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鴉の黙示録  作者: 雨宮妃里
第12章 銀座継承戦争
220/261

愛こそすべて

 紅坂姫奈とは、神野龍我の結婚相手である。


 アイドルとして1993年に16歳でデビュー、可愛らしい見た目と圧倒的な声量で作り上げる歌唱力で不動の人気を獲得した。1999年に神野と結婚して以降は芸能活動を休止し、翌年に生まれた長女の育児と夫のサポートに専念していたという話だったが――そんな女性がなぜ離婚に踏み切ることになったのか。


「まあ、とりあえずは番組を始めますか。『神野龍我のエブリナイト・ジャパン』最終回」


 そう呟くように声を発するとテーマ曲が流れ、神野は宙を仰ぎ見た。


「……」


 そして、しばしの沈黙の後。彼は語り始めた。


「……まあ、今回の発表を聞いてさ。きっと皆は『え? どういうこと?』とか『どうして離婚するの!?』ってなると思うんだけど……でもな、これはもう決めたことなんだわ」


 神野はそこで言葉を区切ったが、すぐに続けた。


「俺さぁ、今年に入ってからずっと考えてたわけよ。紅坂姫奈をどうすべきかってさ……」


 俺は彼の発言に固唾を吞んで耳を傾けた。


 そういえばゴシップ誌で神野龍我の不倫や紅坂との不仲が報じられていたような。しかし、当人はきっぱりと言った。


「離婚の原因は単純に仲が悪くなったから。俺が浮気をしたとか、かみさんに娘の世話をやらせすぎたとか、そういう話じゃない。ただ単に、お互いに気持ちが離れただけ」


 紅坂姫奈が夫の女遊びに怒っているという記事をどこかで読んだ気がする。しかしそれは間違いだったのか。


「俺さぁ、ずっと前から考えてたのよ。このままかみさんと一緒に居たら、お互いの心がぐちゃぐちゃに壊れちゃうんじゃないかってさあ」


 神野の独白にスタッフ一同はざわついた。無理もないだろう。あまりにも弱弱しく悲しさを帯びた口調だったのだから。


「だから、こうして離婚するに至ったわけなんだけど。不仲だったのはくっついたばかりの頃からです。女友達っつうか、恋人として付き合ってる頃には見えなかった癖とか、価値観の違いとかが浮き彫りになってきてさ……かみさんは『もっと私を愛してよ』って言うんだけどさぁ……俺は正直言って、もう限界だったんだよ」


 神野はそこで一旦言葉を区切ると「ふう……」と溜め息を吐いた。そして再び語り始める。


「でも、離婚するって決めてもすぐに行動に移せなかったのには理由があってさあ。それは紅坂姫奈が俺にとって大事な人だからだよ」


 神野は続ける。


「かみさん……いや、紅坂姫奈のことが大切な人だってのはこれからも変わりません。地球で誰より、大切な人だから」


 そう言うと神野龍我は曲を流してCMに入った。放送作家らしき男がスタジオに入って神野と打ち合わせを行う中、モニタールームはひどく慌ただしかった。


「ファックス、凄い量が届いてます! メールもとんでもない数です!」


 先ほどの発言を聞いて動揺したリスナーが一斉にメッセージを送っているらしい。


「……。これ、放送事故になるんじゃねぇか?」


 俺が呟くとスタッフのひとりが答えた。


「いえ、むしろ逆ですよ」


 どういうことだ。訝しく思っていると彼は続けた。


「近年、うちの局は数字で伸び悩んでいましたからね。何であれ、数字が獲れるのは良いことです」


 ああ、確かに……俺はモニタールームの全体を見やった。すると確かにスタッフたちは嬉々としている様子だったのである。それはブース内で神野と話す放送作家も然り、当人が浮かぬ顔をしているというのに真逆の上機嫌さを絵に描いたような表情ではないか。


「……そういうことかよ」


 少し呆れて呟くと同時、CMが終わった。神野がマイクに向けて声を発する。


「ええ、さっきから凄い数のメッセージが届いてるってことで。皆、ありがとうな。俺のことを心配してくれて。まあ、皆の興味はおそらく離婚の理由だと思うんだけど、それについてのメッセージにはこの放送中にしか答えません。番組が終わったら、その瞬間から一切読みませんので。皆、そこんとこ注意してね」


 そう言った後、神野は続けた。


「で、裏を返せば番組中は何でも答えるよってことなんだけど……ラジオネーム、『神野龍我大好き人間』さん……ちょっと名前だけで笑っちゃうんだけど」


 笑いを堪えながら言う神野に俺も思わず笑ってしまう。そして彼は続けたのである。


「えー、何々……? ああ、なるほどねぇ……」


 そう言ったところで彼はしばしの間を空けた。どうやらメールを読み上げるか否かで迷っているようだ。しかし、やがて意を決したように口を開いた。


「まあ、そうだね。『週刊誌に書いてあったような激しい夫婦喧嘩は本当ですか』って書いてあるんだけど、うーん。これについては週刊誌の憶測だね。言っちまえば、激しい夫婦喧嘩は一切無いです。昔のドラマや映画にあったような、掴み合ったり、枕でぶっ叩き合ったり、そういうことは一切無い。俺が姫奈をぶん殴ったりしたことも一切無いです」


