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REMAKE~わたしはマンガの神様~  作者: 八城正幸
第1章
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火の鳥 その3

「お世話になりました。わたし、とにかく一度家に帰ります」


 身体がすっかりと乾いた治美は、所長と船長にペコリと頭を下げた。


「後ほど改めて、お礼に伺います」


「いや。お礼なんていいから、もっと休んでいった方がええよ」


「でも、両親も心配してるでしょうし………」


「だったら、わしが家まで送っていってやるよ!」


 船長がそう言うと、治美は彼に向かって嬉しそうに安堵の笑みを浮かべた。


「ありがとうございます。本当はわたし、まだ頭が混乱していて少し不安だったんです」


「しかし、あんたの言ってる『ぽうあい』ってどこにあるんや?」


「そりゃあ、三宮の方ですよ?」


「そっか。とりあえず三宮の方に行ってみるか」




 治美は船長に連れられて波止場を東に向かって歩いて行き、やがて元町の表通りに出た。


 と、治美が道に立ってる電柱を物珍しそうに触りだした。


 船長が不思議そうに治美に尋ねた。


「電柱なんか触って何してるん?」


「この電柱、木でできてますよ!?」


「それがどうかしたんか?」


「いえ。珍しいなあって思って……」


「珍しいか………?」


「珍しいですよ!最近は電線は地面の下を通ってるから電柱自体珍しいのに、なんと木製ですよ!」



 そう言いながら治美は、あらためて周りを見回した。


「あ、あれは何です!?」


 ハッとして治美は通りの反対側を指差した。


「あれって………?どれのことや………?」


「あれです!どうしてあんな所に仮設トイレがあるのかしら………!あれ?でも窓がついてるわ?」


 治美が指指した先には、赤い屋根に四角いクリーム色のボディのボックスが設置されていた。


 これは「丹頂型電話ボックス」と言われ、この昭和29年から全国に普及し始めた電話ボックスだった。


「あれって電話ボックスのことか?」


「あれ、電話ボックスなんですか!へぇ………!あんな形の初めて見ました!」


 治美は興奮して真っ赤に顔を上気させた。


「さすがこのあたりは観光地ですねぇ!観光客のためにわざとレトロな通りにしているんでしょ。わたし、メリケン波止場にはあまり来たことがないので知らなかったわ」


 船長は彼女の言っていることの意味がわからず、治美をボケーッと見ているだけだった。


 次に治美は自分の足元を見て声を震わせた。


「よく見たら、地面が土ですよ!土!!」


「はあ………………?」


「これって雨が降ったら泥だらけになりません!?」


「さっきから、何を当たり前のこと言っとるんや、お譲ちゃん?」


 と、治美はハッと息を飲んだ。


 手袋に乗馬用ヘルメット、キュロットにロングブーツを履いた外国人が、馬に乗って悠然と治美の横を通って行った。


 治美は眼を丸くして馬が通り過ぎてゆくのを見つめていた。


「う、う………馬ッ!?馬が歩いてますよ!?」


「ああ………。近所に乗馬クラブがあるから、よくこのあたりもよく通っとるよ」


「で、でも、こんな街中を馬なんて危ないでしょう?」


 そう言いながら治美は背後を振り返り、波止場の方を見た。


「ポートタワーがない!?モザイクの大観覧車も、ハーバーランドもない!?」 


 治美が叫び声をあげた。


「ホテルオークラも海洋博物館もなくなってるわ!?ここ、本当に神戸なの!?」


 治美は錯乱状態になって船長の腕にすがりついてきた。


「しっかりせいや!!さっきから何わけのわからんことゆうとるんや!?」


「………きょ、きょ、今日は何年何月何日ですか?」


「29年4月24日やけど?」


「……29年ですよね!よかった!」


 治美はほっと胸を撫ぜ下した。


「あははは!バッカみたい!わたし、一瞬、過去の世界にタイムスリップしたかと思いました」


「タイムスリップって……どういう意味や?」


「いえ。よくあるでしょ、主人公が過去や未来世界に瞬間移動するってSF」


「えすえふって何や?」


「…………………………………」


 治美は小首を傾げ、腕組みをし、目を静かに閉じてしばらく考え込んだ。


 治美はパッと目を見開き、真剣な眼差しで船長の顔を見つめた。


「今は平成29年、西暦2017年ですよね!?」


「今は昭和29年、西暦1954年や!」


 治美は気を失い、その場に倒れた。

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