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鴉の黙示録  作者: 雨宮妃里
第7章 そして少年は極道になった
125/252

全てのきっかけは在りし日の夜に

 夕刻。俺は屋敷へ戻ってきた村雨組長に再び呼び出しを受けた。急いで組長室を尋ねてみると、村雨は心なしか先ほどよりも不機嫌に見えた。


「遅いぞ」


「悪い。ちょっと遅れた」


 時間通りにもかかわらず叱咤されるのはいつものこと。けれども、部屋に置かれた家具類の配置が昨日とは少し違う。敷かれた畳もよく見たら新しいものに変わっている。あれから室内を少し清掃したようだ。


 若頭補佐の血で汚れたままでは、流石の村雨組長も気が滅入るというわけか。すぐに納得できた。


「……で、話って何? さっき俺を呼びに来た奴は『組長がお前に聞きたいことがある』とか何とか言ってたけど?」


「うむ。笛吹のことだ。どうにも気になることがあってな。あまり時が無いゆえ、単刀直入に聞かせてもらう」


 俺をまっすぐ見つめ、村雨は尋ねてきた。


「涼平。お前は過去、笛吹との間に何かあったのか? 話を聞く限り、一筋縄ではいかぬ因縁を抱えておるように思えてな」


「ああ……それは……」


 どう答えれば良いのやら。俺は返事に迷った。


 何故だか俺を蛇蛙のごとく敵視し、激しい憎悪と殺意を燃やしてくる笛吹。奴の感情はまったく一方的なもので、俺としては恨まれる覚えが無い。死んだ親父の代わりに息子である俺を憎んでいるとも考えたが、どうも違う。奴は麻木光寿同様、麻木涼平個人に対しても怨嗟を滾らせているのだ。


 はっきりと断言するが、俺にはまったく心当たりが無い。親父が生きていた頃、俺はまだ10歳にも満たぬ小学生。一方、笛吹は大鷲会のヤクザ。親父を介していようがいまいが、接点などあるはずもなかろう。笛吹のおかしな妄想、あるいは記憶違いとしか思えなかった。


「何でも良い。どんな些細な事でも構わぬゆえ、申してみよ。何か、奴のことで思い至ることは無いか? 亡き父君に聞かされた話などは覚えておらぬか……?」


「うーん。分からない。だって、父さんは俺に組関係の話を殆どしなかったもん。もしかしたら、俺が覚えてないだけかもしれねぇけど」


「左様か……」


 何故に笛吹は麻木涼平を異様なまでに敵視するのか。村雨としても、かなり違和感をおぼえているようだった。


「……実は今日、会合のついでにあれこれ調べものをして参ったのだ。涼平と笛吹。この2名を結ぶ因縁を紐解く手がかりを欲してな」


「えっ? 調べたって、どうやって?」


「地検の記録庫へ案内あないしてもらった。前に、向こうには知り合いがおると申したであろう。少し骨が折れたが、奴の身の上を知ることが出来た」


 横浜地検の訴訟資料保管庫なる場所へ行っていたという村雨。そこには過去50年間の刑事裁判において、被告人となった者の個人情報や経歴などを個別にまとめた膨大な冊子が保管されているとのこと。


 笛吹慶久には服役歴があるので、当然のごとく資料が存在する。生い立ちから身体情報、かかわった事件に至るまで、すべてが事細かに書き連ねられていたらしい。


 赤ん坊の時分に火災事故で両親を亡くし、親戚中をたらい回しにされた末に孤児院へ預けられたという笛吹。同じ施設には後に村雨組構成員となる木幡和也もおり、彼とは幼い頃より竹馬の友として絆を深めてゆく。


 親の愛を知らずに育った孤児が道を踏み外してヤクザとなる例は何ら珍しい話ではないが、笛吹の場合は極端だった。なんと13歳の折に施設を脱走し、横浜大鷲会で見習いを始めたというのだ。


 これには流石に驚いてしまった。


「ええっ!? じゅ、13歳で極道に!? いやいや。いくら何でも早すぎやしねぇか……? 13歳って言ったら、まだ中坊だぜ……?」


「たしかに早い気はする。なれど、藤島茂夫の気性を考えれば有り得えなくもない。差し詰め、街の片隅で行き倒れていたところを拾ったのであろう。 古来いにしえより東国の極道には左様な風習があったと聞く」


 その土地で勢力を張る親分が学校や家庭に居場所を失くしてストリート・チルドレンと化した少年を拾い、手元に置いて教育や行儀作法を躾けた上でゆくゆくは子分とする――。


 曰く、日本の裏社会ではよくある話とのこと。考えてみれば、俺自身も似たような境遇だ。孤児ではないが、世の中から締め出されて村雨の下へ流れ着いたようなもの。自分と同じく後ろ暗い身の上を抱えた人間は日本中に沢山いるのだろうなと、しみじみ思った。


