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鴉の黙示録  作者: 雨宮妃里
第12章 銀座継承戦争
212/261

捨て切れぬ過去と割り切れぬ未来

 その晩、俺はどのようにして帰ったかは覚えていない。


 心を包み込んだ衝撃の雲があまりにもどす黒くて、自分が自分であることを忘れてしまいそうになったのだ。無論、酒をいくら飲んだとて気分が晴れるわけがない。


 三淵と何を話したか、長谷川に如何ほどの謝礼を支払ったか、そして錦糸町から赤坂までどの交通手段を使ったか――いずれのこともその時の俺にとっては些末事だった。


 ただ、気付いたら赤坂の中川会総本部に辿り着いていた。ひどい千鳥足で。


「次長。お帰りなさい」


「あ、兄貴……酔っ払うなんて珍しいっすね」


 出迎える部下に生返事をしながら、俺は自室へと足を運ぶ。そして、そのままベッドに倒れ込んだ。


「……何故だ」


 そう呟くのがやっとだった。あの写真に写っていた男は間違いなくあいつだ。だが……奴はこの世に居ないはずだ。俺が殺したのだ。それは間違いない。なのに……どうして?


『涼平……か。ふっ、良い名前をしているな』


 不意に蘇ったのは奴の声である。そう、俺がアフリカの地で出会った友にして宿敵。謂うなれば唯一にして無二の親友であった。


『涼平、お前は俺の誇りだ』


 しかし、奴はもうこの世には居ない。俺が殺したのだ。


『涼平! 決着を付けよう! たとえ鞍馬くらまの宿命が無くとも……俺とお前は命を削り合うことでしか交われんのだ!!』


 そして奴は言った。あの場所で落命する結末を望んでいたのか。それとも俺への感謝の言葉だったのだろうか。今となっては分からないが……ただ、一つ言えることは奴が俺に殺されることを自ら選んだようには見えなかったということだ。だが、その真意は分からないままである。


「何故だ」


 もう一度呟くと、俺は目を瞑った。


 ◇ ◇ ◇


 俺が異国を流浪したのは1999年の6月をきっかけとする。ほとぼりが冷めるまで東京を離れ九州に潜伏しているつもりが鹿児島でトラブルを起こし、日本に居られなくなってしまい、タイ系マフィアが運営する密航船に乗って大陸へ渡った。


 ところが、俺が頼った連中は人身売買組織だった。


 何らかの事情でパスポート無しでの海外渡航を目論む日本人を言葉巧みに騙し、東南アジアへ売り飛ばす悪党どもだ。俺はそんな連中の船に乗せられて日本から遠く離れた異国の地へと運ばれたのだ。


『หวัดดี มีผู้ชายคนหนึ่งอยู่ในส่วนผสม(おい。男が紛れ込んでいるぞ)』


『และมันดูเด็กใช่ไหม(しかも見た感じ若いじゃねぇか)』


 俺を乗せた船が上陸したのはカンボジアだった。片言の日本語で『連絡船ミタイナモノダヨ』と言い含められた俺は、港に着くまで自分が奴隷に身を堕としかけている事実に気付かなかった。


 しかし、あの連中は俺を商品として売り飛ばすつもりは毛頭無かったらしい。何故なら彼らが扱っていたのは若い女性のみ。俺が船に乗ったのは日本で調達を担う仲買人に本国からの指示が十分に通っていなかった結果だったそうだ。


 女を連れて来いと言われたのに男まで攫ってしまった連中も連中だが、言葉も分からぬのに異国船に乗った俺も俺だ。


 そんなこんなで渡った当時のカンボジアは内戦が終結したばかりで、国内の治安は崩壊していると云っても過言ではなかった。周辺国のマフィアが暗躍するには都合が良い環境で、タイ系マフィアたちは金儲けのために俺を利用しようとした。


『คุณจะเป็นตัวล่อสําหรับองค์กรของเรา(お前には俺たちの組織の囮になって貰うぞ)』


 語学に明るくなかった俺には奴らが何を言っているのか分かるべくもなく、言われるがままに敵対勢力を誘き出す餌として利用された。


 地雷原の中を歩かされている真っ只中でさえ、当時の無学な麻木涼平少年は『外国で仕事を貰った』と信じ込んでいたものだから始末に負えない。


 俺が事の真相に気付いた……というか、自分の置かれた状況のおかしさに勘付き始めたたのは3日目の朝だった。どれだけ危険な仕事をこなしても褒美が出ない。それどころか、粗末な小部屋に閉じ込められて外から鍵を掛けられているのだ。


 もしかしたら、自分は騙されているのかも――そう直感した俺は翌日の朝に仕事のため外へ出されたタイミングを狙って大暴れし、逃走を図った。


 元より日本で修羅場をくぐった喧嘩自慢だ。タイ人たちが俺の反抗を想定していなかったこともあってか事は上手く運び、俺は現場から逃げ延びることに成功した。


 しかし、何のアテも無い異国である。ましてや言葉が分からぬ。俺は逃げるだけで精一杯だった。


 道中で食料を拾いながら西へ東へと駆けずり回っているうちに川へ出くわし、それが東南アジア最大のメコン川であることに気付かぬまま、偶然にも岸辺に放置されていたモーターボートを拝借し、当てずっぽうの操作でエンジンを起動。


 燃料が尽きるまで川を上り続けた。そうして燃料が尽きれば適当な船を見つけて飛び移り、また川を上る。内戦のゴタゴタを引きずっていたこともあってか、当時のあの国には放置されている船が沢山あったのだ。


 やがて俺は川の上流に位置する社会主義国家、ラオス人民共和国へ辿り着いた。そこでも例によって内戦が勃発しており、混乱に乗じて俺は国境を突破。隣国のミャンマーへ入った。


 1999年当時のミャンマーといえば、軍事政権が暴政を敷く真っ只中にあり、外国人が安住できる土地であるはずが無かった。


 だが、そんな状況でも俺は運が良かったと云えるだろう。当時のミャンマーには『カチン民族共同戦線』と呼ばれる軍事組織が存在していて、彼らは密入国した外国人を匿っていたのだ。


 彼らがどのようにして難民を受け入れていたのかは知る由もないが、少なくとも俺のような無学な人間が現地人に紛れても怪しまれない程度には上手くやっていたらしい。


 そして、俺はその組織に身を寄せる中、少しずつ異国の言葉を学んでいった。英語、フランス語、そして中国語――全ては生きる糧を得るために。


 当時のミャンマーは隣国、中華人民共和国との曖昧だった国境の画定をめぐる小競り合いが多発していた時期である。国内での反乱の芽を摘むことに忙しかった軍事政権は、そんな中国との戦いを体制に友好的な軍閥に丸投げしていた。


 それをカチン地方の統治権委託と引き換えに請け負っていたのが『カチン民族共同戦線』だったわけである。


 ただ、彼らは狡賢く、戦闘行為の一切を衣食住を保障した密入国外国人――つまりは俺たちに担わせていた。そもそも組織に拾われた際に『人を殺した経験はあるか』と尋ねられていたようだが……それは無学な俺には知る由も無い話だった。


 しかし、幸か不幸か、日本でヤクザの抗争に携わっていた俺は現地人に支給されたトカレフ拳銃の扱いを知っており、また発射された銃弾を避ける勘の良さも持ち合わせていたことから、俺は組織内でも一目置かれる存在となった。


 ちなみに俺が身を置いた組織には様々な理由で母国から逃れた多くの人種が集っており、彼らと行動を共にするうちに自然と語学センスも磨かれていったのだ。


 国境線を越えてきた中国人民解放軍の兵士を射殺したり、うっかり中国側に入ってしまった同輩を救出したり、本当に色々な仕事をこなした。そして全てを見事に成功させた。


 やがて、その噂を聞きつけたのだろう。俺がミャンマーに来て3ヵ月が経とうとしていたある日、俺は軍事政権から密命を受けた。


『中国軍に占拠された森林を奪還してほしい』


 無論、この任務は俺一人で遂行するものではなく、分隊を率いて行うものだった。だが……当時の俺にはリーダーシップというものが欠けていたのだ。

 それは、俺と共に仕事をしていた仲間たちも薄々気付いていたようで、俺が隊長に任じられたと知るや否や、彼らは猛烈な勢いで突っかかってきた。


『Why are you the captain?(何でお前が隊長なんだよ)』


『Je ne pense pas que l’on puisse porter un jugement précis sur la situation(お前に的確な状況判断ができるとは思えない)』


 不運なことに俺以外の全員が白色人種だったことも災いした。彼らにしてみれば当然だろう。見下しているはずの東洋人に日頃よりアゴで使われているのに、ここへ来て10代の日本人の少年の膝下で仕事をするなんて嫌に決まっている。


 俺としては反発する彼らを納得させる必要があったわけだが、当時の俺は愚かにも『隊長』という言葉の意味さえ知らなかったのだ。


 リーダーシップの何たるかも分からぬ少年に、元より集団を率いる才などあるわけが無い。全員から総スカンを食ったことで俺は組織の中で瞬く間に孤立する。やがては任務を決行する前日に駐屯していた村落を追い出された。


 自分が黄色い肌を持つ東洋人であることがいけないのか、それとも人の心の機微に疎いのがいけないのか、あるいはその両方か――いずれにせよ俺が人間関係の構築に失敗していたことは事実である。


 以降は絵に描いたような流浪の日々だった。国境を越えてバングラデシュへ入り、そのままインド、そしてパキスタンを経てイランへと辿り着き、気付けば同国が南アフリカ共和国へ送る貿易船の中に日雇い労働者として潜り込んでいた。


