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REMAKE~わたしはマンガの神様~  作者: 八城正幸
第11章
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メトロポリス その2

 治美は黒板に「背景」と書いた。 


「さーて、チーフアシスタントのみなさんにはもう少ししんどい作業をしてもらいます」


 雅人が安村たちに数枚の書類を手渡した。


 書類には「地面」「草」「森」「ジャングル」「雨」「雪」「ビル」といろんな背景の見本が描かれていた。


 中には「草1」、「草2」、「草3」と細かく種類分けしているものもあった。


「これは背景の見本です。例えば原稿に『草2』と指定していたらコマの背景に『草2』の草原を描いて下さい」


「手塚先生はいつの間にこれだけの物を作ったんだ!?」


 横山は治美の作った指定表を見て、驚きを隠せなかった。


 雅人は横山の傍らに立ち、黒板の前で説明を続けている治美の方を見ながら言った。


「昨日の夜、ひとりで描いていたみたいですよ。これから描く作品に出てくる背景をすべて分類分けしたそうです」


「―――雅人くん。彼女は本物の天才漫画家かもしれないね」


 雅人もまた深くうなずいた。


「俺も最近、そう思えてきました…」



 こうして昼前に、治美の漫画教室の第一部は終了した。


「虫プロ」の中では雅人たちが丸椅子を片付け、作業用の机を並べ直していた。


 パートの主婦たちは既に帰宅し、残っていたのはチーフアシスタントたちだけだった。


 彼らは机を二つの島になるように並べていった。


「それではみなさん、それぞれの班に分かれて座って下さい」


 4人のチーフアシスタントたちは横山、赤城の「メトロポリス」班と安村、藤木の「ジャングル魔境」班に分かれて座った。


 横山と安村はペンが早く、赤城と藤木は丁寧だが遅かったので治美はこの組み合わせにしたのだった。


 すると、安村が意を決して治美に次のように直訴した。


「手塚先生!班を変えてもらえませんか」


 その言葉を聞いて、藤木が顔を真っ赤にして激高した。


「おい!安村!お前は手塚先生が決めたことに逆らう気か」

 

「ぼくはSF漫画を描きたいんだ!」


「勝手なことを言うな!」


 藤木が安村の胸倉をつかんで今にも殴り掛かりそうな勢いである。


「藤木くん!ケンカはやめて!」


 治美は藤木の肩に手を置き、悲しげな表情で言った。


「安村くん。わたしは来年には雑誌に『ジャングル大帝』というジャングルを舞台にした長編漫画を連載するつもりなの」


「『ジャングル大帝』………」


「ええ。ジャングルの平和を守る白いライオンの親子三代に渡る壮大な物語よ。そのための筆慣らしになるのでジャングル物をぜひ描いておきたいの。安村くんは動物を描くのがとても上手よね。だから将来一緒に『ジャングル大帝』を描いてもらいたくて、あなたを『ジャングル魔境』班にしたのよ」


「そうだったのですか!先生の深いお考えを知らず、勝手なことを言って申し訳ありません!」


 安村は机に頭を擦り付けるように謝罪をした。


「それじゃあ、わたしは『メトロポリス』班と作品の打ち合わせをします。『ジャングル魔境』班は雅人さん、お願いしますね」


「まかせとけ!」


 そう言うと雅人は安村と藤木の前の席に座った。


「えっ!?手塚先生が説明してくれないのですか?」


 安村が不服そうに声を上げた。


「なんだ!俺の説明じゃ不服か?」


 雅人が安村のこめかみに握りこぶしをグリグリと押しつけた。


「痛ててっ!すみません!すみません!」


「お前らはイギリスのファンタジー作家、ヘンリー・R・ハガードの『洞窟の女王』を読んだことがあるか?」


「いえ。知りません」


「そうか!『ジャングル魔境』の世界設定は『洞窟の女王』を再構築したものだ」


「――どういう意味ですか?」


「はっきり言うと『洞窟の女王』の登場人物やストーリーの設定を拝借している。まあ、はっきり言ってパクリだ」


「ええ!?手塚先生がパクリですか……?」


「パクリがすべて悪いわけじゃないぞ。今、映画や絵物語では秘境探検ものが大ブームだろう。手塚先生もそれに感化されたのだ。その時代時代で流行っているものを積極的に自作品に取り込み自分のものにする。それが本物の漫画家というものだ。手塚先生はそれをお前らに教えようとしているのだ」


「はい!わかりました!」


「よし!それじゃあ今作の登場人物について説明する」


 雅人が安村と藤木の前に登場人物の姿を描いた紙を広げた。


「主人公はケンイチだ。あとヒゲオヤジ、アセチレンランプ、ラムネ、カルピスも登場する。こいつらは今までの作品に出てきたから描けるだろ。今回だけのゲストキャラはまだ出てこないから、後日説明する」


 実はゲストキャラの設定表はまだ影も形もなかった。


 それどころか今日の段階では「ジャングル魔境」のネームは最初の6ページしかできていなかった。


 治美は雅人にあらすじだけを伝え、できるだけ時間稼ぎをするように頼まれていたのだった。


「まずあらすじを説明するぞ。ケンイチとヒゲオヤジ撮影隊一行は、アフリカに映画の撮影にやってきた。彼らは飛行機を使ってジャングルを撮影している時、奇妙な塔がフィルムに映りこんでいることを発見する。塔には奇妙な像があり、その額にはめ込まれていた宝石を取ると古文書が現れた。そこには『この宝石をとり得たる者にはインク帝国秘宝、象牙の墓をもひらく運を得べし』という謎の文句が書かれていた。その時、突然インク帝国の女王を名乗る美しい女性・コブラが現れ、ケンイチをさらってゆく……」


 こうして雅人はあらすじを説明した後、最初の6ページを安村と藤木に割り当てた。


 最初の6ページはジャングルを動物たちがわが物顔に闊歩している場面だった。


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