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REMAKE~わたしはマンガの神様~  作者: 八城正幸
第18章
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ある街角の物語 その2

 ペントハウスに集まった治美、雅人、金子の三人は、いよいよ手塚アニメを世に出すための計画を練っていた。


 今までの内容を描いたメモを見ながら雅人が言った。


「昭和37年4月に虫プロ第一スタジオが完成して、同じ年の11月5日に『ある街角の物語』と『鉄腕アトム』第1話を発表していますよね。初めてアニメを作った素人がわずか8カ月で40分の映画と30分のテレビアニメを作ったのですか?」


「アトムは発表会当日まで完成していなかったそうですよ」


「それなのにたった1カ月後の昭和38年1月1日から『鉄腕アトム』の全国放映が開始しますよね。毎週毎週新しい30分のアニメを作っていかないといけないんでしょ。俺はアニメのことまったく知りませんがアニメってそんなに簡単にできるものなのですか?」


「そんなわけないでしょ」


 金子が首をゆっくりと左右に振った。


「脚本家がシナリオを描き、演出家が絵コンテを切り、原画家が原画を、動画家が動画を描き、トレーサーがセルにペンでトレースし、仕上げの人がセルの裏から色を塗り、美術の人が描いた背景画と重ねて撮影技師がフィルムに撮影してゆき、音響が音楽と声をつけてゆきます」


「――とてつもない作業量ですね」


「そのうえ手塚先生には今まで以上に漫画を描いて稼いでもらわないといけません。アニメ作りには莫大な費用がかかりますからね」


「治美!やっぱりアニメは止めよう。俺たちには無理だよ。このままだと俺たちは全員地獄行きだぞ」


「もう相変わらず雅人さんは心配性なんだから!大丈夫、大丈夫!そのために金子さんに相談しているじゃないの」


「これだけの大事業をやり遂げるには優秀なスタッフを沢山集めないといけません。将来アニメ業界で活躍する巨匠たちの名前をお教えしますからぜひ虫プロダクションで雇って下さい」


「やっぱり金子さんは頼りになるわ!今うちにいるアシスタントの中からアニメ業界に行く人って誰なの?」


「先日『西遊記』が公開されましたが、月岡貞夫君はまだ東映動画にいますよね。彼は昭和39年2月に東映動画を退社して虫プロで『W3』とか『リボンの騎士』の制作に携わりますよ」


「あら?月岡君はアトムのアニメは手伝ってくれないの?」


「その頃は東映で『オオカミ少年ケン』の原作と監督をしていましたからね。そっちで手一杯でしょう」


「残念ね。ほかに東映動画からうちに来てくれる人っていないのかしら」


「大企業のやり方には合わない作家性の強い人が自由にやらせてくれる虫プロに大勢移ってきますよ。なにしろあそこは大卒の正社員でないと演出をさせてくれないそうですから」


「才能のあるはみ出し者がうちに集まってくるってわけね」


「そう言えば笹川ひろしってアシスタントはいますか?」


「笹川氏は一番初期の専属チーフアシスタントよ。今は独立して『少年画報』で『鉄腕ベビー』って漫画を連載しているわ」


「『鉄腕ベビー』?もろに『鉄腕アトム』の影響を受けてますね」


「わたしは読んだことないけど、一寸法師サイズの鉄腕アトムみたいなお話だそうよ。わたし自身が手塚作品をパクってるだけの人間だから文句は言わないわ。むしろ手塚作品を真似してくれるのは大歓迎よ。ライオンキングだって許しちゃうわ」


「笹川ひろしは将来アトムの絵コンテを手伝ってくれますよ」


「あら?だったら虫プロに入ってもらおうかな」


「彼は友達の漫画家吉田竜夫と共にタツノコプロを創るからダメですよ」


「タツノコプロって聞いたことがあるわね?有名なの?」


「本当にアニメのことは知らないんですね。彼が総監督をした作品は『宇宙エース』『マッハGoGoGo』『おらぁグズラだど』『ドカチン』『ハクション大魔王』『いなかっぺ大将』『カバトット』『けろっこデメタン』『新造人間キャシャーン』『宇宙の騎士テッカマン』『タイムボカン』『ヤッターマン』…」


「わかった、わかった!笹川氏にはよそのプロダクションでアニメ界に貢献してもらいます」


「金子さん。今、下の仕事部屋にいるアシスタントの中で将来有名になる人はいませんか?神戸北野町時代から手伝ってくれている安村とか…」


「うーん。残念ながら安村、赤城、藤木の三名の名前は聞いたことありませんね。将来漫画家として大成しなかったようです」


「そうですか。俺が誘ったばかりに彼らの人生を狂わせてしまったのかなあ」


「一階に古谷三敏君がいましたよね。彼は一度独立してから赤塚不二夫先生のアシスタントになりますよ」


「というと古谷君は小森章子さんの所に行くわけですか」


「少年サンデーで『ダメおやじ』って漫画をヒットさせて『減点パパ』『BARレモン・ハート』『寄席芸人伝』等を描きます」


「いくら有名になってもアニメを手伝ってくれなきゃダメだわ」


「あとですね、こういう名前の人が応募してきたら是非とも雇って下さい。杉井儀三郎、富野喜幸、高橋良輔、山本暎一、林重行、中村和子、出﨑統……」


「ちょ、ちょっと待って下さい。今、メモを取りますから」


 焦って雅人はメモ帳に名前を書き留めていった。


「ふーん。みんな将来有名になるの?」


「杉井儀三郎は杉井ギサブローの名前で『タッチ』『銀河鉄道の夜』『あらしのよるに』を作ります。富野喜幸は富野由悠季の名前で『海のトリトン』『機動戦士ガンダム』『伝説巨神イデオン』……」


 必死に雅人がメモを取っている間、手塚作品以外に興味のない治美は暇そうにペントハウスの窓から遠くに見える富士山を眺めていた。


 その時、階下からアシスタントが呼び掛けて来た。


「手塚先生、原稿のチェックをおねがいします」


「はーい!」


 治美は元気よく返事をすると螺旋階段を下りて行った。


「お、おい、治美!」


「雅人さん。しっかり金子さんの話をメモっといてね!」


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