 特に深い意味は無い。黄色人種ゆえの異端視を避ける中で『とにかく西へ逃げよう』と思い、アジア圏を離れるためのうってつけの手段だと考えて勢いで乗り込んだのである。


 だが、その選択は俺に更なる苦境をもたらすことになる。


 当時の南アフリカは既にアパルトヘイトが撤廃されていたが、民主化に伴い政府の権力が弱まった反動で治安が悪化、国内は多くのギャングが跋扈する魑魅魍魎の巣窟と成り果てていた。


 貿易船から降るや否や、俺は厳ついギャングのメンバーに囲まれて『金目のものを全て出せ』と脅された。


 だが、俺は啖呵を切って彼らに喧嘩を挑んだ。日本では大勢の不良やヤクザたちを相手に見栄を切っていた身、言われるがまま従うのは屈辱的な行為に思えたのだ。


 無論、それはあまりに無謀で愚かな行為であった。


 これまでの経験を活かして目の前の男を殴り銃を奪ったまでは良かったが、敵があまりにも多すぎた。海外のギャングは日本の極道とは天と地の差だ。ヤクザが個人戦を醍醐味にしているのに対し、向こうの人間は集団戦術を好む。


 1人や2人を殺しても数秒後には増援が駆けつけ、まったくキリが無かった。結果、俺は『くそったれ』と叫んで逃げ去るのが関の山で、そこからはギャングたちから縦横無尽に逃げ回る日々が続いた。


 南アフリカとは面白い土地柄で、国内の何処に行ってもギャングが勢力を張っている。そんな群雄割拠の修羅場を生き抜く秘訣は単純明快。敵に回してしまった奴らと相対する連中の支配地域に行けば良いのである。


 だが、彼らは決して日本人を歓迎などしてはくれない。


 80年代、先進国が軒並み白人優位政策をとる南アフリカを毛嫌いする中で、日本だけが旧体制と友好関係を築いていた。それゆえ長年に渡り虐げられてきた南アフリカの有色人種の人々にとって、日本人は敵と呼ぶに等しい存在なのである。


 ケープタウンからダーバンまで様々な街に赴いたのであるが、いずれの地域でも俺は嫌われた。日本人というだけで石を投げられ、銃口を向けられ、襲い来る敵を返り討ちにすれば却って敵が増え、ますます行き場に困る悪循環。


 そうした常に危険と隣り合わせの逃亡生活を送りながらも俺は何とか生き延びていたが、そんな日々にもやがて限界が訪れた。


 アジアを彷徨っていた頃から路上に生えている草を食べることには慣れていたが、南アフリカに来てからはそれさえにもありつけずにいたのだ。ろくに食事も摂れず、水だけを飲んで飢えを凌いでいたある日、俺の体力が底を尽きたのだ。


 とにかく、何かまっとうな料理を腹に入れたい――金は持っている。人種差別による面倒事を承知で、俺は食堂に入った。


 ずっと人間らしい食事をしていなかったせいで、披露は頂点に達していた。飯が食えるなら殺されても構わないと思っていた。


 あれは忘れもしない、2000年8月11日の夕方だ。ヨハネスブルグのヒルブロウに佇んでいた古びた食堂だった。


 幸いにもその店の娘は日本人を嫌っておらず、店に入った俺が豆のスープと肉のソテーを注文すると、彼女は快く応じてくれた。


 娘は笑顔で厨房へ入っていったが、数分と経たない内に血相を変えて飛び出してきた。そしてギャングが来たから逃げるよう大声で叫んだのだ。


 直後、店の扉が蹴破られて数人の男たちが雪崩れ込んできた。その中の一人が俺に銃口を向けてきた瞬間、俺は咄嗟にカウンターの裏へと転がり込んだ。間一髪で銃弾を避けたものの、店はたちまちギャングの襲撃を受けて大混乱に陥った。


 どうやら彼らは元から俺を狙っていたわけではないようで、俺が来る前より店内に居た敵対組織の幹部を襲撃しにやって来たらしい。


 やっぱり始まっちまったか――しかし、そう思った時。ちょうど店内に居た一人の老人がギャングたちに立ちはだかった。


『少し静かにせぬか。飯が不味くなるじゃろう』


 ぼそっと日本語で吐き捨てた刹那、その老人は凄まじい速さでギャングたちへ飛びかかり、ほんの3秒足らずでその場に居た全員を倒してしまった。


 決して大袈裟ではなく、俺は何が起きたか分からなかった。店内に自分と同じ東洋人が居た点は勿論、見た限り70歳は過ぎていそうな翁が武装した男たちを一瞬で蹴散らした事実が信じられなかった。しかも、その老人はナイフやマチェーテといった刃物を持っていない。


 にもかかわらず、倒された奴らは全員が喉元を真一文字に切り裂かれている。


 一体、どういうことだ!?


 きっとその時の俺は暫く間抜けな表情でその場に立ちつくしていたことだろう。


『……ったく、飯くらいゆっくり食わせんか。不埒な奴らめ』


 一方、老人は吐き捨てるように呟くと、何事も無かったかのように店を出て行こうとした。だが、俺はその老人に駆け寄っていた。


『待ってくれ!』


 彼は足を止めて振り返った。そして俺を見るなり訝しそうに眉を顰めた。


『……何じゃお前は?』


『あんたすげぇよ!さっきのはどうやって……』


『む? 何のことだかさっぱり分からんな』


『目に見えねぇくらいの速さで全員を血だるまにしちまったじゃねぇかよ! とんでもねぇナイフ捌きだったぜ! いつの間に道具を出したんだ?』


 すると老人は一言で答えた。


『刃物など持っとらんわ』


『……は?』


『わしが用いたのはこのてのひらじゃよ』


 老人はそう言って自分の手を見せた。俺はますます混乱した。このジジイ、頭がおかしいのか?


『な、何言ってんだよあんた……』


『ふむ。どうやらお主はまだ若いようじゃな。なら分からんでも不思議ではないわい』


 彼は一人で勝手に納得して頷いていた。そして今度こそ踵を返そうとしたが、俺はなおも食い下がる。


『ちょ、ちょっと待ってくれよ! どういう仕組みだか知らねぇけど、あんたは素手で人を殺せるくらいに強いんだよな? だったら一緒に行動しねぇか?』


『一緒に行動とは。わしとお主がか』


『そうだ! あんた日本人だよな? だったら……』


『お断りじゃ』


 即答だった。


『なっ!?』


『価値を見出せんからじゃよ。さしずめお主はわしと行動を共にすることで我が身に降りかかる面倒事を振り払おうと考えておるようじゃが、生憎わしは他人を守る傘になどなってやるつもりは無いのでな』


 何もかもが痛々しいまでの図星だった。俺の目を見て真っ直ぐに言い放った老人に、ただただ言葉を失くす他なかった。この人には全てを見抜かれてしまう――刹那的に思いついた卑しい魂胆を言い当てられ、自然とそんな事実が頭をよぎった。


 先ほど出会ってから数分も経っていなかったというのに。


『まあ、言われてみれば日本人を見るのも久しいのぅ。ちなみにお主はこの国に来て日が浅いのか?』


 またもや俺の目を見て尋ねてきた老人。俺は迷わず頷いた。すると彼は深い溜め息を吐いた。


『やれやれ……若いというのは羨ましいものじゃな』


 そして彼は俺に向き直って告げた。


『良いか、よく聞け小僧。この世に不動不変のものは無いが、ただひとつの例外がある』


『えっ?』


『勝負事における軍配は、如何なる時も己の手を自ら汚しただけ者に上がるということじゃ』


 老人が何を言いたいかは漠然と分かった。つまり彼は俺の頼みを聞く義理など無い――自分の命は自分で守れと言っているのだ。


『だったら、さっきの技を教えてくれ! どうすれば素手で人が殺せるようになるんだ!? どうやったらあんな速さで敵を倒せるんだよ!?』


『一日や二日で身につくものではないわ。それに、お主はそもそも心に小さからぬ迷いを抱えておるじゃろう』


『そ……それは……』


 老人の鋭い眼光が俺を射抜いた。俺は堪らず目を逸らした。


『見たところ、お主には軸が無い。人として生きる軸が。わしは相手の瞳を覗けば何でも分かってしまう性質たちでの。お主は殊に一目瞭然じゃ。この国へ来たのも、周りに足を取られて流され続けた末のことであろう』


『……』


『そのように俯いておるのが何よりの証。如何なる経緯があってこの魔境へ流れ着いたかは存ぜぬが、お主は己の生き方について己の瞳で道を見定めておらぬようじゃ。そのような軟弱な輩に我が秘拳を教えるなど言語道断じゃわい』


