諮られる機会が増えてきた。俺一人の言葉で組織が動いて、下手すりゃ血が流れたりするわけだから……それに見合う男になる必要がある」


 小刻みに頷きながら「そう考えてるよ」と続けた俺の答えに村雨組長はフッと笑った。そしてこう続ける。


「涼平よ、お前のその考えは正しいぞ。だがな……今のお前はまだまだ青い。まるで赤子のようだ」


「……っ!?」


 そんな彼の指摘に俺は思わず息を飲んだが、村雨は続ける。


「良いか、涼平。力ある主君のそばちかくで仕える男の仕事は、賢い具申をすることでも、気の利いた世辞を述べることでもないぞ。諫めることだ。主君が力の使い方を間違えた折に諫言を申し、事と次第によっては命を懸けて止める。それができずして、何が側近だ」


「……っ!」


「確かにお前は強くなった。だがな、まだ足りないものがあるのだ。それを忘れぬことだな」


 その言葉は俺に重くのしかかった。俺は今まで自分の強さだけを過信していたのかもしれないと改めて思う。


「分かったよ……肝に銘じておく」


 その反応を見て、村雨は煙草に火を付けた。


「組織が腐る折には大抵、あるじから真っ先に腐る。己の心得次第で中川会という組織の行く末が左右されることをよく覚えておくが良いぞ」


 そうこうしているうちに車は都内に入った。流石に村雨を中川会総本部へ連れて帰ってはまずいので、彼は適当な場所で車を降りた。


「中川殿によろしゅう頼む」


「ああ……橘はどうすれば良い?」


「お前は中川殿の郎党なのだ。殺すも生かすも、あの御仁にお任せする他なかろう」


 そう云って村雨は夜の街へと消えて行った。俺は車を赤坂へ向けて走らせ、着いたのは20時過ぎ。


 既に恒元たちが到着しているようで安堵した。


「おお、無事だったか! 涼平!」


 訳の分からぬ意見具申をされたことより俺の生還を喜んでくれたので、申し訳ないやら恥ずかしいやらで複雑だった。


「……会長。トランクに橘がいます」


「それを聞いた時には腰を抜かしたが、お前が嘘を言うとは思えなかったのでな。本人か」


「ええ。少なくとも俺は確信してます」


 俺はトランクを開けた。脚の出血が酷かった所為か、中には橘が衰弱しきった状態で寝ている。


「う……うっ……」


 意識も朦朧としているらしい。死なせては色々とまずいので、俺たちはすぐさま奴を病院へと運び治療を施した。


「命に別状はありませんが、脚の複雑骨折と腱断裂……それに腎機能の低下も目立ちますね」


 医者はそう診断した。しばらくは入院だそうだ。まあ、妥当なところだろう。


 そうして俺たちが橘を病院に預けた頃には既に日付が変わっていた。俺は恒元と共に中川会の屋敷へ帰るなり、会長から功を労われた。


「よくやってくれたな。涼平。敵の総大将を拉致するとは大手柄ではないか」


「いえ、とんでもないことで……ああっ、そうだ。京谷興業はどうされるおつもりで? 絶縁には為されませんよね?」


「ああ、あれは勢いで言ってしまったことだからな。別に絶縁するつもりはない。むしろ褒め称えねばならんな」


 自分という絶対的存在を前にしても子分たちのことを思って反論する度胸は大したものだと恒元は云う。


「ああいう若手が育っていることは我輩にとって大きな誉れであり、喜びだ。これからの成長が楽しみだな」


 まったく。あの時は激昂していたくせに。


「……しかし、これからどうなさいますか? 煌王会はすぐにでも橘を取り返しに動くと思われますよ?」


 俺が尋ねると恒元は執務室の椅子に腰をかけながら答えた。


「せっかく手に入れた虎の子を易々と返すつもりは無いさ。カードとして使わせて貰う」


 橘を人質として煌王会に対してあれこれ無理難題を吹っかけてやると恒元は息巻いていた。


「まあ、その時は涼平。お前に外交の要を任せよう。今の我輩にとって頼れるのはお前しかいないからな」


 そう云って葉巻に火を付けた恒元。少しの間ばかり煙を燻らせた後、彼は呟くように云った。


「決して大袈裟な喩えではなく、本当にお前しか頼れぬのだ。というより、信じられぬと言った方が正しいか」


「ええっと? それはどういう意味で?」


「我輩のような立場になるとな、周囲の人間のことが信じられなくなるものだ。王者ゆえの孤独とでも表現すべきか、ふふっ」


 そう笑っていた恒元だが、程なくして表情が曇る。


「……才原党からにんが出た話。お前はどう見ておる?」


 思わぬ諮られ方をされて戸惑うが、あくまで淡々と答える。


「仕事をしくじるとは戦国時代から続く忍びの一族にしては珍しいですね。しかし、直ちに抜け忍と断定するのは尚早かと思います」


