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鴉の黙示録  作者: 雨宮妃里
第11章 親分たる器
190/261

北海道

 ここから先は単独行動。完全に未開の地へと潜入することになる。


 まずは新幹線の切符を買う。窓口で乗車券と特急券を購入するのにも神経をすり減らす。周囲に敵兵が居ないかを逐一確認するためだ。


「……」


 見たところそれらしい雰囲気を放つ者は居ない。俺はそそくさと乗車手続きを済ませてホームへと駆け上がる。


「ったく……新幹線と特急を乗り継がなきゃならねぇのか」


 億劫さのあまり独り言が飛び出す。されども極星連合の勢力範囲は東北限定。それゆえ北海道へ渡ってしまえば彼らの監視を気にしなくて良いかもしれない。


 新幹線に乗るまでの時間が非常に長く感じた。無論、チケットを買ってすぐに新幹線が来るわけではない。ゆえに列車がホームに来るまでは何処かで待機していなければならないのだが、それがまた本当に緊張で痺れるものだ。あちらこちらに極星連合の組員が潜んでいると考えれば、気を休める暇など有りはしない。


「……」


 それから35分後。俺はやって来た新幹線に飛び乗って北へと向かう。それから数時間、到着までに俺がずっと警戒心で気をすり減らしていたことは言うまでもない。


『次は終点、函館。終点、函館』


 途中で乗り換えた特急の車内アナウンスが響いた。俺は席を立ち、列車から降りる準備をする。そしてドアが開くと同時にホームへ飛び出したのだった。


「……」


 やはり敵らしき者は居ないようだ。改札口を出て駅を出ると、そこはもう極星連合の勢力範囲外であると見て良いだろう。俺はそそくさと屋外へ飛び出した。


「函館だ」


 思わず独り言が漏れた。


 北海道函館市。北海道の南部に位置する都市で、道南地方の中心都市。函館山からの夜景や海産物などが有名だ。人口は25万人程度と仙台に比べればこじんまりとしているが、それでも五稜郭や旧イギリス公使館といった観光名所には年間10万人以上の客が訪れるため、経済的には栄えている街と言って良い。


 さて、そんな函館に来たわけだが――。


 これからどうやって長谷川を探すのが効率的であろうか。当人が函館に居るとの当たりはつけていたが、函館の何処に居るかはまったく予想出来ていなかった。仙台と同様にこちらも初めて訪れる場所なので仕方ないと言えば仕方ないのだが。


 まずは情報収集。


 俺は駅の中で軽く声掛けを行ってみることにした。昨日の騒ぎを目撃していたであろう人物を探すのだ。


「よう」


 俺はホームで掃除を行っていた50代半ばくらいのおばちゃんに声をかけてみた。すると彼女は怪訝な顔をする。


「何? 今、仕事中なんだけど?」


 まあ、同然の反応である。俺は手短に問う。


「ちょっと話を聞かせてもらいてぇんだが。昨日、貨物列車から全裸の男が出て来たってんで騒ぎになったはずだ。そいつが何処へ行ったか分かるかい?」


「知るわけが無いだろう。そんなの。線路の方を走って行ったきり、誰も見てないよ」


「だが、全裸の男だぜ。その風体で街に出たら確実に騒ぎになるはずだ。街中で誰かがそいつを見たって目撃情報は無いのかよ」


「いや、知らないって」


 どうやら聞く相手を間違えたようだ。忙しく動き回っている作業員に比べて余裕を持って答えてくれるだろうと踏んでいたのだが仕方ない。


「ああ。分かったぜ。ありがとな」


 俺は礼を言ってその場を立ち去ろうとしたが、おばちゃんは俺を呼び止めた。


「……ちょっと待ちな」


「ん?」


 そして彼女は言った。


「あんた、もしかして警察の人かい? それとも報道関係?」


「いや……違うが……」


 どうにもウンザリとした様子の御婦人。昨日は警察の事情聴取やメディアの取材攻撃を受けた口か。俺は少し警戒して答えたのだが、彼女はこう続けた。


「興味本位で嗅ぎまわってるなら止めといた方が良いよ。ああいう変な奴はとっくに掃除されてる。ローグマンが見過ごすはずが無い」


「ローグマン?」


「この街の番人さ。あいつは済んだことを掘り起こそうとする輩にも容赦ないからね。あんたも下手に首を突っ込んだら、何をされるか分かったもんじゃないよ」


 それだけ答えると逃げるように何処かへ行ってしまった。ローグマンとは、一体……? 話を聞く限り函館の街を守る自警団的存在だと何となく分かるのだが。


 ああ、そういえばこの街にもヤクザが居るんだっけ。北海道の組の分布については群雄割拠といった情勢で、その都市ごとにひとつずつ組がシマを持っており、全土に勢力を拡げている大規模所帯は存在しなかったような。そういえば函館にある組は「尾崎組」という名前だった気がする……。