「ちなみにだけどさ。木幡があんたの下に来たのは、奴が何歳いくつの時だったんだ?」


「はっきりと覚えてはおらぬ。少なくとも20は過ぎていたと思うが。村雨組ここで召し抱えるより前は、横須賀の小さな組に居たと申しておったな。古巣が大鷲会に取り込まれて解散したゆえ、大鷲と対峙する私の下へ逃れてきたのだと。あまり気には留めなかったが」


「そっか……あんたの組にはスパイとして来たみたいだけど、その前から似たようなことはやってたのかもな。大鷲会と抗争して潰された組に居たんだろ? ってこたぁ笛吹に頼まれて、そこの内情を大鷲会に流してたとか……?」


「なるほど。大いに考えられる話だな。何にせよ、奴の素性を見抜けなかったことは大きな過ちだ。取り柄のない凡庸な男であると甘く見ていた私が愚かであったわ」


 孤児院にいた頃からの縁を巧妙に使い、敵対勢力の諜報活動を行っていたとされる笛吹。喧嘩の腕は人並み以上のものを持っていて、なおかつ計算高い性格で頭も切れる。そうした文武の才を存分に活かし、若くして出世街道を邁進していったであろうことは容易に推測できた。


 事実、笛吹が大鷲会にて本部長に就任したのは27歳の時だったという。旧来の年功序列が幅を利かせる組織にしては、異例ともいえる大抜擢だ。


「……でも、どうして藤島の爺さんは笛吹なんかを幹部に就けたんだろう。何つーか、あの爺さんは古い人間っつーか。義理人情やら任侠道やらを大事にするタイプだったろ? シノギのためには手段を選ばねぇ笛吹のことは最初から気に入らなかったと思うんだけど」


「郎党どもの声を無視できなかったのであろうな。藤島が古いやり方にこだわったせいで、大鷲会の懐事情は火の車。それゆえ組の中で不満が溜まり、特に若手の間では謀反を起こす話まで出ていたそうだ」


「そっか。だから、不満を鎮めるために若手に人気のある笛吹を本部長に任じてガス抜きしたと? 正解か不正解かは別として、よっぽど追いつめられてたんだろうな。あの爺さん」


「うむ。ほとほと情けない話であるがな。所詮、藤島は己の信条よりも組の維持を優先したというわけだ。臣下の声に振り回されたら主君は終わりよ。あれでは極道などやっていけぬ。いま思えば我らが策を弄さずとも、大鷲会が崩れるは自明の理であったということだ」


 村雨組長の指摘はごもっとも。信条の違う笛吹を幹部に就けてしまった時点で、大鷲会の命運は既に尽きていたといえよう。最終的に藤島も自らの衰えによる統制力の低下を憂い、組の解散を決断している。いかに下から反発を受けようと、己の信じた道を貫き通す。それこそが親分として在るべき姿なのかもしれない。


「だいたい、シノギのやり方が合わなかったんだろ? 笛吹は。誘拐だの麻薬だの、カネになることは何でもやったっていうし。そんな奴、幹部以前に組の方針と違うんだからとっとと追い出しちまえば良かったのに。何でそうしなかったんだろう?」


「ああ。それが藤島茂夫という男の弱さであろう。いかに不忠者であれ、己が手塩にかけて育てた家臣を切れなかった。結局のところ、藤島は最後まで笛吹に情があったのだ」


「あの爺さんらしいな。どんなにコントロールの効かねぇモンスターみたいになっても、孤児だった頃から育ててきた子分は可愛いってわけか。だから、組に逆らって非道なやり方に走ろうが切り捨てられない。うーん、分かるような分かんねぇような」


 実際のところ、笛吹が藤島を無視して手掛けていたシノギはかなり非道なものだった。悪辣さのレベルでいえば村雨組と寸分変わらず。青少年への麻薬密売、誘拐した児童を扱う人身売買、そして女性を奴隷に落としての管理売春など枚挙に暇がない。


 地検の保管庫にあった情報資料には、そうした笛吹の凶悪な所業が事細かに記されていたという。当局が証拠を掴んで訴追へ持ち込めた事案は僅か数件程度で、残りは殆どが実質迷宮入り状態とのこと。自らの死の偽装をしただけあって、証拠隠滅にはかねてより長けていた様子。

 やはり、笛吹は厄介な敵だ。


 さて、ここまで前置きが長くなってしまったが俺の気になる疑問と言えばたったひとつ。村雨の話に相槌を打った後、率直に尋ねてみた。


「で、結局のところ。何かしらの手がかりは掴めたのか? 笛吹が、どうして俺を恨んでるのか。奴の過去にヒントみてぇなもんは……?」


「特には無かったな。お前は勿論、光寿公を恨むに至る過去の出来事は記されていなかった。むしろ『恨む』というより、笛吹は光寿公に『恩』を持つべき立場といえようか。あくまで私の勘であるが」