 痛いところを突いてくる。俺は何も言い返せなかった。彼はそんな俺の様子を見て、またまた深い溜め息を吐いた。


『良いか、わらべ。よく聞け。己の軸を持つのじゃ。己が何の為に生きるべきか、それを常に頭に置いて生きよ。さすれば自ずと道は拓けるものじゃ』


『……俺の……軸……』


『そうじゃ。お主は何を為すためこの国へやって来た?』


 俺は思わず押し黙った。だが、今度は目を逸らさなかった。そして老人の目を真っ直ぐに見つめながら答えたのだ。


『俺は……自分のやらなきゃならねぇことを見つけたい! もう誰かに振り回されるのは嫌だ! とりあえず俺は俺として生きてみたい!』


『……ふむ』


 老人は俺の答えに納得したように頷いた。そして、こう告げた。


『では、己を鍛えてみるかの』


『……は?』


『よく見れば良い目をしておるのぅ。現世という魔境で生きる術をわしが教えてやろうぞ。ただし、わしの修行は生半可ではないぞ? 覚悟はあるかの?』


 俺は迷わず即答した。答えは一つに決まっている。そして俺は老人に頭を下げて言った。


『ああ! 俺を鍛えてくれ!』


 老人はまたも深い溜め息を吐いたが、今度はどこか満足げな表情だった。そして俺に背を向けてこう告げたのである。


『では、ついて来いわらべよ。今日からお主はわしの弟子じゃ』


 思い返してみれば、最初から俺を誘うつもりだったのだろう。その時は当人の意図に気付くはずもなかった。


 ましてや日本を追われ、ただ無目的に生きていた少年である。強さを求めるだけの思考に疑問などは湧かない。ただ、俺はその翁の言う通りに修練を始めた。


『童よ。まずは修行の第一段階じゃ。これからわしが教えることは、いわば基礎の基礎。しかし、その土台が無ければ何も始まらん。まずは己を知ることから始めねばのぅ』


『己を知る?』


『そうじゃ。人は誰しも己の中に軸を持って生きておる。そしてそれは他人からは窺い知れぬものじゃよ。故に先ずは自らを知り、それを他人に伝えるすべを覚えよ』


 それからというものの、俺はヒルブロウ近くの村に住んでいた老人の元に通い、から様々なことを教わった。その中で特に印象に残っているのは次の言葉だ。


『童よ。お主は何故に強さを求める?』


『……そりゃあ、強くなきゃ何も守れねぇからだよ』


『ふむ。では、その強さとは如何なる力を指しておる?』


『え? そりゃ敵を倒す力だろ』


いな。敵を倒す力は手段であって目的にあらず。真に重要なのは己の軸を何に置くかということじゃ』


『軸を……置く……』


左様さよう。例えばお主が敵を倒す力を得たとて、それを使うのは如何なる時か。例えば己が守りたいものを守る時か? あるいは己の信念を貫くためか? はたまたその両方なのか?』


『……分からねぇ』


左様さよう。軸とはそういうものなのじゃ。しかし、その答えもいずれ分かるじゃろう。今はただ己を鍛えるのみじゃ』


 それからというもの、俺は老人に言われるがまま体を鍛えまくった。曰く『まずは我が秘拳を使うに値する鋼の肉体を作り上げるのじゃ!』とのことで、その内容は何とも単純なもの。


 ドラム缶を担いで階段を兎跳びで昇り降りしたり、腕立て伏せと腹筋を毎日千回ずつ行ったり、逆立ちの状態で1キロの距離を移動したりと、闇雲なまでの筋力トレーニングだった。


『良いか童よ。この修行は単に腕と足腰を鍛えるだけにやるのではないぞ』


『……己を知るため、ですか』


『うむ。どのくらい体を動かせば疲れるのか、すなわち己の限界を知ることでさらなる上を目指せるのじゃ』


 そして俺はその言葉通り、黙々と鍛錬を続けた。これじゃあ日本に居た時と変わらねぇじゃねぇかと何度となく首を傾げたが、老人の言う通り確かな意味があった。


『筋力を鍛えるということは、即ち肉体の限界を引き伸ばすということじゃ。その限界を熟知しておれば、自ずと己が如何なる存在であるかを知ることができる』


『……い、言われてみれば』


 俺は素直に感心した。この老人には俺なんかでは到底思いもよらない知識があるらしい。異国に流れてから初めて出会った日本人ということもあり、いつの間にやら俺は老人に対して敬意を抱き、相応の礼節をもって接するようになっていた。


 あの村雨耀介とも対等に話していた自分が誰かに敬語を使うなど、まったくもって存外なことだった。されども自然と俺の頭には老人に対して尊敬の二文字が浮かんでいた。言うまでもなく、純粋な感情である。


 そして俺が鍛錬を始めてからひと月後、老人は技を教え始めた。彼に言わせれば俺は『常人なら一週間で音を上げるだけの鍛錬を涼しい顔でこなしてのけた』らしい。


『では、次はいよいよ技を授けるとしようかの……持っておれ』


 すると老人は近くに落ちていた岩を俺に持たせ、そこへ勢いよく指を突き立てた。


 ――バリッ。


 一度は目にしたはずの光景だが、またもや信じられなかった。なんと老人は堅固な岩を一本の指で貫通したのである。


『マ、マジか……!?』


『うむ。これが長徳の頃より伝わりし秘拳、鞍馬くらま菊水きくすいりゅうじゃ』


 そう。この時が、俺の鞍馬菊水流との邂逅だったのだ。


『い、今のはどうやって……?』


『簡単じゃ。岩に勢いよく指を突き立てる。それだけじゃ』


『いや、だからどうしてそれで岩が割れるんですか!?』


 俺は思わず老人に詰め寄った。しかし彼は全く動じることもなく、淡々と答えたのだった。


『言ったじゃろう。我が秘拳は平安の頃より伝わると。これはただの突きではないのじゃよ』


 そして老人は俺の目を見て続けた。


『良いかわらべよ。この技を会得することこそが鞍馬菊水流の真髄を知ること。我が流派の全てが、この技に集約されておると思うが良い』


 ただただ圧倒されるばかりの俺に、老人は『ひとまず指一本で岩を砕けるようになってみよ。己の力のみでな』と言った。技の仕組み、原理、そして発動の仕方などは教えてくれないらしい。要するに目で見て全てを覚えろということだ。


『時はたっぷりあろう。焦らずゆっくりやるが良いぞ。それではのぅ』


『あ、あの!』


 俺は去ろうとする老人を慌てて呼び止めた。老人は振り返って俺を見たが、やはりどこか面倒臭そうだった。


『何じゃわらべ


『……いや、その……ありがとうございます』


 俺が礼を言うと、老人は少し驚いたように目を大きくした。しかしそれも束の間で、彼はまたいつもの表情に戻ってこう言ったのだった。


『ふふっ。だいぶ人らしゅうなってきたのぅ』


 そして今度こそ去って行く老人の背中を見届けながら、俺は心の中で思った。何としてもこの技を習得して強くなってみせる――と。


 とはいえ、指一本で岩を砕くなど不可能だった。何度やっても割れない。勢いよく指を突き立てても傷ひとつ付かない。


 それどころか挑戦する度に、グキッという音と共に指に鈍痛が走る。こんなことで本当に大丈夫なのか……千回ほど試した後で俺はため息をついた。


 真っ赤に変色した指先と第二関節を見ると、ますます嘆息がこぼれる。だが、一方で気付いた点があった。


 突き指をしていないのだ。普通に考えれば、堅い物質に指を突き立てようものなら関節を損傷する。されども俺は指に何ら怪我をしていない。

 皮膚こそ赤く腫れているが、関節は普通に動く。骨が折れている気配もまったく感じられなかったのだった。


『あれ……?』


 俺は右手の指をまじまじと見ながら、ふと考えを巡らせた。強靭に鍛え上げられた筋肉は骨を守るという。俺はここに至るまで筋力トレーニングを繰り返しており、当然ながら指の周りの筋肉も発達を遂げている。


『筋トレのおかげで突き指しないだけの筋肉が出来上がったのか……そんなはずねぇよな。でも……』


 しかし、いくら考えても答えは出ない。ならばもう一度試してみようと思い立ち、俺は岩の前に立ったのである。そして今度は右手の人差し指に力を込めた。


 すると――。


「割れたっ!」


 なんと、俺の人差し指は岩を貫通したのだった。ここへ来て俺は鮮烈的に気付いた。自分に欠けていたのは自信であると。


 どうせ割れないだろうと思っていたから割れなかったのだが、割れると思って挑んだら容易に割れた。結果、俺はひとつの概念を会得した。


 世に云われる『為せば成る』という言葉は間違いではないのだと。胸を張れるだけの自信を裏打ちする確かな努力こそが『為す』ということなのだと。


 俺はさっそく老人の家に赴き、体得したばかりの技を披露した。すると老人は手を叩いて褒め称えてくれた。


『うむ。上出来じゃ。鞍馬菊水流の真髄を体に染みこませたようじゃの。鞍馬の秘拳は地上の如何なる物質をも力で砕く。それは己に確かな誇りがあってこそ成り立つものじゃ。ゆめゆめ忘れるでないぞ』


