御影新のやり直し⑦
異世界に戻ってきた時任君と園田君。
二人からの話は僕にとって有意義なものだった。
これだけ情報がそろったんだ。
さてと、そろそろ本題に入ってもいいよね?
「加藤君は行方不明、なんだね。不安だなぁ……」
「すまないね。加藤は君をいじめていた。もしかすると今後接触してくるかもしれないから、その時はすぐに俺たちに連絡してくれ。可能な限り協力しよう」
「あ、あのさ。頼みたいことがあるんだ」
ここからが、勝負だ。
「僕のスキルは〈捜索術〉って言ってね。顔を知っている人間の居場所を知ることができるんだ」
異世界に僕がいかなかった以上、この世界で僕のスキルを知る人間はいない。こんな口から出まかせを言っても、ばれるわけがなかった。
「もし貴族さんたちからバッジを貰ったなら、少しだけ貸してくれないかな? うまくいけば加藤君を見つけられるかもしれない」
別に二人に直接の恨みはない。僕のスキルが戻ったからといって加藤君や下条匠みたいに復讐するつもりはないから安心していいよ。
まあ妹の佐奈ちゃんの処女は僕のものだけどね。
ふひひひひ。
「残念ながら、俺と優は向こうの世界であまりいい待遇を受けていなくてね。スキルも使えないものだったから、貴族たちから別れて以来全く使っていない。当然ながら例のバッジは持っていない」
「……それは残念だね」
まあ、予想通りの結果だった。
情報が得られただけでもよしとしよう。
「僕のスキルもあまり戦闘向きじゃなくてね。だからきっと二度目の召喚でも呼ばれなかったんだろうね。僕も向こうの世界にいってたら、二人の手伝いができたと思うんだけど……」
「…………」
ん?
時任君が何かを考えている?
僕は何か変なことを言ってしまったかな? 無言だと機嫌を損ねるかもしれないから、適当に話を合わせたつもりだったんだけど。
「……御影。優が長部と付き合っていたのは知っているかね?」
「詳しくは知らいけど、話し程度なら聞いたことあるよ。それがどうしたの?」
「俺は同じクラスの大丸鈴菜に片思いだった。そして加藤も惚れているというわけではないが、何かと反発してくる赤岩に執着していた」
「う、うん?」
何の話かな?
「時任春樹、園田優、加藤達也。三人の共通点は、クラスの女子だ」
その三人は、異世界に召喚されたクラスメイト?
「執着は思考を誤らせる。貴族たちは俺たちに匠や赤岩を倒してもらいたかった。だから俺たちが呼ばれたんだ。惚れた女が異世界でハーレムだと言われれば、自然と敵意が燃え上がっていくだろう? 男の嫉妬を利用した、極めて合理的な戦略だ」
「……は?」
「君はクラスの女子とはそれほど親しくなかったからね。だからあの時召喚されなかったということさ。それより以前に召喚したのは、おそらく魔族たちが貴族に知恵を貸していなかったからだろう」
「え……」
な、なに……それ?
僕が……クラスの女子を好きじゃないから召喚されなかった?
いやいや待って、僕は前の世界で異世界に召喚されたじゃないか。今回は加藤君が蹴り飛ばしたから召喚されなくて……。
「…………」
……違う。
僕は完全にタイミングを合わせたつもりだった。なのにここだというその時に召喚されなかったんだ。だからもし最初の世界で僕が異世界に召喚されなかったとしたら、きっとこの世界のように加藤君に蹴り飛ばされていたんだと思う。
加藤君が蹴り飛ばしたから召喚されなかったんじゃない。召喚されなかったから蹴り飛ばされたんだ。
僕が蹴り飛ばされて三人から離れた。だからその瞬間を狙って、僕以外を召喚したかった賢者さんが異世界転移の魔法を使った?
僕が乃蒼のとこを好きじゃなくなったから、異世界に呼ばれなかった?
あんな非処女のビッチのせいで、僕の人生は狂わされた?
スキルなんて……関係なかった?
「そ……そんな……嘘でしょ?」
「信じられない気持ちはよくわかる。俺だってこんな理由で呼ばれたとは思いたくなかった。だが事実は事実として受け入れるべきだ」
「あ……うぅ……」
ショックでうまく声を上げられなかった。
僕は……選ばれた英雄じゃなかった?
下条匠を倒すための、駒でしかなかった?
くそっ、くそっ、くそっ!
認めない!
僕は選ばれた主人公なんだ! 選ばれるはずの人間だったんだ! そんなことがあるわけない! 許されるはずがない!
僕はこの物語の主人公なんだっ! もう二度とみじめな生活は送らないっ!
「俺たちも独自に加藤を追っている。事態が進展すればこちらから連絡を入れよう。君ももし加藤から接触があれば、すぐに連絡をくれ」
「わ、分かったよ」
……二人に、期待するしかない。
時間を巻き戻す前の世界で、二人は加藤君を見つけられなかった。これは、前の世界で加藤君は僕のスキルを使って無限に薬を生み出すことができたからだ。
今回の世界では僕の助力がない。
だから加藤君は薬に頼りきることができない……はずだよね?
でも、不安は増していくばかりだ。
この世界で加藤君は僕の助力を得ていない。にもかかわらず下条君のスキルを解除して、自由に動き回ることができている。
僕のいた世界とは違って、何かが狂い始めている。
まるで僕なんて始めからいなかったかのように、ただの一般人で弱い人間であるかのように……そんな悪意すら感じる気持ち悪い展開だ。
園田君、時任君からバッジをもらうという、一番楽観的なアイデアは早くも否定された。
次の作戦に移る必要がある。
ターゲットはもちろん、下条匠だ。