「ええっ? 『恨む』じゃなくて『恩』って……何だよ、それ。要は、笛吹と父さんにポジティブな形で接点があったってことか?」


「ざっくりと言えば、そうなるな」


 一体、何があったのだろうか。じっと傾聴する俺に村雨が続けた話は、かなり意外な内容だった。


「実を申せば笛吹慶久という男、かつて麻木組に身を置いておったのだ。お前の父君、麻木光寿公の率いた組ぞ」


「はあっ!? 笛吹が、父さんの組に!?」


「うむ。文書もんじょには記されておった。身を置いたと申しても、ほんの短い間のことだがな。横浜大鷲会からの“預かり修行”であったらしい」


「い、意味が分からねぇ……」


 まったくもって初耳だった。大昔に親父と交わりのあった村雨でさえ、知らなかった情報だ。にわかには信じられないが検察庁という国家機関の資料に書いてあった以上、間違いはあるまい。暫く言葉が出なかった。


(笛吹が……父さんの子分だった……!?)


 関東の任侠渡世には将来の幹部候補を“預かり修行”と称して一定期間、他組織へ出向させて経験を積ませる習わしが存在する。関西系の煌王会には無いそうだが、笛吹の居た横浜大鷲会はれっきとした関東ヤクザ。


 昔気質な藤島茂夫の性分から考えても、若くして出世コースを歩む有能株を更に磨くべく修行に出すことは十分に考えられる話だ。尤も、当の笛吹は任侠とはかけ離れた人間になってしまったわけだが。


「で、でも? 笛吹が居た大鷲会と父さんの中川会はずっと敵対してるわけだろ? いくら修行ったって、ドンパチやってる相手の所に放り込むなんて、いくら何でも流石に……」


「いや。有り得ぬ話ではない。笛吹が麻木組で修業をしていたというのは今から10年ほど前のこと。その頃の中川と大鷲は、さほど険悪ではなかった」


「マジかよ……じゃあ、本当に笛吹は父さんの元部下……だったってことか? 冗談抜きで?」


「ああ。そうとしか考えられぬ」


 一時的といえども、かつては君臣の間柄であった親父と笛吹。出向中に親父から理不尽な仕打ちを受けたことを恨んでいるのかとも思ったが、村雨曰く修行時の笛吹の処遇は酷いどころかかなり良好。


 頭の良さを気に入られ、外部の人間であるにもかかわらず重要なシノギを任されるなど、事実上の幹部扱いを受けていたという。


 話を聞く分には、両者の関係をあらわすのは「怨嗟」などではなく「恩情」の2文字。とことん、良くしてもらったのだ。笛吹慶久は麻木光寿を一生の恩人として敬愛するのが筋であるはず。極道以前に、それが人として当然の在り方といえよう。


(なのに、笛吹は恩を仇で返そうと……)


 奴が俺たち父子を徹底的に憎む理由が、ますます分からなくなってきた。公の記録には載っていない秘められた出来事があったのか。もしくは、単に笛吹が恩知らずの鬼畜なのか。どちらにせよ、今後の俺がすべきことはたったひとつ。


 麻木光寿の息子として、父に代わって笛吹慶久を討ち取ることだ。とっくの前に肚が決まっている。


 俺は村雨に尋ねた。


「……とりあえずだけど、これからどうすんの? 沖野がしくじったせいで笛吹の居処いどころは分からなくなっちまったわけだし。今から探すってなると、けっこう骨が折れるぜ? そう簡単に尻尾は掴ませてくれねぇだろうから」


「だとしても、探すしかあるまい。それをやらねば勝てぬのだ。見つからぬなら、見つかるまで探す。何のことは無い。至極簡単な話ぞ」


「だよな。まあ、俺もできることをやるよ。何でも命令してくれ。俺はあんたの命令のまま動く。笛吹のクソをぶっ倒すためなら、手段を選ばねぇ」


「うむ。良い返事だ」


 俺の肩を軽く叩いた後、村雨は座卓上にあった小箱からタバコを取り出して火をつける。またしても銅色のライターを使っての着火だった。


「ふう……」


 軽く声を乗せて息を漏らした村雨の眼差しには、いつになく疲労の色が浮かんでいた。ただ屋敷を出たり入ったりしただけの俺とは違い、組長は方々へ挨拶回りに赴いていたのだ。挙げ句には俺のために、本当は行きたくもないであろう役所へ足を延ばしてくれたりもした。俺としては、本当に頭が下がる思いだった。


「申し訳ねぇ。俺のために骨を折らせちまったみたいで」


「殊勝なことを申すな。お前のためではない。敵の実情を知っておくは組を預かる者として、当然の務めだ。労は惜しまぬ」


「俺、こんなだからさ。頭も悪いし、喧嘩で暴れるくらいしかできねぇし。けど、役に立ちてぇよ。あんたのために。だから、その……」


「気に病むでない。お前には親のために尽くそうと努める孝養心がある。それは極道として何より重んずるべきこと。それさえあれば十分だ。もっと、誇りを持つが良い。他の者より、お前はよほど極道らしい心構えができておるわ」