 神野は続ける。


「今にして思えば、そういう喧嘩をした方がお互いに思ってることを発散できるから良かったかもしれないね。だけど、喧嘩をしなかったからこそお互いに言いたいことも言えず……それで離婚する流れになったんだと思います。互いが互いを想い合うあまり、遠慮しちゃって、ストレスばかりが増えてくっていうね」


 神野はそこで大きく深呼吸をした。そして続ける。


「まあ、俺と姫奈が離婚を決めた理由は他にもありますけど……まあ、やっぱり性格が全く噛み合わないことだね。例えば朝、飯を食う時とかに、俺はコーヒーで姫奈は紅茶を淹れる。で、姫奈がコーヒーをひと口飲むと『苦い!』って顔をしかめてさ……それを見て俺が笑うんだよ」


 神野の語り口は淡々としていた。しかし、その声色からは寂しさや悲しさといった感情が込められているようにも感じられたのである。


「だけど、姫奈にとっては俺が紅茶を飲まないのが考えられないらしくて。『龍ちゃんも紅茶飲んで』って言われるわけだけど、俺としては朝はコーヒーって決まってるからさ。でも、姫奈としては二人分の朝食を揃えて作りたい……まあ、そんな感じで合わない部分がどんどん広がっていったんだよね」


 そこで神野は溜め息を吐くと、こう続けた。


「俺はコーヒー飲みたいのにさぁ……でも、姫奈が淹れた紅茶だって美味しいじゃん? だけど、それを素直に『美味しい』って言えない俺が居てさ」


 そんなやり取りをしているうちにもリスナーからのメールは続々と送られてくる。神野はそれに対して次々と答えていった。


「えー、ラジオネーム『ロックの申し子』さん。『離婚するって聞いた時はとてもショックでした』かあ……うん、ありがとうね」


 そう言うと彼は声のトーンを変えた。


「ええっと…‥このメールには『先妻様との方が上手くゆくと思います。よりを戻した方が良いと思います』って書いてあるんだけど……先のかみさんは100パーセント関係ねぇからな。俺の離婚に。今回の離婚に彼女を絡めて考えるってのは、下衆な三流ゴシップ誌と同じ発想だからな。マジでやめてくれよ」


 神野は怒りを露わにしながらそう言うと「ふぅ……」と息を吐いた。そして続ける。


「……まあ、『ロックの申し子』さんが言いたいことも分かるぜ? 確かに先のかみさんとは最近よく話すし」


 神野と先妻との関係はゴシップ誌でもたびたび噂になっている。紅坂姫奈と結婚して以降も未練がましく肉体関係を続けていると云うのだ。


「でも、先のかみさんと会う時には必ず娘も一緒だから。二人きりで会うことは一切無かったし、これからも無いから。マジで勘違いしないでくれよ」

 神野はそう言い切ると、次なるメールを読み始めた。


「ラジオネーム『逃した魚は小さい』さん。『離婚して寂しくないですか?』だってさ……寂しいよ! 寂しいに決まってるじゃん!」


 そう言うと彼は大きく溜め息を吐いた。そして言う。


「……でも、俺はもう吹っ切れたから」


 そんな彼の語り口にスタッフ一同が聞き入っている。数字を獲ることが目当てとはいえ、己がドラマチックな瞬間に居合わせていると一応は分かっているようだ。


「先のかみさんに逃げられた時には家事を任せっきりにしてたのもあって、そこから暫くは料理だの選択だのを俺一人でこなさなきゃいけなかったんだけど、今は家政婦さんを雇ってるからさあ。日常生活で困ることは無いだろうけど。でも、今にして思えば俺がそうやって家事手伝いを雇ったのが気に食わなかったんだろうな。姫奈は」


 神野はそう言うと「ははっ」と笑った。


「何つうか、姫奈は『家のことは全て自分の手でやりたい』って女なんだよ。どんなに忙しくても、俺と子供の飯を作って、洗濯をして、掃除をしてってのを全て自分の手でやらなきゃ気が済まない。そういう女なわけよ。皆もご存じの通り、姫奈は子供が生まれてから芸能活動を一時セーブしてるんだけど、それは他でも無くあいつ自身の意思なわけで……」


