未だ読み取れぬ真意
翌日。
俺はさっそく準備に取り掛かる。まずは一連の計画を恒元に報告し、青海の国際会議場へ潜入する許可を得る。
「添田が敷地内の迎賓館で匿われているとの情報を得ました。そこには関係者に扮して入り込み、なるべく事を荒立てないやり方で仕留めるつもりです。会長のお力で会議場への入場許可証をご用意頂けますか」
「うむ……確かにそうだな。裏口から忍び込むより正面から入った方が騒ぎは起きにくい。治外法権の場所となれば尚更だ」
昨晩もカルヴァドスを飲んでいたのか、例によって二日酔い状態の恒元。しかしながら、俺の提示した計画を吟味するだけの気力はあった。
「分かった。さっそく義輝に電話を繋いで入場許可証を用意させよう。『内閣官房の嘱託職員』という体にでもすれば問題も起きまいて」
「ありがとうございます。追加で酒井と原田の分もご用意いただいてもよろしいでしょうか。奴らにも隠密行動の経験を積ませたいので」
「連れて行く分には構わんが、必ず全員で無事に帰ってくるのだぞ。お前も理解しているだろうが治外法権とは我が国の主権が及ばぬということ。当然ながら異国の政府はジャパニーズ・マフィアを特別扱いしてはくれんぞ」
「ええ。敷地内で下手を打てばどうなるかくらい存じています。ですが、三人以上でなければ奴らに怪しまれる可能性もありますので」
「……確かにな」
仮に俺たちが潜入に失敗して殺害あるいは捕らえられた場合、天下の中川恒元でも救出が困難である――その事実を改めて胸に刻むと些かの緊張感がこみ上げてくる。
敵地への潜入時には単独行動が基本だった傭兵時代とは違い、今は部下の命を預かる立場なのだ。迂闊な行動はできないと自分に言い聞かせ、俺は恒元に堂々と言ってのけた。
「必ずや添田雅和を討ち取ってご覧に入れます」
「うん。期待しているよ」
さて、そうと決まれば俺は道具の調達だ。踵を返して会長執務室を出ようとした俺だが、直後に声が飛んでくる。
「ところで涼平。添田が迎賓館に匿われているという情報はどこから得たんだね?」
完全に不意を突かれた形ではあるも、この程度で動揺するほど脆弱でもない。
「銀座の新見晴豊です。輝虎の所に寝返った素振りを見せていましたが、実のところは秀虎側と通じているようで。奴らも添田を狙っているとのことで協力を持ちかけられました」
そう告げると恒元は目を見開いた後、深々と頷いた。
「そうだったか。てっきり秀虎のことは最初から見限っていたものと」
「俺もです。まあ、本当は輝虎の二重スパイって線も否定できませんがね。何にせよ奴の存在は輝虎と秀虎の兄弟仲を拗れさせる鍵になるかもしれません」
「ならば我らにとっても価値ある存在ということか」
俺は頷く。恒元もまた納得したように頷いていた。
「では、俺はこれで」
今度こそ会長執務室を出る……と思いきや、またまた背後から呼び止められた。
「涼平」
「何でしょう?」
「分かっていると思うが、利用されてはならんぞ。お前は中川会本家の人間。輝虎の秀虎の争いにおいてどちらか一方に肩入れすることは許されぬ身なのだ」
真正面から釘を刺された。心の中を読まれているのかと胸騒ぎが起こったが、どうにかして平静に努める。このような時は相手の言葉を逆手に取ることも出来るのだから。
「勿論、それについてはずっと前から心得ています。俺は執事局次長で会長の側近。秀虎にも輝虎にも肩入れするつもりは毛頭ありませんよ」
「ならば良いのだよ。引き留めてすまなかったね。ふふっ」
恒元は満足げに頷いた。どうやら俺の返答がお気に召したらしい。俺はすかさず頭を下げてからそそくさと会長執務室を後にした。
あれはおそらく気付いているな。俺が中川会本家の人間でありながら情に絆されて秀虎を支持している事実に。
だが、俺が表立って迷惑のかかる行為に及んでいない以上は恒元とて迂闊に手出しはできないはず。やるならさっさとやってしまった方が良かろう。俺は会長の部屋を出て後すぐさま携帯を開いた。
『次長。例の物品は既に準備完了です。支払いの方はお預かりした額では少し足りなかったので実家に請求書を回しておきました』
メールの受信箱を覗くと一件の連絡が入っている。酒井からだ。
『分かった。わざわざすまんな。後々で俺に建て替えさせてくれ』
返信を入力し送った後、俺は苦笑いする。部下へ数時間前に飛ばした指示の内容を思い返すと滑稽な情景が目に浮かぶ。自然と独り言まで零れ出てくる。
「……ふんだくられたか」
俺は酒井に、例の暗殺作戦で用いる道具の購入を命じていた。それはきわめて高度な人脈と技術を持った職人にしか作れぬ代物であり、販売元から無茶苦茶な値段を吹っかけられることも裏社会ではよくある話。こちらが自前で調達できない以上は完全に道具屋の言いなりになるしか無いため、何とも歯痒い話だった。
『全て揃えるのに300万円も必要でした。まったくふざけてますよね。たかが作業服ごときに』
届いた続報に対し、俺は返信を打つ。
『サイズも含めて完全にオーダーメイドでその上に防弾性にも優れているとなれば、それくらいの値段になるのも無理はない。しかも服の素材は特殊繊維ときたものだ。そいつを着てりゃあらゆる監視カメラをすり抜けられるとあらば安いもんだろ』
送信をボタンを押した俺は改めて思ったものだ。我ながら、とんでもないことをやろうとしていると。
今回、東池袋の道具屋に発注したのは作業服――民間の清掃業者に偽装したスニーキング・スーツだ。見た目こそは普通の作業服だが、防弾素材と特殊繊維で作られており、着用者の身体の動きを極限まで阻害しない。それでいて拳銃弾程度なら難なく防いでしまう優れ物だ。
さらに特筆すべきは、赤外線カメラへの防護効果。この作業服には特殊な技術が用いられており、赤外線を使用したセキュリティセンサーに感知されづらくなっている。よってこれを着た状態ならば監視カメラを難なくスルーでき、執拗に張りめぐらされたレーザートラップの網の中を素通りしても警報は鳴らないというわけだ。
この服を着用し、日本政府から派遣された館内清掃の嘱託業者に化けて敷地内へ潜入し、首尾よく迎賓館の中へ入って標的を討つ。
そう算段を組んだ俺は部下に命じてこの作業服を作らせたのだが……値段は何と300万円ときたものだ。恒元から与えられた資金では賄いきれなかったため、超過した分を支払う身としては相当しんどいものがある。
されども全ては理想のためだ。今回の標的、添田雅和を始末することで関東圏における人身売買闇市場に痛烈な打撃をもたらすことが出来る。さすれば輝虎の醜き商売の毒牙から人々を守れるだけでなく、秀虎もまた兄との跡目争いにおいて劣勢を逆転させられよう。
俺は携帯を閉じて背広の内側へと仕舞い、やや駆け足で廊下を歩く。そして屋敷を出て車庫に向かうや、待機していた原田に行き先を指示した。
「とりあえず池袋駅の周辺に向かってくれ」
「分かりました。酒井と合流するんですか?」
「いや、奴とは別の店だ。たぶん俺もお前も初対面だろう。あれこれと聞いた噂によりゃ最近まで休業中だったとか」
原田は納得して頷いた。俺が後部座席に乗り込んだのを見計らい、彼はエンジンを掛けて車を発進させる。
計画を実行する前にやるべきことがもう一つあったのだ。それは暗殺の本懐を担う武器の調達だ。一応、赤坂の総本部には山ほど銃器が保管されているが、いずれも隠密行動においては不相応と思い、俺は池袋駅の周辺を拠点に活動する闇商人を頼ることにしたのだった。
俺が向かった先は駅東口方面に位置する雑居ビル群の一角にあった小さな店舗。そこは一見すると寂れた煙草屋に見えなくもないが、ここがれっきとした特殊武器――毒薬の専門店である旨は昨年の時点で知り得ている。
「ここですか? 確かに表通りから少し外れた場所にはありますけども、本当にここで毒薬なんざ売ってるんですかね?」
「まあ見てろ」
俺はそう言って車を降りると、その商店へ歩み寄る。年季の入った看板には『紙巻・葉巻・何でもござれ』の文字があることから、普段は街の煙草屋さんとして地域住民に親しまれていることが何となく分かった。
「邪魔するぜ」
俺が店内に入ると、カウンターには無精髭を蓄えた肥満体の男が座っていた。見るからに怪しい風体の中年男だが、彼は俺を見るなり目を細めた。
「いらっしゃい……お兄さん、見かけない顔だね……」
わざとらしいというか何というか。
室内に漂う匂いは一般的な煙草屋の空気とは明らかに一線を画している。妙に芳しいというか甘い香りがしており、かつて傭兵時代に遭遇した密林由来の毒草が自然と脳裏をよぎる。この店主が裏社会の人間であることはすぐに分かった。
俺は軽く会釈して話を切り出す。
「どうも。俺は中川会本家の麻木涼平ってもんだ。今日はあんたに注文したい品があって来た」
