さらなる窮地へ
「この私に銃口を向けるとは。なかなかに肝のすわった女だ。されど、残念だったな。撃つというなら迷わず撃てば良かったものを」
「……あっ!」
何が起きたか分からず唖然としていた俺だったが、数秒ほどの間隔を挟んで、ようやく状況が飲み込める。
注文のクリームソーダを運んできたウェイトレスが、俺たちの席に着くなり突如として拳銃を取り出し、村雨に発砲。銃声という名の轟音が周囲に響き渡ったのだ。
引き金がひかれる間一髪のタイミングで、相手の手首を強かに掴んで銃口を反らしたのか。発射された弾丸は村雨に当たっていなかった。彼の言う通り、女がピストルを突きつけた直後に少しばかり前置きを述べたのが幸いしたらしい。
一方、本来の標的を逃した銃弾が向かった先は反対側のテーブル。卓上に置かれたガラスコップを粉々に砕き、向かい側に座る高齢女性の首元にめり込んでいた。
「うっ、ううっ……」
呻き声を上げ、崩れるようにその場へ倒れ込む老婆。銃創からは大量の血が鉄砲水のごとく流れ出し、床を真っ赤に汚していた。
「うわあああっ! ば、婆さん! おい、しっかりせい! 婆さん! 婆さん! 婆さんやッ!!」
「……」
「おい、返事をせんか、婆さん! 婆さん!! お、おい、誰か、誰か助けてくれ! 助けてくれーっ!!」
夫らしき男が慌てて駆け寄って抱きかかえるも、老婆はぐったりとしたまま。それどころか頸部からあふれる血の勢いはますます強まり、ついには意識を失ってしまう。
「誰かーっ! 救急車を呼んでくれぇぇぇぇ!」
非情なことに手を差し伸べる者は皆無。それどころか彼の叫びで我に返ったのか、呆然としていた他の客たちは出口を目指し、皆一目散に逃げ出し始める有り様だった。
「に、逃げろーっ!」
「きゃああああ! あの人、銃を持ってる!!」
「早く! 早く逃げて! ほらっ、急いで!!」
「110番を……早く警察を呼ばなきゃ……!」
平和なはずの日常で銃が発砲された――。
惨劇を予想していた人間など、あの場には誰もいないはず。これだけでも大いに衝撃的だ。そのうえ被弾による血の海を間近で見てしまったとなれば、錯乱状態に陥るのも道理。
こういう時、人間は非情だ。助けを哀願する他者の声などまるで鼻にもかけず、自らの命と安全を最優先に行動する。必死で叫ぶ老爺の訴えはまったく無視され、気づけば他の客は1人も居なくなってしまった。
彼らも彼らで各々に大切な身内がいるのだから、当然といえば当然。仮に俺がその立場であっても、緊急時に知らない誰かに対し手を差し伸べる余裕はおそらく無い。最も、逃げ出していく連中に膝で蹴飛ばされた爺の姿には同情を禁じ得なかったが。
「助けてくれぇーっ! 助けてくれよぉぉぉぉ!」
大量出血で首がすわらぬまでに衰弱した妻を正面に抱きかかえながら、男も走り去って行く。よって店内に残ったのは、俺と村雨組長、そして件のウェイトレスの計3名。
他の店員は何をしているのやら。ホールで響いた銃声を聞いたはずなのに、どうして出てこない。
瞬間的な疑問に心の中で首を傾げつつ、再び村雨の方に視線をやる。すると、状況に変化が起きていた。つい先刻までウェイトレスが持っていた銀色の拳銃を、今度は組長が持っているではないか。
察するに俺が客たちの動きに注意を逸らしている間、何らかの体術を駆使して奪い取ったのだろう。テーブルは倒れ、こぼれたクリームソーダで床がぐちゃぐちゃに汚れていた。
さすがは村雨耀介。こうした不測の事態に遭遇しても、即応的に対処できる判断力と思考を備えている。残虐魔王の二つ名も伊達ではない。ほんの一瞬でも吃驚仰天し冷静さを失い、あまつさえ周囲に気を取られてしまった俺とは大違いだ。
(やっぱ、この人は強い……)
それに引き換え、自分はまだまだ未熟だ。忸怩たる思いに歯噛みした俺を尻目に、村雨は次の挙に出る。奪取に成功した銃から弾倉を取り出して残弾数を確認し、再装填。スライドを思いっきり後ろに引っ張った後、片膝をついたまま動けない女の額に素早く突きつけた。
「その程度の腕で私を討ち取ろうとは。誰に頼まれたかは知らんが、思い上がりもここまで来れば哀れにも思えてくる。すべてにおいて隙だらけだ。鍛錬が足りぬぞ」
「ちぇっ……!」
村雨の言葉に舌打ちするウェイトレス。けれども、彼女の緩んだ口元は崩れない。銃口を向けられてもなお、ヘラヘラと笑みを浮かべていられる強靭な精神性。この女が凡庸の者でないことは一瞬で分かった。
「さて、わずわらしい手間は無用だ。これより問われることに一言で答えよ。誰に命じられた? 誰の命を受け、お前はここへやって来たか?」
「……村雨組長。あなた、馬鹿ですか。殺し屋が依頼人のことをペラペラ喋るわけないでしょ」
「左様か。ならば答えたくなるよう、こちらも手を尽くすまでだ。今のうちに洗いざらい白状した方が身のためだぞ。痛い目を見ずに済むのだからな」
「うわー。拷問するんですか。女の子相手でも容赦ないんだなあ、この国のマフィアは。怖い怖い」
そう簡単に口を割ったりはしないらしく、女は軽く舌を出しておどけた振る舞いで話をはぐらかす。口では「怖い」と言いつつも怯えた素振りは皆無。声もまったく震えていない。
自ら「殺し屋」と素性を明かしたからには、こうしたシチュエーションに陥ることも想定に含めてあったのだろう。大きな瞳の奥に少なからぬ余裕が滾っている。ただ、よく見ると彼女の顔つきには若干のあどけなさが残ってもいた。
(意外と若いな……俺よりちょっと上くらいか?)
