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REMAKE~わたしはマンガの神様~  作者: 八城正幸
第13章
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ジャングル大帝 その6

 翌朝、治美たちはさっそく虫プロ内に机をひとつ追加して、玲奈のために席を作った。


「それでは、さっそく漫画の描き方を覚えてもらいますね」


「はい!」


 治美は主線(おもせん)のペン入れまで終わった漫画原稿を4枚、玲奈に手渡した。


 玲奈は原稿を手に取ってタイトルを口に出して読んだ。


「『ジャングル大帝』……」


「知ってるかしら?」


「知らない……」


 玲奈はうつむいてしまった。


「あ!いいの、いいの!気にしないで!」


 治美は慌てて手を振った。


「この白いライオンの名前はパンジャよ。ジャングルの王様で密漁者たちと戦って動物を守っているの」


「どうしてライオンが白いの?」


「いい質問ね。本物の手塚先生がライオンの出てくる絵本を描いたことがあったの。その時、黄色い裸電球の下で色を塗っていたの。翌朝になって見てみたら、黄色だと思った絵具が実は白だったの。それで白いライオンって面白いなあってバンジャが生まれたのよ」


「へぇ…」


 治美は少し考えてから玲奈に尋ねた。


「『ライオンキング』は知ってる?」


「それなら知ってる!大好き!」


 玲奈が嬉しそうに言った。


 治美は複雑な表情をした。


「『ジャングル大帝』は『ライオンキング』の元ネタになったマンガよ。『ジャングル大帝』は『キンバ・ザ・ホワイト・ライオン』のタイトルでアメリカでも何度もアニメを放映したからみんな知っているわ。『ライオンキング』が好きならば、ぜひ『ジャングル大帝』も読んでね。ネタバレはしないけど、『ジャングル大帝』の方がずっとストーリーが複雑でテーマが深いのよ!」


「ふーん…」


「その原稿は長編漫画『ジャングル大帝』の記念すべき第一話よ。今度、漫画少年って月刊誌に持ち込みするつもりなの」


「たった4ページだけ?」


「今の月刊誌に載ってる漫画はせいぜい4、5枚程度なのよ。漫画ってあんまり雑誌に載せてもらえないの。でも、これから段々とページ数は増えていくからね」


「私は何をしたらいいの?」


「まずはバツ印の所を黒く塗ってもらえる?」


「ベタ塗り?」


「そうそう!ベタよ!ゆっくりでいいからやってみて」


「はい…」


 玲奈は筆を取ると、黙々とベタ塗りを始めた。


 玲奈ははみだしもなく、綺麗に素早く墨汁を塗っていく。


 しばらく治美は玲奈の横に立って見守っていたが、やがて安心して自分の席に着いた。


 そして、治美は「ジャングル大帝」の2話目の下書きを始めた。



 一時間程たった時、治美がふと気が付くと玲奈が無言で横に立っていた。


「ん?どうしたの?」


「できた…」


「あら!?もう出来たの!?」


 驚いて治美は渡した原稿をチェックしてみた。


「うーん…。完璧だわ!玲奈ちゃんって今までにマンガ描いたことあったの?」


「コミックグラスの中に『マンガ家入門』って本があるの。それを読んで自分でもマンガを描いてたの。マンガの描き方の例として『龍神沼』ってマンガが載ってた」


「ああ!それで昨日は龍の化身、白い着物の少女を描いたのね」


「その本の石森章太郎の自己紹介に、手塚先生の話がたくさん出てきてた。石森章太郎が漫画家になったのは手塚先生のおかげだといっぱい感謝してた。日本のストーリーマンガは手塚先生のおかげで生まれたと書いてた」


「へぇ…、そうなのね…」


 手塚治虫を褒めてもらえて、治美は口元がゆるみ、たちまち相好を崩した。


「手塚先生!私、マンガの描き方は大体わかってる。だからもっと難しいことやらせて!」


「うーん、だったら、この下書きを渡すから背景を描いていってくれる?」


「はい!」


 玲奈は張り切って原稿にペンを入れていった。




 再び三時間程たった時、治美がふと気が付くと玲奈が無言で横に立っていた。


「えっ!?まさか、もう出来たとか言わないよね?」


「できた…」


「ちょ、ちょっと見せて!」


 治美は焦って原稿を取り戻すと、一枚一枚点検していった。


 玲奈は背景だけではなく、モブを含めた登場人物や動物たちもすべて細かく描いていた。


(玲奈…おそろしい子!)


「背景だけでよかったのに登場人物もみんな描いてくれたのね!」


「ダメだった…?」


「いえいえ!大助かりよ!玲奈ちゃん、あなた天才よ!」


 治美は思わず玲奈を抱きしめた。


「エヘッ!」


 玲子は初めて子供らしい笑い声をして照れた。


 それはまるで石森章太郎の描いた「おかしなおかしなおかしなあの子」の主人公、さるとびエッちゃんのような笑い声だった。


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