 そんな地元の組を差し置いて“街の番人”とは。一体、どういう輩なのだろうか。俺は疑問に思いつつ改札を出て駅の構内を歩き出す。


 しかし。


「お兄さん、ウニとイクラを買っていかんかね?」


 途中で呼び止められた。声のした方を振り返ってみると今度は50代前半くらいのおっさんが番重ばんじゅうを下げている。


「ウニとイクラ?」


 俺は思わず聞き返す。するとおっさんは答える。


「そうさ。函館の名物、塩水ウニと生イクラだよ」


「へぇ……いくらだ? 2つで幾らになる?」


「1瓶につき5千円だよ」


「……高ぇな」


 この駅では土産物も売っているらしい。ただ、そのおっさんは駅の職員ではなさそうだ。見たところ瓶詰めの食品を個人で売り歩いているといったところか。


「どうする? 買う? 買うよね?」


「ふっ、申し訳ねぇが俺は魚介系をあまり食わねぇんでな。遠慮させてもらうぜ。じゃあな」


 そう言って立ち去ろうとした瞬間。


「ああ!?」


 おっさんの声色が変わった。


「てめぇ、今なんつった!」


「……何だよ」


 俺は思わず聞き返す。おっさんは続ける。


「買わねぇだと? ふざけんじゃねぇぞ? てめぇ、ぶっ殺されてぇのか?」


 よくあるパターン。この手の行商は何が何でも品物を客に買わせようとする。されどお生憎様、俺にはどんな圧力も通用しない。


「おっさんよぉ、俺の話聞いてたか? 俺は魚介系を食わねぇって言ったんだよ。ウニとイクラの瓶詰めなんざ誰が買うかよ」


「ああ!? てめぇ、馬鹿にしてんのか?」


「してねぇよ。ただ、俺には必要の無い代物だって言ってるだけだぜ」


 その時、俺の周囲に気配が集まった。ほんの一瞬のうちに厳つい男が3人、俺の周りを取り囲んだ。なるほど、これは随分と手回しが良い。


「よう? 買うか買わねぇか、この場で答えはひとつしかぇわな? どうするんだ?」


 俺は笑いを堪えることが出来なかった。無論、深いため息と共に。


「はあ。これだから田舎者は困るぜ。数人で取り囲めば客は必ずビビッて買うと思ってやがる」


 おっさんは怒り心頭といった様子で凄んでくる。


「んだとゴラァ!?」


 しかし、俺は一切怯まない。


「モノを売る基本がなってねぇ。そんな汚らしい瓶に詰められた食いもんを誰が買うってんだよ。売るんだったらもっとまともな包装をしねぇとな」


 逆に凄み返した。すると案の定、怒号が帰ってきた。おっさんは顔を真っ赤にして叫んだ。


「てめぇ、舐めてんじゃねぇぞ!?」


「舐めちゃいねぇよ。だがな、その程度でビビると思ってんなら大間違いだ」


 俺は余裕の笑みで言い放つ。おっさんは激昂して瓶詰めのウニとイクラを投げ捨てた。そして懐からナイフを取り出す。


「殺すぞ」


 おいおい。こんな駅のド真ん中で刃を抜くか。ここは明らかに人通りも多いというのに何をやっているのやら。


「おい、おっさん。そんな物をを出しちまったら後戻りは出来ねぇぜ。ヤクザの癖に喧嘩の道理も分からねぇか」


「はっ、ヤクザだと? そんな軟弱な奴らと一緒にするんじゃねぇ!」


「……尾崎組じゃねぇのかよ」


 本職の極道ではなく単なるチンピラというわけか。まあ、何にせよ俺に彼らの機嫌を取ってやる気は無い。次の刹那には鋭い視線で返した。


「……」


 瞳の奥に無言の威力をぶつけた俺。睨まれてビビったのか、おっさんは一歩後退あとずさる。


「お、おい。何だってんだよ」


 俺はフッと鼻で笑い、衝撃波が出ぬよう微妙に加減を調整しながら拳を繰り出す。勿論、当てはしない。顔のギリギリ手前での、所謂“寸止め”だ。


「ひいっ……!」


 おっさんが尻餅をつく。


「は、速い!」


「見えなかった!」


 手下らしきチンピラたちも動揺して青ざめてゆく。その光景に周囲の通行人もざわつき始めた。だが、俺は構わず続ける。


「喧嘩を売る相手を間違えたようだな、おっさんよ」


「……っ!」


「どこのチンピラか知らねぇが、弱者の癖に本職の真似事は止めた方が良いぜ。無駄に傷つくだけだ。じゃあな」


 それだけ言って俺は歩き出す。すると背後からこんな声が聴こえた。


「ま、待ってくれ! あんた、何者なんだ!?」


「馬鹿に名乗る名前はぇよ」


「まさか……!?」


 おっさんが息を呑んだのが分かった。そして俺の背中に向かって叫ぶ。


「あ、あんたがあの『ローグマン』だったのか……! お、お願いだ! もう喧嘩は売らねぇから助けてくれ!」


 そんな命乞いにも似た叫びを聞き流しながら俺は歩き続けるのだった。第一にそのローグマンとかいう奴ではないのだから。


 いけない。少しばかり無駄な時間を過ごしてしまった。早いところ街へ出て長谷川の捜索を行わなくては。

 驚きと好奇の視線を送って来る観衆たちを掻き分け、俺は駅を出る。その直後、ひんやりとした冷気が包み込む。流石は北海道、冬は寒い。


 ひとまず俺はタクシーを捕まえて市街地へと向かうことにした。メインストリートと駅前が必ずしも近くに位置していないのは地方都市によく見受けられる光景だ。


 駅前のロータリーで運よく業者を見つけたので颯爽と飛び乗る。


「お客さん、観光ですかい?」


 運転手が聞いてくるので俺は答えた。


「ああ。人が多く集まってる所を知らねぇか。せっかく来たからにゃ函館の夜を楽しみてぇんでな」


「だったら、本町なんかどうだい。あそこは夜になるとネオンが綺麗だよ」


「おう。そいつは良いな。じゃあ、そこに頼むぜ」


 運転手の言った通りに俺は本町を目指すことにした。開港通りをまっすぐに進んで国道278号線に入る。大森公園沿いに差し掛かると海も見えてきた。


 水平線を照らす函館の夕焼けが実に美しい。やはり北海道は空気が澄んでいるからなのか、他の都市よりかは綺麗に見えた気がした。


 やがて車は市街地に入り、大通り沿いを走ってゆく。


「どうだいお客さん。函館は良い所だろ?」


 運転手が聞いてきたので俺は答えた。


「ああ、気に入ったぜ」


 すると運転手が言う。


「ところでお客さんは何しに函館まで? ただの観光客ってわけでもねぇようですが?」


「いや。ただの観光だよ。たまには北海道くんだりまで酒を飲みに出かけるのも良いと思ってよ」


 俺がそう言うと運転手は驚いた顔をした。どうやら俺の服装を見てヤクザ者だと判断しているらしい。まあ無理もないだろう。普通のサラリーマンがこんな格好をしているわけがないのだから。


 そんなやり取りをしているうちに車は本町の繁華街へと到着した。函館山や八幡坂といった観光名所からは少し離れているが、この界隈は市内で最も賑わいを見せる地区らしい。


「お客さん、ここらで良いですか?」


 運転手に聞かれたので俺は答える。


「ああ。ここで良いぜ」


 料金を払ってタクシーを降りると、そこはもう夜の街だった。赤ちょうちんの店が立ち並ぶ様はまるで昭和を彷彿とさせる光景である。無論、それは同時に俺がまだ生まれていない時代の景色でもある。俺はさながら異世界へやって来た冒険者のごとき心持ちになった。


「さて、と」


 ここは初めての地だ。まずは情報収集から始めるべきだろう。俺は手始めに老舗感の漂うボロボロの居酒屋の暖簾をくぐり、カウンター席に腰かける。そしてビールを注文した。都会も田舎も情報はいつも盛り場に集まるものと相場が決まっているのだ。


 程なくしてキンキンに冷えたジョッキが目の前に出される。


「……」


 一口飲んでみるも、特にこれといって味は感じない。だがまあ飲めないわけでは無いのでそのまま一気に飲み干したのだった。それから肴の冷や奴を30分くらい経った頃、カウンター越しに店主へ話しかける。


「……なあ。ちょっと良いか?」


「へい、なんでしょう」


「昨日、素っ裸の男が貨物列車のコンテナから出てきたって事件があったろ。あれはどうなったんだ?」


「えっ。何。お客さんは報道関係ですか」


「まあ、そういうところだな」


 俺は適当に誤魔化した。すると店主はお茶を濁す。


「申し訳ありませんが、お客さん。その件について話せることはありません。どうかご勘弁を」


「……ほう。その反応は『知ってる』ってことだな」


 そもそも少し含みを持たせた言い方なのだ。おまけに何だか意味深な顔をしている。ここで引き下がる俺ではないので、財布から金を取り出した。


「会計に色を付けてやるよ。知ってることを教えてくれ。な?」


 すると店主の瞳の色が変わる。


「いや、その……」


「何だ。もっと欲しいのか。これでどうだ?」


 俺は懐から万札をもう一枚取り出すとカウンターの上に置いた。すると店主はきょろきょろと辺りを見回しながら小さな声で囁いてくる。


「お客さん、例の件を何で知ったんですか」


「テレビのニュースだ。しかし、俺はその件に知り合いが絡んでいると思っている。ひらたく言えば例の全裸男は俺の知り合いなんじゃねぇかと思ってる」


「そうなんですか!?」


 驚いた表情を見せた男。そんな彼に俺は改めて問う。


「だから頼む。教えてくれ。この通りだ」


 俺はカウンターに額を擦りつけるように頭を下げた。


「……」


 すると男は言う。


「分かりましたよ、お客さん。話しましょう」


 そして彼は語り始めた。


「実はですね……その事件には続きがあるんですよ」


「……というと?」


 俺が聞き返すと店主は言った。


「メディアでは報道されていないことですが、実はあの後で海に落ちたんですよ。その人」


「海に落ちた!?」


「ええ。鉄道警察に追いかけられてね。自ら飛び込んだようです。それからどうなったかは分かりません。私が知っているのはそこまでです」


 どうにも言いづらそうな表情をしている。


 海に落ちた……!?


 だとすればもう終わりではないか。この厳寒期に海水が冷たいのは言うまでもない。おまけにそいつはかなり衰弱していたはずである。


 真偽の程はさておき、店主がこれ以上に口を開くことはないと感じた俺。


「そうか。分かった。ありがとよ」


 店主に礼を言って店を出ることにした。しかし、最後にこれだけは聞いておくことにする。


「なあ、あんたはそれをどこで知ったんだ?」


 すると店主の顔に動揺が浮かぶ。


「そ、それは……すみません。言えません。その方面から口止めをされているものでね。お役に立てず申し訳ない」


「ああ。そうかい」


 俺は即座に嘘だと直感した。


 口止めをされているというなら何故に海に飛び込んだ旨までを話したのか。傭兵時代に心理戦を学んでいるのでよく分かる。


 この男は明らかに偽情報を伝えようとしていると。おそらくは口止めをしたというその人物こそが何らかの詳細を知っていよう。


 きな臭い。全裸男が長谷川か否かはさておき、どうにも胸騒ぎがする。何か妙なことに繋がっていなければ良いのだが。

「んじゃ、ごちそうさま」


 俺は勘定を済ませて店を出た。


「……」


 気温はマイナス1度。息を吐くと即座に白い煙と化すほどに空気が凍てついている。そんな中でも本町の人通りは多く、辺りを頻繁に酔客が行き交う。


 時刻は既に22時を回っていた。地方では夜更けになれば人手が減ると聞いたが、この函館本町に限っては例外のようだ。


「さて、どうするか」


 俺は考える。普通に聞き込みを行うだけでは埒が明かないと見た。正確な情報を得られる方法は無いか。となれば、そうした情報筋たちが集まる場に行かなくては。この街のディープスポット。陽の当たる道を歩けぬ者たちが群がる空間にこそ有益な情報は存在しているものである。


 となれば、ひとつしかない。


 賭場を探そう。こうした歓楽街では必ずといって良いほど非合法な賭けが行われている。ならず者たちが人目につかぬ場所に集まって博打に興じているのだ。


 俺はひとつの方向性を見つけ出していた。表通りでの情報収集には限りがある以上、もはや裏社会の住人たちをあたってみる他ないと。


 この街には尾崎組があったと思う。中川会の情報によれば彼らは博徒系の組織で、函館の街を丸ごと仕切っているとか。ゆえにこの街のどこかに賭場があると考えるべきなのだが……。