任務をしくじった女殺し屋の実年齢はさておき、我らが村雨耀介が尋問に情けをかけることは有り得ない。脅しが通じないのも織り込み済み。相手があくまで白を切り通す気なら、無上の苦痛を与えてでも情報を吐かせるつもりのようだ。
右手に持ったワルサーPPKの撃鉄をゆっくりと下ろし、照準を女の額から徐々に下へと移してゆく組長。その動作に迷いや躊躇いは一切感じられない。直後に聞こえた台詞が、最高に生々しかった。
「この銃の弾は、残り6発。最初の1発で腹を撃ち抜き、次に両腕、両肩の順に風穴を開ける。そうして最後に眉間を撃つ前に大抵の者は痛みで悶え死ぬのだが……果たして、お前はどこまで耐えられるか」
頭を撃ってとどめを刺す前に、痛みで自白を引き出す。それこそが村雨の公算。まさしく拷問の定石ともいえるやり方だ。後で知った話だが、腕や肩の付け根には神経が集中しているらしく、そこを衝撃で抉られるのは相当な痛みなのだとか。
「うわ。すごい痛そうじゃないですかぁ、それ」
「当然であろう。お前はこの私に向けて引き金をひいたのだ。楽に殺してもらえるなどとはゆめゆめ思わぬことだな」
「えー。困っちゃうなあ。あたし、痛いの苦手だし。いや、でも。あなたはヤクザですから。仕方ないっちゃ仕方ないか……」
「口を慎め! 戯言を申す暇があるならば答えよ。お前はどこから来た? 誰に頼まれて私を討とうと動いた? 早く答えねば、その無駄に長い手足を失うことになるぞ!」
声を荒げた村雨に対し、女は一向に表情を変えない。やるならどうぞおやりになってくださいと言わんばかりに、相変わらず余裕に満ちた薄ら笑いを浮かべて応じている。
普通、間近に迫った相手に思いっきり怒鳴られようものなら、ほんの少しでも動揺が生じるところ。その僅かな震えさえ、まったく感じられないのだ。もはや単なる強心臓の範疇を超えている。明らかに異質な女だ。
「……貴様、よほど痛い目に遭いたいらしいな。愚か者め。この期に及んで雇い主に忠を尽くしても何ら利益は無いというものを」
「あっ、そういうんじゃないです。私としては、別に喋っちゃっても良いんですよ? どうせケチな依頼人だし、前もって提示された報酬も安かったし! 特にあの人たちに恩があるとか、そういうのも無いんで!」
「ほう。では、何故に言わぬのだ」
「うーん。何故でしょ。こういうシチュエーションには慣れてるのもありますけどぉ、やっぱりなんか『負け』のような気がするんですよねぇ~。こう見えてもあたし、プロフェッショナルをきわめた超一級プレイヤーだから? 脅しに屈して自分からゲームオーバーになるのは嫌だよ的な? えへへへっ!」
命乞いをするわけでもなければ、依頼人のため“守秘義務”を貫くわけでもない。ただ、彼女は尋問に屈して情報を吐くことを『負け』と認識しているようで、たったそれだけのために口を割らずにいる。
殺し屋としての最後の意地とでもいうべきか。超一級プレイヤーとやらを自ら名乗るからには、やはりそれなりの矜持を持っているのだろう。最も、狙った標的を仕留めそこなった時点でプロ失格なのだが。
(この女……一体、何者なんだ?)