男は目を丸くすると、俺の背後にいた原田に視線を切り替えた。
「中川会本家? いやはや、何のご入用でしょう? 守り代なら蔦田さん所に毎月大枚を払ってますぜ?」
二人で来たことでみかじめの取り立てだと勘違いしたのだろう。確かにこの池袋の街は直参『蔦田興業』の縄張りだ。慌てて取り繕う男に、俺は苦笑いする。
「そうじゃねぇんだ。ただ純粋にこの店の商品を買いに来たんだ、客としてな」
「ああ……そういうことですかい」
俺の一言で安堵をおぼえたのか、彼は深い息を漏らした。そして埃や傷みにまみれた店内を指差すなり吐き捨てるように言った。
「ご覧の通り、うちの店は昭和の頃からの老舗でしてね。進駐軍相手に売ってた頃から蔦田さんには面倒見て貰ってるんでさぁ」
「……その蔦田と微妙な仲にある本家には煙草を売れねぇってか?」
「ひひひっ。ご名答と言っちゃあ失礼でしょうけど、大方その通りですよ。うちの商品を使って何をする気なのかは存じませんが蔦田さんに仇成そうってんなら容赦しませんぜ」
男は着ていたベストの内側に手を突っ込む。未だ銃口を向けられていないにせよ、暗に『命が惜しければ帰れ』と脅してきていることは明白だ。すかさず原田が銃を抜いて凄んだ。
「おいっ! 動くな! 舐めた真似してっとテメェの方こそ容赦しねぇぞこの野郎!」
そんな彼を「待て」と制し、俺はあくまでも穏やかに店主へ語りかけた。
「別に蔦田と事を構えようなんざ思っちゃいねぇよ。ただ、おたくに都合して貰いてぇ品があるってだけだ。他意は無い」
無論、その言葉だけでは物足りないと思ったので一枚の写真を取り出す。仰天と困惑の声を上げる原田をよそに、淡々と話を繋いでゆく。
「こいつが俺たちが追ってる今回の標的だ」
「おうおう。経済新聞でお馴染みのネオインディアン証券の社長じゃねぇですかい。どうして本家はこの男を?」
「恒元公の思し召し……としか言えん」
自分たちの暗殺計画の一部を明かすという思いきった行動に出たのは、単にこの目の前の肥満男の信頼を得るためだ。
「だが、こいつを始末しねぇと組織のシノギに支障が出る。あんたの贔屓にしてる蔦田興業だって例外じゃねぇ。それだけは間違いないぜ」
「ひひっ。そいつは穏やかじゃありませんな」
店主の男は写真を受け取るなり、その顔をまじまじと見つめた。
「お客さん。手の内を明かせば易々と話が通ると思ってるようですが、そうとは限らねぇんじゃないですか」
「ああ。今、俺がした話をあんたが添田に流せばその時点で俺たちの計画は頓挫する。むしろ懇意にしてる蔦田のためにはその方が良いかもしれねぇな」
「そこまで見通してるなら何でまた……」
答えなど既に決まっている。不敵に嘲ってみせた店主の言葉を遮り、俺は笑みを返す。
「こちとら確証を得てるからさ。そいつを上回る利益をあんたにもたらしてやれると考えてる」
「ひひっ……そいつは面白そうだぁ……」
男は写真を返すなりカウンターから出てきて、俺の隣に立つや肩を組んできた。そして耳元で囁くように告げる。
「……だったらご教示頂こうじゃないですか。蔦田さんに背を向けてもお釣りが来るほどの利益ってやつを」
「良いぜ」
男の手にはナイフが握られていた。原田が「テメェ!!」と激昂するが、俺はそれを制止する。こうなることくらい最初から予想が付いていた。
池袋を仕切る蔦田興業は昨年の師走、他の13の直参と共に『輝虎を銀座の跡目に据えるべし』という旨の意見書を提出。その直後に恒元が中立の裁定を下したために、組織内で立場が危うくなっていたのだ。理事ですらないヒラの直参が本家に直接上奏を行ったこと自体が分不相応との批判が集まり、格を何より重んじる御七卿は勿論、恒元も不快感を示していた。
これにより輝虎が中川会を離脱した暁には蔦田らが同心するのではないか――そんな憶測も飛び交った。
ならば、と俺は考えた。現状で蔦田興業が輝虎の肩を持つ理由は然して無いはずと。そして今のうちにシノギを奪って揺さぶりをかけてしまえば彼らは簡単に本家側へ傾くだろうと。
この煙草店は自然由来の毒薬を調合する名手として裏社会では広く通っている。そこから上納金を吸い上げる蔦田興業にとっては有益な存在のはず。今回、俺が敢えて池袋まで足を運んだことには単なる買い物以上の理由があったのだ。
「テメェ! 今すぐナイフを下ろしやがれ! さもなきゃ鉛玉で額を撃ち抜くぜ!」
激昂する原田の剣幕には一切動じず、店主は俺にナイフの刃先を向け続ける。
「ひひっ! どうぞご自由に! あんたにやれるならの話ですがね!」
流石はヤクザ御用達の商人、銃口を突きつけられた程度では怖じ気づくわけもないようである。想像以上の胆力に、俺は思わず笑ってしまった。だが、こちらとて侮られてなどやるものか。
「煙草屋さんよ。実際のところ蔦田興業にそこまでの忠誠心は無ぇんじゃねぇのか。先代の親方ならともかく当代のあんたにゃ皆無に等しいだろ」
「……へ?」
素っ頓狂な声を上げた後、目を点にした男。どうやらこちらの一言が予想外であったらしい。原田も少し驚きの表情を浮かべる中で俺は淡々と続ける。
「この店の外壁には人為的に壊されたような跡があった。守り代をきちんと払ってるヤクザ御用達の店にしてはおかしいと思ったんだ。池袋の不良連中は蔦田興業が徹底的にシメてるってのに」
「……な……何のことやらさっぱり……」
「あんた、上納金を必要以上に掠め取られてるんじゃねぇのか。それに異を唱えたせいで店を壊され、あんた自身も怪我を負った。その左頬あたりの火傷の痕を見るに、何人かで取り囲まれてボコられたってところか」
その指摘に男は俺の目をじっと見た。
「どうしてそれを……」
「大丈夫だ。俺はあんたの味方だからよ」
男は何も言わなかったが、その沈黙こそが答えだと言って良かった。俺が「今なら中川会執事局次長が相談に乗るぜ」と囁くと、彼は観念したように呟いた。
「確かに蔦田さんは金にがめつい。先月に継いだばかりなんですけど。親方……あたしの前の店主の代に比べて上納金の額も増えてますし、それ以外にも何かにつけて銭を要求されるんでさぁ……だからこの店は……」
「なるほどな。代替わりしたばかりってのにそれはきついよな。酷な話って次元を軽く超えてやがるぜ」
男は小さく頷いた。原田が『どうしてそれを』と問うような目を向けてくるので、俺は彼の耳元で囁くように答える。
「聞いた話じゃ、この店は先月に新装開店したばかりだ。それなのに店の中は埃っぽいし、シャッターは傷だらけ。普通、シマ内の得意先が代替わりしたら逆にカネの包みの一つや二つを送ってやるのが礼儀ってもんだろ」
「ああ、それでこの店がぞんざいな扱いを受けてると見抜いたわけですか。新装開店したのに店を綺麗にする費用も出せねぇってことは、必要以上に上納金を取られてるからだと。いやあ、流石は兄貴の鋭い観察力っすね」
原田は納得したように呟いた。そして俺は店主に向き直って尋ねる。
「俺たち相手に商売したら、あんたは蔦田の怒りを買っちまうのか?」
「そりゃあ現に店まで壊されてるわけですから。あの親分の機嫌を損ねたら何が起きるか分かったもんじゃねぇやい……」
そう吐き捨てた男はナイフを下ろすと、カウンタ―の裏に回り込んで改めてこちらに向き直る。
「……さっきの無礼を許してくだせぇ。あたしとしたことが自棄を起こしてました」
「気にするな。ゲスな奴らに脅されてたんじゃ仕方ねぇ話だ。俺があんたの立場でもきっと同じ行動を取るだろうぜ」
「で、何をお求めですかい?」
「おいおい。商売してくれるのかよ」
「もう、この際構いやしませんよ。どうせこの店は遠からず潰れるんですから。在庫処分ってことでお安くしときますよ、ひひっ」
その哀愁漂う台詞に俺は若干のいたたまれなさをおぼえた。当初の予想ではこの店主を通して蔦田興業の組長を懐柔する手筈であったが、まさか蔦田側が斯くも店を虐げていたとは。どうにかして蔦田を引きずり出せないかと思案しつつ本題の注文を述べる。
「俺が欲してるのは南沙諸島原産の毒草だ。香りを嗅いだら軽く気絶する程度の効能で良い。生きたまま拉致する算段なんでな」
「ひひっ。でしたらとっておきのがありますぜ。あまりにも臭うもんですから外国じゃ熱帯林の嫌われ者として名高い花でさぁ」
男はそう言うと、カウンターの下から何かを取り出した。それは香水瓶のようなものだった。彼は蓋を開けるとこちらに差し出してくる。
「こいつは南沙諸島で採れた毒草を蒸留したもんで。直接嗅いだら大抵の奴は意識が飛んじまいます。どうかお客さんも気を付けてくだせぇ」
俺はそれを受け取るなり手を仰いで確かめてみる。確かに凄まじい刺激臭。思わずむせ返りそうになるも、どうにか堪えると店主に尋ねる。