 周囲を見回したところで、俺はあるものを見つけた。


「あれっ?」


 思わず声が出る。屋台が立ち並ぶ通りの片隅に人だかりができているのだ。近づいて行ってみると、威勢の良い声が飛び交っている。


「さあ! 張った張った! 倍率は3倍! 当たれば大儲けだよ! みずみす逃す手は無いよぉ!」


 どうやらここは賭場らしい。サイコロを使った丁半博打。江戸時代に始まったとされる日本古来の遊びで、もちろん違法な部類に入る。


 博徒系とはいえ中川会本家は賭場を開いたりしないのだが、一応ルール自体は知っている。この空気感は嫌いではないと思った。まるで祭りのような活気があるからだ。


「さあ! 張った張ったぁ! 倍率3倍だよぅ!!」


 しかし、まさかこんな街中で、それも屋外で堂々と博打に興じているとは驚いたものだ。警察の取り締まりが怖くはないのだろうか。


 もしかしてこの辺りを仕切る尾崎組は警察と相当に癒着しているのか……いや、でも先ほどのチンピラたちは「軟弱者」と蔑んでいたような……。


 まあ、良い。俺はその中に混じってみることにした。


「俺も一枚、良いか?」


 すると丁半博打の胴元らしき人物が答える。


「おうよ! お兄ぃさん。景気はどうだい」


「まあまあだな」


 俺は適当に受け答えしつつ、財布から現金を出す。


「さあ! 張った! 倍率3倍!」


 胴元が言う。俺はそれに応じる。


「丁だ」


 すると周囲の者たちがざわついた。無理もない。いきなりふらっと現れた男が着座して数秒で答えを述べたのだから。


 胴元が問う。


「おいおい、お兄ぃさんよぅ。いくら出すんだい?」

 俺は答えた。


「5万だ」


 するとまたしても周囲がざわつく。どうやら俺の懐具合に驚いたらしい。確かにこんな場所でいきなり大金を賭けようと言言い出す馬鹿はおるまい。


 だが、俺には勝算があったのだ。


 何故なら音で分かるからだ。椀にサイコロが入る瞬間には「三」と「五」だった。それが5回に渡ってぶつかり合ったとなれば……。

 その場に居た誰もに凝視される中、俺は堂々と答えを述べる。


「おう。『一』と『一』で丁だ。さっさと開けてくれや」


 すると胴元は不敵に笑った。


「へへっ。こりゃあ度胸のある兄さんだ」


 そうして彼は椀に手をかける。


「……勝負!」


 椀の中のサイコロの出目が見えた瞬間、その場にどよめきが走った。


「ピンゾロの丁!」


 当たりだ。その瞬間、周囲からは拍手と歓声が上がった。


「すげえ! 15万を一発で当てたぞ!」


「何者だよあんた!?」


 そんな声が飛び交う中、俺は言った。


「さあな」


 特に素性を追及されることなく済んだのは良かった。


 尤も周囲の者たちは俺の正体などに興味はないらしいな。ただ単に博打の勝ち金に目が眩んでいるだけのようである。まあ、それも当然だろう。こんな場末で博打に興じている連中だ。皆一様に生活に困窮しているに違いない。


 無論、俺がこの賭博の列に加わったのは金が欲しかったからではない。昨晩の全裸男について情報を探るためだ。


 とはいえ、来て早々に詮索を行うと怪しまれる。少しばかり博打で遊んで空気に馴染むとしよう。


「んじゃあ、次ィ行きますぜ! 入りました!」


 サイコロが椀に入る。


「さあ! 張った! 倍率3倍!」


 さて、次は何が出るか。俺は若干悩んだがすぐに答えを出す。


「今度は半だ。『二』と『五』の半」


 すると周囲がざわついた。


「おいおい……」


「何者だよこいつ……」


 俺はそんな周囲の声を無視して言った。


「さあ! 半だ!」


 すると椀を開けた胴元が叫ぶ。


「……グニの半! 恐れ入ったよお兄ぃさん!」


 今度は俺の一人勝ちだ。他の連中の掛け金も含めて合計45万円もの大金を手にした俺。まあ、こんなものだろう。


「つ、次は負けねぇからな!」


 他の客が苛立ちを見せる中、俺は言った。


「おうよ。博打ってのはこうでなくちゃ楽しくねぇ」


 そんな俺に対して胴元は問うてくる。


「ところでお兄ぃさん、あんた何者だい?」


 さて、どう答えたものか。適当にはぐらかすのが無難か? いや、ここは正直に答えよう。どうせすぐにバレることだ。それに俺が何者かなんてことは彼らにとってさほど重要ではないはず……。


「ああ、実はな……」


 と言いかけたところで俺は口を噤んだ。理由は単純である。中川会のヤクザだと分かれば地元の組が黙っていないからだ。


「……観光客だよ」


 それだけ言っておく。


「ふふっ。運の良い観光客がいたもんだ」


 胴元は納得したような素振りを見せるが、やはりどこか怪しんでいるようだった。まあ、それはそうだ。こんな場末の博打場で一見の客が大勝ちしたのだから。しかもそれがハタチそこらの若造となれば尚更だ。しかし、ここで深入りしてくる様子はなさそうだと思った俺は話を続けることにした。


「ところでよお……あんたら、最近何か変わったことは起きなかったか?」


 すると彼らは顔を見合わせると言った。


「ああ、あったぜ。貨物列車から素っ裸の男が出てきたことかな」


「ほう?」


 俺が食いつくと彼らは話を続ける。


「ああ。何でもそいつはシャブ中らしくてな。街でさんざん暴れた後に海へ飛び込んだらしいんだ」


 先ほどの居酒屋の店主と同じことを言ってのけた。それはつまり噂は事実ということか。いや、信じるには未だ根拠が薄い。


「それは誰から聞いた?」


「誰からも何もこの街の共通認識って奴よ。なあ」


 するとその場に居た誰もが一斉に頷く。


「ああ。そうだ。そうだとも」


 どういうことだろうか。誰もが口をそろえて「海へ飛び込んだ」という。まるでそれ以上の詮索を恐れているかのように。


「……なるほど」


 俺がそう呟くと、胴元が咳払いをして声を上げる。


「じゃあ、気を取り直して! 今度もまた3倍だよ! 張った張った!」


 椀の中に勢いよくサイコロが投げ入れられる。鞍馬菊水流の修行で鍛えた動体視力と聴力を使えば大体の予想は付く。実に簡単なことだ。


「ああ。『六』と『六』で丁だな」


 ギョッとして周囲の客たちがこちらを見た。


「だ、誰だ! 丁に賭けた奴は!」


 俺は答えた。


「俺だよ」


 すると彼らは言った。


「くそっ! やられたぜ!!」


 そんな彼らをよそに胴元が問うてくる。


「お兄ぃさんよぅ……本当に何者だい?」


「何者だって問題ねぇだろ。ほら、さっさと開けろや」

 俺に促されて胴元は椀を開ける。そこに入っていたのはやはり俺の予想通りの光景。


「勝負! 揃いの丁!」


 またまた俺の勝ちだ。


「ちくしょう! また負けた!」


 悔しそうにする彼ら。胴元は戦々恐々とし始めた。


「あんた、マジで何なんだよ……!」


「さあて。掛け金を貰おうじゃねぇか」


「ちょ、ちょっと待ってな」


 そう言って席を外して何処かへ去って行く胴元。先ほどのレートは3倍だった。ゆえに投じた45万円が135万円になって戻ってくるはず。


「おい、そこの」


 俺は先ほどからこちらをチラチラと見ている男に声を掛けた。その男はビクリとして言う。


「は、はい?」


 率直に問う。


「本当に貰えるんだろうな?」


 そんな俺に対して男は答える。


「そ、そりゃあもう! この業界じゃ信用が命ですんで!」


 まあ、払えないとあればその時は力ずくで回収するまでだ。胴元を締め上げて尾崎組事務所へご案内いただくとしよう。それよりも今は情報の収集が先決だ。


 誰か情報通らしき人物はいないか。まあ、こうなればいっそのこと尾崎組に聞いた方が速いかもしれない。しかしながら、どうにもあの件に関しては謎の箝口令が敷かれているように見えるが……?


 そう思っていると、胴元が戻って来た。


「お兄ぃさん、待たせたね」


「おう。持ってきてくれたか」


 俺は渡された札束を確認する。


「ほう?」


 意外にも額は揃っていた。間違いなく135万円だ。すると胴元は俺に問うた。


「ところで……さっき貨物列車がどうこう言ってたけど? お兄ぃさんは何か関わりでもあるのかい?」


 その問いに俺は答えることにした。


「ああ、実はちょっとした知り合いでな。まあ、そいつが海へ飛び込んだとか何とか言ってたからな。気になったんだよ」


「なるほどねぇ……」


 そう言いつつも納得していない様子の胴元。俺はそんな彼に問うた。


「ところであんたらは何か知ってるか? その貨物列車の運転手について」


 すると彼は俺の耳元で囁くように答える。


「さあ? 俺たちもそこまでは知らねぇな」


「そうか……」


 まあ、そうだろうと思った。この博打場は地元民のたまり場だ。海へ飛び込んだ男について噂が広まっているならとっくに話題に出ているだろうからな。


 しかし、そうなると……。


 やはり尾崎組に直接話を聞くしか手立てはないかもしれない。とはいえ、それは危険の伴う行為だ。もし仮に俺が中川会の構成員だと分かれば彼らはどんな反応を見せて来るか分からない。


 関東甲信越で2万騎の巨大組織と一介の地方組織では兵力は雲泥の差。されど地方の人間が東京者を快く思っていないことは極星連合の件で痛いほどに分かっている。なるだけ流血沙汰は避けたい。


 そうして物思いに耽っていると、胴元が言った。


「お兄ィさんよ。もし良かったら、この辺の情報に詳しい人間に会わせてやろうか」


「ほう、そんな奴がいるのか?」


「ああ。この街の事情に詳しい奴がいるぜ」


「それは良い。是非とも会わせてくれ」


 すると胴元はニヤリと笑って言った。


「付いてきな」


 胴元が手下らしき人物を差し向けて来たので、俺はそいつに付いて行くことにした。


「……」


 いくつもの裏路地を通って辿り着いたのは少し広い空き地のような場所。ここで待ち合わせと案内役は言うが……?