無論、生まれて初めて出会うタイプである。滑舌があまり芳しくはないようで語尾が少しフワフワしているものの、覚醒剤や麻薬の類を摂取している風でもなさそう。つかみどころのない軽薄な雰囲気が本当に不気味だった。
されど、我らが残虐魔王がたじろぐことは無い。平凡であれ奇妙であれ、目の前の人物が敵である事実に変わりはない。そう考えれば、とるべき選択肢はひとつ。
話をはぐらかし続ける若い女に対し、村雨はついに行動に出た。
――ズガァァァァァン!
即座に発射される弾丸。スライドが後方に作動し、銃口付近からは眩い光に彩られた火花が飛び散る。少し遅れて、排出済みの空っぽの薬莢がコロコロと床を転がってゆく音が伝わった。
銃口を宙に上げての威嚇発砲ではない。村雨の照準は確実に女を捉えていた。前述の拷問の第1段階。わざと急所を外して脇腹を撃ち抜くことで、催促代わりの苦痛をお見舞いしてやろうというのだ。
「……」
沈黙に包まれる。村雨が撃った弾は真正面に飛んでいき、女の腹に容赦なく突き刺さったはず。
(……えっ?)
しかし、俺の予想は弾丸の軌道と共に大きく外れていた。当たっていなかったのだ。
厳密に言えば、脇腹の表面を軽く掠めただけ。その証拠に服が少し焼け焦げている。どうやら女は発射の瞬間に身体を思いっきりよじって、弾の直撃コースを避けたらしい。
「あーあ。危ない危ない。弾の避け方を習っといて正解だったなあ」
「なんと……!?」
「もぉ~、ひどいじゃないですかぁ。いきなり撃つなんて。撃つなら撃つって言ってくださいよぉ、まったく~」
具体的な数字で考えるならば、たった0.01秒ほどの短い間に起きた出来事。なんと恐るべき早業であろうか。また発射の直前、村雨は特に「撃つ」という前置きを入れなかった。すなわち、女は組長の指と視線の動きだけで全てを察知し、瞬発的な回避行動につなげたということ。
動体視力と俊敏性の高さもさることながら、咄嗟の事態にも適切な判断ができる相応的な思考、そして仰向けに転ばされた体勢であれだけ柔軟な動きをしてみせた身体能力が凄まじい。
かくいう俺自身もこれまでに何度となく弾丸を避けているが、あれらは殆ど天運に任せたようなもの。この女殺し屋みたく、予め鍛錬を積んだ技術などでは決してない。常識の範疇を超えた目の前の光景に、俺はただ愕然とするしかなかった。
(こいつ、マジでヤベェな……)
驚きに包まれていたのは村雨もまた同じ。どちらかといえば、避けられたことよりも、己が射撃を外したことの方がよっぽど想定外だったようだ。数秒遅れで舌打ちが聞こえる。その辺りは何とも組長らしい。
次こそは絶対に当ててやる、と言わんばかりにグリップを握る手には強い力が込められていた。
「私としたことが。よもや、かように年端もいかぬ女子を相手に引けをとるとは。とんだ不覚だ。さすがに甘く見ておった」
「ん? もしかして、もう1回撃つ気? うーん、止めといた方が良いと思いますよー。あたし、こういうのには慣れてるんで。何発だって避けられますから。せっかく奪った弾が無駄になっちゃうだけですよ」
「左様か。では、私も少しばかり本気を出すとしよう。貴様がいつまで意地を張り続けていられるか、この際とことん試してくれようぞ」
「ははーん。なるほどなるほど。そうやってあたしを追い詰めて、依頼主の情報を吐かせようって魂胆ですね。まあ、そんなに撃ちたいなら、撃てばいいんじゃないですか? さっきも言ったけど、あたしけっこうしぶと……」
女の声は銃声によって無理やり遮られる。
「うぐっ!?」
直後、くぐもった悲鳴が聞こえた。獣ような何とも醜い呻き声。ふと女の方に視線をやると、左の脇腹を押さえてうずくまっているではないか。今度ばかりは村雨の勝ち。銃弾が直撃したようだ。
「どうした? 慣れているのではなかったか?」
「うっ……ううっ……!」
「ほう。やはり、先ほどは奇跡であったということか。あまり己の力を高く見積もらぬことだな。過ぎた自信は、かえって己の足を引っ張るものとなる」
判決文を読み上げる裁判官のごとく、淡々と言い放つ村雨組長。その説諭じみた口調は実に挑発的で、相手の心を深く抉るには十分すぎるほど。被弾の痛みに悶えつつも、やがて女は立ち上がる。
「……」
腹部を両手で押さえながらも、彼女の視線は一直線に村雨を睨みつけていた。
「い、痛いじゃないですか……女の子の体に傷をつけるなんて……あなた、最低ですよ。相手は華の女子高生なんだから……もっと丁寧に扱ってくださいよ……」
「今一度、問う。お前に私を殺せと頼んだ雇い主は誰だ? 誰の頼みを受けて、お前はここへやって来たのか?」
「言っときますけど、あたし……こう見えてもまだ17歳なんですよ。もっと手加減してくれたって……いいじゃないですか。嫌われちゃいますよ。そういう大人は」
――ズガァァァァァン!
