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「ああ、お帰りー」


 雑多な品物をそこら辺中に転がした広い部屋の中央から、白衣の中年男性が答えた。


 ボサボサの髪の毛。


 痩せている。


 縁無(ふちな)しの丸眼鏡をかけていた。


 幸雄の父、科雄(しなお)


 自称オカルト研究家だ。


 妻、すなわち幸雄の母は3年前に病気で亡くなっている。


「幸雄、ついに手に入れたぞ!!」


 科雄が満面の笑みで手招く。


「はあ? また変な物を買ったんじゃないだろうな?」


 科雄は超常現象に困る人々の依頼を受け、それを解決することで生計を立てていた。


「研究のためだ」などと言っては、よく分からないガラクタを買ってくることも少なくない。


「今回は今までのと(けた)が違うぞ! 雪女の怨念がこもった髪の毛だ!」


「え!? また雪女!?」


 幸雄が驚く。


 ユウを思い浮かべていた。


「ああ、その昔に源揉揉(みなもとのもみもみ)という武士に討たれた雪女の髪なんだ」


「何だかマッサージが上手そうな名前だな…」


「ものすごい(ごう)の者だ。この辺りでは有名だぞ。石碑も建ってる。知らないのか?」


「全然、知らない」


「まあ、いい。言い伝えではこの辺りにあった村の若者と恋に落ちた雪女が、ある夜、逢引(あいびき)の約束をした」


「へー」


「だが若者は約束の時間に現れず、揉揉が率いる武士たちが雪女を取り囲んだ」


「え? 若者が裏切ったってこと?」


「それはよく分からん。とにかく揉揉は雪女の弱点である火攻めと伝説の刀『肩叩き剣』で彼女を倒した」


「肩叩き剣…? それもマッサージっぽいな…」


「雪女が死んだ後にはひと(ふさ)の白い髪の毛が残った。それがこれだ!」


 科雄がお札が貼られた木製の小さな箱を研究台の上にバンッと置いた。


「やっと手に入った」


「これ、何に使うんだよ?」


「雪女の怨念がこもってるからな。強力な力を持ってるはずだ。研究して今後の仕事に役立てる」


「怨念って…ヤバくないか? 呪われたりしないの?」


「そんなことは気にするな! オカルト研究家は呪われてナンボだろ?」


「いや、そこは気にしろよ!!」


「おい、おっさん。それは遊び半分で開けるものじゃないぞ」


「その声は!?」


 幸雄が周りを見回す。


「ニャン太!!」


 研究室のガラクタの山の上にニャン太が座っている。


「オレだけじゃない」


「え!?」


 研究台の陰に隠れ、幸雄を見つめるかわいらしい左眼。


「ユウまで!!」


 幸雄が驚く。


「どうやって入ったんだ!?」


「お前の後ろにくっついて入った」


「ええ!? 気付いてなかった…」


「ん? 君たちは幸雄の友達だと思ってたが…雪女と猫又じゃないか!!」


 科雄が興奮する。


「どうやら、このおっさんにも霊力があるようだな。オレたちが見えるんだから」


「遺伝かな? 代々、霊力が強い? 全然、使ってないけど!」


 幸雄が顔をしかめる。


「ニャン太、この箱は危ないのか?」


「ああ、この箱からものすごい怨念を感じる。封印を解いたら最後、お前たちは殺されてしまうだろうな」


「おりゃ!!」


「わー!! 親父、何、お札を()がしてんだよ! ニャン太の話の途中だろ!」


「済まん、我慢できなくて」


 科雄がエヘヘと笑う。


 お札を剥がされた箱が突如、強烈な光を放った。


「うわ! 何だこれ!?」


 幸雄が叫ぶ。


 次第にその眩しさが収まっていく。


 幸雄が眼をそっと開けると。


 研究台の上に真っ白い着物を着た、色白の女が立っていた。


 20代後半ほどか。















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