「ひとついくらだ?」
「10gあたり1万でお譲りしますぜ。こいつを嗅がせれば、どんな奴もイチコロです」
「よし。それじゃあ100g分買わせてもらうぜ」
「ひひっ」
俺は店主に現金の束を差し出し、沢山のガラス瓶が詰められたジュラルミンケースを受け取る。これを総本部に持ち帰ってスプレー缶に小分けする。そうして標的が滞在する迎賓館へ赴き、換気扇から散布して室内に居る人間を気絶させて添田だけを外へ連れ出し始末するのだ。
「兄貴、すっげえ量っすよ?」
「予備と今後のための保管分も含めるからな。無駄なくらいがちょうど良いのさ」
原田がケースを覗き込みながら言う。確かに10gの小瓶が10本分も入っているのだから相当な重さだ。しかし俺はそれを片手で持ち上げてみせると、店主に声をかけた。
「しっかし、惜しいもんだな。こんなに良い店を潰すなんてよ」
「ひひっ。あたしらもそう考えてますよ。せめて蔦田の親分さんがもう少し理解のある方だったら……」
「その割には何だか嬉しそうじゃねぇか」
心なしか晴れやかに見える男の表情。先代から引き継いだ店を自分の代で廃業してしまうことへの寂寥の念に苛まれているかと思いきや、悲哀の色は然程見受けられない。むしろ抱え込んだプレッシャーから解放されるかのような顔を浮かべている。
「べ、別に、そんな……」
彼は俺の視線に気が付くなり慌てて否定してみせた。けれどもその表情は如実に示唆している。残念どころか嬉しくて仕方ないのだと。
一体、この肥満男は何を考えているのか――俺が首を傾げた直後だった。突如として店内に大声が響く。程なくして店に数名の男が入ってきた。
「オラァ! 来てやったぞ!」
「俺たちの電話を無視するたぁ良い度胸じゃねぇか! 何を考えてんだこの腑抜け野郎! そんなにミンチにされてぇってのかゴラァ!」
その剣幕に店主が後ずさる中、俺は原田を顔を見合わせる。そして冷静に分析を試みる。
「……」
乗り込んできたのは蔦田興業の若衆たちのようだ。時刻は午前10時23分。一般的にはヤクザが地回りを始める時間帯だ。
そういうことか。道理で先ほどの店主の表情が嬉しそうだったわけだ。さてはこの男、俺たちが蔦田興業とかち合う展開を少なからず期待していたな。
「はあ。食えねぇ野郎だな。あんた」
「ひひっ。何のことでしょう」
「とりあえず店の奥にでも隠れてろ」
へらへらと笑う店主を逃がした後、俺と原田は乱入してきた男たちを睨みつける。
「蔦田ん所のチンピラが何の用だ」
俺の挑発に若衆たちがいきり立つ。
「ああん!? 誰がチンピラだコラァ!」
「俺たちを舐めてっと痛い目に遭うぜ!」
「何処の誰だか知らねぇが殺しちまうぞ!」
しかし、原田はそんな彼らを制するように一歩前へ出た。そして俺に目配せするなり言う。
「兄貴、ここは俺に任せてくだせぇ」
「……良いんだな?」
「へい! こんな奴ら、俺一人で十分ですぜ!」
頼もしい言葉と共に彼は男たちへ突進をかけた。想像の倍以上に俊敏な足さばき。ものの見事に間合いが侵略された。
「なっ! 速いっ!?」
驚愕の声を上げる間もなく、男たちは原田の手によって一人ずつ確実に仕留められていった。拳や蹴りが腹部や膝に炸裂するたび、男たちは呻きながら倒れ込んでいく。そしてほんの数分と経たないうちに全員がノックアウトされてしまった。
「ぐあっ……」
「ば、馬鹿な……」
「こんな奴が居たなんて聞いてねぇぞ……」
現場は騒然としていた。蔦田興業は組織の中でも武闘派として名が通っている勢力。組員たちとて、まさかたった一人の相手に圧倒されるなんて想像もしていなかったのだろう。
「原田、お疲れさん」
「ありがとうございます。急所は外しておきましたぜ」
「おう。良い判断だ」
俺は部下に労いの言葉をかけると、足元に転がる男たちを見下ろした。そして懐から煙草を取り出しつつ尋ねる。
「んで? あんたらがこの店に来た目的は何だ? 普通に買い物に来たって雰囲気じゃなさそうだったが?」
すると若衆の一人が呻きながら答えた。
「誰がテメェなんかに教えるか……素人ごときが調子に乗ってんじゃねぇぞ……何処のイカレ野郎だか知らんが蔦田興業に盾突いてタダで済むと思うなよ……」
どうやら俺の肩書きには気づいていない模様。地回りに居合わせた一般客が本職である自分たちに喧嘩を売ったと思い込んでいるらしい。
「お前ら、俺の顔と名前を知らねぇようだな」
「ああ……!?」
「俺の名は麻木涼平。中川会の執事局って所で次長をやらせてもらってる。単語くらいは聞いたことあるだろ」
その瞬間、男たちの顔が青ざめた。
「あ、麻木……!?」
「ま、まさか中川会本家の……」
俺は煙草に火を点けつつ答える。
「そうだ。お前ら、今日はよくも俺の買い物を邪魔してくれたな。きっちり落とし前を付けさせてもらうぜ」
俺の素性を知った途端に態度を変える男たち。どうやら蔦田興業の連中は揉めている相手が只者ではないことに気付いたようだ。しかし、その中で一人だけ強気な姿勢を崩さない男が居た。
「な、何が本家だ! 何が執事局だよ! ここは池袋! 俺たち蔦田の縄張りだぞ! テメェの土地で肩肘張って何がいけねぇってんだ! お前らがうちのお膝元へ勝手に入ったのが事の発端だろうが!」
中川会の各直参と執事局は立場的には同格であり、互いの領地で経済活動を行う際には事前に連絡を施すなどして筋を通す必要が生じる。しかし、それでも俺としては引き下がるわけにはいかない。例えこちらに落ち度があろうと、ここで折れてしまっては中川恒元の代理人としての名に傷が付く。
「ああ? こちとら恒元公の使いで来てんだが? 天下の中川会本家がテメェらみてぇな雑魚相手にいちいち筋を通す義理があるとでも思ってんのか?」
「な……何ぃ!?」
「そもそもテメェらは去年の暮れに身の程知らずの不遜な書状を恒元公に送り付けやがったよな。そんな筋の通らねぇ連中相手にどうして俺たちが遠慮する必要がある?」
「ぐ……」
「ちょっとおたくらの親分さんと話を付ける必要がありそうだな」
俺はそう言って目の前の男の襟首を掴んで無理やり立たせた。残る2人は原田が同様に捻り上げる。
「原田、行くぞ」
「へい!」
そんな俺たちを店主がじっと見つめている。先ほどにも嬉しそうな面持ち。彼の意図するところは最初から分かっていた。
「あんた、最初から俺たちを利用するつもりだっただろ。本家の人間を店に居座らせておけばいずれ来る蔦田の地回りと必ず揉めることになる。それであわよくば追い払って貰おうって魂胆だったか」
「ひひっ。何の話かさっぱり分かりませんね。まあ、あたしから言えるのは『お若いのに度胸があるお方で良かった』と」
「わざわざナイフを向けたのはその度胸とやらを試す目的もあったってか。何処までも舐めてやがる」
「お互い旨味を得られたのだから良しとしようじゃありませんか」
「旨味だと?」
「たぶんあんたはこれから蔦田の親分さんの所へ行って、うちへのみかじめの取り立てを緩めるよう話をつけるつもりだ。そうすりゃあたしは商売を畳む決心を覆せる上にあんたはうちの店を今後も利用できる。双方にとって損の無い話でさぁ」
不敵な笑みを浮かべながら突きつけられた店主の指摘に、俺は何も答えなかった。尤も、最初に『旨味』なる言葉を使って取引を持ちかけたのがこちらの方である。利用されたことは少しばかり癪だが、あちらの方が一枚上手だったということで水に流しておくとしよう。
「……邪魔したな」
こうして俺たちは店を後にする。店のすぐ前に車を停めておいたのは正解だった。捕縛した組員たちを無理やりトランクに押し込むという行為をはたらくのに人目を気にしなくて済む。
「や、やめろっ! 俺たち相手にこんなことしてタダで済むと思ってんのか!?」
「うるせぇよ」
軽く痛めつけて前屈の姿勢を取らせたとはいえ、車のトランクに男3人を詰め込むのは至難の業だった。ゆえに1人は後部座席で俺の隣に乗せる。
「妙な真似はするなよ。殺さねぇ程度に苦痛を味わってもらう方法なんざ幾らでもあるんだ」
「くっ……」
銃口を突きつけられて組員は大人しくなった。俺はすぐさま原田に出発の指示を飛ばす。彼がアクセルを踏み込むと車は勢いよく走り出した。
「蔦田興業の事務所にご挨拶だ。買い物のついでではあるが、奴らと話をつけるにはちょうど良い機会のはず」
「へへっ、俗に云う一石二鳥ってやつですね!」
そんなやり取りをしている最中に後部シートのトランクから呻き声が聞こえてくる。どうやら詰め込まれた男たちが逃げようとジタバタもがいているらしい。
「ったく。大人しくしろって言葉の意味が理解できねえか。手間をかけさせてくれるぜ」
敢えて聞こえるように呟くと、俺は隣に座らせた組員の膝に短刀を突き立てる。
――グシャッ!
