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REMAKE~わたしはマンガの神様~  作者: 八城正幸
第17章
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フィルムは生きている その8

 小森章子までが未来人だと知らされ、治美はすっかり気が動転していた。


「で、で、でも章子さんをメガネはかけていないじゃない!?コミックグラスを持っていないわ」


「落ち着くんだ、治美!タイムスリップした人間が全員コミックグラスが持っているとはかぎらないだろう」


「コミックグラスを持ってない人は、この時代にタイムスリップしないでもらいたいわ!」


「いや。そんなわがままを言ってもタイムスリップにも都合があるだろうが」


「手塚先生!御覧ください!」


 章子はそう言うと右手の人差し指を右目の目尻にあて、目を大きく開けたまま耳側やや上方に引いて瞬きをした。


 ポロッとハードコンタクトレンズが外れ、章子は落ちてくるレンズを受け止めた。


「スマートコンタクトレンズと言います。手塚先生や横山さんのいた時代より後に出来た未来世界のデバイスです」


「コンタクトレンズ!?」


拡張現実(A R)ディスプレーを内蔵し、視点を動かすことで操作できます。体温により充電し、網膜にマイクロLEDディスプレーを映し出して色んな情報を目の前に表示できます」


「よ、よくわからないけど、つまりそれは未来のコミックグラスの進化系だというの?」


「ええ。でもできることはコミックグラスと同じです。内蔵された電子書籍を閲覧するだけです」


「凄い技術だな!しかし技術の無駄遣いだ!」


「それじゃあ章子さん。あなたは本当に未来からタイムスリップして来たのね?」


「はい、ほんまにうちは未来から来ました。うちは2003年、平成15年生まれです。23歳の誕生日の夜に1953年の世界にタイムスリップしてきました」


「わたしたちの中では一番未来の時代からタイムスリップしてきたのね。でもどうして未来人だということを黙っていたのよ?」


「うちが未来人やなんてそないなアホみたいなこと言ったらどうなるかわからんし、怖くて誰にも言えませんでした」


「でも横山さんには喋ってるじゃないの!?」


「横山先生にはうちが未来人だとばれてしまったので、観念して白状しました」


「どうしてバレたの!?」


「治美。刑事の取り調べじゃあないんだから、もう少し穏やかに…」


「章子さん!あなたのコンタクトレンズに内蔵されている電子書籍って…?」


「超完全版赤塚不二夫全集です」


「やっぱり…」


 治美はへなへなとその場に座り込んでしまった。


「あなたが『おそ松くん』を描いた時に気づくべきだったわ。いくら金子さんに内容を聞いたと言ってもあんな完璧に同じ漫画を描けるはずがないもの」


 治美はジロッと横山の方を凝視した。


「横山さんは章子さんが未来人だといつから気づいていたの?」


「一緒に暮らすようになってからです。前から怪しんではいたのですが確証がなかった。章子が夜寝る前に洗面所でコンタクトレンズを外すところを見つけて確信しました」


 ああ、二人はもうそんな関係なのかと雅人は悟った。


 治美の何とも言えない微妙な表情で呆けている。



「よ、よかったじゃないか、治美!これで小森さんに赤塚不二夫の漫画を描いてもらえるぞ。ねぇ、そうでしょ、小森さん?」


「はい。横山さんから手塚先生、いえ、治美さんの事情は伺っております。うちでお役に立てるのなら、漫画界の発展のために赤塚不二夫先生の漫画を描かせていただきます」

 

「ありがとうございます!しかし、章子さんまで未来人だったとは驚いたなあ。この業界、未来人だらけだ。もっと他にも漫画家の中に未来人が混じっているのかもしれませんねぇ」


「疲れたから帰る………」


 治美はひどく疲れた様子でとぼとぼと部屋を出て行った。




 1959年、昭和34年3月17日、サンデーとマガジンが創刊された日、雅人は本屋の前で新しい週刊誌の売れ行きを見ていた。


「マガジン」は従来の「少年画報」「冒険王」「ぼくら」などの少年月刊誌に近い編集方針だが、「サンデー」は手塚治虫を軸に藤子、赤塚、横山といった若い手塚チルドレンたちを中心にしていた。


 近い将来、横山光輝はサンデーに「伊賀の影丸」「仮面の忍者 赤影」「ジャイアントロボ」と言った大ヒット作を連載する。


 一方の赤塚不二夫もサンデーに「おそ松くん」「もーれつア太郎」を、マガジンに「天才バカボン」を発表し天才ギャグ作家呼ばれるようになる。


 まさかこの二人が同棲中だとは一部の業界人以外誰も知らない。


 本屋には小遣いを握りしめた子供たちが群がり、サンデーとマガジンは飛ぶように売れている。


 この頃テレビはますます普及し、毎週番組が放送されるようになり、日本人の生活サイクルも月刊から週刊に変わってきていた。


 この先、週刊の漫画雑誌は爆発的に売れてゆくことだろう。


 本屋の前でしばらくふたつの雑誌の売れ行きを見ていた雅人は安心して仕事場に戻って行った。


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