 予想もしていなかったお褒めの言葉。俺は少しだけ頬を緩めてしまった。いま振り返ってみれば実に単純だが、当時の俺は素直に嬉しかった。特に「他の者より」という比較が心を食いつかせた。


「そうなのか……?」


「ああ。今日の沖野の失態、お前も間近で見ていたであろう。あの者は己が戦で暴れることしか頭に無い。それゆえ我が主命に背き、あのように取り返しのつかぬ結果を招いたのだ。今までは少し大目に見てきたが、これからはそうはいかぬ。少しやり方を変えねばならんな」


 俺の稚拙さはさておき、どうやら村雨組には深刻な問題が生じてしまっている模様。


 組のモットーはあくまで結果至上主義である。その所為か、物事の過程でどんな手段を用いようとも、最終的に手柄を立てれば多少のルール違反は帳消しにされるという風潮が浸透している。


 構成員が型に縛られず自由に活躍できるため、それはそれで良い。だが、問題は組長の命令を蔑ろにする人間が出はじめること。特に、今回の沖野のような出世欲に逸った軽挙妄動で組全体に不利益をもたらす手合いも少なくない。ゆえに独断専行をさせすぎるのは考え物。自由と規律の塩梅は難しく、組長を大いに悩ませていた。


「これより戦ともなれば、また勝手をする者も出てこよう。此度の一件で沖野が懲りておるかどうかも怪しい。ここに至るまで組を大きくすることばかり考えて参ったが、今後はもっと引き締めるべきよな……」


 人を使い、動かすという行為は難しい。いかに手を打つのが正解なのか。無論、未熟な俺には分かるはずもないテーマだ。的外れな意見具申で顰蹙を買ってはいけないので、俺は村雨が燻らせるタバコの煙を見つめつつ、ただ無言で頷き続けるしかなかった。


 また、村雨組が直面する問題は一連の抗争とそれに伴う人事刷新だけに留まらない。考えるべきことは他にもあった。


「そろそろ儀式の詳細を詰めねば。私は手短で良いと申し上げたのだが、六代目は派手な儀式を催したいとお考えのようでな。とかく準備に手間が要るのだ。明日、名古屋へ赴いて本家で段取りを合わせることになっておる」


「……ああ。儀式って、直系に上がるための儀式ってことだよな。それにしても、わざわざ名古屋まで行かなきゃならないなんて。面倒なもんだな」


「文句は言えぬ。たしかに面倒ではあるがな」


 明日、名古屋の煌王会本家御殿に出向いて長島会長と貸元就任式の最終打ち合わせを行うという。この事態の最中に組長が横浜を離れざるを得ないとは、何とも心許ない。


 本来は電話で済む話し合いを敢えて対面による直接協議にこだわっているあたり、何とも旧人類の長島会長らしい。それに付き合わされる格好となったのだから、村雨としては気乗りしない出張だろう。


 ところが、ふと目線を合わせた村雨に不満そうな様子は見られない。彼にはどうも別の意図があるようだった。


「名古屋には家入もおる。ついでに奴の動向も探って参るつもりだ。万に一つ、あの男に妙な動きがあれば。その時は早めに手を打たねばならぬゆえ」


 家入が逃げるように愛知へ帰ってから、約2日間。奴とは一切音沙汰が無いらしい。煌王会本家からも特に連絡が来ないため、俺から受けた暴行を家入が六代目に訴え出た可能性は低い。


 現時点でこそ平穏を保っているように見えるが、先行きはまったく不透明。油断せずに状況を逐一注視しておくことは欠かせない。


 こうした上層部の都合による遠方出張という面倒事を逆手に取り、よもや敵方の偵察と情報収集に利用してしまうとは。村雨耀介の視野の広さには恐れ入るばかりだ。俺は心の中で最大級の賛辞を贈った。自分も少しは見習わなくては。


 感嘆する俺に、村雨は言った。


「留守は菊川に仕切らせる。向こうには3日ほど泊まる予定だ。昇格に当たって、尾張の親分方にも挨拶をしておきたくてな。顔見知りを作っておくことは、この渡世に必要不可欠なのだ。お前も心しておくように」


「覚えとくわ。まあ、気ぃつけてな。さっき、ニュースの天気予報で台風が来るって言ってたから。ちょっと行き帰りの空模様が心配だな」


「ああ、アナウンサーの女は左様に申しておったな。たしかに空模様は気がかりだ。念のため本家には連絡を入れておくとしよう」


 大きく頷いた後、さっそく座卓の上の電話機を手に取る村雨。やはり行動が早い。気象状況における懸念を俺から聞いた瞬間、即座に発想を実行に移した。道路事情次第では到着に遅れが生じる可能性がある旨を今夜のうちに、煌王会本家へ伝えておこうというのだ。