「うああっ!?」
「聞かれたことだけに答えよ。貴様とて、苦痛と血の海の中で死にとうはあるまい」
3発目の銃弾が無慈悲にも二の腕へと食い込む。先刻の予告通り、村雨は痛覚神経の集まる部分を順番に狙って撃っている。とすれば、次は肩か。すべてを悟った殺し屋の表情が徐々に変わったのは言うまでもない。
「はあ……はあ……何です? ここで素直に依頼主の情報を吐けば、あたしを楽に殺してくれるってわけですか……?」
眉間には深く皺が寄り、額に浮かんだ冷や汗で茶色の前髪が湿っている。そして何よりも、両脚がガクガクと小刻みに震え始めているではないか。
「ほう? 喋る気になったか?」
「しゃ、喋るわけないでしょ……どうせ、殺されちゃうんだし。それにさっき、言ったじゃないですか……自分から負けを認めてゲームオーバーになるのは、まっぴら御免だって……あたし、こう見えても一流プレイヤーなんだから……」
「懲りぬ女め。この期に及んで、まだ左様な世迷言を申すとは。では、さらなる鉛玉を馳走して良いのだな? 私としては別に構わんのだぞ? お前を雇った者の正体は、お前を殺した後でゆっくりと調べさせてもらうゆえ」
「いっ、いや……それは……」
つい数十秒ほど前まで見せていた余裕はどこへやら。左半身を襲う激しい痛みと、おびただしい量の出血。そこへ間近に迫った“死”の恐怖が加わったことで、冷静な思考が失われつつあったのだろう。明らかなる動揺であった。
強情にも「こういうシチュエーションには慣れてる」などと言っていたが、脅しの上に物理的加虐が重なるとなれば話は別。決して慣れてはいないはずだ。彼女の殺し屋としてのキャリアがどれほどかは不明だが、年齢から察するにまだ経験は浅いはず。
おそらくは今回が初めての“拷問”だったと思う。未経験の恐ろしい事態に遭遇して、混乱に陥るのは誰しも当然。そんな精神状態につけ入るかのごとく、村雨はさらなる揺さぶりをかける。
「なるほど。どうやらお前は『名より実を取る』という言葉を知らんようだな。つまらぬ見栄にこだわって痛みの中で死ぬより、素直に負けを認めて安らかな死を勝ち得た方が良いというものを。何故、それを選ばぬのだ?」
なかなか見事なやり方である。
「あたしにだって、プ、プライドが……」
「お前は一人前に殺し屋を名乗っていながら、私を殺すことができなかった。左様な愚か者が“超一流”? 笑わせるな。お前に矜持など、最初から無いようなものではないか!」
「ううっ……!」
「それに見たところ、弾が貫通しておらぬな。さぞ痛いであろう? 雇い主のことを私に明かせば、今すぐ頭を撃ち抜いて痛みから解放してやるぞ。どうする?」
組長の低い声が室内に響き渡る。冷笑と罵声で心をへし折る一方、甘い逃げ道を用意することによって相手を思い通りの自白へと誘導する。なかなか巧妙なやり方だった。責め苦を味わっている真っ最中、すぐさま楽になれる方法を提示されるのだ。よほど強靭な精神力でも備えていない限り、屈してしまうのが人の常だろう。
激しい痛みによる狼狽で心身ともに消耗してきた女の歪んだ顔つきを見るに、もはや選択の余地は無いかに思われた。しかし、その時。
(ん、何だ……?)
妙な違和感をおぼえた。外が何やら騒がしい。窓の外で誰かが叫んでいて、車のクラクションが激しく連続で鳴っているのが分かる。そもそもここは~階なので、外の音が聞こえてくるということ自体おかしいのだが。
胸騒ぎがした俺は、倒れたテーブルを避けて恐る恐る窓の方へ近づいてみる。そしてガラス越しに外の様子を見た瞬間、思わず声が飛び出てしまった。
「うわっ! マジかよ!」
「どうした、涼平? いきなり血相を変えおって」
「あっ、いや。それが、その。何つーか……」
「何があったというのだ?」
どうにか気持ちを落ち着けて、事実のみを伝えてみる。
「……警察が来てる」
窓の外にあった光景。それは、デパートの入り口付近に集まるパトカーの群れであった。5台や6台といった生易しい数ではない。ざっと見た限り、10台は軽く超えている。車から降りた制服警官が忙しなく動き回り、さらには重装備の機動隊員まで来ている有り様。
(おいおい、これはヤバいって!!)