銃声と共に鮮血が飛び散る。車内という狭い空間ゆえに轟音が反響しなかった。全てを掻き消したのは人質の悲鳴だった。
「うぎゃあああっ!」
直後、それまで騒がしかったトランクが静まる。どうやら仲間が何をされたかを悟って沈黙したようだ。
「へへっ、敵への容赦の無さっぷりは相変わらずですね!」
「褒めても何も出ねぇぞ」
一方、膝を刃で抉られたことで発狂寸前に泣き乱していた男だが、俺が「黙れよ」と言って短刀を振り上げると人が変わったように落ち着いた。やり方は荒々しいが静脈は外して刺しているわけだし、なおかつ相手を沈静化させるには一番確実。車内が血で汚れようと後々で掃除すれば済む話だ。
「それにしてもさっきの立ち回りは実にお見事でしたぜ。昔から交渉事は苦手なんで勉強になりましたよ」
原田に言われて先ほどの自分の言動を振り返る俺。特に思いきった手段を講じたわけではない。強いて云うなら暗殺計画の一部を伝えたのは少々やり過ぎだったかもしれないが、交渉相手の信頼を得るために自らの手の内を晒すことも時には必要だ。
「相手から利益を引き出したいなら、まずは自分が利益を提示する。交換条件として出せる話に乏しければ代わりに自分の弱みを一つ教えてやる。それが相手にとっては裏切らねぇっていう何よりの証になるわけだからな」
「たかが煙草屋ごときに?」
「誰と話すにせよ交渉事の基本だ。そいつが出来なきゃアフリカじゃ食っていけなかった」
傭兵時代の思い出が脳裏をよぎる。当時は正規軍の代理として敵国の戦車部隊を撤退させる交渉に赴かされたこともある。仕事を得るにも先ずは話をまとめる能力が無ければ商売が成立しないのである。
「……あの頃は大変だったぜ」
そう呟いた直後、車が目的地へと着いた。懐古に浸っている暇など無いらしい。俺はすぐさま降車すると人質を引きずり降ろして建物に入る。
池袋六丁目にある蔦田興業の事務所は雑居ビルの3階にあった。俺は原田と共にそこへ足を踏み入れると、エレベーターに乗り込む。そして当該の階で降りるや否や筆文字で『蔦田』と記された看板が目立つオフィスの扉を蹴破る。
「な、何だ!?」
「いきなり入って来やがって!」
「テメェは本家の!」
突然の来訪者に慌てふためく組員たち。俺は構わずに室内へ押し入ると、真っ先に一番奥のデスクへと歩み寄る。そしてそこに座っていたスーツ姿の男に話しかける。
「よう、蔦田さん。近くまで来たもんで寄らせてもらったぜ」
「き、貴様は……麻木涼平……!?」
俺が何者かを理解した途端、男は明らかに態度を変えた。そして俺たちが床に転がせた組員たちを眺めて歯噛みする。奴の口から飛び出したのは怒声だった。
「この野郎……うちの子分をよくもそんな目に遭わせてくれたなゴラァ!」
「先に手ぇ出しといてよく言うぜ。そっちがその気ならこっちもそれなりの対応を取らせてもらうからな」
俺は懐から拳銃を取り出すと、それを男の眉間に突き付ける。すると組員たちが一斉に立ち上がった。そして俺たちを取り囲むようにして迫ってくる。
「動くんじゃねぇ! お前らの親分が血だるまになるぜ!」
そんな原田の恫喝にもかかかわらず組員たちは一歩も引かない。当然だ。身内を痛めつけられた側が易々と刀を鞘に納めるはずもないのだ。
「麻木よぉ! こりゃあ一体どういうつもりだ? いきなり入ってきたと思えば蔦田興業の若い衆が傷だらけじゃねぇか!」
まるで地響きのような勢いで怒鳴り散らした中年の男――蔦田金吾組長と俺は面識がある。理事ではないので頻繁に顔を合わせてはいないのだが行事の折には挨拶を交わしていた。そんな彼は俺を睨みつけながら問うてくる。
「一応、訊いといてやる。こいつらはテメェがやったのか? それともそっちの若造がやったのか?」
「ははっ。事ここに至っては意味の無ぇ話……」
「どちらがやったかと訊いてるんだ!!」
俺の挑発は瞬く間に掻き消された。流石は混沌の池袋をたった一年で平定した男。銃口を向けられているのに怒声で返せるとは流石の胆力と褒める他ない。
「ご想像に任せるぜ。何にせよ、俺たちはあんたらからケジメを取りに来たんだ。本家のシノギを邪魔した落とし前をどうしてくれるか。聞かせてもらおうじゃねぇか」
そう宣言して俺は銃を構え続ける。しかし、組長は怯まない。それどころかますます語気を強めて言う。
「落とし前だと? たかだか会長の護衛の分際で随分と偉そうな口利くじゃねぇか!」
「偉そうとは心外な台詞だな。お前ん所の若衆のヘマをどうしようかって話をしてる時に立場もクソも無いだろうがよ。大体、ヒラ直参の身分で本家に物申した奴に言われたくはねぇな」
「何だと!?」
激昂する組長に対して俺は淡々と続ける。
「さっきも云った通り、俺たちはあんたらからケジメを取りに来たんだよ。ちょうど駅前の店で買い物してる時におたくらの下っ端どもが襲ってきやがってな。おかげでこちとら商売の話が水の泡だ」
「何が水の泡だこの野郎! うちがこの若衆どもを遣わせたのはずっと前から上納金を払い渋ってる店だ! その真っ当な取り立てをテメェら本家が邪魔したんじゃねぇのか!?」
だいぶ本家への敵愾心が強い模様。こちらの話に耳を傾ける素振りも無い蔦田。まあ、傾けるくらいなら最初から輝虎に同調などしていないか。
「ああ、そうかい。だったらもう良いよ」
俺は組員たちに向けていた銃口を組長の額へ突き付けると引き金に指を掛ける。しかし、それでも奴は動じない。
「撃てるもんなら撃ってみろ! ただしテメェらの命はそれまでだ!」
流石は池袋の混沌に君臨する男である。肝が据わっているというか、そもそも命の危機など微塵も感じていないのだろう。この期に及んでもなお自らの優位を信じているのだ。
「まったく。惜しいもんだ。その気概を下らん面子じゃなく、恒元公のために使ってりゃあ今ごろ理事くらいには出世できていたものを」
「何が惜しいだ! あんな血筋と家柄だけで玉座に就いたボンクラのために力を尽くすなんざ馬鹿げてやがる!」
「そもそもはといえば恒元公のおかげで領地と事業を得たくせして何をほざいてんだか」
そう俺が皮肉たっぷりに言い返すと、蔦田はさらに声を荒げた。
「うるせぇ! あんな野郎に頼らなくたって俺たちは俺たちでどうとでも稼げるんだよ!」
「そこまで言うか。今まで本家から散々恩恵を受けてきたってのに罪な奴だぜ。だったら明日にでも組織を抜けてみるか」
「ああ! 構わんね! 破門でも何でも勝手にしろってんだ!」
俺の指摘に豪快な啖呵を返した蔦田組長。しかし、周囲の反応は違った。親分の威勢良い言葉を耳にした途端にざわめきが起こったのだ。
「いや、それはまずいな……」
「この状況で中川の看板が取り外されたら……」
「まだ新橋との話もついてねぇってのに……」
口々にそう呟く組員たち。どうやら本気で狼狽えているらしい。中にはあたふたと取り乱している者の姿も目に付く。
「おいっ! お前ら、温いこと言ってんじゃねぇ!!」
子分たちを一括する蔦田だが、俺からすれば滑稽な光景だ。親分の気合いの入り方こそ立派なれども他は違う。この組の構成員は所詮、現状に胡坐をかくことしか出来ないのだろう。
若衆連中が狼狽える理由は至極単純だ。今の状態で中川会の傘下から外れたら、周辺組織から一斉に侵略を受ける可能性が否定できないからだ。
昨年師走の意見書騒動がきっかけで、蔦田興業は組織内にて半ば孤立状態。特に御七卿からは完全に敵視されている。「幹部である自分たちの頭越しに意見具申を行った無礼者」と目され、あわよくば潰してやろうという動きさえ起こり始めている。意見提出に加わった他の12直参は既に輝虎の庇護下に入ったが蔦田は違う。当の輝虎にも距離を置かれているのだ。
「組長。どう考え直してください。今、組織を抜けたら俺らは周囲東西南北全てが敵になります……」
「うるせぇ! お前らは黙って俺の言うことを聞いてりゃ良いんだよ! 白水だろうが大国屋だろうが攻め込んできた奴らは返り討ちにするまでだ!」
不安を露にする組員たちを怒鳴りつける組長。だが、その威勢も長くは続かない。若衆らが自分とは違い必ずしも中川会からの離反に積極的でないことは蔦田自身がよく分かっていたのだろう。
「……っ」
もう限界だとばかりに視線で訴える子分の顔を見て、やがて蔦田は黙り込んでしまった。そんな彼に向けていた銃を下ろし、俺は語りかけた。
「まあ、そうカリカリするな。俺は別にあんたを始末しに来たわけじゃねぇんだからよ」
「何……?」
訝しむ蔦田に俺はさらに続ける。
「さっき言ったろ。『あんたらからケジメを取りに来た』って。それは何も腹を切って欲しいわけでもなけりゃ、詫び料を寄越せってわけでもねぇんだ」
「ああ? だったら何をしてほしいってんだ?」
俺の発言にますます困惑の色を深める組長。そんな奴に対して俺は続ける。
「忠義だよ。今後は中川恒元公および中川会本家に対して完全な忠義を示してもらいたい。あんたのそういう意地っ張りなところを恒元公のために役立ててほしいのさ」