 直後、俺は背後から近づく気配を察知した。


 ――シュッ。


 咄嗟に左に動いて躱した俺。背後から振り下ろされたのは金属バットだった。見れば、俺を空き地に連れてきた男が右手に構えているではないか。


 なるほど。一応、事情は分かった。


「……そうか。やっぱりな。俺が調べてる件はお前らにとっては知られたくねぇ事柄だったか」


 すると男は言った。


「ああ、その通りだよ!」


 同時に物陰からぞろぞろと現れるヤクザたち。数はざっと10人といったところか。俺は尋ねた。


「で? どうする?」


 そんな俺の問いに彼らは答えた。


「決まってんだろ! ここで口を塞がせてもらうぜ! どっから入り込んだネズミかは分からんが、この街のルールを破る奴は許しちゃおけねぇ!」


 そんな掟が函館にあったなど初耳だが、まあ良い。こいつらの目的は俺の口封じだ。つまり俺を始末するつもりらしいな。


 ならば話は早い。こちらも遠慮なくやらせてもらおうではないか。


 だがその前に一応確認しておこう。


「お前ら、貨物列車から出てきたっていう例の男とどういう関わりがある? そいつの名前を知ってるのか?」


「うるせぇ!!!」


 問いには答えず、連中は一斉に飛び掛かって来る。やれやれ。問答無用とは恐れ入るな。だが、構わない。こちらも容赦するつもりはないからな。


 俺は正面から来た男に拳を食らわせ、一撃で倒す。


「この野郎!」


 続いて殴り掛かって来た別の男に対しては足払いで転ばせる。そしてそいつの腹に拳を叩き込むと、そいつは意識を失って動かなくなった。これで2人……。


「こいつ! 強いぞ!」


「ぐへぇ!」


 ドサッと倒れ込む男。所詮は素人の動きだ。軽く身を捻るだけで攻撃をかわすことが出来る。


「この野郎!!」


 そんな声と共に放たれた短刀の突きを紙一重で避け、相手の腕を取ると同時に腕を折り、勢いに任せて背負い投げを決める俺。


「うぎゃっ!」


 地面に叩き付けられた男はそのまま気絶してしまったようだ。他の奴らが一斉に銃を構える。だが、どんな得物を出そうと俺には関係の無いこと。


おせぇよ」


 その瞬間に地面を蹴り、あっという間に距離を詰めて彼らの前に立ちはだかる。


「何っ!?」


「ば、馬鹿なっ!」


 常人の肉眼で見ればコンマ1秒にも満たぬうちの出来事。戦慄するのも自然の至りだ。俺はそのまま奴らを回し蹴りで払った。


「がっ!」


「ぐはっ!」


「うぐっ!」


 次々と倒れていく男たち。口ほどにも無い奴らだ。


「……で? お前はどうするよ?」


 そんな俺に対して、一人残った男が言う。


「ま、待て! お、俺たちはただ雇われただけだ!」


「雇われた? 尾崎組の人間じゃねぇのか?」


「違う! 俺はヤクザじゃねぇ! 尾崎組はとっくの昔に壊滅してる! 俺はただ雇われただけのカタギなんだ! だから殺さないでくれ!」


 俺はそれを躱すとカウンター気味に拳を打ち込む。しかし、それは空を切っただけだった。


「なっ!?」


「甘いんだよ!!」


 ナイフは囮だったか。回避と反撃の間に生まれる一瞬の隙を狙っていたようである。直後、強烈なアッパーが顎に直撃した。


「ぐおっ!?」


 鈍い音と共に脳が揺れる。視界がぐらつく。それでも俺は倒れなかった。歯を食いしばり、どうにか意識を保つことに成功する。


 しかし、その隙を見逃すほど歌川は甘くない。


「はああっ!!」


 今度はナイフによる斬撃が繰り出される。だが、俺はそれを紙一重で避けることに成功したのだ。


「何っ!?」


 驚く歌川に対し、俺は拳銃を抜いた。


「くらいな!」


 発砲音が響き渡る。そんな連続で放たれた銃弾に歌川は反応して見せる。


「甘い!」


 横っ飛びして回避すると同時にナイフを投げつけてきた。俺はそれを躱すと銃を構え直す。だが、その時には既に歌川の姿は無い。


「おおっ!?」


 なんと歌川は得物を投げることで作った隙を活かし、真上に跳躍していたのである。それも常人では考えられぬ高さまで。


「貰ったぁぁぁ!」


 直後、奴は降下しながら拳銃を連発してくる。


「くそっ!」


 完全に不意を突かれた。俺は浴びせられる銃弾を右へ左へと避けながら後退するしかなかった。


「どうした! 逃げてばかりじゃ勝負にならんぞ!」


 歌川は嘲笑うかのように言った。俺は奴を睨み付けながら思うのである。あの野郎、調子に乗りやがって! だが、その一方で疑問にも感じていた。


 何故に奴はここまで強いのだろう? この男は自らをカタギの社長と名乗った。歌川興太郎という人間はヤクザの構成員ではないはずだ。


 ならばどうしてこれほどまでに強いのか? この動きは明らかに古武術の経験者であるが……?そんなことを考えている間にも歌川の猛攻は続く。


 リボルバーの弾倉を撃ち尽くしたかと思いきや、さらにポケットからもう1丁の銃を取り出して発砲してくる。よって銃弾が放たれる度に俺は回避行動を取らざるを得ない。


「避けてばっかりか! 情けない奴だぜ!」


 歌川は嘲笑うかのように言った。その表情を見た俺にスイッチが入る。


「舐めやがって」


 直後、俺は地面を蹴って駆け出す。


「何っ!?」


 歌川の驚く声が聞こえた。当然だ。苛立ち任せの爆走に出た俺が超高速で間合いを征服したのだから。


「速い!」


 俺は容赦なく拳を叩き込む。


「うおっ!?」


 その一撃は見事にヒットしたようだ。奴はよろめきながらも体勢を立て直そうとするが遅い! 俺は更に追撃を加えた。


「ぐはっ!」


 奴は地面に倒れ込む。俺はその隙を見逃さず、拳銃を取り出して引き金をひこうとした。だが。その時。


「おい! 何だ! 何の騒ぎだ!?」


「あっちの方から聞こえたぞ!!」


「さっきのは銃声じゃないか!」


 通行人が騒ぐ声が聞こえた。まずい。戦いにかまけて考えていなかったが、ここは歓楽街に程近い空き地。銃声が響けば野次馬も集まるというもの。


 熱が一気に冷めてゆく心地がした。


「ちっ! 邪魔が入ったか!」


 歌川は舌打ちすると起き上がった。その目は血走っているように見える。どうやら相当頭に血が上っているようだ。


「この期に及んでまだ続けるつもりか? もう勝負はついただろ」


 俺が吐き捨てると奴は鼻で笑うように言った。


「馬鹿を言え! 俺は正義の味方だと言っただろう!敵を前にして負けを認めるなど有り得ん!」


 そんな奴に対して俺は呆れ果てる。


「お前、正真正銘のアホだな……」


「何だと!?」


「このままやり合い続けてどうなるよ。遅からず警察サツが来て捕まっちまうだろうが。それはお前だってまっぴら御免だろう」


「馬鹿な! 俺は正義の味方だぞ! 警察が来たところで逮捕されるのは俺ではなく貴様の方だ!」


「だったらさっきの舌打ちは何だ。人に見られて通報されるのを恐れてなかったら『邪魔が入ったか!』なんて言葉は出ねぇんだよ」


「ぐぬう……」


 図星か。


「分かったらさっさと逃げるこったな。まあ、お前がどうしようと知ったことじゃないがな」


 俺は諭すように語りかけるが、奴は首を横に振るばかりである。


「断る! 正義の味方はどんな時でも決して屈しないのだ!」


「そうかい。んじゃ、俺はここらでおいとまさせてもらうぜ。勝手にすれば良いさ」


 そんなやり取りをしている間にも野次馬が集まりつつあるようだ。何だかんだ言っても本心では「まずい」と感じたのか。結局、歌川は歯噛みしながら逃げ出そうとする。


 ところが。


「うおっ!?」


 突如としてうずくまった彼。右足のあたりを擦っている。どうやら先ほど跳躍した際に足を挫いたようだ。


 俺としてはこのまま奴を置き去りにしても良かったのだが――気づけば俺は歌川を担ぎ上げていた。


「なっ!? 何をする!?」


「うるせぇ。黙ってろ」


 俺はそのまま走り出す。無論、歌川を担いだままである。奴の体重は如何ほどだろうか。細身の体つきにしてはやけに重い気がしたが、まあ良いだろう。とにかく今はこの場を離れることが先決だ。闇に紛れて激走し、なるだけ人に出くわさないよう小路から小路を伝って逃げる。函館は初めて訪れる街。土地勘が無い場所ゆえに緊張したものだ。


「……」


 幸いにも周囲に人影はないようだし、これなら問題なく逃げ切れるはずだ。そう判断した俺は足早にその場を後にしたのである。


 それから数分後のこと。


 俺たちは人気のない公園へと辿り着いていた。


「ここまで来れば大丈夫だろ」


 俺は一息つくと歌川を下ろした。奴は未だに戸惑っている様子である。だが、それも無理のないことだ。何しろつい先ほどまで殺し合いをしていた相手が突然自分を助けてきたのだから。


「……どういうつもりだ?」


 やがて絞り出すような声で尋ねてくる歌川に対し、俺は答えることにした。


「別に深い意味はねぇよ」


 本当にそれだけだろうか。


 俺自身も疑問に思うがそれ以上考えるのをやめることにする。強いて考察するなら、喧嘩で決着がつかぬままの相手をみすみす逮捕させたくはなかったというところだろうか。まあ、今はそれよりも優先すべきことがある。