絶望と焦燥がふたつ同時に一挙して押し寄せてくる。おそらく、通報したのは先ほど逃げていった一般客の中の誰か。「~階で女が発砲した」とでも言ったのだろう。銃を持った被疑者と対峙することを想定してか、居並ぶ機動隊員たちは皆大きな鉄盾を構えていた。
このままでは、殺し屋ともども俺たちまで捕まってしまう。警察の突入態勢が既に整っている以上、ここへ踏み込んでくるのは時間の問題。俺に続いて窓の外を視認した村雨も、事態の深刻さを一瞬で理解したようだ。
すると、その時。
「あーはっはっは! 痛快ですねぇ、まったく!」
甲高い声が聞こえた。ふと後ろを振り返ってみると、女が腹を抱えて笑い転げている。
「何がおかしい」
「だって傑作じゃないですか! あなた達、私の時間稼ぎにまんまと引っかかったんですからぁー! ぷぷっ! わざわざ撃たれたふりをした甲斐があったってもんです! あーっ、可笑しい! マジでウケるわ」
「撃たれたふり、だと……?」
よく見たら、女の様子が変だ。つい数十秒前まで弱りきっていたのが嘘のように、まるっきりピンピンしている。銃弾を受けて自由が利かないはずの左腕を自在に動かし、身をよじって抱腹絶倒。痛みを感じる素振りすら皆無。とても信じられない姿だった。
RPGファンタジーの回復魔法じゃあるまいし、こんなに短時間で、それも一瞬のうちに体力を全快させられるわけがない。からくりは、俺にもすぐに分かった。
「……防弾か」
「ピンポーン! 大正解! こういう時に備えてぇ、服の下に防弾スーツを着込んでおいたんですよぉ!! いやあ~、暑かったですねぇ。おかげで中は汗でぐっしょり。早く帰ってシャワーを浴びたいですよ」
ウェイトレスの制服が長袖だったのも頷ける。まさか、内部に着込んだアーマーを隠すためだったとは。想像もつかなかった。今となっては後の祭りだが、近づいてきた時点で異変を察知するべきだったと思う。己の不注意さが悔やまれる。
しかしながら、問題はそこではない。彼女の行動にはひとつ、大きな不明点が残っていた。舌打ちとともに歯噛みした俺と入れ違いに、村雨が淡々と尋ねる。
「なるほど。弾はそもそも効いていなかったのだな。されど、何故に左様な真似を? 撃たれたふりをしていたと申したが、お前の目的は何だ? 時を稼いで我らを当局に捕縛させるのがねらいか」
「えへへへっ! まあ、そういうことですかねー。だって、ほら。殺しは失敗しちゃったんだし。こうでもしないと、ドローにならないじゃないですかぁ。あたしだけが負けたまま終わるとか、マジで嫌なので」
少しずつ分かってきた。どうやら、この女殺し屋は暗殺という行為をある種のゲームと認識しているらしい。基本原則は実に単純明快。獲物に定めた人間を殺せればゲームクリア、殺せなければゲームオーバーだ。
そんな彼女の今回の標的は村雨組長。給仕の従業員に扮して近づき、隙を見て射殺するつもりがまさかの作戦失敗、あろうことか返り討ちに遭って銃まで奪われてしまった。
自らを超一流プレイヤーと称する彼女にとって、相手が誰であれゲームオーバーはとてつもない屈辱。だからこそ、どうせ失敗で終わるなら敵に一矢報いた形で終わりたかったのだと思う。「防弾服を着込んだ自分を撃たせ続けることで時間を稼ぎ、いずれ駆け付けるであろう警官隊に逮捕させる」という、露骨で卑怯な手段を用いて。
被弾の痛みに悶え苦しんでいたのも、残虐魔王の威圧に慄いていたのも、すべて演技。俺も村雨組長も完全に騙され、見事なまでに引っかかった。そして結果的に女の目論見通り、警察が到着してしまったというわけだ。
(でも、それだと真っ先に自分が捕まるだろ……)
元はといえば、発砲事件を引き起こしたのは女の方。彼女が拳銃を撃つ瞬間は多くの一般客に見られているので、警官隊としてもまず最初にそちらを取り押さえるはず。俺たちはたぶん、二の次だ。
一緒に逮捕されてしまうことは覚悟の上なのか。あるいは、自分だけ逮捕を免れる何かしらの算段があるのか。どちらにせよ、俺たちに憂慮すべき事態が迫っていることは確かである。
今すぐにでも、逃げなくては。そう思って頭を強くかきむしる。ゆっくりと立ち上がった殺し屋に対し、なおも銃を向け続ける村雨組長の姿がもどかしく見えた。
「……なるほど、ずいぶんと賢い計略だな。すっかり出し抜かれてしまった。されど、貴様ひとりで考えたものではなかろう? 背後には誰がいる?」
「しつこいなあ。それ、今さら聞いて何になるんですか」
「正直に申した方が身のためだぞ。答えようによっては額を撃ち抜く。全身に防弾の鎧を纏っているというなら、着ていない部分を狙えば済む話だ。私を侮ってもらっては困る」