 そこから苦笑いで語られたのは、想像以上に生々しい夫婦のすれ違いだった。


「……芸能活動と家事の両立っていうのかな。世間様じゃそれが子持ちの芸能人のあるべき姿と云われてるけど、姫奈はそれを『無理だ』と端から割り切ってたんだよね。『乳飲み子を抱えたまま表舞台で歌って踊るなんざ出来ない』ってさ。だから子供が小学校に上がるくらいまでは家庭に専念したいって自分から活動休止って道を選んだわけなのね」


 神野龍我と紅坂姫奈は2000年に子を儲けている。神野にとっては第二子となる次女で、先妻に親権を明け渡した長女に続く愛娘として様々なメディアで子煩悩な父親ぶりを覗かせていた。片や紅坂姫奈にしてみれば第一子ということもあり、夫以上に娘へ愛情を注いでいたというが――その育児姿勢が夫妻の軋轢を生んでいたようだ。


「まあ、姫奈の気持ちは分るんだけどさ。俺としては姫奈には母親よりも俺の嫁、言ってしまえば綺麗な女でいて貰いたいわけよ。カッコよく歌って踊れるスーパーアイドルの紅坂姫奈に惚れて結婚したわけだからさ……ってなわけで、娘の世話に関しては俺にある程度任せて貰って、その分、美容とかに時間を使って貰いたかったんだけど」


 されども紅坂姫奈は神野の思いとは真逆の道を歩み始める。


「彼女は譲らなかったんだよな。あくまでも一人で娘を育てる気だったんだ。娘の母親は自分しかいないってんで……だから俺が家政婦を雇ったのが気に入らなかったみたいでさ。まあ、『龍ちゃんだって自分の下着は自分で洗うでしょ』とか言われたけど……俺はそういう問題じゃねえと思うんだよな」


 神野の言葉に俺も思わず笑ってしまった。確かにそれは一理あるかもしれない。


「でもさあ、そんなん言い出したらキリが無いわけよ。俺が姫奈に気を遣って家事を手伝おうとしても『私は全部ひとりでやりたいの!』って言われちゃうしさぁ……」


 そこで彼は再び溜め息を吐いた。


「俺が先のかみさんと上手くいかなくなった原因は、俺が長女の世話を任せすぎたことだったんだけど。今回は真逆の理由で仲が拗れるなんて……思わなかったな。女心っつうもんは分からんね。マジで。姫奈が行きたがるだろうと思って予約したエステをすっぽかされた時には流石に堪えたね」


 そんな神野は印刷されたメッセージを掴んで視線を落とした。


「ラジオネーム『枯れない枯れ葉』さん。『仲が拗れ始めたのはいつ頃からですか』と」


 そう言うと彼は「それについてはあまり答えたくないんだけどね」と漏らした。されども続ける。

「けど、ここで俺が本当のことを言っておいかないとまた雑誌にあること無いこと好き勝手に書かれちまうからさあ」


 神野はそう言うと手元のグラスに手を伸ばした。氷が溶けた水を口に含むと溜め息を吐く。そして言うのである。


「ぶっちゃけると結婚した翌々年、娘が1歳になった頃からだね。さっきも言った通り、俺は姫奈に音楽を再開してほしくて、それで家事も育児も専門の人を雇うことにしたわけなんだけど。まあ、姫奈はそれを拒んだわけだ」


 神野は自嘲気味に笑った。


「あいつ、意固地になってさあ。『私が1人でやるから龍ちゃんは黙ってて』って言われたなあ……俺としてはそれが本当に歯痒くて歯痒くてしょうがなかったね。俺としては姫奈に負担をかけたくないのに……まあ、結局は俺の独り善がりでしかなかったのかもな。子育てと仕事の両立がどれだけ大変かを先のかみさんから嫌ってほど教わってたからさあ」


 かつての離婚の教訓を踏まえて妻の家事の俯瞰を少しでも減らそうとしたが、その配慮が却って相手との関係を冷やす結果を招くとは何とも皮肉な話である。されども子育てにおける理想は十人十色。神野龍我は紅坂姫奈の理想を理解できず、紅坂姫奈は神野龍我の気遣いが分からない――そのすれ違いを乗り越えるのが夫と妻のあるべき姿なのかもしれない。


「俺はただ……姫奈には綺麗でいて欲しかっただけなんだよなあ」


 その一言に彼の本音が集約されていたように感じた。しかし、そこから続く言葉はトーンが少し変わっていた。


「まあ、そんなわけだから……離婚するの。別に姫奈が嫌いになったとかそういうんじゃなくてさ。ただ、お互いにやりたいことと出来ることに齟齬が生じてて、これ以上二人でいるとそれぞれがそれぞれを苦しめちゃうって分かってるから、今回こうして一線を引くってことにしたわけなのね」


 神野はそこで大きく溜め息を吐くと「ふぅ……」と息を吐いた。そして続けるのである。


「……でもさ、俺としては紅坂姫奈っていうスーパーアイドルを嫁にしたわけだからさ。それだけで本当に幸せだったよ。川崎のスラムで生まれ育ったチンピラがロックの世界で成り上がって、それでトップアイドルを嫁にするなんてさ……夢みたいな話だろ?」