 明日になってからでも、決して遅くはない。常人であればそのように考えるだろう。されど、いざ本当に遅れてしまったとすれば話は別。前もって連絡を受けている場合と受けていない場合では、確実に前者の方が待ち合わせ相手の心証は良くなるはずだろう。


 電話による先方への言伝くらい部下に任せれば良いのに、というストレートなツッコミは今さら不要。


 村雨耀介は単なる武闘派組長にあらず。眼前に広がる状況の二手三手先を読んで冷静に状況を見極める明晰な頭脳と、いかなる時も心揺るがず適切な選択を下す高い判断力を兼ね備えている正真正銘のプロフェッショナルだ。


 戦いの鉄火場であろうとなかろうと、この男の下にいればきっと大丈夫。周囲の者を安心させるだけの大きな頼り甲斐を感じる。寄らば大樹の陰とはよく言ったものだ。俺自身もこの時ばかりは、村雨耀介の存在にすっかり心酔してしまっていた。


(ほんと、凄い人だよな……)


 そう思って目を細めた時、ふと村雨の声が聞こえた。


「ん? これは……?」


 何やら首を傾げている。先ほどからコードに繋がった受話器を手に取っている組長だが、一向に会話が始まる気配が無い。明らかに違和感がある。曰く、正しい番号を入力しているにもかかわらず繋がらないというのだ。


「えっ、どこかで押し間違えてたりとかは」


「有り得ぬ。もしそうであれば必ず何処どこかへは繋がるであろう。先刻より、まったく反応が無いのだ。何度試しても同じだ」


「そっか。じゃあ、向こうに電話を受ける奴が居ねぇとか、向こうが話し中って可能性は?」


「無いな」


 煌王会の本部には電話番の構成員が24時間体制で常時待機していて、かかってきた電話には5秒以内で応答するのが規則として取り決められているとのこと。またコールセンターさながら幾つもの電話回線が引かれているらしく、複数の者が同時に発信を行ったとしても着信がぶつかることは無いのだとか。


 おまけに、もし仮に話し中や電話番離席の類であれば「お話し中です」もしくは「ただいま出かけております」等の電子音声がリピートされるはず。村雨によると、そういった音すらも流れないという。


 話を聞いた俺は、思わず戸惑ってしまった。


「えーっ、何だろ? 何で繋がらねぇのか」


 こちらの電話機が故障しているのか、はたまた東海地区の電話が混み合っているのか。あるいは、向こうで何か緊急事態が発生しているのか。考えられる仮説は意外と少ない。


 確認のため組長から受話器を預かって俺の耳に当ててみても、「プー、プー」という無機質なサウンドが2、3回、繰り返されるのみ。何故に繋がらないのか、原因は分からなかった。


(試しに適当な番号へ……いや、駄目だな)


 携帯電話が然程普及していなかった1998年当時、家庭用固定電話の本体動作が正常か否かを試すにはその方法が最も手っ取り早かった。しかし、ここは村雨組。ヤクザが安易にカタギへ電話をかけるわけにもいかない。何より、組長の電話機で故意に間違い電話をかけるなど畏れ多くて出来るわけもなかった。


 本当なら117番の「時報」あたりにかけてみれば良い話。されどもその頃は一般常識ないしは教養というものが悉く不足していたので、俺に成す術はなし。淡々と同じ音を発声し続ける受話器を前に、ただ眉をひそめるのが精一杯であった。


「……うーん。ちょっと俺には分かんねぇな。やっぱ電話機自体、故障しちまってるんじゃねぇの? 何か、そんな気がするわ」


「むう。一理あるやもしれぬな」


「えっ。心当たりあるのか……?」


「ああ。先ほど部屋ここへ沖野を呼び出した際、久々に暴れてやったのでな。もしやその時に壊れたのかもしれぬ。私としては大いに加減をしたつもりでいたが、些か度が過ぎたようだ」


 村雨組長の考える“原因”は、数時間前まで遡る。


 単騎での抜け駆けによる情勢悪化という大失態を演じた若頭補佐を呼び出すも、反省の色は皆無。それどころか一連の所業を自慢げに話してあまつさえ恩賞をねだって見せたため、組長は遂に激昂。沖野を殴り倒し、そのまま数十分に渡って暴行を加え続けた。


 彼自身としては「大いに加減をしたつもり」などと言っているものの、その内容は聞くからにやりすぎ。


 仰向けに倒れたところを馬乗りになって拳で顔面を叩く、髪を掴んで投げ飛ばして壁にぶつけるといった壮絶な折檻リンチを狭い室内で行ったのだ。当然、周囲の家具や日用品類は巻き込まれて床に散乱し、破損した物も少なくない。