「へぇ~。んじゃ、あたしも避ければ済む話ですね。そんなに撃ちたきゃ、どうぞ撃ってください。避けてあげますから」
若干2メートルの間をあけて睨み合う両者。こんなことをしている場合ではないというのに。すぐにでも割って入りたいところだったが、組長の放つ殺気が凄まじすぎて俺の両脚は竦んだ。やはり、村雨も村雨でこのままでは終われないらしい。発砲で暗殺されかけた挙句、敵が仕掛けた罠に嵌まるという屈辱。何も借りを返さずに帰っては、彼のプライドが許さないのだろう。
残弾数は残り2弾。標的を見据えた眼差しから放たれる迫力が、さっきよりも数倍ほど増している。相手がいかなる猛者であろうと、必ず討ち取る。まさしく鬼神のごとき佇まいである。
「……」
空気感がさらに張りつめてくる。一定のリズムを奏でる空調設備の機動音や、外で鳴り響くサイレンの騒めきがやけに目立って聞こえる。沈黙でありながら、決して静寂ではない。激情に燃える組長と、ヘラヘラと笑う殺し屋。無言で対峙しつつも、それぞれ内に秘めた何かをぶつけ合っているように見えた。
本来であれば、1秒でも早く逃げ出さなくてはならない場面だ。武装した警官隊は既にデパートの中へ入っていて、こちらへ足早に向かっているものと思われる。ゆえに、迅速なる決着を俺は心の中で願った。女にはすぐに情報を吐いてもらい、それが叶わぬのなら組長は即座に射殺して欲しい。無駄に時を費やしていれば、俺たちは捕まってしまうのだ。いま考えればだいぶ情けない話だが、それがあの時の俺に生まれた正直な感想だった。最も、願い通りにはならないのだろうけど。
だが、その時。
「……はあ。なんか、可哀想に思えてきた」
ちょっと気怠そうな女の声によって、突如として沈黙が破られる。直後に聞こえてきたのは、あまりにも意外な言葉であった。
「そんなに知りたいなら、教えてあげますよ。組長さん。あなたを殺せと私に依頼したのは誰か。たぶん、知ったら知ったで『知らなきゃ良かった』って思うんでしょうけど。それで良いなら」
どういう風の吹き回しだろう。まさか、女の方から自白する気になったなんて。予想だにしなかった。残虐魔王の気迫に屈したのか、それとも別の意図があるのか。どちらにせよ、事態が進展してくれるのはありがたい。この下らぬ茶番劇を早く終わらせることができるのだから、俺にしてみればきわめて万々歳だ。
一方、村雨組長にとってもこれは好機であるはず。ほんの瞬く間にひどく驚いたような顔を見せたが、すぐに元の厳つい表情へ戻った。時間にあまり余裕がないことは一応、組長も分かっていたらしい。下ろしかけた銃口を構え直し、やや語気を強めて問うた。
「では、簡潔に申せ。誰に頼まれて私を狙った?」
「犼魔です」
「なっ、何? 犼魔だと!?」
「はい。犼魔の曹家鳳って人。あなたも十分、ご存じのはずですよね。犼魔。あたしはそこに50万円で頼まれたんですよ。村雨耀介を殺せって。まあ、失敗しちゃいましたけど」
犼魔――。
てっきり、大鷲会の笛吹や斯波一家、家入組あたりの名が出ると思っていた。言うまでもなく、俺にとっては初めて耳にする組織名。先日のヒョンムル同様、自分の中でピンとくる要素は1ミリも無い。漢字の表記でさえ、その時は知らなかったくらいである。
しかし、村雨組長は違った。
「なんと……まさか、ここに来て犼魔の名を聞くとは。奴らまで、私の敵にまわったのか……」
心当たりは大いにある様子。心当たりどころか、何かしらの因縁があるといった反応だ。村雨にため息までつかせるなんて、犼魔とは一体どんな連中なのだろう。考えたくはなかったが、それなりに手強い集団であることは容易に想像できてしまう。
「犼魔の曹さんはあなたと戦争する気らしいですよ。横浜大鷲会が消えた穴を埋めるのは俺たちだ、みたいなことを言ってましたし。私にあなたを殺させて、組が混乱した隙を突いて一気に攻め込む腹積もりだったみたいで。まあ、失敗しちゃったんですけどね。えへへへへっ!」
「他に、何か知っていることは無いか?」
「うーん。特には。強いて言うなら、曹さんを含めて犼魔の人たちはかなり本気になってるって話くらいかな。だって、ほら。今まで大鷲会がいたせいで、ずっと中華街に押し込められてたじゃないですか。だいぶ鬱憤が溜まってると思いますよ」
村雨に動揺は見られない。ただ、想定外の展開に戸惑ってはいるようだった。抗争において敵は少ないに限る。大鷲会残党に斯波一家、ヒョンムルに加えて新たに犼魔までが参戦してきたという芳しからぬ報せ。せっかく中川会の侵攻が立ち消えになりそうだというのに、ここで敵がひとつ増えてしまった。表情が曇るのも当然だろう。