「怪我の方は大丈夫か?」


 俺は歌川に尋ねた。奴は足を擦りながら答える。


「ああ、問題ない」


 だが、その表情は優れないようだ。無理もないだろう。あんなに高い跳躍から着地に失敗すれば誰だって足を挫くに決まっている。まあ、俺としては好都合だったがな。おかげで奴にトドメを刺す一歩手前まで迫ったわけだし。


「……助けてくれて感謝する」


「よせやい。善意で助けたわけじゃねぇんだ。あのままお前が警察にパクられてたら不完全燃焼で終わるところだったろ、俺はそういうのが嫌なんだよ」


「ふんっ」


 歌川は鼻を鳴らして言った。どうやら少しは落ち着きを取り戻したようである。


「それで、お前はこれからどうするんだ?」


 俺は尋ねた。すると奴は答える。


「とりあえず家に帰る」


「そうか。じゃあ、俺は帰るぜ」


 これ以上ここにいても仕方がないだろう。そう思い、立ち去ろうとする俺の背中に奴の声がかかる。


「トドメを刺さなくて良いのか?」


 少しばかりの悔しさを孕んだ声だった。まあ、そりゃそうだろうな。敵に情けをかけられたのだ。俺だって同じ立場ならそう問いかけるだろう。奴は続けた。


「今なら俺を殺す絶好のチャンスだぞ? なのに何故それをしない?」


 俺は思わず苦笑するしかなかった。まったくもって面倒な奴だなと思う反面、どこか憎めない部分があるのもまた事実である。


 だからだろうか。俺はついこんなことを口走っていたのである。それは自分でも予想外の一言だった。


「翼をもがれた鳥を殺した所でそれは“喧嘩”じゃなくて“処刑”だ。つまらんことはしたくねぇんでな」


 それだけ言い残すと俺は歌川に背を向けて歩き出す。背後から何やら声が聞こえてくるが無視することにする。


「おい、待て!」


 奴が追いかけてくる気配は無いようだ。どうやら諦めたらしいな。まあ、当然と言えば当然だが。それにしても不思議な奴だったと思う。ヤクザではないはずだし、カタギの人間にしては妙に肝が据わっているというか喧嘩好きというか……とにかく変な奴だと感じざるを得なかったのである。


「やれやれだぜ」


 そんな呟きを寒空に放ち、俺は函館の街を歩いた。何にせよ本題に戻らなくては。この港町に居るであろう長谷川記者を救出しなくてはならないのだ。


 ただ、もう今日は無理だ。夜もだいぶ更けてしまっている。この時間から捜索を行ったところで手がかりを掴めるわけでもあるまい。


 俺は止む無く宿を取ることにした。五稜郭近くのビジネスホテル。観光客向けで何時からでもチェックインが出来た。


 まったく、とんだ計算違いだった――。


 冷めやらぬ興奮。燃えるような喧嘩をしたのは先月以来。ただ、同時に一度ならず二度までも不完全決着に終わってしまったことへの苛立ちも募る。


 あと少しでトドメを刺せていたというのに。状況から考えれば俺の方が圧倒的に優勢だったというのに。ほぼ勝ちは見えていたというのに。


 俗に『逃した魚は大きい』と云うが、その意味が身に染みるように分かる。決着をつけたい。そうでなくては心の憂さは晴れないだろう。


 しかしながら、一方で気になる。あの男は何故に俺を襲ったのか。街を乱す不届き者を排除しようとの考えらしいが、何かを隠しているようにも見える。もしや長谷川と何か関係があるのではないか。俺が人探しをしている分かった瞬間に攻撃を仕掛けてきた。とすると、あの歌川なる男が長谷川を監禁している可能性も出てくる。


 だが、だとすれば腑に落ちない点もある。あの男はヤクザではないと言っていたが、それは本当だろうか? もしも嘘だとしたら何故にあんな真似をしたのだろうか。


 考えれば考えるほど深みにはまっていく気がする。しかし、いくら考えても答えは出ない。ならば今は身体を休めるべきだろう。俺はベッドに横になることにしたのだった――。


 翌朝のこと。俺は目を覚ますと身支度を整えた後に宿を出たのである。昨夜は眠れたことには眠れたが、それは快眠とは程遠いものだった。


「……行ってみるか」


 俺は名刺に書いてあった住所に足を運ぶ。函館市東雲町6丁目。路面電車が行き交う大通りから少し離れたところにその建物はあった。


「……ここか」


 辿り着いたのは大きな屋敷。3階建てで築年数は30年ほどだろうか。西洋風で“家”といよりは“教会”に近い外観をしている。


「屋根にはステンドグラス……いや、でもここは会社なんだよな?」


 俺は名刺と目の前の建物を見比べる。住所も名前も同じだし、おそらくここで間違いないだろう。しかし、何故だ? 何故にこんな場所に事務所を構えているのか? 建物の含めて理解が追い付かない。疑問を抱きながらも俺は門に備え付けのインターホンを押す。するとすぐに応答があった。


「はい、どちら様でしょうか?」


 丁寧な口調の若い女性の声である。俺は低い声で名乗る。


「そちらさん、歌川商会か?」


 俺が尋ねると相手は答えた。


「ええ。左様でございますけど。失礼ですが、どちら様でしょうか」


「昨晩、元町の公園でおたくの社長に世話になった朝比奈ってモンだ。その礼がしたくて尋ねたんだが。通してもらえるかい」


「……少々お待ちください」


 そして数分後。門が開き、建物から一人の女性が姿を現した。年齢は20代後半といったところだろうか。長い黒髪を後ろで結んでいる美しい女性だ。服装は黒いパンツスーツ。いかにも仕事の出来る女性といった感じである。


「お待たせしました」


 女性は丁寧に頭を下げた後、俺を事務所の中へと案内してくれた。応接室に通される間も彼女は一言も発さない。無口なタイプなのだろうか? それとも単に緊張しているだけなのか? どちらにしても沈黙が続くのは気まずいものだと思った俺は自分から話しかけることにした。


「社長はいるかい?」


 すると彼女はこちらを振り返りもせず答えてのける。


「……いらっしゃいます」

「そうか。そいつは良かったぜ」


 俺は安堵して言った。だが、彼女は続けたのである。


「……ですが、貴方を社長に会わせるわけにはいきません」


「へっ?」


 思わず変な声が出た。しかし構わず彼女は続ける。まるで機械のように淡々とした口調で言うのだった。


「……貴方にはいくつか確認しなければならないことがあります」


「何だよそれ?」


 訝しげに尋ねる俺だが答えは返ってこない。代わりに返ってきたのは質問だった。それは俺にとって予想外のものだったのである。


「……元町の公園で世話になったと仰いましたが、あの場所で何をなさっていたのでしょうか」


 さあて。どう答えたら良いのやら。馬鹿正直に『殺し合いをしていました』何て言えるはずも無いので、適当に誤魔化そうとしたその時。


 ――ブゥン。


 黒い物体が飛んできた。


「うっ!?」


 スレスレのところで躱した俺。その物体が何かは分からなかったが、何が起きたのかは分かった。前を歩く女がいきなり振り返って攻撃を放ったのだと。


「おいおい。危ねぇな。いきなり何しやがる」


 そう言って睨みつけると、女は表情を変えずに声を発した。


「私の質問に答えてくださいますか? 昨晩、元町の公園で歌川と何をなさっていたのですか?」


 女が持っているのは鎖分銅。つい先ほどまでは手ぶらだったというのに、あんなものをどこから取り出したのだろう。先端には鉄球がぶら下がっている。


「はあ。なるほどな」


 俺は呟くように言った。この女、只者ではない。俺を見る目には一切の感情が感じられない。まるで人形のように冷たい目をしているのである。


「あんた、歌川に命じられて俺を殺そうってのか?」


 俺が尋ねるも女は答えない。そして言うのだ。淡々とした口調で射抜くような視線と共に。


「こちらの質問に答えてください」


 次の瞬間、女は鉄球を投げつけた。


「ちっ」


 俺は難なく避けると女に向かって飛び掛かった。彼女は咄嵯に身を翻して避けようとするが間に合わない。わずか0.1秒ほどで俺の右手は彼女の右腕を掴んでいた。


「ぐっ」


 女は苦しそうな声を上げる。そのまま彼女の腕を折ってやろうと肘の辺りに力を込める。だが、その時。


 ――シュッ。


 背後から何かが接近する気配を察して俺は真上に跳躍する。すると一瞬前まで俺の頭があった場所に何かが通り過ぎた。


「はあっ!」


 着地と同時に俺は背後から襲いかかってきた人物に向かって回し蹴りを繰り出す。だが、その攻撃も空を切っただけだった。


 そいつは素早く身を屈めて回避すると今度は足払いを仕掛けてくる。それもジャンプして避けた俺はそのままの勢いで壁を蹴って方向転換し、相手の顔面に拳を叩き込んだ……つもりだったのだが……。