『はい! ありがとうございます!』


『では、次の修練に移るとするかの』


 俺が砕いた石の破片を指差し、老人は言った。


『これはお主が砕いた岩じゃが、何か気付くことは無いかの』


 分からない。頭を捻った俺は当てずっぽうで口を開いた。


『うーん……強いて言うならお手本の時に比べて穴の大きさが小さいような……』


 だが、意外な反応が寄越された。俺の答えに老人は深々と頷いたのである。


『左様。お主の技は岩に穴を開ける分には足りておるが、今ひとつ力に劣る。人を打ち倒すとなれば尚更いかんじゃろう』


 一切の武器を使わず素手のみをもって敵を倒すことこそが秘拳、鞍馬菊水流の『武器』であると語った老人。それには俺も同意だった。


『お主の技は岩を砕くだけならば十分な威力を持っておるが、人を倒すには至らぬ。そこで今から教えるのは、この技を極めし者のみが会得できる奥義じゃ』


 老人はそう言って人差し指を立てた。そして俺にこう話すのだった。


『童よ。これからお主に教えようと思うておるのは、言うなれば人体破壊術じんたいはかいじゅつというやつかのう』


 俺はゴクリと唾を飲み込んだ。


『じ、人体破壊術……』


『うむ。これをもってすれば、例え離れた位置に立つ相手にも遠くから拳を食らわせることが出来ようぞ』


『遠くから!? どうやって!?』


『見ておれ』


 そして老人は人差し指で勢いよく空気を突いた。すると、彼の真正面にあった蜜柑の木から果実が落ちた。俺は目を疑った。


 だが、間違いない。彼の指先からは何かしらの波のようなものが放たれていたのだった。


『こ、これは……!?』


『そうじゃ』


 老人は静かに頷きながら答えた。


『これが鞍馬菊水流の真髄にして原理よ。お主の次なる課題は、これを使いこなせるようになることじゃ』


 そんな彼が用意したのは火に焚かれ、ぐつぐつと煮えたぎる鍋だった。中には沸騰を迎えたと思しき湯が入っている。そして鍋の底にはコインがあった。


『童よ。この鍋の底で茹でられし貨幣を己の手で取ってみよ』


『ええっ!?』


 そんなことをすれば間違い無く火傷をしてしまう。けれども老人はこの課題を達成することこそが真髄体得に繋がるという。


『では、先にわしがやってやろうかの』


 ――シュッ。


 老人はそう言うと、目で追いきれぬほどの速さでコインを湯から取り出した。そして俺に見せつけるようにコインの表裏を見せびらかしたのだった。


『……っ!?』


 俺は思わず息を呑んだ。何故なら彼の取った行動があまりにも早過ぎたからだ。だが、老人にとっては至極当然といった様子でこう続けたのだった。


『どうじゃ? まだお主には到底真似できぬじゃろう?』


『い、今のは一体……』


『これが長徳の頃より伝わりし秘拳、鞍馬菊水流じゃ。さあ。やってみるが良い』


 一体、どういう仕組みの技なのだろうか。俺の頭は混乱に陥った。思考を全力で回転させてみるがまるで理解できない。


 老人の手捌きはあまりにも速かった。あれほどの速さならば、コインを取る際に熱を感じないはずだ……ん? 待てよ?


 俺は先ほどの光景を今一度、思い返してみる。


 老人が鍋に手を突き入れる際、周囲に激しく湯が飛び散った。けれどもそれは手が突き入れられたことで湯が跳ねたわけではない。その証左に老人の手は濡れていないのだから。


 どうやら老人の手が鍋に突入した瞬間、湯に大きな穴が開いていたようだ。老人の手を避けるように湯がサッと身を引いたような……ああ、分かったぞ!


 高速で手を突き入れることで掌の周囲に衝撃波のような何かを発生させ、湯を除去したのだ。


 そういう原理だったかと俺は小さく頷いた。しかしながら、問題はそのような超高速の動きを如何にしてやってのけるかだ。俺が真似をしたところで速さに欠け、湯に手を突っ込んで火傷をしてしまう。


 俺はまたも先ほどの老人の動作を脳内で検証する。技の発動時、老人は如何なる体の動きをしていたのか。


 まず彼は鍋の前で足を肩幅に開いて立っていた。そうして両手を下ろした位置から瞬時に頭上高くに構え、一気に鍋の中へ手を突っ込んだ。


 ここまでは誰が見ても分かる動作だろう。他に何か特徴は無かったか。


『……ん?』


 そこで俺はふと閃いた。手を構えた瞬間の老人の足の動きにヒントを得たのである。


『ちょっと震えたような……ああっ、そういうことか!』


 そして俺は火に焚かれた鍋の前に立ったのだった。


 ――シュッ!


 俺は老人の動作を完全に真似て、鍋に手を突き入れた。すると湯が跳ね上がった。俺はそのまま手を突っ込んで中のコインを掴み取ったのだ。


『お、おお! 出来た!』


 そう。俺の試みは見事に成功したのである。俺が手を突き入れると同時に、鍋の中には確かに衝撃波のようなものが発生し、湯が除去された。


 その仕組みを俺は完全に見抜いた。


 言ってしまえば足からの力の伝導だ。地面に接着した両足から腰、背中、肩、そして手へ力を伝える。その流れを辿ることで力が増幅されて爆発的な速さを生み、空気を切ることで発生した波動が湯を除去するのである。


『やりました!』


 俺は得意げに老人の方を見た。すると彼はまたもや感心した様子で頷いたのだった。


『うむ……やはりお主には天性の才能が備わっておるようじゃな』


 そして老人は俺の肩に手を置いて言ったのだった。


『合格じゃ。これこそが鞍馬菊水流の人智を超えた力の源、しょうじゃ』


『しょ、衝波……!?』


『そうじゃとも』


 深々と頷いた後、老人は続けた。


『地に着けた両足で同時に地を蹴り抜くことで力の波を起こし、それを手まで伝えて拳を放つ。その速さで切り裂かれた空気の塊を拳に纏うことで、あらゆる物質を素手で粉砕することが可能となるというわけじゃ』


『な、なるほど……』


 俺は頷きつつも内心では疑問を抱いていた。その仕組みは何となく分かるのだが、果たして本当にそんなことが可能なのかと。


 老人は俺の心を見透かしたかの如く、続けて言ったのだった。


『西洋では物理学という名で既に証明されておることじゃ。物体が音の速さを超えて移動した時、その周りの空気が乱れ、破壊力が生まれるとな』


 話によれば鞍馬菊水流は平安時代の998年に京都の鞍馬山で誕生したという。藤原摂関家の台頭に危機感を覚えた帝が、鞍馬山に住んでいたかつらの康貞やすさだなる武術の達人に自らの護衛を命じ、持康が使っていた格闘術に名を付けたことを始まりとする。


 康定は摂関家に従う源氏の武士を倒すべく、素手で武士の固い甲冑を打ち破る仕組みを考えた。それこそが衝波である。鍛え上げられた手指に空気の塊を纏わせることでどんな物質をも砕く――この原理は平安時代に記された秘伝書にも載っているといい、この逸話が本当なら桂康貞は19世紀のフランスの物理学者よりも先にソニックウェーブの理論を発見したことになるが――それはさておき。


 鞍馬菊水流に俺は完全に魅了されてしまった。


『お主の技はまだまだ物足りぬが、それでも人を倒すには十分じゃ。これからは全ての技を体得する為の鍛錬に励むが良いぞ』


『はい!』


『今さらじゃが、お主。名は何と云う』


『あさぎ……いや、朝比奈隼一と云います!』


『左様か。では、隼一よ。本日よりお主は正式に鞍馬菊水流62代目の伝承者候補じゃ。わしのことは導師どうしと呼ぶが良いぞ』


『はいっ!』


 俺は深々と頭を下げた。導師は俺の肩に手を乗せ『うむ』と頷いたのだった。それからというもの、導師から鞍馬菊水流の数々の奥義を伝授された。


 衝波の基本的な打ち方と、それによって発生する空気圧を活かして攻撃する戦い方。貫手突きや手刀を刃物のように使う戦闘スタイルはこの時に教わったものだ。


 また、導師からは鞍馬菊水流の強みは衝波の発生源たる脚力でもあると教えられた。


『両足で地を蹴る。この動作を極めれば相手の懐に音を超える速さで飛び込めようぞ。鞍馬菊水流は超速の拳じゃ』


 そのためにこそ基本の修練で足腰を鍛えたのだ。俺は地面を蹴って相手との間合いを爆速で潰す、謂わば突撃とつげきの稽古を繰り返した。これによって構えを取らぬ体勢から予備動作無しで瞬間的に突進を駆ける瞬発力を身につけた。


『鞍馬菊水流は超速により間合いを制し、相手の懐に飛び込んで一瞬のうちに雌雄を決することこそが極意じゃ』


 いつの間にやら、俺の瞬発力と走力は野生動物並みに高まっていた。敵との間合いが10メートルならば3秒で懐に到達できるようになった。もし陸上競技に10メートル走なる種目が存在したら、俺は世界大会で優勝できるだろう。


 また、強化した足腰によって得たのは走力だけではない。地面を垂直に蹴ることで可能となる跳躍も、俺は高度を上げた。


『……っ!』


 垂直跳びでは最高到達点に達するのに1秒も要しない。その高さは5メートル強だ。俺はこの跳躍を用いて、ビルの屋上から屋上へと飛び移りながら移動する術を身につけたのだった。


 無論、教わったのは技だけではない。平安時代から千年以上に渡って続く鞍馬菊水流の歴史から、ただ純粋に帝を守らんとする存在意義、使い手としての心構えなども教わった。


 中でも最も念入りに教えてもらったのが流派の掟である。


『よく覚えておくが良いぞ。鞍馬菊水流は一子相伝である。他人に決して奥義を伝えてはならぬということじゃ』


 そして俺は導師の教えで瞬く間に技を会得していった。手刀突きや貫手突きなどの戦闘スタイルに加えて、足技による攻撃も嗜んだ。鞍馬菊水流の究極奥義であるよろいくずしについては、わずか半年ほどで伝授されるに至った。


『この技は衝波は勿論、単純な剛力や呼吸による心身の統一などあらゆる要素を拳に乗せ、対象に叩き込む技じゃ』


『はい!』


『まずはこの岩を砕くのじゃ』


 そう言って導師が指差したのは高さ3メートル程の大岩だった。俺は即座に構えを取り、渾身の力で殴りかかった。


 ――パキッ!