「と言うと? ひとまずは様子を見るべきと?」


「ええ、局長がどういう反応をするのかにもよりますが」


 俺はそう前置きをしてから続ける。


「いずれにせよ今の段階では何とも言えません。今回、才原党は隠密行動で会長の護衛を担っていた……不穏な点は見られないと思います」


「ふむ。確かにな」


 恒元は納得したように頷いた後、こう続けた。


「まあ、我輩の杞憂であれば良いのだが……もし、そうでなかった場合。お前はどうしてくれる?」


 そのクエスチョンが耳に飛び込んだ瞬間、まるで自分の心臓に冷たい刃が突き刺さるような感覚を俺はおぼえた。先ほどの村雨組長の言葉が脳内で反芻される中、表情を変えずに返答を投げる。


「その折には俺が才原党を皆殺しにします。ですから、どうか会長は心穏やかにお過ごしになり、組織の采配をお振るいくださいますよう」


「ふむ。やっぱり心強いな、涼平は……」


 恒元はそう云って微笑んだが、俺にはその笑顔がどこか寂しげなものに思えたのは気のせいだろうか。


「……逆心のある者を見抜くのは容易ではないな」


「えっ?」


 俺が尋ね返すと彼はこう答えた。


「いや、何でも無いさ。可愛いお前に要らぬ苦労をかけてしまうことが心苦しいよ、まったく」

 そう吐き捨てて再び葉巻を燻らせる恒元。


「ご苦労だったな。下がって良いぞ。今日はゆっくりと休め。我輩もこの後、重忠と少し話したら休むとしよう」


 退室せよと言われたので、俺はそれ以上は何も聞かずに彼の執務室を後にしたのだった。


「……」


 廊下を歩きながら、あれこれと思案に耽ってみる。


 極星連合との和平協議は不調に終わった。それどころか、煌王会とも一触即発の状態だ。


 唯一の救いは煌王会の会長である橘を人質にとったこと。それは今後にとって大きな切り札となるであろう。


 しかし……。


 俺には今回の出来事の流れが妙に引っかかっていた。よもや才原党から敵と通じる裏切り者――つまりは抜け忍が出ようとは夢にも思わなかった。


 その件については赤坂へ戻る道中、才原局長が平身低頭して詫びていたと恒元は語った。当該の忍びについては今後、才原党が全力で始末にかかるという。


 ただ、それが恒元に大きな不安と懸念を与えたことは云うまでもないだろう。先祖の代から中川一族に仕えている無双の忍びの集団に綻びが生じたのである。


 まあ、もうひとつ懸念すべきことがあるが――それは俺は深くは考えないでおこう。そうせずとも、恒元が本人に直接話を確かめるであろうから。


 そうして自室へと戻り、風呂に入った。


「ふう……」


 湯に浸かって天井を仰ぎ見る俺。


「……」


 しかし、このところ本当に色々なことが起こるものだなと思う。中川会が煌王会の襲撃に遭ったり、その逆だったり……まあ、これは俺が発端だったわけだが。


 そして今度は才原党からの抜け忍か。


「まさか……な」


 俺はそこで思考を止めた。これ以上は考えても意味が無いと思ったからだ。


 風呂から上がると既に時計の針は深夜1時を回っていた。明日に響かない内に寝るとしようと思い布団に入り、そのまま眠りへ落ちてしまうのであった。


 翌日。


 発掘工事の打ち合わせが終わった夕刻、俺は華鈴の店へ足を運んでみた。すると、思わぬ先客が居た。


「あっ、麻木次長! お久しぶりです!」


 眞行路秀虎とその妻の由奈――まさか夫婦で来るとは思わなかったので俺は少し驚いた。尤も、夫一人で来て華鈴にちょっかいをかけられるよりかはマシなのだが。


「お、おう。久しぶりだな」


 ともあれ、元気そうで何よりだ。俺は彼らの座るカウンター席の隣に腰かけた。


「組の調子はどうだ? 立て直しは進んでるか?」


「ええ、本庄の叔父貴……あ、いや、義父おやじさまのおかげで。来月にはシノギも回せそうです」


 聞けば淑恵も昨年の抗争で冷え込んだ得意先との関係回復に奔走してくれているという。


「政界の先生方の中には、兄を推していた方もいらっしゃいますが……母が上手く説き伏せてくれるでしょう」


「そうか、それは良かった」


 そう云って冷水ひやコップを傾ける俺。そこへ華鈴が注文を取りに来る。


「涼平! 今日は何にする?」


「そうだな……じゃあ、いつものブレンドを貰おうか」


 俺がそう云うと秀虎は嬉しそうに微笑んだ。由奈も隣で微笑んでいる。どうやら良い夫婦関係を築けているようだなと思う反面、秀虎の表情が気になった。俺が看板娘を「華鈴」と名前で呼んだ途端、彼の顔に少しばかりの哀しさが浮かんだのである。


 こいつ、まだ華鈴のことを……? やはりここらで一言物申した方が良いのではないか……?