 昨日まで部屋の奥にて鎮座していた漆塗りの壺に至っては、もはや見る影も無く姿を消している。暴力の天才たる村雨組長のことだ。差し詰め沖野の頭に壺を叩きつけ、粉々に砕いてしまったのだろう。容易に察しが付く。


(……まあ、無理もねぇわな)


 話によると、村雨は座卓を勢いに任せて引っ繰り返したという。よって、今では何事も無かったように卓上に置かれている白い電話機も、当然影響を被ったと考えられる。


 見た限り外傷や損壊は視認できないが、本体に激しい衝撃が加わったとあっては内部機関の故障、あるいは配線ケーブル類の断線が起きたと考えるのが普通。素人目にも推測が可能な現象である。


 思う所は色々とあるが、電話が繋がらない“原因”にひとつの仮説を導き出せたので一先ず前進。「心当たりがあったなら、もっと早く言ってくれよ」とボヤきたくなる気持ちをグッと堪え、俺は村雨に言った。


「……電話、ここじゃないのを使った方が良さそうだな。1階にあるやつとか」


「ほう。やはり、これは壊れておるのか」


「たぶん、な。さっき思いっきり叩きつけたってなると、そう考えるのが正解っつうか……」


「左様か。では、取って参らせようぞ」


 そう真顔で応じると、村雨は再び受話器に手を伸ばして「内線」のボタンを押す。屋敷内に詰めている組員たちに言い付け、この部屋に変わりの電話機を持って来させるためだ。


 しかし、通話は始まらない。受話器を持ったまま、静かな時間が淡々と流れるだけ。


「……」


 そうだ。この電話機は故障しているのだ。つい平常時いつもの癖で動作に及んだようだが、組員たちへの連絡が繋がるわけも無い。何も言わず、静かに受話器を元に戻した村雨。心なしか、口元には若干の苛立ちが表れているように見えた。


「……やむを得ぬ。階下したに降りるか」


「あっ、俺が取ってくるよ。代わりに煌王会へ明日は遅れるかもって、電話してきても良いし」


「いや。それには及ばぬ。ちょうど腹がすいておったところだ。本家への電話は飯のついでにするとしよう。ときに、涼平。お前、夕食は済ませたか?」


「まだだけど」


 俺が首を大きく横に振ると、村雨は言った。


「ならば供をいたせ。共に食おうぞ」


 本音をいえばあまり空腹を感じる時間帯ではなかったが、組長の命令とあらば断わるわけにはいかない。村雨がきょう一日ずっと面倒事続きで少々不機嫌気味とあっては、尚更だ。


(まあ、いいや。ちょっと早いけど、食うか)


 二つ返事で快諾し、俺は村雨と一緒に階段を降りる。計5台の電話機が置いてある部屋(通称・連絡室)と食堂は同じ1階に存在するため、食事の前に電話連絡を片づけておこうという流れだ。


「……」


 すっかり陽が落ちて宵闇に包まれた屋敷の中をゆっくりと進んでゆく俺たち。村雨邸の廊下に蛍光灯は無い。派手な装飾が施された蠟燭型の小さなガラス照明を壁に等間隔で配置しているだけで、そのためか屋敷は夜になると少しばかり薄暗い。


 普段でさえ物々しい日没後の廊下の空気感が、今日は一段と冷たく感じる。イライラを募らせた残虐魔王と共にいる所為か。いつもならあっという間の移動時間が、やけに長く感じられる。決して尋常ではない気まずさに全身の鳥肌が立っていた。


 村雨耀介の後ろを歩いていれば、廊下で出くわす組員たちからすれ違いざまに舌打ちをされたり、嫌味を言われたりすることも無い。皆、村雨に「組長、お疲れさまです!」と深々と頭を下げるので、目が合う機会自体が消滅するのだ。


 余計な諍いに精神的疲労をおぼえなくて済むので、状況的にはいつもよりずっと心地よいはず。だが、どうにも気まずい。張りつめた緊張で空気感は最悪の状態だ。ここはひとつ、適当に雑談を差し込んで空気を換えなくては。そうでなくては、神経が磨り減る一方だ。


「……あのさ。ちょっと、思ったんだけど」


「いかがしたというのだ?」


 いきなり背後から話しかけられたことに若干の驚きを催したのか。村雨の返答の口調はやや強めだった。ピリピリとした雰囲気を一新するつもりが、かえって火に油を注ぐ結果を招いては本末転倒。俺は慎重に話を切り出す。


「あ、その。今日の献立メシって何だろ」


「行ってみねば分かるまい」


「ああ。そう、だよな。何が出てくるかは、行ってからのお楽しみってやつだよな。やっぱり」


 いつにも増して淡白な、村雨の返事。俺は思わず沈黙した。できるだけ無難かつ単純な話題を選んだつもりだったが、不発に終わった。ああ、これは手厳しい。もはや雑談ごときでどうにかなる雰囲気ではないのか。