かわした!?」


 舌打ちと共に飛び退くと距離を取る俺。今の一合で分かった。敵はよほどの手練れであると。


「……」


 その人物はナイフを構えてこちらを凝視していた。性別は女。鎖分銅の案内役と同様にOL風の出で立ち。


 歌川の部下か。それにしても俊敏な足さばきだ。


 そんな彼女に先ほどの鎖分銅の女がよろよろと近づいてゆく。右腕を押さえて顔を苦悶に歪めていた。


「大丈夫ですか?」


「……はい」


 女は短く答えると、そのまま仲間の後ろに隠れた。そしてもう一方の女が口を開く。


「お前か。昨日の夜に社長を襲ったってのは」


「いやあ、まあ。『襲った』っていうよりは『襲われた』と言った方が正しいかも分からねぇが。信じてもらえる風じゃなさそうだな」


「問答無用! 刃の錆となれ!!」


 絶叫と同時に襲いかかってきた女。俺はそれを紙一重で避けると彼女の腕を取って投げ飛ばす。


「ぐはっ」


 壁に激突した女はそのまま動かなくなった。どうやら気を失ったようだ。意外にもあっさりと片付いてしまったものだ。


「さてと、あとはお前だけだがどうする?」


 俺は残った一人に声をかける。すると彼女は答えた。


「私は社長をお守りする義務があります」


 そう言って鉄球を構える女。その目は真剣そのもので一切の迷いがないように見えた。なるほどな。こいつは生粋の忠臣のようだぜ……だが、俺も相手に取って不足は無い。


 俺は拳を構えると一気に間合いを詰める。そして彼女の顔を狙い渾身の力で突きを放った――はずだったのだけど。


「待て」


 その手は掴まれていた。


「社長!?」


 鎖分銅の女がギョッとした声を上げる。


「止めろ」


 それは静かな声だったが、有無を言わせない迫力があった。


「ですが!」


 反論する鎖分銅の女を片手で制して歌川は言った。

「もう良いんだ」


「……はい」


 渋々といった様子で引き下がる鎖分銅の女。そして彼女は自分の右手を見詰めて呟くように言った。まるで信じられないものを見たかのように……。


「私の攻撃を見切った?」


 いや、違うな。俺の動きに反応できなかっただけだ。鞍馬菊水流伝承者の身のこなしはあらゆる物体を速度で超越する。素人が勝てるわけもない。当然のことである。


「朝比奈さん、だったか」


 呆然自失となる部下をよそに俺へ視線を向けた歌川はゆっくりと口を開いた。


「うちの者が失礼した」


 そして深々と頭を下げる歌川。それは謝罪というよりも挨拶に近い声のトーンであった。俺はそんな奴の態度を見て少し腹が立ったが、すぐに平静を取り戻して言った。


「……まあ、別に気にしちゃいねぇよ」


 昨日の負傷か。歌川は足を引きずっている。ここで今さら俺に殺意を向けるようなことがあっても難なく倒しきれるからだ。


 実際、あの程度はどうってことはないと思っていた。それに今はそんな些末事よりも気になることがあったのである。


「それより。ここがあんたの会社ってことで良いんだな?」


 すると歌川は苦笑いで答えた。


「ああ。歌川商会。俺の会社さ。せっかく来たんだから案内してやるよ。訪ねてきた理由はおよそ見当がつく。昨日の“お礼”っていうよりゃ、俺に聞きたいことがあるんだろう」


「まあな。そういうことになるな」


 俺がぶっきらぼうに応じると、歌川は歩き出す。ついて来いと言われたので仕方なく後ろをついていく。ここは奴に合わせる他あるまい。


「この歌川商会は主に西洋時計の輸入販売、それから開発を行っている。いわゆる商社ってヤツだな」


「なるほどな」


 俺は適当に相槌を打つと周囲を見渡す。オフィスの中は綺麗に整頓されており清潔感に溢れている。ついさっきのバイオレンスとは似ても似つかぬ光景だ。


 だが、そんな俺の思考を見抜いたかのように歌川は言った。


「意外か?」


「別に。ただ、強いて言うなら働いてる奴が女ばっかりだな。時計職人っていえば男の仕事ってイメージだったが」


 そう。歌川に先導されて覗いた各作業部屋に居るのはいずれも女性の従業員。それも10代から10代の若い女ばかりなのだ。


「ま、そんな会社もあるってことよ」


 そう言って歌川は笑う。その笑顔はどこか寂しそうでもあったが、それ以上は何も聞かなかった。


「ところで朝比奈さんよ。あんたの用件は何だ。昨日の喧嘩の続きをやりに来たってわけでもなさそうだ」


「単刀直入に聞かせてもらう。おたくらは雑誌記者の長谷川輝彦を捕えているだろ? どこに隠していやがるんだ?」


 すると、歌川の声色から笑みが消えた。


「……はあ?」

 俺は直感した。これは図星だ。紛れもなくこの男は長谷川のことを知っている。事情を知った上で手元に監禁しているのだ。間違いない。


「あんた、何か勘違いしてねぇか」


「とぼけんなよ。長谷川輝彦はどこだ? 正直に言わねぇとボコボコにしてやるぜ」


 俺は拳を握り締める。そして全身に力を込めた。すると奴の眉間にみるみる皺が寄るのが分かった。俺の殺気に当てられて恐怖を感じているのだろう。


 だが容赦はしない。こいつは敵だ!


「……分かったよ」


 歌川は観念したように両手を上げると言ったのだ。

「確かにここに居るよ」


 それを聞いた瞬間、思わず拳を振り上げそうになるが何とか堪える。


「どこに閉じ込めてんだ? さっさと出しやがれ。殺すぞ」


「おいおい。勘違いしてくれるなよ。俺は閉じ込めてなんかいない。匿ってやったんだよ。色々とヤバい状況だったんでな」


「ああ?」


 睨みつける俺に歌川はため息と共に言った。


「あんた、編集部に頼まれてあの人を取り戻しに来たんだろう。だが、間違って貰っちゃ困る。彼を監禁したのは東北の極星連合であって俺じゃないんだから」


 そんな弁明じみた台詞と共に歌川は階段を下る。俺も後に続いて降りてゆくと、辿り着いたのは地下室。扉を開けた先には思わぬ人物がいた。


「おおっ……!」


 週刊誌記者の長谷川輝彦。間違いない。東京で見せられた写真の通り。紛れもなく本人である。鞄から今一度写真を取り出して確認してみたが同じであった。


 彼は上等な毛皮のローブを着てこれまた高級そうな椅子に座っていた。少し痩せたようであるが、一応は元気そうだ。勿論のこと俺とは初対面であるので彼はきょとんとしている。


「……」


 歌川は言った。


「迎えに来たんならそう言ってくれなきゃ困るぜ。こちとら行き場が無いってんで長谷川さんを匿っていたんだからな」


「そりゃ申し訳なかったな」


 尤も、仮に正直に事情を説明したところでこの男は俺を追い払っていただろうが。その辺りは下手に追及すれば口論になるので敢えて言わないでおくが。


「で? おたくらはどうして長谷川さんを?」


「あんたもニュースは見たろ。貨物列車から全裸で這い出してきたっていう。その後で街中をうろついてた時に会社うちの人間と出くわしたんだよ」


 見るからにただならない様子だったので一時的に匿うことに決めたという歌川。ちなみに彼が言うには全裸の長谷川と出くわしたのは先ほどの鎖分銅のOLだったそうな。若い女が素っ裸の男を見て何を思ったかは……まあ、考えないでおくとしよう。


「ふーん。それにしてもよく匿ったわな。あんたにとっちゃ何のメリットも無かっただろ?」


「仙台で週刊誌の記者が拉致られた件は俺の耳にも入っていたから、もしやと思ったんだ。それを抜きにしても困っている人間を助けるのは当然のことだ。俺は正義の味方だからな」


 なるほどな。そういうわけか。


「で? あんたはどうする? 長谷川さんを連れてくのか?」


 俺は少し考えた後で言った。


「ああ。そうさせてもらうよ」


 ただし、今の衰弱しきった身体でヘリに乗せるのは危険というもの。彼にはもう少しばかり函館で休んでいてもらうとしよう。幸いにもこの歌川という貿易商は“正義の味方”を気取るだけあって信用が置けそうであるから。


「じゃあ、準備が出来たらいつでも言ってくれ。俺としてはいつまでも居て貰って構わねぇからよ」


 気前の良い商人に礼を述べつつ、ここらで気になっていた疑問をひとつぶつけてみることにした。


「歌川さんよ。このオッサンの居所について、街の連中は『海に落ちた』と言ったんだが。奴らを口止めしたのはあんたか?」


 その問いに歌川は頷いて返した。


「いかにも。ちょいとばかり箝口令を敷かせてもらった。みすみす部外者に探りの機会をやる阿呆がいるかよ」


 だが、それにしてもかなりの人間が従っていたようにも見える。この歌川なる男はヤクザではないというのに。ますます奇妙さが深まる。


「あんた、ただの貿易商じゃないな?」


「俺の職業は正義の味方だ。貿易商は片手間の副業みたいなものさ。ヒーローをやるためにもカネが必要なんでな」


「いや。そうじゃなくて。何で一介の貿易商が町全体に影響力を利かせられるのかって話だよ」


 すると歌川は答えた。


「簡単な話さ。正義のヒーローであるこの俺の活躍に皆が賛同してくれるんだ。警察に代わってヤクザを叩き潰した、この俺をね」


 思わぬ話がこぼれた。この男が極道を叩き潰したと。そういえば尾崎組は実質的な壊滅状態にあると小耳に挟んだような。


「あんたが尾崎組を潰したってのか?」


「そうさ。奴らは任侠道の風上にも置けない連中だ。あんな連中に居座られちゃ、俺の商売に差し障りがあるってもんさ」


「なるほどな」


 聞けば尾崎組は元は道央地方の組織だったようで、今から20年ほど前に函館へやって来て阿漕なシノギをするようになったのだとか。


「奴らは地元の人間からも嫌われていたからな。警察も手が出せなかったんだとよ」


「ふうん。それであんたが出張ったってわけか」


「ああ」


 歌川は頷く。その瞳の奥にはどこか誇らしげな色が見える。だが、それも無理からぬことであろう。極道者を叩き潰して街の平和を守ったのだ。正義の味方を自称する彼にとってはこの上ない名誉に違いない。