 そこで神野はスタッフ一同を見回した。


「だからさ、俺が言いたいのは、姫奈に向けてだけど、こんな俺……神野龍我と結婚してくれて本当にありがとなってことなんだよね。俺は今年で37だけど、この業界に入ってかれこれ20年近く経つけどよ……未だに俺の人生がここまで華のあるものになるなんて思いもしなかったんだよ。本当に」


 彼はそう言うと少し間を空けて言うのである。


「……まあ、姫奈には愛想を尽かされちまってて。もう家にも居ないし、たぶんラジオもつけてないのだろうけど。俺はそれでも姫奈には『ありがとな』って言いたいんだわ。心から。俺を愛してくれて。俺の嫁になってくれて。そんな彼女にって言い方も変だけど、今の俺の想いを全て表現したような曲を贈ります」


 神野の声と共にスタジオには楽曲が流れ始めた。昨年の冬に華鈴と参戦した東京ドームライブでも演奏された人気曲だ。


「この曲は……俺の人生そのものを歌にした曲です」


 やがてCMが明けると、神野はその楽曲の背景について語り始めた。


「……俺はガキの頃から親が居なかったからさ。『愛』だの『家族』ってもんがよく分かんなかったんだよね。まあ、今も大して分かっちゃいないんだけど……でもさ、憧れは強いわけよ。『いつか俺も家庭を持ちたい』って。それで、まあ……色々あって姫奈と出会ってさ。俺はその憧れを叶えられたんだよね」


 神野はそう言うとまたもやグラスの水を飲み干した。


「だから、この曲は俺の人生そのものを歌ってるのね。『愛』とか『家族』に飢えてて、それを探して彷徨い続けた男の人生をさ。でも、そんな俺でも今はこうして自分の家庭を持って幸せになれたわけだから……まあ、その『幸せ』を姫奈にも分かって貰いたかったんだけど……無理だったね」


 神野はそこで小さく溜め息を吐くと「ははっ……」と笑った。


「でもさ……俺は後悔してないよ。この人生に。だって、こんなに幸せなんだもの」


 その言葉に嘘偽りは無いのだろう。なればそ、こうしてリスナーに向けてメッセージを送っているのだ。


「だから、皆も自分の人生を大事に生きてくれな。まあ、結婚を二度もしくじったオッサンに言われたかねぇだろうけど」


 自嘲気味な言葉の後、神野の瞳には哀愁が躍った。湧き起こるように訪れた静寂の中で感傷に浸っていた。


「……」


 同級生からカツアゲした金で中二の夏に観に行ったLUVIAの川崎凱旋ライブでも、昨年末の東京ドームライブでも見せることが無かった表情――途轍もなく深い後悔と寂寥の念、そして僅かな喜び満ちた彼の顔つきは、傍から眺めていた俺に息を呑ませた。ロックスターが、人間らしい感情を真っ直ぐに噛みしめる一人の男に戻っていたのであった。


「……ああ、すまねぇ。いい歳こいた男が情けねぇわな」


 目頭を押さえつつつ神野は次なる言葉を紡いだ。ラジオの世界では15秒を超えて無音の状態が続くと放送事故扱いされると云われている。それについてはスタッフも予め織り込み済みで、神野が感極まって喋れなくなった時に備えてジングルなり音楽なりで間を繋ぐ準備はしてあるのだろうが、それに頼らないあたりが何ともプロ意識の強い彼らしいと俺は思った。


「グアムで結婚式を盛大にやってもらって、そこから完成したばかりのタワマンに二人で住み始めて、そこで姫奈が妊娠して……まあ、その頃が俺たち夫婦の幸せの絶頂だったかもしれねぇわな。そのタワマンに引っ越した時に『ああ、俺って本当に幸せ者なんだな』って思ったわけよ。だってそうだろ? 俺はずっと川崎のスラム育ちだったんだから」


 神野の過去に関しては彼の自伝『根無草』で読んだことがある。1968年に川崎市で生まれるも幼い頃に両親共に失踪、預けられた伯父の家ではまともに飯を食べさせてもらえなかったため、孤児同然の暮らしをしていたと記されていた。その境遇から音楽一本で成り上がった生きざまは言うまでもなく天下一の成り上がりだ。


「俺、ずっと我武者羅でさ。何かをやってて『楽しい』と思ったことが無いわけだよ」


 モニタールームでコクンと頷く俺やスタッフを尻目に神野は続ける。


「ギターを覚えたのだってアメ公相手のキャバレーで楽団員として働くためだったし、LUVIAを結成してステージで化粧をして歌い始めたのだって、そうした方が儲かるからだって思ったからだし。まあ、それでトップアイドルを嫁に出来たんだから俺の人生も捨てたもんじゃないけど……でも、やっぱり俺って根っからの成り上がりなんだよな」