 俺の拳は簡単に岩を粉砕してしまったのである。これには俺も驚いたものだ。導師も腰を抜かしそうになっていた。


『なっ……これほどまでに短い間に鎧崩しを覚えた人間など、鞍馬菊水流千年の歴史の中で5人しか居らんぞ……!?』


『あ、ありがとうございます!』


『……っ』


 導師はしばらくの間、俺の拳に釘付けになっていたが、やがて我に返ると彼は慌てて言ったのだった。


『ま、まあ良い……お主の才覚はわしの想像を遥かに超えておるようじゃ……あとは組手にて腕を更に上げてゆくのみじゃな……』


 組手とは、互いに技を磨き合う稽古のことである。


『とっておきの相手が居るぞ』


『とっておきの……俺と同じ技量のを身につけた奴ってことですか?』


『左様。分かりやすく言えば、お主の兄弟子ともいうべき男じゃな』


 そうして導師の後をついて行くと、そこには岩の上に胡座をかいて座る青年が居た。


『ん? 導師、そいつは誰だ?』


 きょとんと首を傾げる男。どうやらこの彼が俺の兄弟子らしい。青年は俺の姿を見るなり、目を細めて言ったのだった。


『そうか。やっと見繕ってきたんだな。随分と時間を要したが、そいつなら確かに俺に見合った腕を持っていそうだ』


『な、なあ……』


 俺は戸惑いながら尋ねた。


『あんたも鞍馬菊水流の技を使えるのか?』


 すると青年はフンと鼻を鳴らして答えた。


『ああ、使えるとも』


 そう言うと、青年は岩の上から飛び降りた。すると次の刹那、先ほどまで彼が座っていた岩が真っ二つに割れた。どうやら跳躍する直前に手刀を打っていたらしい。


 何という拳の速さだ。


『す、すげぇ……!』


 そして青年は俺の肩をポンと叩いて言った。



『俺の名は蛇王じゃおう。お前と同じ鞍馬菊水流62代目の伝承者候補ってとこだ。よろしくな』


 蛇王とはまた奇妙な名前だなと思っていると、導師が言った。


『此奴は赤ん坊の頃よりわしが育てた我が子のようなものじゃ。今後はお前と二人一組で稽古をしてゆくが良い』


 おそらく本名ではないのだろう。我が子のようなものという言い回しから慮るに、きっと何処ぞで拾った赤ん坊に蛇王なる名前を付けて弟子として育ててきたに違いない。


『分かりました』


 俺はそう返事したのだった。まあ、兄弟子ができたのは僥倖ぎょうこうだ。一人で修行するよりも仲間がいた方が心強い。それにこの蛇王という男も中々に強そうだ……ん?


『うおっ!?』


 突如として貫手が飛んできた。俺が慌てて右に体を反らすと、彼は驚いた様子で言ったのだった。


『凄いな。 俺の拳を躱すなんて。』


『いきなり何しやがる……!?』


 俺はすかさず間合いを取った。すると蛇王は笑った。


『ははっ。そう怯えるなよ。俺はただお前と手合わせしてみたかっただけだ』


『手合わせだと?』


『ああ、そうだ』


 蛇王は頷いた。そして彼は尋ねてきた。


『お前、名は何と云う?』


『……朝比奈隼一』


『隼一か。じゃあ、これからよろしくな。お前が相手なら歯ごたえのある稽古ができそうだ』


 それからというもの、俺はこの蛇王との組手に明け暮れた。それは今までの単なる技の練習とは違った。


『ほら。どうした?』


 蛇王の拳の突きはあまりにも速すぎた。故に、俺はその動作を捉えるのに必死だったのだ。


『くっ……!』


 何度目だろうか。俺が奴にカウンターの貫手を浴びせたのは。しかし、次の瞬間には俺の上体からは血が噴き出していた。


『ぐはっ……!?』


 俺の攻撃を躱すと同時に体を手刀で切り裂かれたのだ。おかげで胸の辺りに焼けたかと思うような痛みが俺を襲った。それでも俺は何とか立ち上がった。


 そしてふらつきながらも構えを取ったのだが……。


『寸でのところで体を引いて破壊力を弱めた点は見事なもんだ。でも、それだけじゃあ俺には勝てんよ』


 次の瞬間、蛇王の姿が消えた。


『はい。俺の勝ち』


 なんと彼は瞬時に背後へと回り込み、首筋に向けて手刀を振りかざしていたのである。この男は本当に足が速い。前方への突進しか出来ない俺とは違い、蛇王はあらゆる方向への超高速移動が可能だ。


『くそっ……!』

 俺は振り向きざまに手刀を振るったが、それは呆気なく空を切った。そして次の瞬間には俺の背中からは鮮血が飛び散っていたのである。


『ぐはっ……!?』


 またしても奴の手刀で切り裂かれたらしい。俺は堪らず膝から崩れ落ちたのだった。


『ったく、無茶するなあ。お前』


 呆れたように言った蛇王。奴は地面にへたりこむ俺を見降ろして笑っていた。


『まあ、でも筋は良いよ。今までの奴とは比べ物にならん』


『今までの奴……?』


『導師様が連れてきた弟弟子。全員、ほぼ瞬殺に等しかったよ。まったく鞍馬の掟ってのは悲惨だよなあ。伝承者になれなかった弟子は生きてちゃいけないなんて』


 その言葉で、俺はようやく導師の言葉の意味を思い出した。


 鞍馬菊水流は一子相伝。


 この世に使い手は導師と門弟の二人しか存在してはならないのだ。


『お、おい……まさか……』


 俺がそう尋ねると蛇王は頷いたのだった。


『ああ。全員、俺が殺したよ。正確に云えば全員とも俺に敗れ去った』


 俺は愕然とした。同時に怒りが込み上げてきたのである。


『な、なんてことを……! あんた、兄弟弟子を皆殺しにしたってのかよ!?』


 すると蛇王は言ったのだ。


『それが鞍馬の掟なんだ。大体、弱い人間などこの世には必要ないんだよ』


 そんな彼の物言いに俺は心底、腹が立った。

『ふざけんな! 弱いからって殺すなんて……そんなの人間のやることじゃねえだろ!?』


 すると蛇王は鼻で笑った。


『人間なんてそんなもんだろ』


 そして彼は続けたのだった。『俺たち鞍馬菊水流の使い手はな、人ならざるものなんだよ』と。


『人ならざるもの……?』


 俺がそう尋ねると、蛇王は言ったのである。


『そうだ。手から衝撃波を発生させたり、高い跳躍で空に昇るなんて、そもそも人間技じゃねぇだろって話。まあ、簡単に云えば妖怪だわな』


『よ、妖怪……?』


 俺は困惑した。しかし蛇王は何も気にすることなく続けたのだった。


『ああ。俺たちは妖術を操る化け物さ。お前だって導師様から教わったんじゃないのか。歴代の伝承者たちは、そのあまりの強さゆえに天狗と呼ばれて世間から嫌われることもあったと。だから一子相伝の掟ができた。人智を超えた武術の使い手を最小限に抑え、それが世に及ぼす影響を少なくするためにな』


 その言葉に俺は反論することが出来なかった。何故なら蛇王が全てを悟ったような顔をしていたから。謂わば諦観の面持ちとは、ああいう表情を云うのだろう。彼とて好き好んで鞍馬の秘拳を学んだわけではない。生きてゆくためにそれを為す以外の道が見つからなかったのである。


 見れば蛇王の肌は異様に白かった。さしずめ日本人と白人との混血か。俺もそれまでに大陸をアジアからアフリカへと旅してきた身、日本の女が他国の破落戸たちにカネで売り買いされている現実を嫌というほど見せられてきた――蛇王の母親もきっとそんな具合で意に反して馬された赤子を捨てる他なかったのだろう。


 母を知らず、物心つかぬうちに武術家に拾われ、幼い頃からその道を叩き込まれて育った邪王。彼にとっては他の生き方が存在しないのだ。そんな兄弟子に、俺ごときが感情で反論をぶつけて良いはずが無いではないか。


『……』


『まあ、いずれ俺とお前は殺し合う宿命さだめにある。導師様がお前を拾ったのもそのためだ。一人しか取れない弟子の枠にずっと最強を据えておきたいんだよ、あの人は』


『……人を家電か何かだと思っていやがるのか。新しい製品が出る度に買い替えるのとは訳が違うだろ』


『俺も最初は納得できなかった。けど、それが鞍馬菊水流の掟なんだ。好んで飛び込んだか強いられて飛び込んだかに関係なく、俺たちは鞍馬の宿命に従う他ないんだよ』


 ただ、自分の存在を強くしたかっただけなのに――とんでもない世界に入り込んでしまったと俺は数か月前の己の行動を悔いた。


 されども俺は挫折に心を溶かしてしまうことは無かった。以降も兄弟子との組手に励んだ。ただ己を鍛えんが為にという思いもあったが、修行に打ち込み続けることで蛇王と殺し合いをせねばならない宿命を遠ざけられると思ったのだ。


 蛇王が本気で殺しにかかってくるなら、俺はそれを躱し続ければ良い。そう思い付いたことで俺の回避行動の技術は各段に上達した。


 気付けば蛇王との対戦成績は0勝1敗107分けという、不思議なものとなっていた。


『はぁ……はぁ……』


『ぜぇ……ぜぇ……』


 互いに息を切らせて地面に寝転がる俺たち。しかし俺は蛇王に告げたのだった。


『俺があんたを殺しきれなかった。今回も引き分けだな』


 すると奴は不貞腐れた顔で言ったのだ。『いや、今のは俺の勝ちだ』と。


 本来なら伝承者候補を一人に絞るための儀式である組手を俺たちは単なる稽古に変えた。俺は蛇王の攻撃を奴のスタミナが切れるまで回避し続け、奴が諦めることでその勝負は引き分けに終わる。


