御影新のやり直し⑫
紆余曲折あったけど、僕は下条匠と合流した。
情けない出会いではあったけど、それは逆に同情を買える部分があったんじゃないかと思う。これならまさか僕が敵意を持っているなんて思わないよね?
校舎に戻った僕は、すぐに着替えを渡された。
体育の授業で使われているジャージの新品だ。デザイン性には問題あると思うけど、漏らして汚れたあの服よりははるかにましだった。
こうして、人生の汚点をすべて片づけた僕は、改めて下条匠たちと話をすることになったのだ。
校舎の教室にて。
今はもはや使われることのなかったこの教室に、僕と下条匠、それからクラスの女子の半数程度が集まっていた。
僕が殴ってしまった四家さんはいない。顔を合わせるのが億劫だったから少し安心した。
「……というわけで、祖父のところに身を寄せるつもりだったんだけど、逃げ遅れちゃってね。こうしてこの都市に残ることになっちゃったんだ」
「そうか、御影君、それは災難だったね」
逃げ遅れた、というありがちな言い訳に、下条匠は納得してくれたようだ。
「下条君たちは、異世界から戻ってきたんだよね?」
「え、どうしてそのことを? あっ、優たちから聞いたのか?」
「実はね、僕も異世界に行ったことがあるんだ」
この話は、かつて園田君や時任君にもしたことがある。
僕は貴族さんたちによって異世界に呼ばれた。
だけど貴族さんたちがあまりに横暴で話にならなかった。
だから召喚してすぐに戻されてしまった。
話としては違和感のない内容だと思う。
「まさか、御影君も異世界に来たことがあるなんて。全く知らなかったよ」
「貴族たちも僕のことを隠していたんだと思うよ。話してもいいことなんて何もないからね……」
「確かに……」
異世界人に反発された、なんてあの人たちが話したがらないに決まってるからね。
「僕のスキルは相手の居場所を知ることができるスキルでね。他のクラスメイトたちの居場所を知ることができるかもしれないよ。下条君がもし例のバッジを持っているなら、少し貸して――」
「……御影君、私から少し質問をいいかな」
と、突然僕の話に割り込んできたのは、それまでずっと話を聞いていただけの赤毛の女子だった。
あれは、赤岩さんだね。
女子の中でもすごく目立つ人だ。異世界でも大統領を務めていたらしく、その手腕は貴族たちからも畏怖の対象とされていた。
死刑、拷問、暗躍。この日本では決して許されないようなこともやってきたらしい。
そんな彼女が、今、腕を組みながら僕を睨みつけている。
すごいプレッシャーだ。異世界に行く前の僕だったらこれだけで漏らしてしまっていたかもしれない。
こ……怖い。
下条匠はよくこんな女を嫁にしたな。信じられないよ。ベッドの中では性格が変わるのかな?
「御影君は異世界のことを知っていた。つまり、魔族の恐ろしさを良く理解していたはずだ」
「……うん」
「ならばなぜこの都市から逃げ遅れたんだ? 危険性を理解しているなら誰よりも早く逃げ出していてもおかしくないはずだ」
「そ、それは……事情を知ってる僕だけ素早く逃げ出すのは……フェアじゃないと思って」
「しかしご両親はすでに逃げ出しているのだろう? 失礼だが御影君に両親以外の親しい人間がいるようには思えない。周囲の人間に義理立てする正義感は理解できなくもないが……両親と別れてまで貫き通すほどなのか?」
「う……うぅ」
「不自然と言わざるを得ない。御影君は……敵の仲間なんじゃないのか?」
…………。
以前、時任君も僕を少しだけ疑っている節があった。だけど最終的には僕をある程度信用してくれたようで、問題なく話をすることができた。
だけどこの赤岩さんに関してはそううまくいかないらしい。
しかも『逃げ遅れたのが不自然』というまでなら分かるんだけど、そこから『敵の仲間』とまで言ってしまうなんて……。
明らかに僕を敵視している疑い方だ。
この前、クラスの女子を殴ってしまったことがよほど癇に障っているらしい。難癖付けて追い出されるような雰囲気ですらある。
「……まあまあつぐみ。クラスメイトを疑うのは良くないよ。それに御影君が加藤君や魔王と繋がってるなら、あんなにひどい目にあうはずがないじゃないか」
「匠、しかしそれは……」
「ごめんな御影君。俺たちはこの世界に長居するつもりなんかなくて、大した準備もしてなかったんだ。聖剣や魔剣なら貸せるんだけど、御影君は適正ある?」
「……ないよ」
以前、貴族さんたちから適性を調べられたことがある。結果、魔法も聖剣も魔剣もダメで、僕にはスキル以外何もなかった。
あの時の僕はスキルを持っていたら、そんな細かいことなんて気にしなくても良かった。でも、今、改めて力を失ってからはそんな見下していたはずの武器ですらうらやましくなってしまう。
ひょっとすると低レベル魔法なら覚えられるかもしれないけど、あれは聖剣とは違ってある程度訓練が必要だったはずだ。
「つまり役立たずというわけだな」
「こ、こら、つぐみ。と、ともかく御影君、しばらく俺たちと一緒に行動しよう。その方がきっと安全だ。機を見て安全な場所に送るよ」
「ありがとう」
本当に送り届けられたら困るんだけどね。
さて、合流はできたけど、目標は果されなかった。
次は最後にして最大の難題。
加藤君からバッジをもらう、だ。