 そんな彼が心の底から幸せだと感じた機会こそが紅坂姫奈との結婚生活だったという。


「もう本当に毎日楽しくて、夢のようで。『川崎のスラム上がりの根無し草がついにやってやったぞ』なんて思ってたよ。でも、傲慢だったよな……俺って。姫奈の気持ちをこれっぽっちも考えていなかった。あいつが結婚生活で夢見ていたものが分からなくて……それを分かろうともしなかったんだからさ」


 神野はそこで少し間を空けた後に続けた。


「あいつはずっと普通の女の子の暮らしに憧れてた。結婚して、家庭に入って、子を産んで母親になるっていう……それに気付かず、俺はただただあいつに理想の女としての姿を押し付けていたんだから、まあ離婚するわな。それは本当に俺の情けないところで言い訳のしようも無いくらいにいけなかったなと思ってます」


 そして彼はまたも自嘲気味に笑う。


「まったく……無理に彼女をアイドルに戻したところで、それを本人が願っていないなら何にもならねぇってのに。どうしてそれに気が付かなかったんだろうなあ、俺は」


 神野の言葉は俺にとっても痛いほどの生々しさを孕んでいた。一緒になった相手との将来設計――もしも俺が華鈴と結婚するとして、彼女が見据える将来像とは一体何だろうか。思い返してみれば俺は今までに頭で考えたことさえなかったのかもしれない。

 ただ、華鈴を恋人に、ゆくゆくは妻にしたいと願うばかりだった。彼女の考える理想の人生に想いを馳せることなどまるで無かった。


 例えば、彼女から稼業の引退を懇願されたら……?

 自分が裏社会以外で生きてゆく道など想像もつかない。そもそも恒元が許さないだろう。もし華鈴と組織を天秤にかけることになったら俺は迷いなく華鈴を選べるのだろうか。


 分からない。彼女の抱く未来の姿を理解せずに「一緒になってくれ」などと言う資格は俺には無いのだ。


「まあ……でも、姫奈もさ。あいつなりに俺のことを想ってくれてたのは知ってるよ」


 そんな神野の言葉に俺はハッとした。彼は続ける。


「あいつは普通の女の子を目指してたけどさ……でも、それは俺のためでもあったんだって。外でバリバリ働いて、家に帰ったら妻と子供が笑顔で迎えるっていう昔ながらの家庭像を俺が思い描いてるんじゃねぇかって、彼女なりに俺に配慮してたんだって言ってたよ。スラム育ちで愛に飢えてた俺のために。それを俺が分かろうとしなかったんだよな」


 理想の違いはあれど、まずは相手を分かろうとすることが大切というわけか。何とも普遍的で当然のことのように思えるが、この基本的な関係構築の原則を多くのカップルあるいは夫婦が怠っている。それが破局やら離婚やら仲の縺れへと繋がってゆくのだ。


 俺も華鈴のことを――ああ、そうだ。恋仲へ至るよりも先に、まずはあいつのことを理解せねばならない。


 彼女がどんな未来を夢見ているのか。そこに俺という人間が居て本当に良いのか。それを分からなくては何も始まらない。


 心の中で決心を固めた俺をよそに、スタジオ内には変化が起こっていた。


「えっ、マジで?」


「驚いたな……」


「もしかすると局が始まって以来じゃねぇか」


 どうやらラジオ日本の電話回線がパンクしたらしい。多くのリスナーが一斉にファクシミリを送信した所為で設備が破損したというのだ。当然といえば当然だが通信網が麻痺してしまっては元も子もないようで、スタッフの顔がみるみるうちに曇ってゆくのが分かった。


 一方で神野の耳には別の事象も伝えられていた。


「……ああ、やっぱりか」


 ブース内に駆け込んだプロデューサーから耳打ちされた神野はため息とともに笑った。そしてグラスの水を飲み干し、苦々しい顔で続けた。


「ええ、今、このラジオ日本に記者が殺到してるって。物凄い数で道路にもはみ出してるって」


 神野はそう言うと「参ったな……」と頭を抱えた。そして続けるのである。


「……俺のところにも今月に入ってからずっと取材が殺到しててさ。正直言って『いい加減にしてくれ』って感じだったんだよね。だから今回のラジオでもその話題を出そうと思ってたんだけど……まあ、こいつらには何言っても無駄だわなあ」


 彼はそこでまたも自嘲気味に笑った後、さらに続けた。


「いや、別に記事を書くのはあんたらの稼業なわけで。俺が歌うことを稼業としているように、あんたらにもあんたらの食い扶持があるわけだから。それを否定するつもりは毛頭ないけど、もう少しさあ……節度は守れって言いたいよね。本当に酷いよ、そういう職種の人たちは。やり過ぎって範疇を超えちゃってるわけよ」


