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クラスの女子全員+俺だけの異世界帰還  作者: うなぎ
やり直し編

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御影新のやり直し⑥


 その時は、思ったよりも早くやってきた。

 三人が異世界に飛び立って数日後。


 教室に入った僕は、すぐに彼らを見つけることができた。


 モデルみたいにかっこいい園田君と、七三分けが目立つ秀才――時任君だ。

 二人とも暗い顔をしている。

 

 時間を巻き戻す前の世界でも、二人はすぐこちらの世界に戻ってきた。それは下条匠のハーレムの中に彼らの思い人がいたからであり、僕がいたかどうかは関係ない。

 対立して、和解して、それで加藤君と一緒に戻ってきた。

 その程度は僕にでも分かる。


 確認しなければならない問題は、ただ一つ。


 僕が蘇らせるはずだった魔王さんがどうなかったか、だね。


「……や、やあ」


 僕は彼らに話しかけた。

 僕から話しかけるのはとても珍しいことだ。案の定、二人はいぶかしげな視線をこちらに向けている。

 ただでさえ異世界での出来事があって、神経質な状態だ。あまり疑われるようなことをすると、強く警戒されてしまうかもしれない。

 それでは困る。


「あ……あの時さ、魔法陣に飲み込まれて異世界に行ったんだよね? 加藤君は一緒に戻ってきたのかな?」


 僕は加藤君にいじめられている。

 彼が戻ってきたかそうでないのか。それを気にすることは不自然じゃない。


「ああ、加藤なら……」

「待ちたまえ」

 

 答えようとした園田君を止めたのは、時任君だった。


「確かに俺たちは君の前で姿を消してしまったかもしれない。怪しげな魔法陣が出ていたことも認める。しかしなぜ、それだけの情報で『異世界』という単語が導き出せるのかね?」


 さすが時任君だ。

 彼は異世界でもその頭脳を生かしてずいぶんと活躍したらしい。僕が『異世界』という単語を出したことの不自然さをすぐに理解し、警戒している。

 少し考えれば、当然のことだ。

 確かに僕は三人が姿を消すのを見た。でもそのあとどこに行ったのかを知る由はない。どこか別の国にいったのかもしれないし、別の宇宙や未来や過去や、あるいは存在そのものを消されてしまった可能性だってある。異世界だとは断言できないのだ。


 でもその不自然さは、僕も理解している。

 僕が『異世界』を知らなければ、話が進まないからね。この単語はあえて出しておいたんだ。


「僕はね、異世界転移したことがあるんだ」


 これは事実だ。

 だけど、何も僕が時間を巻き戻してここにいるという事実を伝える必要はない。


「御影君、異世界のことを知っているのか?」

「うん。園田君たち二人とは違うタイミングで召喚されたんだ。貴族さんたちとあまり意見が合わなくてね、文句ばかり言ってたらすぐ送り返されちゃったんだ」


 二人は貴族さんたちと仲が悪かった。

 だから僕が貴族さんのことを良く言うと逆効果だ。

 僕が異世界のことを知っていて、なおかつ二人の警戒を解く。そのためにでっち上げたストーリーが、これだった。


「教えてくれないかな? 加藤君も異世界に行ったんだよね? 彼は戻ってきてるの?」


 僕が加藤君のことを気にするのは当然の行動だ。この教室でいじめにあっている姿を、二人は何度も目撃しているのだから。

 

 ここまでの話の流れに、不自然な点はないはず。


「どうする、春樹?」

「…………」


 時任君の鋭い視線が僕を射抜いた。

 

 まさか僕の正体には気が付かないとは思うけど……注意が必要だ。


「ふむ、加藤が絡んでいる以上、彼も無関係ではない。必要な情報は与えておくべきだと思うね。仮に加藤のように力を得ているのであれば、こんところでのんきに俺たちと話をしていないだろう」

「…………」


 痛いところを突いてくるな。


「じゃあ、教えるよ御影君」


 若干棘のある時任君とは違い、園田君は完全に警戒を解いているように見えた。


「俺たち三人は異世界に召喚されたんだ。でも、俺と春樹は大したスキルを持ってなくて加藤ばかり優遇されて……、あ、加藤のスキルは知っているか?」

「〈創薬術〉だよね。前に異世界転移したときに貴族さんから聞いたよ」

「やっぱり知ってるんだね」


 加藤君が僕の役割になったってことか。

 

「俺たちは貴族の横暴が嫌になってね。御影君と同じだよ。だから貴族たちを出し抜いて、匠のところに戻ったんだ」

「僕が貴族さんたちのところに行ったとき、魔族がいたと思うんだけど、大丈夫だったの? 追われたりしなかった?」


 異世界に戻すための帰還の腕輪は魔族の所有物だ。したがって僕が送り返されたということは、その時点で魔族と貴族さんが結託していることを意味する。

 その事情を理解している二人にとって、僕の発言に違和感はないはず。


「問題ないさ。だって魔王は俺たちが倒したんだから」

「えっ……」


 この世界でもその流れは変わらないのか……。


「春樹と知恵を絞ってね、聖剣の同時発動で魔王の倒したんだ。まさか首だけで生きているとは思ってなかったけど……」

「…………」


 確か、首だけになって乃蒼のお腹の子供に魂を移したんだよね。

 やっぱり、僕があまり関わっていない大きな流れは変わってない。


「そのあと、とうとう加藤が匠たちに襲い掛かってね」

「加藤君……本当にひどい人だよね」

「加藤はそれなりに準備をしてたみたいだけど、それでも匠には勝てなくて。追い詰められた加藤が島原さんに襲い掛かってね……」


 驚いた。

 僕の時と同じ流れだ。


 加藤君は性格が悪いからな。赤岩さんや下条君への復讐のため、関係ない人間をいたぶったりする姿は簡単に想像できる。


「俺のせいで……匠の子供が……」

「優、もういい。君がそこまで話す必要はない。あとは俺に任せてくれ」


 泣きそうになっていた園田君に代わって、時任君が説明してくれるらしい。


 その後の流れは、僕が知っている通りだった。

 乃蒼が加藤君の薬で重傷。

 お腹の子供も死ぬ。 

 再生薬で乃蒼は回復。

 責任を感じた二人が、加藤君を一緒にこの世界に戻ってきた。



「しかしあれ以来加藤は行方不明でね。体を動かせなくなっているはずなのだが、匠のスキルに抜け穴があったのか……」

「…………」


 僕が下条匠のスキルを解除したはずなのに、それがなくても加藤君はスキルを解除している?

 僕がいないことによって、必要以上に対策をしたのかもしれない。

 

 まあ、たとえスキルを解除できたとしても、元になるバッジは少ないはず。この世界で加藤君にできることは限られている。


 そして……。


 あの日。

 時間を巻き戻す前のあの日、僕は乃蒼の子宮をこの世界に持ち込んだ。そのせいで魔王さんが復活して、関東地方で魔族が暴れまわる結果となった。 

 でも加藤君はそんなことをしていない。乃蒼にそれほど執着がないからだ。時任君や園田君の話からも、魔王復活に関することはなかった。


 つまり、この世界に魔王さんは存在しない? 魔族が暴れる展開もなくなった?

 いや、今までの話を聞く限り、魔王さんは乃蒼のお腹の子供になっている。だから時期がずれ込むにしても、いずれはこの世界にやってることになる。


 でも、かなりの余裕があるはずだ。

 それを念頭に、行動していく必要があるね。


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