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クラスの女子全員+俺だけの異世界帰還  作者: うなぎ
やり直し編

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御影新のやり直し⑧


 下条匠は異世界にいる。

 クラスの女子と一緒にハーレムを形成して、本能のままに子供を産ませて世界を支配している屑だ。

 そんな彼がこの世界に戻ってくることとなる事情を、僕は詳しく知らない。

 

 魔族を追ってきた、っていう感じじゃない。それにしてはあまりに時期が遅すぎるうえ、そもそも彼に僕や魔王さんが倒せるとは思えない。きっと魔族のことは知らなかったんだと思う。

 子供までいるんだ。たぶん異世界で暮らすつもりだったんだ。


 だとするとここに召喚されたのは事故か、それとも友達や家族に会いに来たのか。いずれにしても長居するつもりはないのだと思う。

 僕たちは異世界から戻ってきたとき、教室に戻ってきた。そして下条君たちもこの教室を拠点にしていた。

 つまり、下条匠はここに戻ってくるんだ。


 それが魔族の暴れ始める前か、それとも後なのかは分からない。

 もし、この地域で魔族が暴れ始めたら?

 僕は殺されてしまう危険性がある。死んでしまったら復讐も主人公も何もない。

 

 僕がここに残ったことによって、魔王さんがこの世界にやってる時期は遅れるはず。

 それが下条匠の戻ってくる時期よりも後にずれ込むことを……祈るばかりだった。


 だけど、運命は僕をあざ笑うかのように残酷な現実を突きつけた。


 ある日の教室。

 

 教室に入ると、騒いでいる男子たちが目立った。

 僕の記憶にない光景、であるのは当然だ。前の世界では能力を手に入れて世界各地を飛び回っていたからね。

 だけど、何が起こったのか知っている。


 僕が自分の席に座ると、すぐに園田君と時任君がやってきた。

 

「……御影君」

「御影、例の件は知っているかね?」

「うん……」


 とても……残念な結果だ。


「…………例の事件、だよね」


 思っていたよりもずっと早かった。ひょっとすると前の世界と変わらない時期なのかもしれない……。

 東京郊外のとある廃ビルに、突如として未知の大型動物が出現したというニュースだ。奴らは近隣を派手に暴れまわり、すでに死者もでているらしい。

 僕はこの話を知っている。


 魔族襲来。


 関東地方より突如出現した魔族は、瞬く間にこの地域を制圧した。

 

 今はまだ、何かのバイオハザードか野生動物の襲来程度にしか認知されていない。もちろんそれでもかなりの大ごとなのだが、少なくとも少し離れたこの地域まで避難を強いられる事態になるとは……誰も想像していなかったはずだ。

 魔族を知る僕や時任君たちを除いて……。


「あの写真は間違いなく、異世界で見たことのある魔物。そして動画の端にはそれを操る魔族らしき姿も映っていた」

「そうだね、僕も見たよ」

「恐るべき事態だ。もし魔王や幹部クラスの魔族がこちらにやってきているとすれば……、手が付けられなくなってしまうかもしれない」

「…………」

 

 この世界で時任君は魔王と遭遇していない。あの事件は僕が〈時間操作クロノス〉を使ったからこそ起きた事件なのだ。

 ただそれでも時任君は最悪の事態を想定しているらしい。

 本当に……鋭すぎるなぁ。


「すぐにこの地域を脱出するんだ」


 時任君がそう宣言した。

 まだ遠くのニュースなのに、ここまで早く決断してしまうなんて。その決断力は見習いたいぐらいだと思った。

 だけど……。

 

「俺……ここに残るよ」


 暗い顔の園田君が、そう呟いた。


「優……君は」

「俺は異世界で加藤を生かすように説得してしまった。この世界で加藤が暴れまわっているのは、俺のせいなんだ。ひょっとするとこの魔物たちも……あいつが関係しているのかもしれない」


 前回の世界と同じように、加藤君は媚薬をばらまいてこの都市を混乱に陥れた。とはいえ作れる薬に限りがあるらしく、前回の世界よりもずっと小規模だった。

 それでも被害者が出てしまったこの事態に、園田君は憤りを感じているらしい。


 謎の正義感。理解できない感情だよね。


「御影はどうする? 避難先はもうすでに用意してある。希望するなら関西地方まで送る車と運転手を出してもいい。同級生のよしみだ。金も取らないさ」


 ここで逃げれば……確実に安全だ。

 でも……。

 僕はまだスキルを手に入れてない。無能底辺のいじめられっ子のこの僕が、唯一成り上がるためのチャンスがスキルなんだ。

 向こうに逃げてどうなる? 僕はまだ誰かに馬鹿にされて、叱られて、殴られて、何の幸せもない孤独で無残な人生を送るだけ。


 僕は取り戻したいんだ。

 あの日の栄光を。


 スキルさえ取り戻せば、佐奈ちゃんもリンカちゃんも妊娠させ放題だ。

 ふひひひひひひひひ。


「……みんなが慌てて苦しんでるのに、僕だけ特別扱いなんてそんなこと許されないよ。おじいちゃんが九州にいるから、そっちを当てにするつもり。公共の帰還を使って帰るつもりだよ。ママやパパにも話をしないとね」


 さすがに正義感を振りかざして残って戦うなんて、今の僕には不自然すぎるセリフだ。一応逃げる気がある、という話にしておいた方がいいはず。


「ふむ、なるべく急いだほうがいい。気が変わったら声をかけてくれたまえ」


 時任君と僕はそれほど親しいわけでもない。むしろ心の中では互いを蔑んでいるといってもいい間柄だ。無理に親切を押し付ける義理もないから、やんわりと断ればすぐに話が付いた。


 ……これで、僕はリスクを負ったことになる。

 数日たてば、魔族たちがこの関東を制圧する。

 前回の世界で、僕がこの地域にやってきたとき、少なくともこの校舎は残っていた。繁華街あたりは巨大なクレーターが残っていたり、郊外は巨大な魔物に押しつぶされたような跡があったけど、少なくともこの周辺や住宅街は無事だったはずだ。

 つまり、歴史通りならこの辺りは比較的安全なんだ。


 下条匠はこの教室にやってくる。

 ならこの校舎に避難したことにして、彼が来るのをずっと待っていればいい。

 合流すれば、あとは被害者の僕を下条君が守ってくれる。


 リスクは高いけど、スキルを取り戻すための最善手だ。


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