 神野とゴシップ誌はLUVIA時代から犬猿の仲だった。ロックバンドとしては2例目の東京ドーム5日連続興行を成功させた1996年夏の一件は俺も覚えている。「元妻との離婚は紅坂姫奈との不倫が原因」とゴシップ誌に根も葉もない噂を書かれて神野が怒り心頭に達し、テレビの生放送で「てめぇら全員叩き潰してやる」とまで言い放ったのである。


 以降、両者の因縁は深まるばかりで、1999年の紅坂姫奈との結婚の際は首都圏キー局がグアムから披露宴の模様を生中継した中、ゴシップ誌の関係者は軒並み式場からシャットアウトされた。


「まあ、ゴシップ誌がそういう報道をするのは勝手だけどさ。でも、それを信じ込む奴が居るのも確かなわけよ。『神野は女遊びが激しくて毎晩違う女を取っ替え引っ替えしている』とか……馬鹿じゃねぇのって」


 神野はそう言うと水を飲み干して続ける。


「別に女に困ってるわけじゃねぇのよ。だってほら、姫奈と結婚してるわけだしさ。浮気なんかするわけがねぇだろって」


 俺が暇つぶしがてらに読んだ雑誌には『歌手デビュー用に曲を提供した15歳下のグラビアアイドルと不倫関係にある』と書いてあったが、そのゴシップについても我らがロックスターは明確な答えを用意していた。


「あのグラドルとはそういう関係じゃねぇんだよ。ただ、あいつとのツーショット写真が雑誌に載ったもんだから『不倫だ』って騒がれただけでさ。まあ、実際あいつは姫奈の後輩にあたるわけだしな」


 神野はそこで「だけどよ……」と続けた。


「それだけで『不倫してる』って結び付けるのはいくら何でも早とちりだろうよ。あれはスタジオの帰りにコンビニに寄っただけで、俺と彼女以外にもスタッフやらバンドメンバーやらが居合わせたんだよ。そこを切り抜いて、あたかも二人きりで歩いてるかのような写真を撮りやがって。クソだな。本当に。人のことを何だと思ってやがる。チッ」


 豪快に舌打ちを鳴らした神野だが、数秒後には少しばかりトーンが落ちた。


「けど、姫奈にとっては見たくない写真だったんだよな。勿論、彼女も俺が浮気なんかしてねぇってのは分かってるし、考えてもいない。それでも旦那が自分以外の女を連れて歩いてる写真とか噂ってのは、たとえ出鱈目だと分かってても見たくねぇものなんだろうな」


 グラドルとの不倫ゴシップが今回の離婚を決定づけた――そう思っているからか神野の口調は次第に憤りを帯びていった。


「そもそも、俺はあいつと結婚してから浮気なんかしたことねぇし。そりゃ女と飲む機会はあったけどさ……でも、それは姫奈にも了解を得てのことだったぜ。俺が本当に好きな女は姫奈だけなんだよ。だから他の女に手を出す必要なんて無いんだ。だってよ、家に帰りゃあ紅坂姫奈っていうとびきり美人が居るんだから。浮気したってしょうがねぇだろ」


 吐き捨てるように語気を強めた神野。テレビ出演やライブで派手にシャウトする姿ロッカーとしての姿しか見たことが無かった俺にとっては、云うまでもなく新鮮かつ驚くべき光景であった。憧れのロックスターがこんなにも人間臭い表情を見せることなど、誰が想像出来ただろうか。


「だからよ……俺と彼女のことはもうそっとしておいてほしいんだ。それが俺の唯一の頼みだ」


 そんな神野の言葉にスタッフたちも大きく頷いた。そして彼は言うのである。


「まあ、でもさ……俺が姫奈に『幸せになって欲しい』なんて願うのは傲慢なのかもしれねぇな」


 何とも自嘲気味な言葉の後、30分ほど語りを続けて番組は幕を閉じた。別れる妻、紅坂姫奈への想い、長きにわたり番組を愛してくれたリスナーへの感謝など、神野は様々な言葉を語った。


 そんな番組中に終始「自分が原因である」と語り続けていた彼の口から最後に「姫奈には幸せになって欲しい」と心から思う」という願望の言葉が出た時、俺は思わず息を呑んだ。


