1
秋だというのに、その日は暑かった。
昼の日差しの中、高校2年生の黒木幸雄は住宅街のコンビニに向かっていた。
店内に入り、ミネラルウォーターと雑誌を買って外に出る。
夏のような照りつけの下で水を飲む。
日曜日なので七分丈のTシャツにデニムパンツの私服姿。
額の汗を拭った。
今日は、いつも遊んでいる友人たちが皆忙しく独りだ。
彼女も居ないので、この後の予定は無い。
「帰ってゲームでもするか」
そう言った幸雄の視界の端にコンビニ横のスペースが入ってきた。
「うん?」
幸雄が驚く。
人の脚が見える。
白くて長い、それでいて太ももは肉感的な脚。
(誰か倒れてるのか!?)
幸雄は慌てて傍に駆け寄った。
脚の主の全身が見える。
「あ!?」
幸雄は思わず声を上げた。
コンクリの地面に座り込んだ、脚の持ち主があまりにも変わった姿だったからだ。
薄青い着物を着た少女。
着物はあちこちが尖っていて、まるで氷柱のようだ。
細い腰には紫色の帯。
着物の裾は短く、超ミニスカートのようになって、そこから先ほど見えた美しい脚が2本、前方に放り出されているのだ。
顎までのショートヘアは濃い青。
右眼は髪で完全に隠れているが、左眼は弱々しい光で幸雄を見つめている。
大きく、美しい瞳。
その眼と眼が合った瞬間、幸雄は全身が震えた。
心臓が破裂しそうになる。
ドキドキが止まらない。
(な、何だ、この気持ち…)
正体不明の感情に戸惑う。
その時、少女の顔が揺れた。
否、違う。
少女の頭の辺りにフワフワ浮いている真っ赤なものが動いたのだ。
勾玉形のそれが、炎のようにユラユラと揺れる。
(え!? これはいったい!?)
「うう…」
少女が苦しそうに呻いた。
「だ、大丈夫?」
相手の不思議な格好や得体の知れない炎の存在はとりあえず一旦置いて、幸雄は少女の傍に座った。
「うう…」
「苦しいの!?」
「冷たいもの…」
少女がこちらに手を伸ばす。
「これ?」
幸雄がペットボトルを差し出す。
「ちょうだい」
少女がペットボトルを掴んだ。
幸雄は素直に渡した。
少女がかわいらしい唇で水を飲む。
透き通るような白い肌の喉が動く。
(あ。間接キス…)
幸雄が顔を赤らめる。
少女が残りの水を全て飲み干した。
「大丈夫?」
幸雄が、もう一度訊く。
「うん」
少女がニッコリと笑った。
(かわいい…)
幸雄がキュンとする。
「ありがとう」
鈴の音が鳴るような声。
突然。
少女がガバッと幸雄に抱きついた。
着物の尖った部分は意外にも柔らかかった。
上目遣いで瞳をウルウルと潤ませる少女。
あまりの顔の近さに、幸雄がパニクる。
「え!? ちょっ、ちょっと!?」
「あたしはユウ! あなたは?」
「ええ? お、俺は幸雄…」
「助けてもらったお礼をしたいの。あたしに出来る事ある?」
「ええー!? きゅ、急にそんなこと言われても…」
幸雄が、しどろもどろになる。
「あーあー。また人間に助けられて懐いてやがる」
幸雄の背後から男児の声がした。
「え!?」
幸雄が振り返る。
「猫!?」
そこには一匹の黒猫が居た。
「ああ、オレはニャン太。猫又だ」
「うわー!! ね、猫が喋ったー!!」
幸雄が腰を抜かす。
ユウも幸雄に抱きついたまま、いっしょに地面にしゃがみこむ。




