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REMAKE~わたしはマンガの神様~  作者: 八城正幸
第9章
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新寶島 その2

「言っとくが、全部の手塚作品をリメイクする余裕はないからな」


 ともすれば暴走しがちな治美に前もって雅人は釘を刺した。


「もちろん!それぐらいわたしもジュウジュウ承知しております!」


「本当だぞ!影響力のある有名な作品だけを厳選して描いていくんだ」


 雅人はタイトルを書き留めておくために手帳を取り出した。


「まず『地底国の怪人』は実質手塚先生のストーリーマンガのデビュー作ですから外せません」


「『地底国の怪人』な…」 


「『新寶島(しんたからじま)』発表後、ジャングル物の人気がでます。『ジャングル魔境』、『ターザンの秘密基地』、『有尾人』は必須です」


「ふんふん…」


「世界名作路線の『ファウスト』と『罪と罰』。特に手塚先生は『ファウスト』が好きで、後に『百物語』、『ネオ・ファウスト』という『ファウスト』をモチーフした作品も描きます。


「漫画の描き方を子供たちに教えるために『漫画大学』は絶対必要です。


「アメリカで『ミクロの決死圏』って有名なSF映画を作る元になった『吸血魔団』。


「いろんな絵柄で複雑なストーリーを表現した実験作『化石島』。


「西部劇の『拳銃天使』。時代劇の『平原太平記』


「楽しいコメディの『ふしぎ旅行記』、『珍アラビアンナイト』


「そして有名な初期SF3部作、『ロストワールド<前世紀> 地球編、宇宙編』、『メトロポリス<大都会>』、『来るべき世界 前編・後編』。


「『ロストワールド』は手塚先生が5回もリメイクし、冒頭に「これは漫畫(まんが)に非ず。小説にも非ず」という一文を掲げたほどの自信作です。


「『メトロポリス』は2001年に大友克洋の脚本でアニメ映画化しています。


「『来るべき世界』は1980年に『フウムーン』のタイトルで24時間テレビのスペシャルアニメとし放映されました」


「もういい!わかった!」


 雅人は両手を激しく振って治美の話を遮った。


「――全部で18冊にもなるぞ!」


「本当はまだまだ描きたい作品が一杯あるんですよ」


「治美の気持ちはよくわかっているよ。でも、そんなに描けるわけないだろう」


「いえ!効率的に漫画原稿を生み出すための手法を考えてみます」


「素人のお前が!?ついこの前までペン入れのことも知らなかったお前がか!?」


「手塚先生は大阪の赤本時代の4年間で34作品36冊の単行本を書きおろしています。同時に雑誌に何本も連載していたんですよ。それに比べたらたいしたありません。わたしは来年の春までに8か月で18冊の単行本を書き下ろすつもりです」


「どうして来年の春までなんだ?」


「来年、わたしは東京に進出します。雑誌の連載を始めるつもりです」


 思いがけない治美の言葉に雅人は目が点になった。


「東京だと!治美、お前が一人で東京でやっていけるのか!?」


「一人じゃないですよ。雅人さん、東京の大学へ行くんでしょ」


「お、お前、俺について来る気か!?」


 治美はニッコリと小悪魔の笑みを浮かべ、じっと雅人の顔を見つめている。


「でも俺が合格するとは限らないぞ!」


「第一志望は落ちましたが、第二志望の大学には合格しますよ」


「―――そうか!お前、俺の未来を知っていたんだな」


「どうせ落とされる大学は試験受けなくていいですよ。受験料がもったいないですからね」






 昭和29年7月26日、月曜日、午前9時。


 治美は横山に頼んで、食堂の壁に幅150センチ高さ80センチの立派な黒板を据え付けてもらった。


 黒板に向かって安村、藤木、赤城の美術部の後輩3名と横山が机に座ってまるで学校の教室のようだった。


 治美が黒板の前に立つと後輩3名と横山までが立ち上がってお辞儀をした。


「起立!」


「礼!」


「着席!」


「はい!みなさん、おはようございます!」


「おはようございます!」


「それではこれから第一回手塚治虫漫画教室を始めます」


 治美が真面目くさった顔で講義を始めた。


 治美は最初は半分冗談で学校ゴッコをしていたのだが、生徒たちが大真面目で講義を聞いているので、次第に治美も真顔になっていった。


 治美は黒板に白いチョークで「新寶島(シンタカラジマ)」と大きく書いた。


「『新寶島(シンタカラジマ)』。これが手塚治虫のデビュー長編漫画です。これからみなさんの力を借りて、この戦後初の伝説のストーリーマンガを作ってゆきましょう!」


 次に治美は「マンガの作り方」と大きく書き、その下に「プロット→ネーム→下書き→コマ割り→台詞入れ→線画→ベタ→トーン→オノマトペ」と書いた。


 三名の後輩たちは治美が板書した文を必死にノートに書き写し始めた。


「プロットってのはマンガのスジを考えることね。プロットはもうできています。主人公はこの子、ピート少年です」


 治美はコミックグラスを起動し、ピート少年の顔を黒板上に投影させ、チョークで模写していった。


 たちまち「P」と大きく書かれたシャツを着た可愛らしさと凛々(りり)しさを併せ持つ少年の絵が完成した。


「ピート少年はお父さんの形見の宝島の地図を見つけて、お父さんの親友だったブタモ・マケル船長の船に乗って宝さがしに旅立ちます。でも、途中で片手片足の悪役、海賊ボアールに捕まって宝島の地図を盗られてしまいます。でもその海賊船は嵐で沈没します。ピート少年と船長は漂流の末に目的の宝島に流れ着きます。

その宝島にはバロンと言う名の青年がターザンのように動物と共に暮らしていました。そこにボアール達海賊も流れ着き、互いに宝探しの競争になります」


 治美は大きな茶封筒を取り出してみんなに見せた。


「これが『新寶島(シンタカラジマ)』のネームです。横山さん、お願いします」


「はい、先生!」


 横山は立ち上がると治美からわら半紙に鉛筆書きの200ページ程の漫画原稿を受け取った。


 安村、藤木、赤城の3名が一斉に歓声を上げた。


「順番に回し読みしてくれ」


 横山は事前にこの漫画原稿を読んでいたので、隣に座っていた安村に手渡した。


「まあともかく読んで下さい!」


 治美は自信満々だった。

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