 いつまで経っても殺し合いが発生しないことを導師は不満に思っていたのかもしれないが、彼は何も言わなかった。


 そんな茶番じみた日々が続いたある日のことだった――それは俺が朝比奈隼一として大陸の流浪を始めてから1年が経った日だった。


 いつものように組手を終えた俺と蛇王は近くの村へ飯を食いに赴いた。その村の食堂で作られるチキンソテーが美味しく、体を鍛えた後にかぶりつけば格別だったのである。


 だが、その日はちょっとしたトラブルが起きていた。村をギャングが襲撃しており、子供を人質に食堂に立てこもっていた。


 俺と蛇王は顔を見合わせ、すぐさま行動を開始。蛇王が超高速移動で無頼漢を背後から昏倒させ、そのうちに俺が子供を救出するという作戦だ。


 結果は見事に成功。子供は無事に救助され、ギャングたちは俺たちを化け物だの何だのと畏怖しながら逃げて行った。


 村の人々からも英雄だと褒め称えられ、非常に心地が良かった。そして何より俺の胸を温めたのは兄弟子が俺を認めてくれたことだった。


『お前、なかなか肝っ玉があるんだな。いつも逃げ回ってばかりだから臆病なのかと思っていたが』


『へへっ、うるせぇよ』


『足の運び方の妙も格段に熟している。これなら俺が伝承者を襲名する最終試験の相手に相応しい。見事な動きだ』


『おいおい。やめてくれや』


 照れ臭いことを言ってくれるではないか。俺は思わず俯いた。するとそんな俺に蛇王は思いがけないことを尋ねてきた。


『お前の名は何と云うんだ?』


 不意の質問に俺は声が裏返る。


『えっ!? いや、前にも話した。朝比奈隼一だ』


 しかしながら、蛇王は弟弟子の本質を見抜いた。


『俺は魑魅魍魎跋扈するアフリカで25年も生きてきた男だ。そいつが偽名ってことくらい分かっている。俺には本当の名を教えてくれないか』


 当然ながら困惑と躊躇いが催された。


『……仮に俺が偽名を使っていたとして、どうしてあんたに本名を打ち明ける必要がある?』


 すると蛇王は遠くを見つめながら言ったのだった。


『お前は俺の兄弟子だからだよ』


 そして彼は続けた。


『いつか自分を殺すかもしれない相手だ。どうせ倒されるなら自分が見込んだ男に倒されたい。そいつのことを全て知っておきたいと思うのは自然な感情だろ』


 こちらへ視線を戻した時の蛇王の面持ちは美しかった。そんな目で見られた俺が覚悟を決められないはずも無い。これまでずっと隠してきた真実を打ち明ける覚悟をだ。


『俺の本当の名は……麻木涼平だ』


 その答えに蛇王は深々と頷いて返した。

『涼平か。良い名前だな。羨ましいよ、そういう人間らしい名前を持ってるなんて』



 彼の一言は、蛇王が物心ついた時には既に人間らしさを失っていたことを暗に示していた。


『これからもよろしくな、涼平。お前は俺の誇りだよ』


『あ、ああ』


 俺は蛇王と握手を交わした。そしてその瞬間、俺の胸には熱いものが込み上げてきたのだった。


『強い兄弟子にそう言ってもらえるなんて、俺って幸せな野郎だな』


 すると蛇王は笑って頷いたのだった。


『当たり前だろ、お前みたいな強い男が弟弟子なんだ。こんなに嬉しいことはないよ』


 そんなやり取りをした数日後のことだ――俺たちがいつものように茶番に満ちた組手を繰り広げている最中のことだった。突然、いつもは村に居るはずの導師が広場に現れたのである。


 俺たちが稽古を止めて駆け寄るなり、彼はこんなことを言った。


『お前たち、旅に立て。そろそろ拳と拳に限らぬ命の取り合いを肌で感じる時じゃ』


 そう言って導師は蛇王と俺に旅の路銀と称して現地の紙幣を渡してきた。要するにこれを使ってアフリカ大陸を旅せよということらしい。


『この大陸では国同士の諍いが行われておる。鞍馬菊水流は乱世の拳。戦で流れる人の血を浴びねば真に拳を極めたとは云えん』


 俺は困惑したが、導師の言葉の意味はすぐに理解した。当時のアフリカは民族紛争が最も激しかった時期。古くから燻ぶる民族対立が国同士の対立に発展し、あちらこちらで戦火が巻き起こっていることは小耳に挟んでいたのだ。


 だが、いきなりそんなことを言われても困る。導師は俺たちに戦争へ身を投じろ、早い話が傭兵になれとでも言うのか。


『えっ、それって……』


 返答に窮する俺だったが、蛇王は違った。


『分かったよ導師様。アンゴラとかザイールとかその辺を歩いてくれば良いんだろ』


 あっさりとした返事と共に旅支度を整えると、その晩のうちに北へ出発してしまったのだった。


『……』


 ひとり残されて唖然とする俺に導師は言った。


『お前もさっさと行くが良い。血で血を洗う生の戦を味わってこそ鞍馬菊水流の全てを体得したと云えるのじゃ』


『……本来なら帝を守護するための武術なのにアフリカで伝承が行われていることを不思議に思っていましたが、それらは全て使い手の精神修養のためだったと?』


『左様。徳川の江戸開府以降、日本では内乱が絶えてしまったゆえな』


 鞍馬菊水流は江戸時代初期に当時の伝承者が朱印船で東南アジアに渡って以降、延々と海外での伝承が続いてきたそうな。パクス・トクガワーナにより合戦が行われなくなったことで秘拳を披露する機会が失われたためであると導師は語った。


『生の戦でこそ拳は輝きを放つのじゃ』


 それで俺も生の戦を肌で感じよというわけか。あまり興は乗らなかったが、旅を続けている限りは鞍馬の宿命に従わずとも良さそうだったので俺は旅立つことにした。


『では、また』


『うむ。達者でな。鞍馬の伝承者はお前じゃ』


『え、 何て!?』


『……つまりはそういうことじゃ。お前の手で蛇王を倒すのじゃ』


 そんなわけで俺が向かったのはアフリカ中部にあるケニアという国。大陸の玄関口としてインド洋に隣接するこの国は帝国主義の時代には西欧列強に蹂躙されたが、その歴史は中国より古いとされ、はるか太古にマサイ族という部族が建国した国である。彼らは農耕民族の欧米人とは異なり、狩猟民族として独自の文化を築いてきた。


 日本では某サッカー選手の出身地として名高いケニアだが、俺が訪れた当時は民族対立の真っ只中。内戦こそ起きていなかったが国内のあちらこちらで諍いが絶えず、憎しみ合う民族同士が街中で銃撃戦を繰り広げることもしばしばあった。


 俺がそんな国を訪れた理由は、肩慣らしにはちょうど良かろうと思ったからだ。いきなり傭兵として戦火に飛び込むよりも治安のよろしくない環境で少しずつ血の臭いに慣れていくべきだと考えていた。


 この国に流れ着くや否や、俺は首都のナイロビで用心棒を始めた。少数民族が営むバーに雇ってもらった。彼らはケニア国内では政治的に立場が脆く、他の民族からの日常的な排撃に遭っていた。


 ケニアの公用語であるスワヒリ語を俺は話すことができない。日本語には無い独特の発音方法が難しかった。そのためケニア国内では未だ英語を日常会話に用いているその民族は、英語しか話せない俺を異民族なれども歓迎してくれた。尤も、そのように外国人を易々と迎え入れる姿勢が他民族の反感を買っていたらしいので俺としては複雑な胸中だったが。


 ともかく、雇ってもらったことは嬉しい限り。俺は彼らの期待に応えるべく、鞍馬の拳を惜しみなく披露していった。


 そんな日々の中、俺にとってはもうひとつ嬉しいことがあった。守るべき相手が出来たのだ。

 彼女は名前をエミリアといい、そのバーの店主の娘だった。確か年齢は13歳で、栗色の長い髪と青い瞳が印象的な少女だった。


 エミリアは行く当てがなかった俺を歓迎してくれた。日々の食事を用意してくれたばかりか、家族同然に温かく接してくれたのだ。それまで黄色人種というだけで何処へ行っても嫌われてきた俺にとっては久々に得た心の安らぎ――だが、ある晩のことだ。突如として外で爆音が鳴り響いた。


『っ!?』


 部屋にエミリアの父親が駆け込んできて、顔を真っ青にして叫んだ。


『Dit is 'n staatsgreep! Dit lyk asof 'n deel van die leër in opstand gekom het en die presidensiële paleis oorgeneem het!(クーデターだ! 軍の一部が反乱を起こして大統領府を乗っ取ったらしい))』


 当時のケニアは恒常的な民族対立に加え、外交政策をめぐって国が真っ二つに分かれていた。要は旧宗主国のイギリスとの友好を是とする親英派と、経済的に進出してきた中華人民共和国と手を携えるべきと主張する親中派だ。当時の大統領は親中派で前年に中国と友好協定を締結したばかりだったのだが、これの破棄を求め、軍の跳ねっ返り将校が蹶起したのだ。