「この歌川商会は謂わば砦みたいなものさ。極道者の横暴から街を守るには一人じゃ出来ないことも多いからな」


「でも、どうやって? カタギが筋者に競り勝った例なんて聞いたことも無ぇぞ?」


「奴らがカネにモノを言わせるやり方だったもんで、こっちもそのやり方でぶつかった。金の力で賛同者を増やしてな」


 各方面に尾崎組以上の賄賂をばら撒くことで次第に彼らを圧倒していったと語る歌川。連中の暴力に対しては暴力で応じる。腕に覚えのある者たちを寄せ集めて私兵部隊を結成させるに至ったそう。


「そいつがあのチンピラたちか」


「ふふっ。騎士ナイトと呼んでほしいな。彼らの中には元尾崎組の組員も居る。敵を味方に取り込むのも時には大切さ。出来る男の条件だよ」


「じゃあ、さっきの女どもは女騎士といったところか?」


「まあな」


 それはともかく、今では尾崎組に代わって街の大半を支配するに至った歌川商会。密輸、金融、用心棒とヤクザたちのシノギもそのまま受け継ぎ、カタギの立場でありながら裏社会の顔役となっている。話を聞いた俺は驚くというか感嘆とする他なかった。


「あんたもなかなか隅に置けない男だな」


 何しろ裏社会で搾取されていた女たちを救い上げ、自らの会社の社員として働かせることで職と居場所を提供しているというのだから大したものである。


「この函館は昔から他所でやっていけなくなった馬鹿が最終的に流れ着く土地柄でな。俺を含めて流れ者にはぴったりな街さ。そんな懐の広い函館でセコいことする奴が許せなかったんだよ」


 歌川はそう言って笑う。何とも逞しい男だ。


 何はともあれ、長谷川の身柄は確保できた。俺は携帯で総本部に連絡を入れた。すると電話口の恒元が上機嫌に言ってきたのだった。


『涼平! よくやったじゃないか! 極星連合から組をひとつ中川会うちに引っ張ってくるなんて!』


「えっ、ちょっと待ってください。どういうことです?」


『何を寝ぼけてるんだね! 韮建だよ、韮建! いやあ、実に見事な外交手腕だった! 帰ったら褒美を取らせなくてはな! ははっ!』


 きょとんとするばかりの俺を差し置いて恒元は高笑いしていた。何でも極星連合の直参だった韮建組が「中川会に鞍替えしたい」と申し出てきたのだとか。俺にとっては寝耳に水。ましてや彼らを相手に調略なんてしていない。ところが電話口の恒元は褒めちぎるばかり。俺は何が何だか分からないまま、通話を終える他なかったのである。


「韮建が中川会に鞍替え……?」


 よく分からないが、おそらくは極星連合で立場が苦しくなったがゆえの離反だろう。中川会の使者たる俺がフェニックスタワーに来ていたことで叛意が固まったのかもしれない。まあ、結果的に向こうの戦力を削ることができたのだから、それはそれで良しとしておくか。


 俺は携帯を懐中に仕舞い込み、一時的に出た廊下から歌川のいる部屋へと戻る。


「今の話、聞こえたぞ。貴様は中川会の人間か?」


 興味深そうに尋ねてきた歌川に俺は頷く。


「わざと聞かせてやったんだよ。ついでに俺の本当の名前は麻木あさぎ涼平りょうへい。中川会執事局次長、会長の側近さ」


「だとすると、その会長の命令を受けて長谷川さんを助けに来たってことか?」


「流石。察しが良いな。まさにその通りだ」


 ここで俺の真の肩書きを明かした意図は他でも無い。ここらで歌川を中川会側へ取り込むよう話を持ちかけたかったのだが……その前に彼の口から飛び出した言葉に、俺はハッとさせられることになる。


「ああ。そうそう。中川会といえば、俺たちはもうひとり客人を預かってるんだよ。確か『中川会系列の組の人間』とか何とか言ってたっけ」


 俺は困惑した。


「はあ?」


 聞けば、昨日の未明頃に函館駅近くで騒ぎになっていたという。何でもその人物は駅前のバス乗り場で倒れていたそうな。


「それは本当か? というか、何でそんな奴を?」


 俺は歌川に尋ねた。すると彼は笑って言ったものだ。


「そりゃあ決まってるだろ! 困っている人を見過ごすわけにはいかない!


「……あんた、本当に正義の味方なんだな……」


 呆れて物も言えない俺である。だが、そのおかげで貴重な情報源を得たことになるのだから文句は言えぬ。さっそく俺は歌川に面通りを頼んだ。


「この部屋だ。一応、聞いておくが。貴様は中川会の中でどの程度の立場なんだ?」


「会長の側近だが幹部ではない。それでも独自に他組織との外交交渉を担える程度には出世している」


「ほう。なかなかのやり手だな」


「まあな。で? その客人ってのはどういう奴だ?」


 俺の問いに歌川は口をごもらせた。


「おかしなやつだよ。本人は『ヤクザじゃない』と言ってる割には『自分は組の跡継ぎ候補でもある』とか何とか」


「まさか……」


 妙な予感が頭をよぎる。俺の中では一人の男の顔と名前が出ていた。その人物はつい一昨日に銀座で行方不明になったという話だ。


「じゃあ、ちょっと待っててくれや」

 そう言って歌川は部屋の扉を開けた。するとそこには想像通りの男がいた。


「……秀虎」


 そう、ソファに腰かけた小柄な青年は完全に知っている顔だ。驚いたものである。彼は俺の顔を見るなり衝撃の面持ちを見せたのだった。


「あ、麻木次長!?」


 何故に彼がここに居るのか。驚愕に包まれそうになったが、理由を辿れば大方の見当がつく。一昨日に東京から新幹線と特急を乗り継いで函館まで逃げてきたのだろう。


「あんた、何でまた函館くんだりまで? もしかして兄貴に狙われたってか?」


「違います」


「だったらどうして?」


「逃げたくなったんです」


 ボソッと呟くように答えた直後に俯いた秀虎。


 ぼんやりと俯いての「逃げたかった」とは何とも穏やかではない。身の危険を感じての回避行動ともまた違う模様。おそらくは本人なりに悩みを抱えているのだろう。


「もしかしてアレか? 色々と背負い込むものが多過ぎて家出みたく衝動的に飛び出してきちまったのか?」


 まあ、こういう人間はここで何があったかと尋ねても往々にして何も言わないものだが……。


 と、思っていると。


「は、はい。そうだと思います。たぶん」


 ボッソリとではあるが口を開いた秀虎。直後に彼が語り始めたのは想像の斜め上を行く心情の吐露だった。


「どうにでもなっちゃえば良いと思ったんです。いっそのこと僕がどこかへ消えてしまったら全てが穏やかに収まるんじゃないかって」


「……は?」


 秀虎の口から飛び出した意外な言葉に俺は思わず耳を疑った。まさか彼がそんなことを考えていたとは思いもよらず、一瞬ではあるが声が裏返ってしまったほどだ。


 慌てて「あ、いや! 違うな! そうじゃなくて!」と訂正を入れる秀虎。そして彼はその続きを語り始めたのである。


「ぼ、僕は跡継ぎ候補ですけど、兄の方が相応しいと思ってます。普通に考えてそうじゃないですか。僕なんかよりもずっと優秀な人なんです」


 秀虎の語る“兄”とは、言うまでもなく輝虎である。つまりは組長の息子だ。その兄のことを彼はこう評していた。「優秀過ぎて敵わない」と。


 さらに続けて秀虎は言ったものである。


「でも、僕を跡継ぎにしようとする人たちがいる。僕を守るためだとか何とか言って、嫌がる僕を無理やり組の跡継ぎに。本当に、どういうつもりなのか」


 その台詞を俺は如何に聞き留めれば良いものか。


「秀虎、あんたは……」


 俺は彼の名前を口にした。すると彼は言ったものだ。

「僕はヤクザになりたくないんです」


 それは切実な願いであった。だが、組の跡継ぎ候補という立場上、それを口にすれば三淵など反主流派の組員たちに迷惑が掛かるのは必定である。だからこそ誰にも言えずに溜め込んでいたのだろう。そして遂にその不満が限界に達してしまったというわけだ。生まれこそ極道の息子であるが眞行路秀虎は優男。そんな彼の背中に名門組織総長の立場はあまりに大きすぎる。