 だが、そう思った時。不意に村雨から意外な言葉が飛んできた。


「話は変わるが。涼平、お前は笛吹と家入の間柄をどう見る?」


「えっ!」


「実の大叔父と大甥と申しておったが、家入はまことに笛吹のためを思って動いておるのか否か……? お前の考えを聞いてみたくてな」


「うーん……どうだろ」


 予想もしていなかった質問がぶつけられた。これはこれで難しい状況だ。おそらく村雨としては、くだらない雑談などよりこちらを論じた方が良いと考えているのだろう。少し戸惑ってしまったが、俺は俺なりの答えを返す。


「笛吹のことをマジで一番に考えてるってわけじゃないと思うんだよな。家入のジジイは」


「ほう? 何故、そう思うのだ?」


「今にも爆弾が爆発するって時、あいつは笛吹を置いて一目散に自分だけ逃げようとしてた。笛吹を本気で可愛がってるなら、どんなに危ねぇ場面でも最後まで助けるのが普通だろ。家入は自分のことしか考えてねぇよ」


 逆もまた同じ。笛吹も笛吹で、家入のことを特に敬ってはいないと思えた。大叔父を敬う心があるならば、明らかに爆風の及ぶ狭い部屋で爆弾を投げたりはしないはず。両者の間に信頼関係など皆無。互いにメリットを見出せるからこそ手を組む、いわばビジネスの付き合いだ。


 そのような考察を俺が導き出すに至った論拠は、他にもあった。


「赤ん坊の頃に親を亡くした後、笛吹は親戚中をたらい回しにされて孤児院に預けられたんだろ? たしか。自分の姉の孫ってんなら、引き取って育ててやっても良さそうなもんだろ。そいつを敢えてやらなかったとなりゃ、家入にとって笛吹は可愛い身内じゃないってこった」


 ヤクザならば一般人に比べて経済力も蓄えも持っているだろうし、孤独となった大甥を養育して面倒をみることも出来よう。


 にもかかわらず、家入は幼年期の笛吹に手を差し伸べなかった。かつて「苦しいときに助けてくれる人こそ、信ずるに足る人だ」とヨーロッパのとある賢者が言っていたが、まさしくその通り。家入と笛吹の間柄も、所詮は脆く崩れやすい砂上の楼閣でしかないのだ。


 俺の推論を聞き終えた村雨は、大きく頷く。そして、背中越しに評価を寄越してきた。


「……うむ。なかなか良い見立てだな。ちょうど私も同じことを考えておった。笛吹は家入の駒でしかない。笛吹とて、それを分かっていながら大叔父の計略に乗っておるのであろうな」


「いいように利用されてるだけと分かってて、それでも家入に従ってるってか。やっぱ、父さんと俺が憎いからかな……?」


「おそらくはな。いずれにせよ、笛吹がああまでしてお前と光寿に執着する理由は調べ直す必要がある。もはやひとえに復讐心ゆえの所業とは思えぬ。お前も、今一度思い返してみよ。“灯台下暗し”ということがあるやもしれぬゆえ」


「あ、ああ。よく分かんねぇけど、とりあえず考えてみるわ。もしかしたら俺が気づいてねぇだけで、知らないうちに何かやっちまってたかもしれないし。親父が生きてた頃だから、だいぶ前のことだよな」


 しかしながら、やはり思い当たる節はゼロ。幼少の頃の記憶は経年劣化でかなり曖昧になりつつある。父、母、俺、妹の家族全員で千葉の某テーマパークに出かけた楽しい思い出さえ、つい先日まで忘れてしまっていたくらい。極道絡みの暗い記憶など覚えているわけがない。そもそも“灯台下暗し”の意味さえ、当時の俺にはまったく分からなかった。


(頑張って思い出すか……組長の命令だし……)


 そんなことを考えているうちに、やがて俺たちは部屋の前に辿り着く。通称「連絡室」。5台の電話機と無線送受信装置を備えた一室で、村雨組の中核ともいうべき場所である。


 外部から屋敷にかかってきた電話は一旦この部屋に繋がり、電話番が必要に応じて組長の部屋へと交換する仕組みだ。そのため、ここには最低でも2人の組員が常時待機する決まりとなっている。


 ところが、扉を開けた組長に続いて部屋に入ってみると、室内に居たのはたった1人だけ。


 おまけにその男はスーツのネクタイを緩め、椅子にもたれかかって大きないびきをかいている有り様ではないか。


「ぐがぁ……ぐがぁ……」


「おい、何をしておる。起きよ」


「ぐがぁ……ぐがぁ……」


「起きよと申しておろう。聞こえぬのか」


 肩を掴んで体を揺さぶられてもなお、深い眠りに落ちた電話番は目を覚ます気配が無い。まずい。ただでさえ村雨組長はご機嫌斜めなのだ。ここで油が注がれれば、村雨の怒りは一気に爆発してしまう。


 だが、そう思った時には既に遅かった。


 ――ドンッ!