戦いの勝敗を分かつのは物量差。それが埋められない以上、数に劣る俺たちに出来ることといえば敵の虚を突く大胆な作戦を展開するくらい。犼魔がどれほどの兵力を動員してくるのかは見当もつかないが、苦しい戦争になることは明白だ。今後がますます憂えてくる。
「ほらね。あたしの言った通りでしょ? やっぱり、知らない方が良かったじゃないですか。組長さん、さすがにびっくりしちゃいました?」
「……誰が敵であれ、我が指針が揺らぐことは無い。行く手を阻む者は全て滅ぼす。それだけだ。これまでも、そしてこれからも永遠に変わらぬ」
「ひゃはははっ! 強がってるなあ~!」
「戻って犼魔の犬どもに伝えよ。そちらの挑戦、受けて立つと。お前たちが望む所とあらば、この村雨耀介がいくらでも相手になってやるとな」
村雨の言葉に、女は笑った。
「ぷぷっ! ひゃははははははっ! 本気で言っちゃってるんですか? たった50人ちょっとの組で『受けて立つ』なんてぇ~! 超ウケるんだけど! え、組長さん。あなた、もしかしておかしくなっちゃったりしてます~?」
「どうとでも申せ。私は至ってまともである。お前の方こそ、どうして雇い主の名を語る気になったのだ。もしや、おかしくなったのか」
「えっ? さっき言ったじゃないですか。あなたが可哀想に思えてきたって。横浜どころか、大陸最大の中国マフィアが敵にまわったんですよ? ちょっとくらい、お情けをかけてあげてもいいかなって思いましてぇ~。ま、ひとまず承りました。戻ったら伝えときますね~」
これから絶望的な戦いへ突き進んでいく俺たちへ、せめて慰めの辞をくれてやろうというのか。見下されているようで腹立たしい。随分と小癪な女だ。嫌味で繕った慈悲を寄越す余力があるなら、いま己が置かれている状況から脱する術を考えれば良いのに。
いずれ、ここへは警察が来るのだ。もうだいぶ近くまで迫ってきているはず。彼らはおそらく全員が銃を携えていて、ばったりと出くわしてしまえば勝ち目は無い。大人しくお縄にかかるか、虚しい抵抗を繰り広げて撃ち殺されるかの二者択一。どうやって逃げ出すというのやら。
それに女は今回、暗殺任務をしくじっている。犼魔とて依頼を果たせなかった殺し屋に寛容であるはずが無い。迂闊にノコノコ戻ろうものなら、命を以て落とし前をつけさせられるはずだ。姿をくらませたところで、追手を差し向けられるのが関の山。
よくよく考えてみれば明らかである。警察と依頼主、ふたつの脅威から同時に逃げ延びなくてはならないのだ。彼女の方がよほど絶望的な状況ではないか。最も、前者に関しては俺たちも同じなのだが。
(なるほど。お互い、未来は暗いってわけか……)
ただ、女は実に平然としている。言うなれば余裕綽々。醸し出す空気に悲壮感のようなものは一切無く、ヘラヘラとした不気味な笑顔をずっと保ち続けている。何度も思うが、自信はどこから来るのか。いかにすれば、そうしていられるのか。
その答えを俺は思いもよらぬ形で知ることとなる。彼女が取り出したのは、オレンジ色をした細長い円柱型の物体。
(ま、まさか!)
そう思った時には、既に遅かった。
「んじゃ、あたしはこれで失礼しますね! これから大変でしょうけど、せいぜい頑張ってくださいな。どっかでまた会いましょう。生きてたら、の話ですけど……ぷぷっ……!」
一瞬にして、辺りを白い煙が包み込んでゆく。煙はみるみる室内に充満し、嗅覚を異臭が刺激する。慌てて両手で口と鼻を押さえるや否や、視界はあっという間に遮られてしまう。
オレンジの細長い円柱の正体は発煙筒。女が逃走用に煙幕を用いたというわけだ。
見た目こそ乗用車に備え付けの物と似通っているが、どうにも改造が施されているらしい。煙は「噴き出す」というよりかは「爆発する」に近く、放出される量が尋常ではなかった。あの臭いのひどさたるや、未だにおぼえている。もはや発煙筒の域を超え、各国の軍隊で使われるスモークグレネードにも匹敵するレベルだったと思う。
「げほっ……お、おいっ! 待ちやがれ……!」
「無駄だ。もう逃げられた」
村雨の言う通り、ふと気が付くと女の気配は消えていた。立ち上がる煙に乗じて立ち去ったようだ。円筒の破裂に伴う衝撃音に紛れて誤魔化したのか、足音も聞こえなかった。
なんと恐るべき、逃げ足の速さか。これはしてやられた。
「ちくしょう……! なあ、行かせて良かったのかよ?あいつ、絶対にあんたのことをまた狙いにくるぜ?」
「その話は後だ。我らも逃げるぞ」
村雨に手を引かれるがまま、店から退出する。煙は外のフロア全体にも広がっており、視界は殆ど不明瞭。おそらく女は店内で使用したもの以外にも何本か発煙筒を持ち込んでおり、走って逃げる際に置き土産のごとくばら撒いたのだろう。
(嫌がらせのつもりか……?)
