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REMAKE~わたしはマンガの神様~  作者: 八城正幸
第10章
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ロストワールド その5

「安村さん。まず、ケント紙を92枚用意して、右上に小さくページ番号を書いてちょうだい」


「は、はい!」


「これから『ターザンの秘密基地』というターザンの出てくる冒険物を描きます。これを来週の日曜日までに完成して、I出版に入稿します」


 安村達がざわざわと騒ぎ出した。


「92ページを1週間で!?」


「ネームも何もないのにそんなの無理です!」


「みんな、聞いて!大丈夫よ!日曜日までに、今日をいれて8日もあります。それに安心して……」


 安村たちは押し黙って治美の言葉に注目した。


「9月23日は秋分の日で学校がお休みです。丸々一日中、原稿を描けるわよ」


 全員、絶望の表情でうなだれてしまった。


 1日ぐらい増えたところで描けるわけがない、誰もそう思った。


「どうしたの、みんな?元気を出して!」


 藤木が青い顔をした赤城に向かって言った。


「赤城!手塚先生がやるっておっしゃっているんだ!やるしかないぞ!」


「で、でもなあ…」


 そうこう言っている間に安村がページ番号の記入を終わらせた。


「先生!ページ番号を振り終えました」


「安村さん、次はそれぞれ横三段にコマ割りして」


「はい!」


 治美は考えている振りをしながら、指でチョコチョコとコミックグラスを操作し始めた。


「最後の92ページはコマ割りしないでいいから、渡してちょうだい」


 治美は安村から最後のページを受け取ると、いきなり白いケント紙に直接ペン入れを始めた。


「えっ!?いきなり、下書きもなしにペン入れするのですか!?」


「それも最終ページですよ!?」


 中央に巨大な象がいて、その上に人間たちが乗っているコマを治美はあっと言う間に描きあげた。


「これが今回の登場人物です。象の鼻の上に乗っているのがおなじみのケンイチ。象の頭に乗っているのがターザン役のモンスター。その横の婦人がターザンのお母さんのメアリーとお姉さんのローラ。背中に乗っている凸凹コンビがラムネとカルピス。足元にいるのがヒゲオヤジとハムエッグ。キャラクター表を描いてる時間がないからこの最終ページを参考にしてね」


 最初の4ページ、治美は鉛筆でチョコチョコと地図を描いて安村に渡した。


「最初のシーンはアフリカ大陸の地図がどんどんアップになって、最後、河のほとりのテントにいるヒゲオヤジの姿になります。これは安村さん、お願いします」


「赤城さんは女性キャラを描いてね」


 治美はページ番号を見ながら、原稿を数枚抜き取った。


 鉛筆で女性の顔が乗っかった棒人形を描いてサッサと描いて、赤城に渡した。


「藤木さんは男性キャラね」


 同様に何枚か原稿を抜き取ると、鉛筆で男性の顔が乗っかった棒人形を描いて藤木に渡した。


 そうこうしている間に、安村が最初のシーンを描き終えた。


「先生、出来ました!」


「さすが早いわね!次に時間のかかるページを先に片付けましょう。安村さんは一番描くのが早いから、大変だけど動物たちをお願いするわ」


 色んな動物たちがジャングルを行進している場面を、丁寧に鉛筆で描いて安村に手渡した。


 治美は残った原稿をページ番号を確認しながら、フキダシだけをペンで直接描いていって、時々、新しく登場した人物の顔だけを詳細に書き込んだ。


「それじゃ、赤城さん、ここにジャングルを描いてちょうだい」


 赤城が女性キャラを描き終えたのを見ると、治美は鉛筆でササーッとジャングルの絵だけを描いて、数枚の原稿を彼に手渡した。


 治美は3人の進捗具合を確認しながら、まったく手を休めることなく次々とネームを描いて渡していった。


 治美は1ページのネームを1分ほどで描き、わずか1時間半ですべてのネームが完成した。


 次に治美は雅人に順番がバラバラになった原稿を渡し、ページ番号を確認しながらセリフを喋っていった。


「雅人さん、2度と言いませんからお願いしますよ。1ページ目1コマ、左下のフキダシ。『12月5日』改行。『われわれはすでに』改行。『チャッド湖の南』改行。『フォートラムをさる』改行。『470キロの』改行。『地点にいる。』。次のコマ、左下のフキダシ。『12月6日』改行。『フォートラミより500キロ』改行。『あたりは昼なお暗い』改行。『ジャングルの連続で』改行………」


 雅人によどみなく話す治美の言葉を一言も聞き漏らさないように必死にセリフを書き込んでいった。



「手塚先生の頭の中には、既に92ページの完成した原稿が入っているみたいだ!」


「今、ぼくたちは神さまの奇跡の御業(みわざ)を目撃しているのだ!」


 3人は一体自分がどんな場面を描いているのかわからないまま、とにかく治美の指示通りに原稿をペンで埋めていった。


 夕方には、完成した原稿はまだ一枚もなかったが、すべての原稿に治美の鉛筆書きの下書きと指定が書き込まれていた。


 物語は最初はターザンが出てくる冒険物と思わせて、後半にはなんと月世界人が登場するSFになっていた。


 ジャングル物というI出版の社長の依頼を素直に受けたと見せかけて、きっちり自分好みのSFにしていたのだ。


「残りは今週中に各自、自分の家で仕上げてね。できた分から学校で雅人さんに渡してください」


 治美はそう言うと、また、真新しいケント紙の束を取り出した。


「わたしは『ロストワールド』の後編のネームを描くから、来週からペン入れをお願いします」


 疲労困憊でフラフラしていた安村達は目を丸くして、新しいネームを描き始めた治美の背中を見つめていた。


「それではどうもお疲れ様でした!はい、解散!」

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