 それは俺が華鈴に向けて抱いている想いと似て非なるものだったからだ。


「……ああ、そうか」


 そこで改めて気付いた。俺のこの気持ちは独り善がりなものでしかなかったのだと。ただ、彼女のことを愛しいと想うあまり、その未来像がまるで見えていなかったのだ。


 あいつを幸せにしてやりたい――そう願っていたのは確かだが、華鈴の幸せが何か、彼女の視点で考えたことが無かった。だから彼女との将来像も思い浮かばなかったのだ。


 しかし、神野は違った。彼は自分の未来よりも妻の未来を思い描き、その幸福を心から願っている。それはきっと愛ゆえだ。


 そしてそれこそが俺が華鈴に抱くべき想いと同じものに違いないのである。


「俺も……そうありたいな」


 そんな願いを口にすると、俺は仕事にとりかかった。神野龍我の露払いである。記者が殺到しているラジオ日本の社屋から彼を脱出させ、自宅までの帰路を護衛するのである。


「お疲れさん。喉が疲れてるところすまんが、ここからが正念場だぜ。気合い入れてくれよ」


「ふふっ。ありがとよ。北海道で千人の敵を相手に大喧嘩した腕利きにボディーガードして貰えるとは嬉しい限りだね」


 おっと、俺の武勇伝は憧れのロックスターの耳にも飛び込んでいたか。心の中で苦笑すると、俺は無線機を起動させる。


「酒井。そっちはどうだ」


 すると端末から声が聞こえる。


『配置に着きました。凄い人だかりですが準備万端です』


「任せたぜ」


 俺は周波数を変えてスイッチを押す。


「原田、車は着けたか」


『うっす。配置完了っすよ』


「流石だな。じゃあ、俺が行くまで待機していてくれ」


 そうして端末を仕舞うと、俺は頭の中でシミュレーションを繰り広げる。


「……いけるな」


 今回、俺は二人の部下をぞれぞれ敵の陽動と車の運転の二手に分け、記者たちの目を攪乱しながら速やかにターゲットを車に乗せて脱出させる算段を練った。


 まずは酒井を社屋玄関広場に待機させ、群がる記者の中へ突入して暴動を起こさせる。神野のファンは昔から暴走族やチーマーといった不良が多い。「離婚発表を聞きつけて現れたリスナーが暴れたため、その混乱で神野へのインタビューができなかった」という状況を作り上げるには丁度良いだろう。


「あとは原田だ」


 彼は車の運転である。俺は玄関広場で大乱闘が起きている最中に神野を裏口から脱出させる手筈だが、当然ながら必ずしも全ての記者の目を振り切れるわけではない。一部の勘の鋭い奴らが陽動工作に気付かないとも限らない。さすれば彼らは全力で俺たちを追うことだろう。そこで元暴走族で都内の抜け道を把握し尽くした原田にハンドルを握らせるのだ。


「俺の部下の車を地下玄関に横付けさせる。車が着いたら脇目も振らず飛び乗ってくれ。頼んだぜ」


「ああ。道中、カーステで俺の曲でも流してくれよ。それくらいの心配りは欲しいもんだね」


 一歩間違えば大勢のパパラッチに圧殺されかねない緊迫した状況だというのに。冗談を言って俺たちの緊張を和ませようと心配りをしてくれているのはむしろ神野の方だろう。


「ふっ……流石はドームで5万人を相手に歌ってるロックシンガー様、肝の据わり方が尋常じゃねぇな。安心しな。去年のベスト盤を流してやるよ」


 俺は神野にそう返すと無線機に指示を飛ばした。


「酒井、やってくれ」


 既に記者たちは100人を超えているだろう。先ほど窓から眺めた時にはその迫力たるや凄まじく、まるで火砕流のようであった。


 ただ、こちらもプロだ。俺は神野の腕を引いてエレベーターから地下に降りると、そのまま地下の駐車場へ出た。そこには原田が車に乗って待機しており、こちらに気付くと軽く右手を上げて合図を送ってくる。


「待たせたな」


 俺と神野は急いで車に乗り込む。その模様を確認するや否や、原田はアクセルを踏んで車を走らせた。


「……」


 酒井が上手く報道陣を引き付けてくれたおかげか、俺たちを追ってくる敵影は無し。脱出成功だ。


「素晴らしい手際だ。サンキューな。道中のBGMの選曲が俺のソロデビュー曲だったことを除けば申し分無かったよ」


「……生憎、俺はあの曲が一番好きなんでな。ともあれ、あんたを護衛できて良かった。これからも応援させてくれ」


「おう、ところで、あんたの名は麻木涼平で合ってたか」


「あ、ああ」


 中学時代から憧れていたロックスターに名を覚えて貰えるとは。率直に云えば光栄の極みだが、むず痒いやら気恥ずかしいやらで返す言葉に困った。「今度から中川の親分に護衛を頼む時にはあんたを寄越して貰うよ」と当人が頷きながら語る間も口をあんぐりと開け、ひどく間の抜けた表情をしていたと思う。


「じゃあな、麻木涼平。次はライブで会おうぜ」

 そう言って車を降り、自宅へと入ってゆく神野を俺は恍惚の顔で見つめていたのだった。


「へぇー。あれがLUVIAの神野龍我ですか。やっぱ生で見ると芸能人は風格が違うもんだなあ」


 感慨深げに呟く言葉に俺は頷く。


「ああ……そうだな……」


 どうせなら番組にメールの一通でも送っておけば良かった――その後悔の通り、翌日になってラジオ日本の『神野龍我のエブリナイト・ジャパン』は打ち切りに。公式発表だった。ラジオ日本の社長が記者会見を開催し、スペシャルウィークに向けて世間の注目を集めるべく番組を離婚発表の場に使ったことで、結果として大混乱を招いたことを陳謝していた。