だが、そのおかげで俺たちは警官隊に見つからずに首尾よく逃げきることができた。エレベーターホール手前で鉄盾の集団を見かけた時には流石に心臓が止まるかと思ったが間一髪やり過ごし、物陰に隠れて何とか回避。非常階段を1階まで駆け降りて、無事にデパートからの脱出に成功した。
「おおっ! よくぞご無事で……!」
従業員専用の出入り口付近に車を寄せていた運転手は、村雨の姿を見るなりホッと胸を撫で下ろす。彼曰く命令通りに待機していたら突如、建物から沢山の客が逃げ出てきて、さらには救急車やパトカーも集まり始めたので驚いたという。無線を何度となくかけるも繋がらず、組長の安否を案じていたのだとか。
「心配かけて済まなかったな。こちらも出るに出られる状況ではなかったゆえ」
「いえいえ……ご無事で何よりです。なんか、逃げてきた客が話してたんですよ。~階にハジキを持った女が現れて、ファミレスでぶっ放しやがったって。それって、もしかして組長に……?」
「ああ。そういうことになるな。ともかく、ここを離れたい。車を出してくれ」
「か、かしこまりました」
慌てて車を発進させた組員に、村雨は~階で起きた出来事を簡潔に説明する。
休憩がてら訪れたレストランにて、従業員の女が突如発砲してきたこと。寸でのところで銃口を逸らしたものの、代わりにカタギが流れ弾の犠牲になったこと。そして女は雇われの殺し屋で、犼魔の依頼を受けてきたと明かしたこと。
すべてが話し終わるや否や、車内はどんよりとした閉塞感に支配された。
「そうですか……犼魔と……」
「ああ。よりにもよって、な。どうも奴らは本気らしい。そう遠くないうちに我が所領へ攻め入ってくるはずだ。ゆめゆめ用心を怠るでないぞ」
「わ、わかりました……」
バックミラー越しに映った組員の目元は暗い。驚愕と落胆を同時に味わい、どこか恐怖に慄いているようにも見えた。無理もない話である。四面楚歌というただでさえ不利な状況に、新たな敵が加わる結果となったのだから。
また、問題は他にもあるようだった。
「私の見た限り、あの老婆は首を撃たれておった。流れ出る血の量も多かったゆえ、あれではもはや助からぬであろう。後日、香典のひとつでも送っておけ。村雨組として、形だけでも弔意を示すのだ」
「承知いたしました。では、そのように」
「甘い汁を吸わせておるうちは、当局も我らの戦に目をつぶっているがな。カタギが巻き添えを食らったとなれば話は別だ。公僕は世論に弱い。街で極道を排する機運が高まれば、掌を返して取り締まりに本腰を入れるやもしれぬ。藤島が撒いた種も気がかりだ」
「暴追、ですか……うーん。たしかにあれは先が見通せませんよね。これからどうなっちゃうのか。まったく、あのジジイも最後の最後に余計なことをしてくれたものです」
神奈川県警や地検の上層部に対し、“寄付金”という形で多額の賄賂を贈っている村雨組。そうすることによって法に縛られぬ自由な動きを可能としてきたが、効かせた鼻薬がいつまで続くかは分からないのだ。
特に厄介なのが市民による暴力団追放運動だ。これまで過酷に搾取されてきたカタギの人々の怒りが、ここ最近になって未だかつてない盛り上がりを見せているという。暴追に限らず、勢いのある市民運動は政治にも影響を及ぼす。これらの高まりが挙における集票力となって万が一、ヤクザ排斥を掲げる人物が県警の最高指揮官たる県知事になろうものなら、村雨組は一気に窮地へ追い込まれる。
抗争の苦しい戦局と、決して盤石とはいえぬ公権力との関係。抱える問題の複雑さに、村雨はひどく頭を悩ませていた。そんな空気感の中では「中国のマフィアって言ってたけど、犼魔って具体的にどういう組織なの?」などと、安易に聞けるわけがない。車が屋敷へ着くまでの間、俺はじっと口を閉じていることを余儀なくされたのだった。
お盆休み、いかがお過ごしでしょうか?
連日猛暑が続いておりますので、
くれぐれもお体ご自愛くださいませ。