 うっかり無粋なプランが浮かんだが、慌てて掻き消した。抗争に担ぎ上げられて疲弊した上、政略結婚までさせられて秀虎も参っているに違いない。ここで追い打ちをかけるのはあまりにも酷だ。


「……どうしたの? 涼平」


「いや、何でもねぇさ。気にしないでくれ」


 俺がそう返すと由奈がすかさずフォローに入る。


「華鈴ちゃん、さっき注文したお代わりがまだなんだけど?」


「おい、由奈……」


 秀虎が窘めるように妻を小突く。その反応から見るに夫婦仲は悪くないようだ。俺は少し安堵した。


「はーい。ちょっと待っててねー」


 文句を垂れる客を見つめる華鈴の眼もどこか優しげだ。由奈との間にも以前のような軋轢は無いようである。


 またしても安堵の息がこぼれる。


「……ふう」


 それはそうと、俺には渡さねばならないものがあるのだった。


「なあ、華鈴。こいつ、良かったら食ってくれ」


 指差したのは白い発泡スチロールの箱と袋。ここへ来るときに携えていた荷物だ。


「それ、ずっと気になってたけど何なの?」


「新潟産の米と鮭だ」


「えっ、良いの!?」


 華鈴が目を輝かせる。


「ああ、存分に食ってくれ」


「ありがとう! じゃあ、皆で食べようよ!」


「皆で?」


「うん! だって、これだけの量を貰ってもあたしとお父さんだけじゃ食べきれないから!」


 大勢で鍋を囲むパーティーがしたいと語る華鈴。彼女一人にあげるべく、外交交渉が始まる前に村上市内のスーパーで買っておいたものなのに。


 まあ、彼女がそうしたいと云うなら仕方あるまい……。


「ねぇ、麻木さんの部下の人たちも誘ってよ」


「えっ?」


「だって、これだけ大きな鮭なら石狩鍋が10人前は作れちゃうからさ」


「いや、10人前って……」


 それは流石に多すぎるのではと俺が思った矢先。秀虎が口を開いた。


「それ良いですね! じゃあ、皆を呼びましょう!」


「秀虎君もこう言ってることだし……ね?」


 華鈴が上目遣いで俺を見つめる。その眼差しはどこか期待に満ちているように見えたので俺は思わず頷いてしまった。


 まあ、恋人と共に部下に振る舞えば良かろうと思い直してのことでもある。


 そうして、その日の晩。『Café Noble』2階の住居スペースで鍋パーティーが催された。

 俺、華鈴、秀虎、由奈に、それから街で風俗嬢をやっている華鈴の友人と後輩、そして俺が急遽呼び付けた酒井と原田が出席し、鍋を囲んだ。


 ぐつぐつと煮え立った鮭と野菜の鍋。


「うまーい!」


「めちゃくちゃ美味しいですね、これ」


 皆から口々に称賛の声が上がる。まあ、華鈴が作ったのだから当然だなと思いつつ俺も箸を伸ばした。

 鮭も野菜も実に良い塩梅に煮えているし、何より出汁が美味い。華鈴が昆布と鰹節で取った出汁だ。これも喫茶店を一人で切り盛りする華鈴の腕前のひとつだろうと思う。


「お代わりはたくさんあるからね! 皆、どんどん食べてね!」


 にっこりと微笑む華鈴に酒井が尋ねた。


「つかぬことを窺いますけど、次長とはお付き合いされてるのですか?」


 すると華鈴が恥ずかしそうに頷く。


「う、うん……」


 おいおい、何を聞いてくれてんだこの野郎――そう思って部下にツッコミを入れようとしていると、今度は原田が口を開く。


「兄貴のどんなところが良かったんですかい?」

「えっと……優しいところとか、頼りになるところとか……」


「ほう。例えばどんな時に優しくされたんです?」


 原田がそう尋ねると華鈴は頬を赤らめた。


「……あたしが困った時に助けてくれた時」


「他には何かありますかい?」


「あたしが精神的にきつくなった時に傍に居てくれたことかな」


「ほほう。じゃあ、兄貴のどういうところが好きなんですかい?」


 原田がさらに尋ねる。すると華鈴はこう答えた。


「……かっこいいとこ」


 そうして顔を赤らめたまま俯いてしまった。おいおい、何だか妙な雰囲気になってきたぞ……と俺は思うのであった。


 そんなやり取りを見ていた由奈も口を挟む。


「私も聞きたいなぁ! 麻木さんとお付き合いする前の話!」


「えっ? そんなに特別なものじゃないよ?」


「良いですよ別に!聞きたい、聞きたーい!」