「ああ? 忠義を示せだと? それで俺らに何をさせるつもりだ?」
要求を聞いてさらに警戒心を強める蔦田組長。しかしながら、その反応は予想の範囲内である。俺は続けて述べた。
「今まで通り、恒元公に従えってことさ。それから駅前の煙草屋を本家御用達ってことで今後も利用させて貰いたい」
「何……?」
「あそこの店は上等な品ばかり揃えてるからよ、いつか恒元公にも献上してぇんだ。勿論上納金に関してはあんたらが自由にとって良いぜ。そうしたら今回の件は水に流してやる」
そう告げると俺は拳銃を懐へ収めた。対する組長は困惑の極みといった様子である。
「ふざけてんのか? それがケジメだってのか?」
「そうだ」
俺は奴の問いかけに即答した。そしてさらに続ける。
「今まで通り恒元公に忠義を尽くしてくれれば良いんだ。そうすればあんたはこれからも中川会の直参で居られるし、子分連中も路頭に迷うことはない」
「……っ!」
俺の発言を耳にした途端、蔦田組長の顔が歪んだ。
「……そういうことか」
「分かってくれたようで何よりだぜ。今、中川会を離反なんてしようもんならあんたらは怒りを買った連中に攻め込まれて瞬く間に木っ端微塵だ。それよりだったら恒元公の下に居た方がむしろ今まで以上に繁栄できる」
「それで俺たちを組織に繋ぎ留めるのがお前たちの狙いか」
俺の説明を受けてようやく合点がいったらしい蔦田組長。俺はそんな彼を見据えながら言う。
「まあな。あんたの度胸は確かに見事なもんだが、自分の力を過信するあまり独り善がりに陥っている節があるのは否めないぜ。もっと広い目で物事を考えてみるこったな」
そんな俺の指摘に対して蔦田は深いため息を吐くと、椅子に勢いよく座り込んだ。
「……はあ。よもや二十歳そこらの若造にやり込められる日が来ようとは。まんまと一本取られたってわけか」
すると蔦田は机の中から1枚の紙を取り出すと、万年筆で何やら素早く書き始めた。見るからに上等な和紙だと分かるそれは、すぐさま達筆な文字で埋め尽くされていった。いわゆる、誓紙と呼ばれる書状だ。
「ったく。これで良いだろ。ショボくれた弱小親分の忠義で良けりゃいくらでも示してやるよ」
そこには『蔦田興業はこれまでの不行跡を改めて今後は恒元公のために精進する所存』と書いてあった。武家文化の模倣が好まれる関東博徒にとって書状による宣誓は絶対的な意味を持つ。これを出しておきながら土壇場で裏切るのはヤクザにとって最も不名誉な行為とされる。
「ふふっ。そう言ってくれるなよ。あんたはまだまだこれからだぜ」
俺は笑いながら言葉を返すと、誓紙を受け取って出口へと歩みを進めた。蔦田以下、その場に居た全員の注目が集まる中、最後にこう付け加える。
「恒元公には俺から話を通しておくから安心してくれや。これからもよろしく頼むぜ。子分想いの人情派親分さんよ」
それだけ伝えると俺は事務所を後にした。程なくして後をついてきた原田と共に車に乗って池袋の街を走り出した。
「いやあ、感服しましたぜ。煙草屋の問題を解決してやるついでに蔦田から誓紙を取っちまうなんざ。いずれ恒元公が訪れるかもってなりゃうっかり暴利を貪って潰すわけにはいかなくなる」
「ああいう手合いは往々にして子分想いだ。挙げ句、無駄に気合いが入りすぎて自分で自分を苦しめるちまうから妥協案を用意してやれば食い付きが良い。野郎は少し特殊だったがな」
「でも、どの辺りから計算ずくだったんです?」
「さあな」
実を申せば今回は行き当たりばったりだった。たまたま耳にしていた蔦田の組織内孤立の話を思い返し殆ど即席で策を練り上げて交渉を仕掛けたのだ。因縁を吹っかける一方で相手の利益となる選択肢を提示するのもまた交渉を成就させる秘訣だ。
「よし。そんじゃ、帰るとするか」
数分後、二丁目の通りで酒井を拾い、俺たちは赤坂へ向かって車を飛ばす。時刻は正午をまわったばかりということもあってか、心なしか道路が混んでいる。
「それにしてもあの街の道具屋連中、本当に大丈夫なんですかね?」
酒井が助手席から心配そうに言う。先ほどまで彼は別ルートで道具の仕入れを行っていたのだ。俺は煙草を吹かしつつ答えた。
「蔦田の野郎も素直に引き下がるような人柄じゃねぇだろうからな。嫌がらせ程度の吹っかけは今後も続くかもしれねぇ」
「今日、俺たちと取引をしたことで却って怒りを買っちまうんじゃ……」
不安そうな声音で呟く酒井。そんな奴に俺は言った。
「大丈夫だ。誓紙も取ったことだし。もし職人どもに何かあればその時は俺が蔦田と話をつけてやる」
すると途端に酒井の表情が明るくなった。
「ああ、良かった! これで一安心ですね!」
自分が商売を持ちかけたことで池袋の道具屋たちが蔦田興業から危害を加えられないか、彼なりに心配しているようだった。
店を本家御用達にすることで搾取を防ぐ――我ながらに良い思い付きだ。領地を直接奪わずにその事業所を保護下に置けるのだから。
「しかし、今日の一件で俺は恒元公の御名を使っちまった……これから何が何でもあの店を守らなきゃならんな」
輸入銘柄の煙を吹かしながら呟いた俺。
そうだ。曲りなりとはいえ本家御用達の単語を口に出してしまった以上、例の煙草屋を守護し管理する責任が生じるのだ。いざ会長が現地を訪れようとなった時に肝心の店が潰れていたのでは話にならないからだ。
狡猾や打算的といった性格とは程遠い気質ながら、意地っ張りな蔦田のこと。後田とは違った意味で執念深いであろう奴の思考からして必ず何かしらの形で報復してくることは分かっている。なればこそ事前に色々と対策を講じておかなくては。
「酒井。さっそくだが注文を頼むぜ。クメルカズラの苗を取り寄せるようさっき教えた店に連絡を入れてくれ」
「クメル……カズラ……?」
「本宅の庭で会長が好んで育てている東南アジア原産の観葉植物だ。挨拶代わりの献上品としては十分だろう」
「そういうことでしたか」
「ああ。勿論、代金は俺が全額立て替えておく。なるだけ上質なものを揃えるようにな」
ひと先ずはあの煙草屋が中川会本家に対して義理を立てた事実を作っておく。しかし、それだけではまだ今後の情勢が不安だ。
「それと俺宛ての請求書で定期購入の契約を結んでくれ」
「え? 良いんですか?」
指示を聞くや否や目を丸くする酒井。無理もない。請求書を用いて買い物をするということは、その店における支払いを全て俺に回すということなのだから。
「そうでもしなけりゃ本家御用達の実が伴わん。恒元公の名前で勝手に買い物するわけにもいかねぇわけだしよ」
「確かに……恐れ入ります、次長」
例の煙草屋のみならず、あの街の道具屋は優秀な職人ばかり。今後に向けて良好な関係を築くためには、多少の出費くらい甘んじて引き受けなくては。執事局の戦力強化と同様に、自分の計略に巻き込んでしまった連中に対しては少しでも利益を還元したいという思いもあった。
「兄貴だけに金を出させるのも忍びねぇ。俺も何個か買わせてくださいや。かなり高級な銘柄も置いてあったでしょう」
「俺だって買わせて頂きますぜ。次長」
「すまねぇな、お前ら」
喉の奥から込み上がる苦味に駆られて頭を下げた俺に酒井と原田は笑顔で応じた。
この2人は俺が街の職人連中のために私財を投げうった事実にいたく感激している様子だった。彼らの目に俺はさぞ立派な兄貴分として映っていることだろう。
しかし、実際問題として俺は組織の利益のために動いているに過ぎない。道具屋を庇護下に置くことで今後何かと便利になるからやっているだけのことだし、もし彼ら側にメリットがあったとしても。それは此度の一件で払う代償に比べれば安いものだ。看板を出す地域を仕切る怒りっぽい親分との因縁をさらに燃え上がらせることが旨味であるはずが無い。
結局、俺は組織のためにまたひとり無関係の人間を打算に巻き込んだのだ。
「いやあ。それにしても、話を聞けば聞くほどに失笑が堪えられませんよ。その煙草屋は相当に癖のある野郎ですね」
バックミラーで後続車の動向を確認しながら酒井が呟く。俺はそれに相槌を打った。
「まあな。だが、ああいうタイプは扱いやすい方だ」
実に率直な人物評だった。
「と仰いますと?」
原田が興味ありげに尋ねるので俺は説明を始めた。
「自分の力や器量に自信を持つ人間は往々にして他人からの指図を嫌うもんだが、それは裏返せば自分が認めた奴の言うことは素直に聞くってわけだ。俺はあの男のそういう性質を逆手に取ってやろうと思ったんだよ」
見た目こそ凡庸そうな例の店主だが、その瞳の奥には裏社会で仕事をしてきた人間特有の誇りと覚悟が滔々と輝いていた。
「ああいう輩は意外と義理堅いもんでな、一度でも対等に取引をした相手は決して裏切らないだろうぜ」
なればこそ、俺たちも奴を裏切らぬよう振る舞わねばならない――いつになくヤクザらしい台詞を抜かしてみせた俺を部下たちは口々に褒め称える。俺の中には相反する二つの感情が湧き起こりつつあった。自分らしく青臭い理想を追いかけたいという想いと、組織人として冷徹で在らねばなるまいという諦観、それらを誤魔化すかのように俺は声を出す。