「……そうかい」


 俺はそれだけを言って頷くにとどめた。これ以上は何も言えない。言うことが出来なかったのだ。


「消えてしまいたい」


 そう言って俯く秀虎を俺は黙って見つめるばかりであった。


「なあ! あんたさえ良ければなんだが……?」


 そんな時、会話に入ってきたのは歌川である。


「函館で暮らしたらどうだい? 仕事と住む場所を手配するくらいなら出来ると思うぜ?」


「おい、歌川。勝手に話を進めるな」


 俺は慌てて制止した。しかし彼は続ける。


「良いじゃないか! 秀虎さんだってヤクザになりたくないって言ってるんだし!」


「……まあ、それはそうだが」


 そんなやり取りに秀虎は瞳を丸くしていたものだ。しかし、彼の口から飛び出した答えは意外そのものであった。


「いや、それは遠慮しておきます」


 意表を突かれたので俺と歌川は揃って素っ頓狂な声を上げる。


「っ!?」


 しかし、秀虎は淡々と言うのであった。


「ここへ来たのは一時の気の迷いでした。東京に戻ります。これ以上、僕がここにいたら会社の皆さんにも迷惑がかかるでしょうから」


「いや、でもよ。あんたさっき『消えてしまいたい』って」


「僕が戻らなきゃ多くの人が傷つき、苦しむ。分かっているんです。ヤクザにはなりたくないですけど、それは嫌なんです」


 彼の決意は固いようである。


「……分かったよ」


 俺はそれを容れる他なかった。尤も、ここで彼の逃避を尊重したところで恒元が秀虎を組に関わらせようとする以上は意に反することをしてしまいそうなものだが。


「ありがとうございました。歌川さん。会社の皆様にもよろしくお伝えください」


 そう言って頭を下げる秀虎。しかし歌川は「いやいや!」と首を横に振って言ったものだ。


「折角ここまで来たんだし、せめて街で遊んで帰ってくれよ! あそこには美味い飯屋がいっぱいあるんだぜ?」


「……いや、でも……」


「良いから良いから! な? 麻木さんも良いだろ!?」


 俺は頷いた。そして秀虎はというと、やはり困惑している様子であった。だが、歌川はそんな俺と秀虎を連れて半ば強引に函館の街を案内し始めたのだった。


「あれが函館山だ。夜景が綺麗なんだぜ?」


「あ、はい」


「あっちにあるのは五稜郭! 今は公園になってるけどな!」


 歌川は行く先々で秀虎に街のことを自慢げに語っていた。俺はその隣で黙ってついてゆくばかりである。この歌川興太郎という男は本当に饒舌で口が達者。函館の街が本当に好きなのだと分かる人柄だった。さながら観光ガイドだ。


「俺は元々、東京の出身でな。商売にしくじって居場所が無かったこの俺を函館の街は受け入れてくれたんだ。そのおかげで今じゃこうして好き勝手やってるってわけだ」


「へえ、そうだったんですか」


 秀虎もすっかり歌川に心を許している様子である。俺もまたそんな二人の様子には安心していた。何しろ暴力団の跡継ぎ候補と正義の味方気取りの実業家。両者の間にはどうしても軋轢が生じるものだが……この分なら心配はいらないだろう。


「俺はこの街が好きだよ。この街のためなら何だってやる。それがこの俺の函館に対する恩返しだ」


「地元愛が強いんですね。歌川さんは」


「おう。だからよぉ、あんたも好きになれるものを見つけてみるといい。人でも物でも街でも『そいつのためなら何だってできる』って対象がありゃ男はそれだけで幸せなんだよ」


 話を聞いて秀虎は何を思ったか。きっと自分のことに置き換えていたのかもしれないが、本心は当人のみぞ知ること。俺はただ黙って見守るのみだ。


「なるほど、そういうものですか」


 秀虎はそう呟いて頷くばかりであった。そして彼は俺に向かって尋ねてきた。


「麻木次長。あなたは何か愛しているものはありますか?」


 俺はその問いにこう答えたものだ。


「……いや、分かんねぇ」


 口をあんぐりと開けたままの秀虎。まあ、無理もない話。俺自身も少しはマシな答え方があったろうにと心の中で思った。


 実際問題、とても難しい話だったのだ。大切にしているものはある。けれどもそれを愛と呼んで良いものか、俺には分からなかった。


「ま、まあ! 今は分からなくても良いんじゃないかな!」


 どんよりとし始めた空気に耐えかねたのか歌川は苦し紛れにそう言った。


「ああ、そうだな」


 俺は頷いた。そんな俺に秀虎は続けるのだった。

「でもいつか見つかると良いですよね」


「ああ、そうだな」


 そんなやり取りを挟んで買い物を済ませ、俺たちは函館の街を後にしたのであった。ちなみに俺が歌川に勧められた土産物屋で購入したのはおしゃれなガラス製のグラスである。


「好きな女にでも渡してみな。そいつは貴様の虜になるぞ。間違いない」


 相変らず饒舌な歌川に言われ、俺は思わず「そんなもんかよ」と返した。だが、彼はこう返した。


「そんなもんだ。女なんてのはな、ちょっとしたことで堕ちちまうもんなんだよ」


「まあ、参考までに受け取っておくわ。あんたも物好きだな。さっきまでは殺そうとしていた男にアドバイスなんざ」


「逃がしてもらった借りがあるからなぁ。それに貴様とは良いライバルになれそうだ。ふふっ」


 俺のことを“貴様”と呼んでいるのはいずれまた拳を交えようという意思表示であろうか。


「ったく、物騒な野郎だ」


 俺はそう口にしつつ、内心では「嫌いじゃねぇな」と思っていた。いずれまた拳を交えることになるだろう……と。まあ、その時を楽しみにしておくとしよう。


 この男はカタギでありながら街を事実上仕切る立場にいた。それでも尾崎組の残党や警察とは未だ敵対関係にあるようで、街を全て支配しているとは言い難い。だが、いずれ函館全土を手中に入れることになる。


「それじゃあ、またな」


「おう」


 長谷川を東京へ戻す算段をつけ、俺は秀虎を連れて東京へ戻った。赤坂の総本部へ戻ると恒元の歓待が出迎えた。会長は実に上機嫌だ。


「いやあ、素晴らしい! 素晴らしいよ涼平! 編集部の皆さん方も喜んでいたし、何しろあの東北ヤクザどもから組を引き抜いたのだからねぇ!」


「俺は何も……」


「さあ今宵は祝いの宴だ。存分に楽しむが良いぞ」


 そうは言われたが俺としてはまったく覚えのないことだ。韮建組長とは会ってもいないし、当人の姿さえ見たことが無いのだから。それでも恒元は12月25日に別府から来る杵山組と同時に盃の儀式を行うと言ってのけた。


 まあ、良いや――。

 俺は特に気にせず、その提案を受け入れた。


「ところで涼平」


「はい?」


 恒元が俺にこんな問いを投げてきた。


「秀虎はどうして函館なんかに居たのかね?」


 何て答えたら良いだろう。俺は返事に困った。自分でも本当に説明が難しい事柄であると感じたからだ。


「よく分かりません。本人が言うには『色んなことから逃げ出したくなって、気付いたら新幹線に乗っていた』と。それ以上は聞き出せませんでしたよ」


 その話を聞いた恒元は顔をしかめた。


「困ったものだな。旅に出るなら周りの者に一声かけてから行けば良いものを。まったく、あれは実に人騒がせな子供だ」


 溜め息の後で葉巻に火を付け、恒元はさらに呟く。


「秀虎はあまりに小心者すぎる。親分たる器ではないな」


 まさにその通りと思う他なかった。されどもそれは本人が最も感じていること。自分に器量が無いと感じるからこそに『逃げたい』と思ったのだろう。


 ちなみにその秀虎と言えば3日ほど総本部で身柄を預かることとなった。これは恒元の思惑であり、一連の行方不明騒動を輝虎の仕業という体にして眞行路一家内部の不和を煽るためだという。ヤクザになりたくはないと思っている秀虎にとって兄との確執がますます深まるのは本意ではないだろうなと思った。


「お前が東北や函館へ行っている間、眞行路一家の者どもが何度も総本部を訪ねてきたよ。輝虎は言わずもがな。それ以外の面々も我輩のお墨付きが欲しいのだよ」


 精神的疲労で寝込んでいた淑恵はすっかり元気を取り戻したようだが、輝虎と秀虎のどちらを後継者とするかは未だ決めかねている模様。されども次男想いの彼女のこと。此度の騒動が輝虎派の攻撃を避けるための逃走だったと知れば嫌が応にも秀虎を後継者にすべく動き出すだろう。


 全ての事が戦争に向かって移ろっている。俺はそう感じたのだった。


 そんな緊迫した情勢の中では普段通りの日常風景こそが心の癒しとなる。東京に戻った夜、俺は総本部から真っ先に行きつけの店へと向かう。


 そこは勿論『Café Noble』だ。扉を開けると華鈴が出迎えてくれた。


「いらっしゃい、麻木さん。あれ? これは?」


「お土産だ。華鈴が喜ぶと思ってな」


 函館で買ったワイングラスを俺は彼女に手渡した。


「嬉しい! ありがとう! 大切にするね!」


 華鈴は笑みを浮かべてそれを受け取った。喜んでくれたようで何よりである。


「これでお酒を飲んだらきっと美味しいだろうなあ」


 琴音との一件のせいで少し気まずくなったものと思っていたが、華鈴の様子はまったくいつもと同じ。ゆえに俺は心から安堵の息をついた。


 可愛い。俺は華鈴をそう思うようになっていた。いや、そもそも俺が彼女のことを好きになったのは顔や体ではなく、その内面だ。いつも笑顔で明るく振る舞ってくれる彼女だからこそ惹かれたのだろうと思う。


 あれ、ちょっと待てよ……! この感情って……!?


 いや、深く考えるのは止めておこう。何だか久しぶりに人間らしい感情が生まれた気がする。せっかくだから大切にしたいものである。


 好きという気持ちを。


 華鈴の笑顔を守るためにこそ、もっと強くあらねばなるまいと誓った夜だった。

眞行路一家の後継者争い。銀座の猛獣の跡を継ぐのは誰か。当人たちの意とは関係のないところで、その駆け引きは激しさを増してゆく……!

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