『Kalmeer vir eers. Dit gaan reg inpas(とりあえず落ち着けよ。直に収まるだろうぜ)』


 高を括っていた俺だったが、そうはいかなかった。爆発が起こってから程なくして、街が騒がしくなった。クーデタ―の混乱に乗じ、人々が暴動を起こしたのだ。


 彼らはケニア国内で古くから多数派だった民族で、当時の政権の華僑優遇政策に不満を持っていた。その不満が爆発したというわけだ。


『As dit die geval is, moet ek miskien beter nie hier wees nie(……だったら、俺はここに居ない方が良いかもな)』


 自然と言葉が漏れた。俺は日本人だが肌が黄色いという点では華僑と同じ。興奮している暴徒たちにその辺りの区別がつくとは考えられず、俺が集落に居ればエミリアたちまでもが攻撃の対象になると思ったのだ。


『Shunichi! Gaan!(シュンイチ! 行かないで!)』


『Dis oukei. Jy moet net in die donker wegkruip totdat dinge tot rus kom(大丈夫だ。事が落ち着くまで適当な暗がりにでも身を隠すだけだ)』


 心配するエミリアを宥めて、俺は彼女の家から離れた。そして大通りまでやって来ると、そこは修羅と化していた。


 目が血走った男たちがスワヒリ語を叫びながら、華僑らしき人々を襲っている。マチェーテで滅多切りにされる奴、馬乗りになって刺される奴、そして火炎瓶を投げつけられて生きたまま焼かれる奴――俺は自分の考えが正しかったことを悟った。


 やがて俺は暴徒たちに気付かれ、武装した集団が俺の周りに群がった。しかし、鞍馬の拳を体得した俺にとっては雑魚同然。ほんの3秒で全員を返り討ちにした。


『ふう……少しは落ち着いてきたか……』


 そう思って後ろを振り返った瞬間、俺は息を呑む。遠くで火の手が上がっているのである。そこは紛れもなくエミリアたちが居る区画である。


『まずいっ!』


 俺は慌てて走った。そして炎上する区画に辿り着くなり、俺は愕然とした。


『エミリア!』


 彼女は服を脱がされ、無惨な姿で息絶えていた。そしてその傍には同じく惨殺された父親の姿。暴徒たちが高笑いしている。


『てめぇら……よくもおおおおおおっ!!』


 爆発する怒りに身を任せ、俺はその場に居た全員を殺戮した。だが、炎のごとく昂った気が元には戻らない。


 憎い。


 憎い。


 憎い。


 想い人を手にかけられた憤怒よりも、純粋な憎悪が心を燃やしている感覚。俺は、この感覚を知っている。


『そうだ……この感覚は……俺が初めて人を殺した時の……』


 次の瞬間、俺に背後から声をかける男が居た。


『どうやらお前の中でも天狗が目覚めたようだな』


 振り返ると、そこに立っていたのは蛇王だった。


『じゃ、蛇王!? 何であんたが……!?』


 黒の戦闘服の上に白いコートを羽織り、頭には真っ赤なベレー帽を被っている。まさしく軍人然に変じた姿よりも、俺は兄弟子がケニアに居ることに驚きを隠せなかった。


『た、確か、あんたはアンゴラに行ったはずじゃ……!?』


『ああ。俺はアンゴラへ行き、傭兵となり、この3ヵ月で様々な戦地を渡った。そして今回はケニアの反乱軍に雇われてここまで来たってわけさ』


『な、何のために!?』


『決まっているだろう。暴動を扇動するためだよ』


 兄弟子の言葉に俺は返答の文句を失った。


『えっ……!?』


 どういうことだ。反乱軍に雇われて暴動を扇動したということは――我ながら常人より優れた俺の推考力が悪辣な仮説を抱かせる。


『……じゃあ、これはあんたが仕組んだのかよ』


 そう尋ねると蛇王は深々と頷いて見せた。


『ああ』


 俺は愕然とした。まさか、兄弟子が暴動を扇動して街を燃やしたというのか。そして俺の大切な人たちを奪ったというのか。


『何でだッ!?』


 叫ぶ俺に蛇王は言った。


『お前の中の天狗を解き放つためだ』


『な……!?』


『そうでなくば俺と渡り合う相手として不適格だ。何故だと思う?』


 その問いに俺は答えられなかった。何故なら、その問い自体が意味不明だったからだ。そんな俺に対して蛇王は続けたのだった。


『俺自身が天狗となったからだよ』


 そして蛇王は懐から葉巻を取り出し、ゆっくりと火を付ける。憎しみに満ちた目を向ける俺を見て、彼はなおも笑う。


『良いねぇ……その顔……お前のその顔が見たかった……俺も今のお前と同じ顔をしたぞ……この3か月間でたっぷりとな……』


『何を言ってやがる!?』


『人が人の血を吸い、肉を食らい、我欲のままに暴れ狂う光景が俺に更なる進化を遂げさせた……鞍馬菊水流伝承者の本懐を俺は悟ったのだ! ひゃはははっ!』


 目を剥いて笑う蛇王の姿からは、かつての人格がまるで想像できなかった。一緒に子供を助けた時の、強くて優しい兄弟子の姿は無い。


 純粋に破壊と殺生を好む人の皮を被った妖怪――まさしくうつつに駆ける天狗ともいうべき印象を俺は目の前の男から感じた。


『……傭兵になったことがあんたを変えたってのか』


『ああ。正確に云えば、本当の俺を目覚めさせたというわけだがな』


『だから、いずれはぶつかる運命の俺まで変えようってのか!? 自分てめぇの中の天狗とやらを俺にも目覚めさせるために!?』


『そうだ。期待通り、お前の中では天狗が目覚めたようだ。俺と同じ段階に到達するまでには少し足りんがな』


『ふざけるな……』


 次の瞬間、俺は情緒が爆発する感覚を味わった。


『……ふざけるなァァァァァァァァァァァ!!!』


 そう叫ぶや否や、蛇王に向かって爆速で間合いを潰す。


『殺してやるッ! 蛇王ッ!』


 俺は奴に向けて渾身の貫手を突いた。しかし、易々と躱されてしまう。兄弟子は笑顔だった。


『おおっ! ついに俺を殺す気になったか! 良いねぇ!』


『殺してやるッ! 殺してやるーッ!』


 激昂して、感情のまま一心不乱に貫手や手刀を放つ俺。そのいずれも蛇王は右へ左へと動いて直撃を外し、やがて俺に反撃を打った。


 ――グシャッ。


 俺の右胸に奴の手が食い込んでいる。鈍い痛みに襲われながらも、俺はなおも叫び続ける。


『このクズ野郎がぁぁぁぁぁぁーっ!』


 そうして俺は右の貫手を蛇王の体に刺した。肉が裂ける感触が指越しに伝わってくるも、奴は笑顔を崩さない。それどころか歓喜の声を上げる。


『ひゃははははっ! 素晴らしいぞ弟よ!』


『黙れッ! テメェは殺すッ! この手で必ず殺してやるッ!』


『ああ、良いとも! 涼平、決着を付けよう……たとえ鞍馬の宿命が無くとも、俺とお前は命を削り合うことでしか交われんのだ!!』


 そうして互いに刺さった手を引くと、至近距離で今一度攻撃を仕掛ける。


『蛇王ッ!』


『涼平ッ!』


 たとえ相打ちになっても構わない。ただ純粋に奴が憎い。俺は渾身の闘気を拳に込め、奴の頭を砕くべく放った――ところが。


 その手は届かなかった。


 ――ガラガラッ! ドドドドッ!


 突如として爆音が響いたかと思うと、足元が崩れ落ちたのだ。どうやら隣の建物で爆発が起こり、その爆風が及んだらしい。


 駄目だ。これでは奴を殺すことが……。


 そう思った途端、俺の意識は失われた。


『……』


 どれくらいの時間が経ったか。目覚めたのは瓦礫の山の上だった。


『お、俺は……ああっ!?』


 己の状況を思い起こし、痛む体ですぐさま起き上がって構えを取る。


 けれども蛇王の姿は見当たらなかった。あの崩落に巻き込まれた後、奇跡的に全身の打撲だけで済んだ俺は命を繋いだが、奴はどうなったか……?