「それにしても……今日も良い天気だな……」
自分でも思わず笑ってしまいそうになるほどの取って付けたような台詞。偶然にも車外では春の日差しが降り注ぎ、空気を穏やかに温めていた。
紫煙を吐きつつ呟く俺。その時である。突如としてブレーキが踏まれたのは。
「なっ!?」
車体が大きく揺さぶられる。車内の3人が揃って前のめりになった。俺は咄嗟に運転席へ目を向けた。するとそこには原田がハンドルを握りつつ、フロントガラスの向こう側を凝視している姿が見て取れた。どうやら彼は何かを発見したようである。
「どうした?」
俺が尋ねるよりも先に酒井が声を上げた。
「……あれは……」
彼の視線を追うように俺もそちらを見やると、俺たちの行く手を阻む形で数メートル先に一人の男が立っている。そしてその人物は、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。例によって、そいつの名を俺は確かに頭に入れていた。
「……三淵」
眞行路一家幹部、三淵史弥。奴が俺の乗る車を停めた理由は訊かずとも分かる。俺に用事があるからだ。
「酒井、原田、すまねぇ。先に戻っててくれ。それから、後々で車の掃除を頼めるか」
それだけ呟くと俺は乗っていた車を降りる。
「次長!?」
「兄貴!?」
突拍子も無い行動に戸惑っていた部下たちだが、やがて事情を察したのか車をUターンさせた。俺の為そうとしていることに勘付いているかは定かではないが、部下を巻き込むわけにはいかない――そのまま走り去る車を見送る俺。一方で三淵の方はというと、普段のごとく不敵な笑みを浮かべて佇んでいた。
「……ふふっ。午前中からなかなかのご活躍だったじゃないか。流石は策略家で交渉上手な麻木次長だ」
そんな彼に俺は真正面から皮肉をぶつける。
「こっちの行動を全て把握しているのなら本宅に来りゃ良かったろ。路上で道を塞ぐとは無粋な野郎だ。人様を盗聴する技術はあるくせに礼儀作法ってもんには疎いらしい」
「あんたと会うのにいちいち赤坂に赴いていたのでは気付かれてしまうじゃないか。その事情は存じているはずだろう」
「冗談を言ったんだよ」
顔を合わせて数秒足らずだというのに空気が緊張の色を帯びる。互いに油断ならぬ相手と分かっている所為か自然と会話の内容が刺々しいものとなる。されどもこの三淵とは現在、大いなる秘密を共に抱える仲にある。
「……」
TPEC国際会議場迎賓館の襲撃。俺が立てた計画に便乗する形で、三淵たち眞行路一家秀虎派も事を起こす気でいるらしい。それも迎賓館内にある治外法権賭場に殴り込んで売上金を根こそぎ掠め取るつもりと云うから聞いて驚いた。
「……ふう。ここで話していては多かれ少なかれ人目につく。場所を変えようじゃないか」
暫しの静寂の後、三淵はそう提案してきた。俺もそれに応じる形で頷く。
「同感だ。ただでさえ他にバレちゃならねぇ関係だってのに。わざわざ部下と一緒の所に堂々と現れた誰かさんは何を勘違いしているんだろうな」
「くくっ。元傭兵さんは流石に手厳しいね。これでも監視の網を潜り抜けて会いに来たつもりだったのだがな……」
そう呟いた三淵は、ゆっくりこちらへ歩み寄り体と体が今にも触れ合わんばかりの位置まで距離を詰めた。自然と俺の眼差しは鋭くなる。何故なら近づいてきた彼の右手には拳銃が握られていたから。
「ほう?」
こちらの怪訝な反応に、三淵は耳元で囁いた。
「……すまんが、今はこの行動が最善なのだ。この場は監視されているのでな。ちょっとばかりの無作法は承服してくれ」
ここで敢えて銃を向けることで『麻木涼平を無理やり拉致した』という見せかけの既成事実を作り上げようとの算段か。俺の方から三淵に親しく接近したと思われぬようにするために。己を密かに追尾する監視者の存在には総本部を出る前から気付いていたので、彼の気遣いに痛み入って頷かざるを得なかった。
「分かったよ。お前さんにも迷惑をかけるな。恩に着るぜ」
「くくっ。無駄話はしまいだ。こちらへ来てもらおうか」
背中に銃を突きつける三淵に誘われるがまま、俺は路地を真っ直ぐに歩く。数十メートルほど進んだところで左折すると狭い小路に差し掛かり、そこに黄土色のスポーツカーが停めてあった。慣れた手つきで鍵を開ける仕草から見るに、どうやら彼の愛車と考えて良さそうだ。
「乗ってくれ」
「驚いたな。金欠だの何だのと言っていた男がこんな車を持っているとは」
「無論、こいつは俺の持ち車ではない。先週に新橋方の事務所を攻め落とした折に奪い取ったのだ。面白い色をしていたのでな」
「……そういうことだったか」
助手席に乗り込むと三淵はすぐさま車を発進させた。どうやら尾行が付いていないかを入念に確認しているらしい。フロントガラス越しに後方をチラチラと確認している様子が窺えたので、俺もまた同じようにそちらを見やった。
「さて……麻木次長よ」
やがて車は大通りに出て、三淵がカーラジオのスイッチを入れる。それは昼下がりの番組を聴くためではない。みすみす車内の音声を傍受される展開を未然に防ぐためだ。
「あんたを案内しておきたい場所があるからそこに向かうとしよう」
「どこに行くってんだ?」
「到着してからのお楽しみだ」
怪訝な声と眼差しで睨む俺の反応はまるで気にせず、ハンドルを握って車を走らせる三淵。都道405号線を南下して虎ノ門方面へ差し掛かると彼は上機嫌に呟く。
「もうそろそろだな」
「おい、ここら辺は……」
「ああ」
三淵の行動が理解できなかったのは当然の至り、何せそこは新橋三丁目――眞行路輝虎の総本陣が置かれている地域だったのだ。
「そこのタワマンが輝虎の野郎の棲家だ。あんたも噂くらいは聞いているだろう」
「ああ、近くで見ると尋常じゃねぇくらいの迫力だな……」
三淵が指差した先には一際目立つ建物があった。いわゆるタワマンと呼ばれる集合住宅だ。周囲のビル群から頭ひとつ抜きん出た高さを誇るそれは、まるで天を突く摩天楼のごとき威容を誇っていた。
「奴はこのビルを一棟丸ごと所有してやがるのさ。金儲けに関しては先代より上手いからな。俺も初めて来た日には驚いたよ」
車を走らせながら三淵は言う。そして俺はその横顔を見ながら問うてみることにした。
「……わざわざ俺をこんな所に連れて来てどういう魂胆だ? 何の打算も無く敵陣のド真ん中へ赴くほどお前さんは愚かじゃねぇはずだぜ?」
「くくっ、単なる観光案内ってやつだよ」
三淵は笑った。そして、その笑いを徐々に収めつつ彼は語り始める。
「ちょうど良い機会だ。あんたには眞行路一家の内紛について自分の目で見極めて貰おうと思ってな。執事局の報告書を読むだけじゃ分からんことも多いだろうからな」
要するに銀座の戦争について俺を実地検分へと連れ出したわけだ。熾烈な後継者争いの現場を生で視察させて秀虎派への同情に繋げる気か。若干の鬱陶しさに駆られるこちらの様子には目もくれず、三淵は口を開くとゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。
「……そこに空き地が見えるだろ。実は今年の初め頃まではビルが建ってたんだが、ぶっ壊れて更地になっちまったのさ」
「ほう」
三淵が指差した方向を見てみる。すると、確かにそこにはかつて何かが建てられていたと思しき痕跡があった。面積にして数十平米ほどの敷地だ。
「あそこには輝虎傘下の事務所があったんだが、俺たちがカチコミをかけて木っ端微塵にしてやったのさ。あんたも知っての通り、その時の戦いが銀座の戦争の開戦のきっかけとなった」
「先に手を出したのはお前さんらの方ってわけか」
「喧嘩は先手必勝。殺られる前に殺るのが鉄則なのだ。尤も、俺たちが優勢だったのは最初の一か月だけだがな」
三淵の話を聞きながら俺は考える。何故に彼らはタワマンの方ではなく手前の事務所を奇襲したのかと。当然の疑問だが、その点については当人たちも複雑な思いを抱えていた。
「あの高層マンションには輝虎の関係者のみならず一般人も数多く暮らしてる。無辜の連中を巻き込むことは断固許さないと姐さんに釘を刺されたのさ」
「まあ、銃を持って殴り込んだ日には確実に流れ弾がカタギに当たっちまうだろうよ」
何とも淑恵らしい命令だ。俺もその考えには納得せざるを得なかった。一方で戦略的に考えるならあまりに愚かな選択だ。
「幸いにも今日に至るまで秀虎派の方から仕掛けた攻撃でカタギの犠牲は出ていない。人気の少ない時間や場所を選りすぐって作戦を立ていてるからな。だが、そいつは輝虎にとっては大きな利点になってしまっている」
「……あんたらが仕掛けてくる時間帯や場所を簡単に予想できちまうからか。敵の手の内が分かれば、後はそこに兵員や物資を置かなければ良いだけの話。こっちからの攻撃が全て空振り同然に終わってるってのは何とも酷な現状だな」
つまり、決定的な攻撃を行えない以上、秀虎派が一方的な劣勢に陥る展開は最初から分かりきっていたということだ
