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REMAKE~わたしはマンガの神様~  作者: 八城正幸
第15章
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トキワ荘物語 その6

 トキワ荘の四畳半の雅人の部屋で治美は立ち上がると、周囲の人たちに向かって力強く言った。


「日本はもうマンガがブームになりました。今度はアニメを日本で流行らせたいのでアニメを作る準備に入ります。みなさんはそれぞれ自分の担当の作品の中でアニメ化されたものを優先的に描いて下さい」


 と、横山が右手を上げた。


「はい。横山さん」


「日本初のテレビ用連続アニメは手塚先生の『鉄腕アトム』ですよね」


「そうですよ。1963年1月1日から1963年12月31日、 火曜の18時15分から18時45分、フジテレビ系列で全部で193話が放映されました」


「1963年と言えば昭和38年ですよ。今はまだ昭和30年、8年も先の話です。準備するのは早すぎませんか?」


「横山さんはこの先8年間もこの世界にいるつもりですか?」


「―――いえ。元の世界には家族や友人がいました。一刻も早く元の世界に戻りたいです」


「わたしもそうです。金子さんも玲奈ちゃんも同じでしょ。元の世界で奥さんやご両親が待っています。わたしたちは8年も待ってはいられません」


「でも、治美…」


 雅人が話しかけたが治美は人差し指を立てて「チッチッチッチッ……」と左右に振る仕草をした。


「雅人さん。挙手をお願いいたします」


「もう、面倒臭いヤツ!」


 雅人が右手を上げた。


「はい。雅人さん!」


「前倒しで作品を発表していったらかなり歴史がずれてくるだろう?1991年のコミケでタイミング良くお前の両親が出会えなくならないか」


「早くなる分には問題ないと思いますよ。要は1991年までにわたしのパパとママが手塚治虫の漫画とアニメのファンになればいいのです。コミケに参加するぐらいの熱烈なファンにね。雅人さんはエリザさんとちゃんと結婚して1970年、昭和45年5月20日にわたしのパパを生んでください。そしてしっかりと手塚治虫ファンの子供に育てて下さいね」


「あっ!こいつ!俺の未来の情報は俺にも教えるなと言ってるだろうが!ああ、また自分の未来を知ってしまった!」


「ごめんなさーい!つい、うっかりと言っちゃた!」


 治美は「テヘ!」と言いながら舌を出した。


 雅人は思った。


 絶対にわざとだ。


「ということは、雅人くんは昭和44年中にエリザお嬢様にタネを仕込まないといけないわけだ」


 横山がそうつぶやくと、玲奈が不思議そうな顔で尋ねた。


「タネ?仕込む?なんの話?」


「ええい!その話はもう終わりだ!」


 雅人が顔を真っ赤にして手を振った。


「俺の息子の話はいいとして、治美の母親はどうなる?歴史がずれたら生まれてこなくなるかもしれないぞ」


「確かに雅人くんの言う通りですね。手塚先生、先生のお母さまのご両親、つまり母方の祖父母は今、どこでどうしているのかご存じですか?」


「それが分かんないの。ママの両親はママが小さい頃に事故で死んじゃったから。だからわたしには父方の祖父母しかいなかったの」


「そうなのですか?母方の祖父母について何か知っていることはないのですか?名前や出身地とか?」


「出身は東京だったわ。ママ、あまり思い出したくないって詳しいことは教えてくれなかったの。わたしも亡くなった祖父母のことなんか特に興味もなかったしね」


「残念ですね。母方の祖父母を見つけ出したらこんな回りくどいことしなくてもすんだのにね。母方の祖父母を無理やりにでも結婚させて、出来た娘さんと雅人くんの息子さんを婚約させたらいいのですよ」


「そんなに簡単にいかないわよ」


「でも、日本をマンガとアニメの大国にするよりは簡単だと思いますよ。僕らがマンガとアニメで儲けた金を使って無理やり結婚させるんですよ」


 そう言うと、横山はまたチューダーを一気に飲み干した。


 みんな、かなり酔っぱらってきていた。


「横山さんの初めてのアニメ化作品は『鉄人28号』ですよね?」


 顔が真っ赤になった金子が横山に尋ねた。


「はい、そうですよ。漫画はアトムと同じ『少年』に昭和31年から連載開始されます。テレビアニメは昭和38年からです」


「アニメ化の前に実写テレビドラマもありませんでしたか?確かアトムも実写ドラマがありましたよ」


 金子がそう言うと、治美と横山は互いの顔を見ながらひきつった笑いを浮かべた。


 金子は触れてはいけないことに触れてしまったことに気づいて口を閉じた。

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