 また、神野と紅坂姫奈の離婚も世間に衝撃を与えた。一流ロックシンガーとトップアイドルというベストカップルの破局を嘆き悲しむ声以上に、神野を「横暴な男だ」と非難する声が噴出。その週のワイドショーがいずれも神野のゴシップを報じる内容だったことは語るに及ばないだろう。


 ラジオの生放送で離婚を発表するという異例の展開。「記者会見でインタビュー攻めに遭うことを厭わしく思った神野の身勝手な行動」と世間は非難していたが、俺は違う。きっと神野は元妻である紅坂姫奈を好奇の目から守るために、敢えて奇想天外な策を打つことでヒールを演じ、大衆の耳目を自分に引き付けたのだと考えている。


 無論、当人から胸の内を明かされたわけではないので、勝手な憶測にすぎないのだが。


 そんなこんなで俺のミッションは無事に終了。恒元からも「よくやった」とお褒めの言葉を賜り、俺は肩の荷が下りた気分で日常へ戻った。


 当然ながら行きつけの店に顔を見せることも欠かさない。


「はい、おまちどおさま」


「ありがとな」


 華鈴に給されたブレンドアイスコーヒーを俺は一口すする。


「エチオピア産の配合を変えてみたんだけど、どうかな?」


「ああ、美味い」


 そう返すと煙草に火をつけた俺。気温が高くなってきたからか華鈴が薄着だ。半袖のブラウスから覗く真っ白な両腕は相変わらず美しい――なんて下世話な妄想を募らせながら紫煙を燻らせている俺に当人が振ってきたのは、少し意外な話題であった。


「ねぇ、麻木さん。夏祭りの露店と言えば何が思い浮かぶかな」


 曰く、八月半ばに赤坂地区の公園で開催される祭りに商店街が共同で露店を構えることになっているのだとか。

「そうだな……やっぱり『お好み焼き』が王道じゃねぇか」

 赤坂三丁目の恒例行事、夏祭り。昨年は同時期に恒元の外遊が入ったのでそちらの護衛にかまけて見物できなかった。


 今年は華鈴と一緒に祭りを楽しみたい。あわゆくば浴衣姿も……そんな思いから俺は彼女の誘いに応じたのだった。


「麻木さんもおいでよ」


「ああ、勿論行くさ」


「うん……楽しみにしてるね」


 華鈴がそう微笑むと、俺は思わずドキリとした。その笑みがあまりにも愛くるしかったからだ。しかしすぐに我に返ると咳払いをして話題を変えたのである。


「しっかし、もう7月も下旬か。早いもんだなあ」


「うん、ほんっと気付いたら夏だもんね」


 気温の上昇に伴い薄着になってきた華鈴の艶めかしさはさておき、俺が気にしているのは琴音から聞いた例のプロジェクトだ。


 アメリカにおける大手資源開発企業を買収する。


 これはあの国でブラックマーケットを展開するギャングを叩くための陽動で、敵の注意がニューヨークに向かっている間に俺がネバダ州の本拠地にカチコミを敢行する手筈である。


「……」


「麻木さん?」


 おっと、おけない。作戦の進行状況を憂慮するあまり、ついつい無言になってしまった。この作戦はあくまで極秘のものであり、華鈴を巻き込むわけにはいかないのだ。


「……いや。何でもねぇよ」


 そう返して煙草を深く吸い込んだ直後。深夜の報道番組を伝えていたテレビから声が聞こえた。


『速報です。アメリカの資源開発産業大手のミラージュ・エレクトロニクス社は日本時間先ほど、ネバダ州ヘンダーソンの本社で記者会見を開催し、日本の投資ファンドからのTOBに遭ったことを明かしました。TOB額は一株あたり7ドルで、買収が成立すれば日米両国の経済史上最大規模の企業買収となります』


 俺は思わず漏らした。


「始まったか……少し遅れてるな……」


 その反応に華鈴は首を傾げる。


「どうしたの?」


「いや……何でもねぇさ」


 世間では翌日になって大々的に報じられ、一昨日のロックスターの離婚ゴシップが一瞬で忘れ去られるほどの大ニュースとなった藤城ファンドによるミラージュ・エレクトロニクスTOB。無論、これは単なる始まりに過ぎなかった。


 日米をまたにかけた大作戦の、ほんの始まりに。

いよいよ始まったアメリカ討ち入り作戦。涼平と琴音は目標を達成できるか? 次回、熾烈な読み合いの幕が開く!

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