「眞行路一家の五代目は世間様からも慕われる存在でなければならん。ゆえに喧嘩にカタギを巻き込まないのは絶対原則。姐さんのご意向は至極真っ当だ」
「それについては俺も同感だ。しかし、いつまでも決定力を欠いた攻撃を繰り返しているわけにはいかねぇだろ。ヤクザが一般人に迷惑をかけちゃならねぇなんざ実際のところ建前に過ぎん」
「ああ。俺だって今の方針が現実的でないことくらいは理解している。しかし、姐さんがそのように厳命されている以上は……」
消え入るような語尾で複雑な心情を吐露した三淵。ハンドルを握る彼の手に力が込められている。この男の行動理念は結局のところ淑恵のため。一命を賭して彼女を守ってゆくことに尽きるのだろう。秀虎への忠誠心も、輝虎への復讐心も、二の次。孤児だった自分を拾って育ててくれた先代総長夫人の存在こそが、三淵史弥を無謀な戦いで奮い立たせているのだ。
「……麻木次長。俺は時としてあんたが羨ましい。如何にすれば左様なまでに己を割り切って主に仕えられるのか」
意外な言葉が聞こえたので息を呑まされる。三淵からすれば麻木涼平は己の一切を殺して主君にひたすら忠節を尽くす覚悟の男に見えるらしい。俺としては自然と苦笑がこみ上げてきた。
「ふふっ、止せやい。俺はそんな高潔な人間じゃねぇよ。単に自分がどう在りたいか定まってねぇから言われるがままに操られてるだけのことだ」
「あんたの心の奥底には確かな信念がある。自分でも言うのもおかしな話だが、俺は人を見る目には長けているつもりだぞ」
「昨日は恒元公の操り人形だとか何とか言ってたじゃねぇかよ」
「だからこそ褒め称えているのだ。己の信ずる道に相反した恒元公の命令を敬愛の二文字をもって引き受け、冷血漢に徹することの出来る器量の深さを。時として迷いに揺らぐ俺などとは大違いだ」
称賛されているのか、それとも嫌味をぶつけられているのか分からない言い方に俺はため息をついた。しかしながら、三淵の指摘は当たっている。考えてみれば俺は常に己の意志とは反した行動ばかり選択しているのだから。
「……お前さんにゃ申し訳ねぇが、俺だって時々どころか普段から迷い続けてる」
「えっ? とてもそのようには見えんが?」
「そりゃ、お前さんの観察眼がまだまだ未熟ってだけさ。本音と建前の違いを前に何も為せない無力な男。それが俺という人間の本質なんだよ」
「いやいや……俺の人を見る目の正確さはともかくとして、あんたは無力などはないと思うが……」
三淵の相槌には微妙な間があった。どうやら俺が信念に迷っている姿を想像できないらしい。まあ、無理もない話である。俺は常に己の心を偽って生きているのだから。そして彼の云う通り冷血漢とやらを見事に演じきっているのだから。もしかするとそちらの方が本当の自分の姿なのではと思ってしまうほどに最近は思考がマキャベリズムに染まってきたくらいだ。
「あまり俺に期待を抱かん方が良いぜ。所詮は中川恒元の操り人形。目的のために他人を使い捨てることを屁とも思わない屑野郎でしかねぇんだ」
その癖、弱者のために戦う云々と青臭い美学に酔いしれているから救いようが無い。己の理想を具現化するための行動すら、まともに取れやしない。裏社会の現実を逃げ口実にする一方で、現実に胡坐をかいて行動する覚悟を決めようとしない――そんな自分の卑しさに最近は様々な場面で気付かされた。
さて、この台詞を聞いた三淵は何と思うだろうか。返事が来るまでにまたしても若干の空白が生じた。
「……恒元公の操り人形か」
三淵は呟きつつ俺を一瞥した。その頬が少しばかり緩んでいる。彼は先刻に俺が述べた台詞を反芻しているようだったが、やがて吹き出すように笑った。
「だとしても俺はあんたを軽蔑できん」
「ほう? まだ褒めてくれるってのか?」
「むしろ少し安心したよ。今の己の抱えている迷いが決して俺だけの特異なものではなかったのだと。何だか心が暖かくなってきた」
そう語った後、三淵は俺を見据えて断言した。
「麻木次長。あんたと俺は似た者同士だ。思考の根本にある想いは違えど、理想と現実の乖離に思い悩む点ではな」
「くくっ。そいつは光栄だな。だが、俺はそんな大層な人間じゃねぇよ。お前さんの理想とやらに共感はできんし、そもそも俺自身がその理想を体現するだけの器量もねぇんだ」
「謙遜するな。あんたは自分の器量を過小評価しているだけだ」
「三淵さんよ。お前さん、マジで俺を買い被り過ぎだぜ?」
これ以上の議論は無駄だろうと思い、俺はこの話題を打ち切る。如何に美辞麗句を並べ評してくれようと、俺が矛盾に満ちた存在であることに変わりはないのだから。結局のところ、俺のような無法者は気高い理想なんか抱かずに周囲の人間を出来る限りの範囲で守っている方が分相応なのかもしれない。
「まあ、お前さんが俺に親近感を持ってくれるのは構わんが……」
そう呟いて話題を換えようとした時だった。
――ドンッ!!!
突如として轟音が鳴り響く。何の音かと思って窓から外を覗くと、数人の背広姿の男がこちらに銃を構えて走って来ていた。彼らが発砲した鉛玉の一部が車体に着弾したことはすぐに分かった。
「おいっ!」
「ああ! どうやらバレたようだな!」
三淵は車を急発進させて男たちから距離を取った。人間と車だけあって速度の差は決定的であり、瞬く間に敵兵との距離が広がる。柳通りを横切って国道15号線に出る頃には輝虎派の組員の姿はすっかり消えていた。
「久々に芯から肝を冷やしたぞ。まさか白昼堂々と撃ってくるとは思わなかった。輝虎の野郎には分別というものが存在しないらしい」
「けっ。所構わず拳銃を撃ち合ってるくせによく言うぜ。おたくらだって躊躇が無くなってるんじゃねぇのか」
俺の中でここ数ヵ月の新聞記事が思い起こされる。輝虎派と秀虎派が連日、中央区および港区新橋の至る所で銃撃戦を展開しているのだ。巻き添えを食らったカタギは少なからず出ているが三淵は自分たちには無関係だと言い張る。
「世間様からすりゃあヤクザに輝虎も秀虎も関係ねぇぞ」
「分かっている。だが、俺たちはあくまでも姐さんの言い付けを一字一句守っているつもりだからな」
三淵はハンドルを握りながらぼやく。
「誹りを浴びるべきは俺たちではなく輝虎の方だ。ドンパチでカタギを盾にしてるどころか、人攫いの闇市場まで作っているのだから」
「まあな」
俺は曖昧な声色で相槌を打つ。輝虎を討ちたい思いは同じなれど、ここでそれを口に出せば中川会本家は絶対中立という前提が崩れる。ましてや『本家が輝虎討伐に乗り出す』と言質を取られかねない。それゆえ迂闊な発言は禁物だ。窓の外の景色を眺め、こみ上がりかけた衝動を宥めるとしよう。自分の立場は執事局次長、中川恒元の側近なのだから。
「何にせよ、驚かせてすまなかったな。俺ともあろう男がすっかり油断を催していた。敵地の本丸で気が緩んでいた」
それに乾いた笑みで返し、俺は視線を車窓へと戻す。
「で? 次は何処へ案内してくれるんだ? こっちも暇じゃねぇからそろそろ本題を話してくれると嬉しいんだが?」
「焦るな。お次は俺たちのホームタウンへご招待だ。見て欲しい所があるんだ」
そのまま三淵は車を真っ直ぐに走らせ、新橋駅の前を通って都道316号線へと入る。彼らの街と云えば銀座。歌舞伎劇場の交差点で停まったところで俺は問うた。
「何を見て欲しいってんだ?」
「この街の風景だよ。何か気付かないか」
三淵に促され、俺は窓の外を注視する。
「……いや。何もねぇぞ。敷いて言うなら前に来た時に比べて大通りが閑散としてることくらいか」
「その通り。これが今の銀座の現状ってわけだ」
「お前さんらの喧嘩のせいで街から人が離れてるってのか?」
「ああ。この恥ずべき景色を姐さんは毎日眺めておられるんだ。そして、それは秀虎様も俺たちも同じさ」
ため息と共に深々と頷いた後、三淵は苦々しい面持ちで車を発進させた。
「銀座の街はそこで暮らす人々の活気があって初めて輝くものだ。ところが、今となっては見る影もない。俺たちの戦争のおかげでカタギが街に近づかなくなったのさ」
「順当の至りだな。テレビでもさんざん暴力団の衝突云々と騒いでやがるんだ。いくら政治家連中を賄賂で手懐けていようと世論が声を上げ始めたらシノギに響くぞ」
俺の返事にまたしても深く頷き、三淵は吐き捨てるように言った。
「ああ。だからこそ、一日も早く戦争を終わらせなくてはならないのだ。俺は今回の作戦で輝虎を確実に仕留める」
少し興味深い台詞が聞けた。主な目的は迎賓館襲撃による資金奪取ではないのか。雑談程度に詳しく聞いてみるとしよう。
「迎賓館で? いや、流石にあの野郎は来ねぇと思うぜ? 輝虎を誘き出す算段でもついたのか?」
「ここだけの話だが、奴が8日に迎賓館で各国の要人向けに闇オークションを開催するとの情報が入っている。有力筋からのタレコミで裏取りも済んでいる。ブラックマーケットの上客が相手となれば輝虎も自ら出向くしかあるまい」