「じゃあ……あたしと涼平が出会った時の話からするね」


 華鈴は由奈の頼みを聞き入れると、俺との馴れ初めについて話し始めた。そうして彼女が全て話し終えると、由奈は深々と頷いていた。


「何だか羨ましいなあ、そういうの。青春っぽくて」


 ああ、そうだった。彼女は眞行路秀虎と政略結婚でくっついたのである。秀虎の複雑そうな表情はさておき、由奈はどこか羨望の眼差しで華鈴を見つめている。


「でも、麻木次長って……その、ちょっと怖い人ですよね?」


「えっ? どうして?」


「……だって、いつも眉間に皺寄せてるし」


「それは仕事中だけよ! あたしと話してる時は全然怖くないんだから!」


 そう云って微笑む華鈴。すると酒井と原田が空気を裂くように声を上げた。


「よっしゃ! それじゃあ次長とのカップル成立ってことで、今日から華鈴さんのことを『姐さん』と呼ばせてもらいますね!」


「良いなぁ、それ! ってなわけで華鈴姐さん、兄貴のことをどうぞよろしくお願いしますぜ!」


 俺は部下たちの暴走を止めようとした。


「ちょ、ちょっと……!!」


 だが、時既に遅し。華鈴はすっかりその気になってしまったようだ。


「じゃあ、あたしもその気になっちゃおっかな……うふふっ」


 すかさず「おいおい、俺は親分とかじゃねぇんだから!」と俺が叫んだところで秀虎が口を開いた。


「あの……そろそろ鍋の方も良いんじゃないですかね?」


 見れば鮭も野菜も残り少なくなっていたので華鈴は慌てて箸を動かした。そんな彼女の様子を秀虎はどこか寂しげに見つめているのだった。


「……」


 銀座継承戦争が集結して2か月あまり。


 俺は秀虎に何ひとつ出来ていない。それはひとえに、彼と親しく付き合いすぎては恒元が不愉快に思うだろうと考えてのことだった。


 しかしながら、銀座の戦乱で彼を担ぎ上げたのは他でもない俺である。秀虎の人生を狂わせておいて、自分のやっていることはあまりにも無責任すぎるとも思えてくる。


「はぁ……」


 思わずため息がこぼれる。すると目の前に座っていた酒井と原田が揃ってこちらを見た。


「どうしたんですかい?兄貴」


「いや……何でもねぇさ」


 そう云って俺は白菜を口に運ぶ。鍋パーティーは佳境に入りつつあった。鮭も野菜もあらかた食べ尽くされている。


「ところで、皆さんはどういう集まりなんですか? その、中川会のヤクザ……なんですよね?」


 華鈴の友人がそう尋ねてきたので俺は答えた。


「まあな。ここの2人は俺の部下だ」


「へえ……じゃあ、麻木さんってやっぱり偉いんですね!」


「いや、偉いってわけじゃねぇよ」


 確かに一般的な組で云うところの若頭クラスだし、近頃では名も通ってきた。だが、別に嬉しくはない。むしろ煩わしいくらいだ。


 そんなことを考えている俺を尻目に酒井が云う。


「おうよ! ここにいらっしゃる麻木涼平様はなあ、これからの中川会を引っ張ってゆくお方だ!」


「そうだっ! 麻木の兄貴こそが中川会の将来を担うんだっ!」


 酒井のみならず原田までもが囃し立ててくる。


「おい、お前ら……」


 しかし、2人は止まらない。アルコールの酔いも手伝ってか、やがて彼らは肩を組んで妙な踊りを踊り始めた。


「兄貴、兄貴っ! 麻木の兄貴っ!」


 そうして今度は秀虎も巻き込んで踊る。


「兄貴、兄貴っ! 麻木の兄貴っ!」


 秀虎も戸惑いながらも2人に合わせて踊る。まあ、これは彼らなりに秀虎に配慮したのだろうな。


 様々な思いを抱え、宴の中で寂しそうに佇んでいた秀虎への気遣いだったというわけだ。何とも優しい男らだ。


「……うふふっ、可愛い」


「な、何だよ」


「良い部下を持ったじゃん、涼平」


 にっこりと微笑みを向けてくる華鈴に「まあな」と返した俺。だが、この時の俺は想像してもいなかった――やがて酒井と原田を含めた中川会本家執事局が、裏社会に破壊と殺戮の炎をもたらす恐怖の集団へと変貌してゆくことを。そして、その悪魔の所業の中核を担ってゆくのが、他ならぬ俺……麻木涼平であることを。

絆を確かめ合った涼平たち。しかし、刻々と新たな戦乱が迫る。次回、組織が揺れ動く……!

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