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鴉の黙示録  作者: 雨宮妃里
序章
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走馬灯

 挿絵(By みてみん)




 冷たい銃声が、空気を切り裂く。


 追随して聞こえてくるのは、地面にこぼれる薬莢の音。自分の身体が前の方へ、ゆっくりと倒れていく。


 いったい、何が起こったのか――。


 あまりに突然の事で、思考と理解が追い付かない。しかし、間髪を入れずに激しい熱さと痛みが上半身を襲った。


「……ッ!?」


 背中から肩にかけて、けるように痛い。何とか起き上がろうと試みるものの、両手に力が入らない。ようやく、自分の身に何が起こったのかが理解できた。


 どうやら、撃たれてしまったようだ。


 その証拠に背中からは血が噴き出し、うつ伏せで横たわる床のタイルがみるみるうちに赤く、染まっていく。弾は貫通しているのか、いないのかは分からない。


『おい! 大丈夫か! 救急車だ。今すぐ救急車を呼べ!』


『でも、この人を病院に連れて行っ……』


『関係ない……見ご……できない!』


『は……を……やれ!!』


 近くにいた通行人が大声で、何やら揉めている。しかし、痛みで聴覚がやられてきたせいか、詳細に聞き取る事は出来なかった。


「だ……す……れ」


 本当は「誰か助けてくれ」と言いたかった。だが今度は口元の感覚が痺れて、うまく言葉を発することが出来ない。


(俺は死んでしまうのか……)


 自己紹介が遅れていたが、俺の名は麻木涼平あさぎ りょうへい。10代の頃から、裏の社会で生きてきた。自分で言うのもおかしな話だが、名前は売れている方だ。


 肩書きはヤクザ。


 決して合法的ではない組織に、若い頃から身を置いている。危険な橋を幾度となく渡り続け、いつ命を落としてもおかしくはない世界で、20年は生き続けてきた。


 金に女、そして力――。


 男の欲望を満たすものは、ひと通り手に入れた。誰もが羨む、華やかで豪勢な生活を営んでいたと思う。


 だが、気づいた時には周りを見失っていた。


 欲に目が眩み過ぎていた。裏社会におけるパワーバランスの変動に、まるでついていけなくなっていたのである。


 そして、ついには背中から撃たれるという結末を迎えてしまった。


 これまで常に誰かを傷つけ、食い物にする生き方をしてきたのだから、自業自得である事は百も承知している。


(でも俺は……まだ……死にたくない!!)


 少しずつ霞んでいく意識の中で、様々な記憶が駆け巡ってきた。ゆっくりと映し出されるのは、懐かしくて暖かい光景。


 これが俗に言う“走馬灯”なのか。


 フィクションにおける架空の産物とばかり思ってきたが、いざ自分が味わってみると、あまりの虚しさに心が痛む。


 どうして、こうなってしまったのか。


 後悔にも似た冷たい感情に包まれたその瞬間、俺の中で時計の針が少しずつ、巻き戻されていった――。

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