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REMAKE~わたしはマンガの神様~  作者: 八城正幸
第15章
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トキワ荘物語 その9

 雅人がアシスタントの小森章子を連れて部屋に戻ってきた。


 狭い四畳半の部屋にギュウギュウに人が詰め込まれているのを見て、章子は一瞬目を丸くして驚いた。


「み、みなさん、お揃いでしたか?」


「さあさあ!章子さん、わたしの隣に座って」


 治美が手招きしたので、章子は座っている人たちをよけながら部屋に入り、何とか治美の隣に座った。


「章子さんって今、何を描いていたっけ?」


「今は『少年クラブ』の『ロック冒険記』と『おもしろブック』の『ピピちゃん』です」


「そっか!もうそれはいいから自分の好きな漫画描きなさい」


「えっ!?うちの好きな漫画ですか?」


「ギャグ漫画、描きたいのでしょ?」


「で、でも手塚先生のお手伝いは…」


「大丈夫よ。以前からアシスタント希望だった高峰よし子さんと鈴木恵子さんの二人。今度高校を卒業するから正式にアシスタントに採用するわ」


 治美は紙と鉛筆を章子に手渡した。


「この前章子さんが描いてたキャラクターをみんなに見せてあげて」


「は、はい…」


 章子は緊張で手を震わせながら、少しずつゆっくりとキャラクター達を描いていった。


 そのキャラクター達を一目見て、横山と金子が驚きの声を上げた。


「おそ松くんだ!?」


「イヤミとチビ太もいますよ!?」


「どうかしら?ヒットしそうなキャラクターでしょ。章子さん、第一話はどんな話にするのか教えてくれない?」


「は、はい。第一話は、茶の間にお母さんが座っているとおそ松が来ておやつをくれと言います。お母さんがおやつは戸棚にあると言うとおそ松はいなくなります。次におそ松と全く同じ顔の少年が茶の前に現れて再びおやつをくれと言います。おかあさんがおやつは戸棚だと教えると少年は立ち去ります。このやりとりを全部で6回繰り返して、遂におかあさんが怒りを爆発させます」


「なるほど。主人公が6つ子という特徴を前面に押し出し、笑いに結び付けるわけだね」


「次に両親が旅行に出かけ6つ子たちだけで留守番をしていると、空き巣狙いがやってきます。空き巣は玄関に現れたおそ松にこづかいを渡しまんまと外に連れ出します。そのすきに盗みに入ろうとしたら、家のあちらこちらにおそ松と同じ顔の少年がいて空き巣があたふたと驚き、最終的には警察に捕まってしまうというお話です」


 章子の説明を聞き、みんなじっと考え込んだ。


「どう?面白くなりそうでしょ」


「そうですね。いいんじゃないですか」


「よし!章子さん、それで第一話を描いてみて。できたらどこか出版社に推薦してあげるわ」


「本当ですか!?あ、ありがとうございます!」


「ただしひとつだけ条件があるの」


「なんでしょうか?」


「ペンネームは赤塚不二夫にして」


「あ、赤塚不二夫!?ど、どうしてそんな名前に…!?」


「えーと、手塚治虫の塚と藤子不二雄のフジオを合わせたの」


「赤は?」


「うーんと、章子さんのほっぺが赤いから、かな?」


「よ、よくわかりませんが、尊敬する手塚先生のおっしゃるとおりにいたします」


「それじゃあ、金子さん。おそ松くんに登場する他のキャラクターの案を章子さんにしてあげてください」


「えっ!?私がですか?」

 

 治美は章子に聞こえないように小声で金子に言った。


「頼みますよ、金子さん。わたし、手塚先生の漫画以外、昔の漫画はそれ程詳しくないんですよ。金子さんなら子供の頃読んでたからよく知ってるでしょ」


「まあ、私は『おそ松さん』のアニメはは見てませんが、藤田まことがオープニング曲を歌っていた白黒の『おそ松くん』ならテレビで見ていましたからね。わかりました!あまりよくは覚えていませんが記憶を振り絞ってやってみます」


 そう言うと金子は章子を連れて雅人の部屋を出ていった。


 と、雅人が手を上げたので治美が指名した。


「はい、雅人さん!」


「本当に章子さんがお前のアシスタントを辞めても大丈夫なのか?新人のアシスタント二人だけじゃやってけないぞ。月刊誌の連載9本に加えて今月は読み切りの別冊付録が5本、新聞の連載が2本だぞ。月産枚数600ページを超えてるぞ!」


 雅人の言葉を聞いて、横山が目を丸くした。


「600ページ!?一日に20ページですか!?そりゃあ手塚先生、無茶ですよ!そのうえ今度はアニメも作るつもりなんでしょ!?」


「治美!お前は本物の手塚治虫じゃないんだぞ!いくらコミックグラスがあるとはいえ、こんな生活をしていては身体を壊すぞ」


「大丈夫ですよ、雅人さん。この頃の漫画は写実的な劇画と違って線が少ないから早く描けるんです。それにわたしだって最近は絵が上達して来たから、下書きなしでサクサク原稿描いているのよ」


「それにしても手が足りない!アシスタントを増やそうにもまだまだ今の時代、漫画を描ける人間がいない!」


「それはわたしも前から考えています。『漫画少年』の投稿欄で有望な常連投稿者を何人も目をつけてるの」


「そんなのモノになるとは限らないだろうが」


「後にプロの漫画家や作家になった人が一杯いるからその人たちを選びます」


「プロの漫画家!?投稿者の中にそんなに大勢いるのか?」


「はい。金子さんに教えてもらいました」


 そう言うと治美は名前を列挙したメモを取り出して読み上げた。


「石川球太、石川フミヤス、板井れんたろう、楳図かずお、桑田次郎、佐藤まさあき、鈴木伸一、高井研一郎、辰巳ヨシヒロ、永田竹丸、西岡たか史、長谷邦夫、松本零士、森田拳次、山根赤鬼、山根青鬼、横尾忠則、和田誠、小松左京、筒井康隆、平井和正、眉村卓…。このあたりの人が『漫画少年』の投稿者からプロになった人ですって」


「なるほど!その人たちの名前が投稿者の中にあれば、歴史が正しく動き始めている証拠にもなりますね!」


 横山が希望に声を弾ませた。


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