ゆえに輝虎が現地を訪れる4月8日に迎賓館へ奇襲を仕掛け、奴を討ち取ると語った三淵。当初は資金奪取のみを目的としていたが計画の一部を変更し、輝虎の暗殺を第一目標に掲げているのだという。当然ながら、襲撃作戦の実働を担う人員は秀虎派の中から選びに選び抜いた凄腕に任せたそう。
「何が起きるか分からんが、俺の予想では当日に空調設備の不調で有毒ガスが発生するものと踏んでいる。館内の連中は次々と気絶するだろう」
「……ほう?」
「よって実働部隊はガスマスクを着けて現場に侵入、速やかに事を為す。モタモタしようものなら色々と危ないのでな」
現在までに俺が立てた添田暗殺の計画は盗聴により完全に把握しているらしい。人様の策に便乗しようとは図々しい。自然と舌打ちが鳴った。
「けっ、どうして8日に迎賓館で空調設備がぶっ壊れると分かるんだよ」
「誰かさんがその日に要人排除を狙って迎賓館に攻め入るからだ」
「そいつが8日に計画を実行するとは限らねぇぞ」
「いやいや。8日以外はありえんな」
「何故に日付を断言できる?」
「玄道会も輝虎を狙っている。俺たちが得た輝虎の動向に関する情報は、おそらく連中も掴んでいる。輝虎を始末し添田を押さえるのにその日はもってこいだ」
輝虎派のみならず玄道会ともかち合うことを想定すれば、秀虎派と協力して事に当たる他ない――なかなか上手い誘い口実をぶつけてきたものだ。されども俺は何も言わなかった。うっかり頷いてしまって迂闊な言質を取られぬように淡々と話を躱しておく。
「……何を言ってるのか分からねぇな」
「あんたは手筈通り迎賓館の空調設備を破壊してくれれば良いのだ。その混乱の隙を突いて俺たちは事を為すだけだ」
やがて車が銀中通りで右折して停まるまで、俺は何も答えることは無かった。
「まあ、考えておいてくれ。当日は俺たちも迎賓館に潜入する。あんたと協力できる日が来ることを祈っているよ」
「だから何を訳の分からんことを。俺は襲撃なんぞに加担するつもりはないぜ。やりたきゃ勝手にやれば良い」
「なかなか見事な計画だぞ、麻木次長。俺から忠告することがあるとすれば煙草屋との関係だ。あの男は仕事こそ丁寧だが相手が権力者であればあるほどに媚びへつらうからな」
「それは、まあ……いや、何を言ってんだ?」
「昔、先代に従って豊橋へ出かけた時にあの男も一緒だったんだ。色々と胡散臭い男だから気を付けるようにな。じゃあな」
少し困惑しつつも車を降ろされる。三淵はこれより屋敷に戻って秀虎の護衛の仕事をこなすらしい。そのまま車を見送ってから、俺は独り言を漏らした。
「やれやれ……」
何から何まで把握済みとは驚いた。まあ、想定の範囲内というか俺自身が狙っていたことではあるのだが。しかしながら奴の話に乗るのは果たして正解か。
秀虎派に手を貸したことになりはしないか。それだけが気がかりだった。本家の立場として現在の姿勢が崩壊してしまうのはまずいのだ。
話を聞く限りでは決行日は4月8日以外には考えられないようだが、彼らに協力した事実を作る流れだけは避けたい。
何とも迷わしい話。思案で混乱した心を整理するべく俺は煙草に火を付けた。
「……ん? 電話?」
ふと携帯を開くと、何件か不在着信が入っている。
どうやら三淵と話している間に電話が来ていた模様。奴の車に電波妨害装置が搭載されていたために気付かなかったようだ。
酒井と原田からそれぞれ3件ずつ、恒元から5件。そうだ。彼らには俺が拉致されたように見えているのだった。
「こりゃあいけねぇな」
部下たちはともかく会長に電話をするのは億劫だ。かといって無視し続けるのも気が引ける。俺はひとまず恒元に掛け直すことにした。
『涼平か。さっき原田から聞いたが、なかなか良い煙草屋を探し当てたようだな。見事だったぞ』
おっと。てっきり三淵と会っていた件を追及されるものと身構えていたので拍子抜けだ。そんな些末事が開口一番に飛んでくるとは想定していなかった。
「え、ええ。ありがとうございます。いずれ会長にも献上したく思っております」
『うむ。そう云えば店の屋号は何という名だ?』
「タバコのスギヤマです」
俺から店名を聞いた恒元は復唱すると『分かった』と言葉を返した。たかが煙草屋が左様に気になるのか。何やら紙に書き記している音が聞こえた。
「会長……?」
『うむ。ご苦労だったな。ところでお前は今何処に居るのだ』
「銀座です。今しがた三淵の野郎が接触を図ってきまして」
『どうして銀座なんぞに』
「あれこれと話を聞いてたんです。味方になるよう脅されましたが断ったのでご安心ください」
そう答えた途端、恒元は明らかに安堵の色を浮かべた。俺は恒元に事の経緯をかいつまんで説明する。才原党の忍びたちに監視させていたのか否かは定かではないが……会長は少し驚いたような口ぶりだった。
『そうか。しかし、奴らまで迎賓館の襲撃を企てていたとはな。4月10日といえば明後日ではないか』
「ええ。俺も驚きましたよ。まったく抜け目のない奴らです」
演技か、あるいは素で驚いているのか、恒元の真意が声色だけでは読み取れないのが不気味だった。言葉だけでは俺の行動を訝しんでいる様子は無い。しかし、すぐに彼は思い直したように口調を改める。
『お前も承知していることと思うが、利用されてくれるなよ』
「それはもちろん」
『我輩の立場は中立だ。それを今一度肝に銘じて行動するように。どちらか一方に肩入れすることなどあってはならん』
ああ、これは先ほどの様子を才原党の忍びたちに監視させていたな。すぐに勘付いた俺。されども想定の範囲内である。
「……会長。敢えて奴らの掌の上で踊るのも一興かと思いますよ。奴は面白い情報を掴んでいました」
『ふむ。その口ぶりだと何か考えがあるようだな』
「明後日の迎賓館には玄道会の連中も来るそうです」
中川会として九州勢に対し楔を打ち込む必要がある現状、奴らとかち合う展開が想定されるのであればそれはある意味で好機と呼べるのではないか――ゆえに俺も4月8日に決行すべきだと具申したのだ。
「おそらく現場には井桁が来ると思います」
『そうとは限らんのではないか?』
「ええ。しかし、可能性は高いと俺は考えています。あの男に輝虎との外交において実務を配下の者に任せるという選択は無いでしょう」
『何故だ?』
「前回、奴が東京に来た日を思い出しまして。思えばあの時も子分を派遣する手も考えられたはず。安全策を採らずに敢えて自ら東京に赴いたとなると……」
『そうせざるを得ない事情があるということか』
相槌の後で俺は続けた。
「ええ。それは具体的に何かは分かりませんが、少しでも可能性があるなら潰しておきたい。どうか明後日に出撃する許可を頂きたく存じます」
そう告げた途端だった。電話越しに恒元の笑い声が聞こえた。その反応に俺は思わず息を呑む。
『くくくっ、流石は愛しの涼平だ。我輩の気付かぬうちに何時の間にやら頭が回るようになっていたのだな』
「か、会長……!?」
『良かろう。行ってきて構わんぞ。少しでも可能性があるというなら、な』
その台詞だけを解釈するなら承認されたと受け取るべきか。含みのある言い方が何とも不穏だ。まあ、おそらく恒元は俺の本当の目的を見抜いているのだろうが……ここでそれを気にする必要性は無い。
「あ、ありがとうございます!」
『だが、改めて一つ言っておく。奴らに利用されてくれるなよ。お前は我輩の側近。お前の行動は我輩の行動となるのだ。それを常に心に留めておくように』
「……承知しています」
『もし、お前の計画を利用せんと目論む不埒な輩が居れば、その時は分かっているな。中川会本家を駒として使おうなど言語道断。その者には最大級の報復をくれてやらねばならんぞ』
「ええ。勿論分かっていますとも」
『うむ。ひくべき引き金を己の意思でひくのがヤクザの本懐。お前の忠義と覚悟を楽しみにしているぞ』
そうして『ではな』と残すと恒元は電話を切った。俺は携帯をポケットにしまい込むと軽く息を吐く。何だか意味深な言い方であったが、これで明後日の迎賓館襲撃は会長のお墨付きを得た。
しかし、恒元は俺の考えに勘付いているだろうに敢えて許したのは何故だろうか。
まあ良い。今は明後日に向けて淡々と準備を進めるとしよう。俺は吸い終えた煙草を近くのコンビニの灰皿で消すと、総本部に戻るべく歩き出す。
携帯を開き、部下に陳謝の電話をかけながら。
「もしもし。酒井か。さっきはすまなかったな。ちょっと三淵と揉めちまってよ……ああ、そうだ。例の件は明後日に決行する。原田にも伝えといてくれ」
だが、この時の俺は少しも予想していなかった。様々な思惑が絡む中で謀った俺の迎賓館襲撃計画が、銀座の戦争を新たな局面へ動かすことになろうとは。
そして、それがあまりにも陰惨な結果を招くことになろうとは……。
ついに動き出した迎賓館襲撃計画。闇市場の仲買人の排除か、敵方の総大将の討伐か、はたまたそれ以外か。全ては涼平の行動に委ねられた……!
次回、衝撃の決着! あまりにも苦々しい答えが男たちを待ち受ける! 怒涛の展開をお見逃しなく。