 瞬間的な鈍音が室内に響く。高く右脚を振り上げた村雨が、組員の太腿ふとももめがけて踵落としを見舞ったのだ。一切の容赦のない行動であった。痛みには流石に堪えかねたのか、居眠り男は即座に我に返る。


「いっ、痛てて……はあっ!? く、組長!?」


「やっと起きたか。たわけ者め」


「す、すんませんでしたぁぁぁぁ!!」


 今がどういう場面であるかを瞬時に悟ったのだろう。痛む左大腿部を押さえる余裕も無く、組員は床に手をついて平謝りする。


 電話番を務めている最中の居眠りという、決してあってはならない過ち。しかも、その醜態を見られた相手は他でもない村雨組長。想像しただけで背筋が凍る状況だ。土下座をして必死に許しを乞う他ない。


「俺としたことが……つい寝ちまって……」


「まったく。電話を受ける身でありながら、寝る奴があるか。ところで、沢田さわだはどうした? あの者も一緒のはずだが?」


「さ、さっきコンビニへ行きました……電話は俺が見てるから、いいよって言って……本当に申し訳ございません!!」


「ほう。彼奴もまた、己の役目を放り出したと申すか。そしてお前は、それをみすみす許したと。とんだ心得違いであるな。この責めは後ほどしっかり負ってもらうぞ。首を洗って待っておれ」


 冷たく言い放った村雨の言葉に組員は絶句し、項垂れる。幸せそうに寝入っていた数秒前までとは別人のごとく、全身がガタガタと震えている。察するに相当恐ろしい仕置が待っていると見た。恐怖で硬直するのも無理はない。


「おい、谷尾たにお。いつまで左様にしておるつもりだ。私が連絡室ここへ参ったは、電話をかけるためぞ。早く役目を果たさぬか」


「は、はいっ! ただいま! ち、ちなみに……? どちらへおかけになるので……?」


「まずは本家だ。明日の到着に些かの遅れが出るやもしれぬと。あと、業者の手配を頼む。部屋の電話が壊れたのでな」


「しょ、しょうち、いたしましたっ!!」


 村雨に低い声で促され、電話番は仕事を始める。ブルブルと震える指先で本家の番号を入力し、もう片方の受話器を耳に押し当てて接続を待つ。さながら処刑の時に怯える罪人の姿だ。少し、哀れにも思えてきた。


「あっ、もしもし……こちら、村雨組でございます……明日のご挨拶の件で、前もってお伝えしておきたいことが……」


 先刻とは違い、かけた電話は早急すぐに繋がった。やっぱり執務室の電話機は壊れていたのだ。こちらは2秒も待たずに通話が始まっている。あちらの修理も早めに行いたいところだ。自然とため息がこぼれそうになったが、俺はじっと静かにしていた。


「……」


 そんな中、電話中の組員の様子が変わる。


「……えっ? 本当ですか!? ……間違いはないんですか? いや、でも、そんなことが……!?」


 驚愕の表情を浮かべ、伝えられた内容がにわかには信じられないといった様子だ。電話口から漏れ聞こえてくる向こうの声も、どういうわけか非常に慌ただしくせかせかとしている。一体、何があったというのか。俺は思わず村雨と顔を見合わせる。


(……嫌な予感がするな)


 やがて通話は終了し、組員は半ば呆然とした面持ちで受話器を本体に戻す。強い衝撃を受けしまったらしく、目は虚ろ。これは只事ではないとすぐに分かった。妙な胸騒ぎが俺の中で巻き起こる。経験上、この手のリアクションをする人間は十中八九、思わぬ急報を告げられている。内容はおそらく、惨たらしい事件や事故にまつわるものだ。


 次第に場の空気が張りつめる中、村雨が訪ねた。


「谷尾よ。どうした。何を黙っておる? 本家は何と?」


「じ、実は……その……が……たって……」


「聞こえぬ! はっきりと申せ!」


 驚きのあまり、口も満足に動かせないのか。電話番は何とか気持ちを落ち着けて組長に説明を試みるものの、か細い声でボソボソと話すためにまったく聞き取れない。見るからにパニックを起こしている。ここで説明を無理強いするのは少し酷な気もしてきたが、状況が状況なだけに致し方なし。どうにか、話してもらわねば。


「い、や……あの……に……しくて……」


「落ち着け。ゆっくりで構わぬ。何を聞かされたか、順を追って申してみよ。ひとまず、息を整えるが良いぞ」


「は……はあ……はあ……ああ……」


 組長に促され、深呼吸で平静さを取り戻した電話番。数秒後、彼の口から飛び出した内容は予想だにしないものだった。嫌な予感は、またしても当たってしまう。


「……今日の午後、六代目が撃たれたって。犯人はまだ分かってないそうですが、たぶん煌王会の人間じゃないかって本家は睨んでるそうです」


 ただ、耳を疑うしかなかった。

次回、物語が急展開……!?



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