 俺は兄弟子に生きていて欲しかった。自らの手でトドメを刺し、殺された人々の仇を討つために。

 だが、どこにも奴の姿は無い。


 周囲を見渡したが、俺は結局のところ奴の姿を見つけることが出来なかった。代わりに、己の右手がぐっしょり真っ赤に濡れていることに気付く。


『あ、あいつの……』


 俺はそれが崩落の直前、蛇王を殴った際に付いた血であると確信した。あの瞬間、俺の拳は当たっていたのだ。そうして奴は吹き飛ばされて瓦礫の山に埋もれたのだろう。


『……』


 背後に広がる瓦礫の山を一瞥し、俺は舌打ちを鳴らした。


 こんなやり方で決着がついてしまうなんて――鞍馬の宿命ゆえのことだったと思えば割り切れよう。されども奴の狂気の暴走に巻き込まれ、殺された人は戻ってこない。


『……ちっ、クソが』


 舌打ちを鳴らし、俺はその場から歩き去った。自然と心は落ち着いている。なれども冷たい。今までの俺にあった感情が悉く失われていると分かった。


 ◇ ◇ ◇


 程なくして、俺は眠りと夢から覚めた。


「……はあっ、はあっ……!」


 酷く魘されていたのか、俺の体は汗だくだ。心臓の鼓動がバクバクと高鳴っている。俺はベッドから起き上がると、洗面台で顔を洗うために鏡の前に立った。


「……」


 鏡に映った俺の顔を改めて見ると、それはまるで別人のようだった。目の下に隈ができており、顔色も悪い。そして何より生気が感じられないのだ。


「……嫌な夢を見ちまったぜ」


 よりにもよって過去の回想を夢で見てしまうとは。されども仕方ない。あの日、殺したはずの兄弟子――蛇王が生きて日本に来ていると分かったのだ。


 あのケニアでの苦い思いを味わった後、俺はアフリカを西へ進んだ。


 愛する女をまたしても守れなかった。そのことが当時の俺の心に影を落としたのは言うまでもない。人間らしい心を失い、破壊と殺戮を求めるだけの天狗と化した俺は、行く先々で多くの人々を殺めた。


 俺が始めた稼業は傭兵だった。西アフリカでとある傭兵集団と出会い、俺は彼らの仲間となった。当時の俺の心は完全に天狗に乗っ取られていたから覚えていないが、いずれにせよそれからの俺が傭兵として成功していたことだけは確かだ。


 そんなこんなで傭兵部隊のメンバーとしてアフリカから欧州へ転戦し、最後は東欧エウロツィア共和国で平野に拾われた。


 傭兵として活動している間、頭の中には常に蛇王の姿が浮かんでいた。自分の手で殺したはずなのに、何をするにも奴の声が脳裏をよぎったのだ。


 敢えて破壊力を弱めた爆弾を使うことで相手を殺される恐怖で精神的に追い詰め、ゆっくりと時間をかけて殺すという戦術を目にするたび、俺は蛇王を想起した。奴がケニアで展開したゲリラ作戦がまさにそれだったのだ。もっと云えば、鞍馬菊水流の使い手としても彼は自分の実力を過分に評価した陰湿な戦い方を好んでいたと思う。


 そんな男が、また俺の前に姿を見せるとは。それも雇われの傭兵として。


「くそっ、蛇王め……!」


 そう呟いて歯噛みした俺は気分を換えるようにシャワーを浴び、服を着替えた。けれどもその晩の三淵からの連絡が俺の足を引っ張った。


「昨晩に引き続き呼び付けてすまんな、麻木次長」


「何の用だ?」


「あんたについてきて貰いたいのだ。蛇王と話をつけねばならないのでな」


 曰く、これから蛇王と会って彼に依頼の撤回を行うという。


「……お前さんが一人で行けば良いじゃねぇか」


「そうもいかんのだ。何せ相手は何をしでかすか分からぬ男、さらにあんたと同じ古武術を使うというではないか。そんな奴との折衝で護衛を頼むとなればあんたしか居ない」


 ここで俺が一蹴すれば三淵は依頼の撤回をしないと言うかもしれない。蛇王にまた暴れられては困るので、俺は仕方なく奴の用心棒を買った。


「まあ、眞行路の連中には頼めねぇもんな。特に姐さんに知られたら……」


「そ、そういうことだ。頼むぞ。麻木次長」


 蛇王との関係については彼なりにばつの悪い思いがあったのか。いつになく三淵は動揺に震えていた。


 自称忠臣と共に俺は蛇王の待つ廃工場へ向かった。道中で俺は奴との因縁を話したが、三淵は大して興味も無さそうに聞いていた。ただ単に話を合わせていただけだろう。


 やがて俺たちは目的地へと辿り着いた。そこは茅場町にある廃墟で、かつては某飲料水メーカーの製造拠点があったそうだ。無論、今は人の気配が無い――そう思っていると気配が近づいてきた。


「依頼を撤回したいとは如何なる風の吹きまわしだ? 三淵さん?」


 足音も立てずにその場に現れた白いコートに赤いベレー帽の男。間違いない。その男は蛇王だった。


「ああ。もう十分に効果は発揮したから止め時だろう」


 冷や汗をかきながら本題へ切り込んだ三淵には目もくれず、蛇王はその背後に立つ俺に視線を移した。


「涼平か。久しぶりだな」


 実に5年ぶりの再会だった。あの時と違って俺は金髪ではないし、身に纏う装いも背広だ。よく気付いたなと思いつつ、奴に応じた。


「……ああ。久しぶりだな。蛇王」


 すると蛇王は、あの日と同じ不気味な笑みを浮かべる。


「日本でヤクザになっている旨の噂は耳にしていたが、よもやあの中川会の会長の側近とはな。なかなかの出世じゃないか」


「そっちは今や破壊活動専門の爆弾狂か」


「稼ぐ手段としてやっているだけだ。お前の方こそ東欧では大活躍だったらしいな」


「偉大な先輩からお褒め頂き光栄だぜ。尤も、俺はなるだけ民間人は殺さねぇように心がけてたがな」


 俺は皮肉を込めてそう返すと、奴は肩を竦めて笑った。


「言うようになったな……あの時は己の中の化け物に心身を支配されていたのに、今ではすっかり落ち着いて見える」


 すると蛇王は左手に下げていたアタッシュケースを三淵に手渡した。


「これは何だ? 金か……?」


「ああ、そうだ。依頼を撤回するなら、その分の報酬は返すのが道理というもの」


「そうか。ならば……」


 そう言って三淵がアタッシュケースを開けようとしたその時だ。俺はそれを制止した。


「待て。開けるな」


「えっ?」


 困惑する三淵に、俺は言った。


「この男のことだ。中に爆弾が仕掛けられている可能性がある」


 すると三淵は動揺して俺に尋ねてきた。


「なっ、麻木次長……どうする気だ……?」


 そんなの決まっているだろう。俺は拳銃を抜き、蛇王に向けた。


「あんたが中を確認しろ。俺はあんたが信用ならねぇんでな」


 蛇王はニヤリと笑った。


「かつての兄弟子に銃を向けるとは。随分と嫌われているようだな」


「当然だ。俺はあの日の痛みを忘れたことなんざ今日まで一度たりともぇ。本当なら今すぐにでも殺してやりてぇくらいだ」


「くくっ……」


 笑みを浮かべながら、蛇王は三淵の前でアタッシュケースを開けて中身を確認して見せた。そこに爆弾らしきものは無い。


「ほら、確認したぞ」


 なれども俺は拳銃を向け続ける。


「どうした? 確認したら下ろしてくれるんじゃなかったのか?」


「……その前にあんたに訊きてぇことがある。ケニアではどうしてあんなことをしやがった」


「おいおい、同じことを言わせるなよ。あれはお前を俺と同等に引き上げるためだ。己が生んだ化け物に心を食われた哀れな男にな」


「だから俺の大事な人を手にかけたってのか!」


「まあな。恨むなら俺を凶行に走らせた鞍馬の宿命を恨むと良い。俺とお前はいずれ殺し合うのだからな」


「ならば今すぐ殺してやろうか!」


「おう、かかって来い……と言っても良いが生憎その必要は無い。導師様が病でお隠れになった。これにより鞍馬の秘拳を知っている人間は俺とお前の二人だけになった」


「何だと」


 そんな会話の最中さなか、三淵が割り込んだ。

「ま、まあ。過去に色々あった仲のようだが、今の麻木次長は中川会の会長側近にして秀虎派おれらの味方だ。蛇王、あんたとの因縁はここまでにして貰うぞ」


 その言葉を聞くや否や、蛇王の表情が変わった。


「ん? 今、何と言った?」


「麻木次長は俺たちの味方だと言ったのだ。これ以上、麻木次長に対して何かしようというなら中川会本家は勿論、銀座の眞行路一家も黙っていない」


「そうか……」


 蛇王がニヤリと笑う。


「……俺は鞍馬の掟に傍られて生きてきた男だ。それゆえ涼平ともこれ以上憎しみ合う理由も無いと思っていたが、ここへ来て戦う理由が出来た」


「は? 何を言っている?」


 きょとんとする三淵を尻目に、蛇王は俺に言った。

「涼平。銀座で起きていることは三淵さんから聞いている。お前が眞行路秀虎の味方をしていることもな」


「……だから、ここで俺と殺し合おうってのか」


「ああ。何故なら俺は眞行路輝虎にも雇われているからだ。三淵さんの依頼が撤回された以上、たった今から俺は眞行路輝虎の依頼を開始する」


 蛇王の言葉に三淵が動揺した。


「何っ!?」


 俺は奴に訊いた。


「あんた、本当に雇われたのか?」


「ああ。眞行路輝虎が俺を必要としている」


「……そうかよ」


 なら、やるしかぇな……俺は拳銃を下ろした。その途端、三淵は俺に言った。


「麻木次長! どういうことだ!?」


「何だかんだ言ってるが、こいつは俺を殺す理由が欲しかったんだ。だからあんたの依頼を請けたし、輝虎とも繋がっていた。あらゆる可能性を想定してな」


 おそらく蛇王は三淵からの依頼が完了した時点で輝虎派に寝返るつもりだったのだろう。それが依頼撤回で前倒しになったというわけだ。奴が眞行路一家の内紛に食い込んできた理由はただひとつ――日本でヤクザとなった俺を討つためだ。


「三淵さん、離れてろ。巻き込まれたら火傷どころじゃ済まねぇぜ」


「何をする気だ!?」


 それには答えず無言で前に進むと、俺は構えを取った。向こう側は準備万端のようだ。


「……やるか」


「ああ。やろう」


 次の瞬間、俺は奴の懐へと飛び込んでいた。

涼平と蛇王。古の時代より続く武術、鞍馬菊水流の宿命に弄ばれた二人。過去の因縁を胸に今、激突する!

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