表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クラスの女子全員+俺だけの異世界帰還  作者: うなぎ
やり直し編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

90/120

御影新のやり直し④


「う……うぅう……ううう……ぅう……」


 僕は泣いていた。  

 悔しかった。 

 最強無敵のスキルが手に入るはずだったのに。異世界で下条匠を懲らしめるはずだったのに……どうして……なんで……。


「…………」


 どうして?

 なんで?

 そんなの決まってる。


 僕は立ち上がり、教室の窓側へと移動した。

 目の前には、一台の机がある。


 加藤君の机だ。


 加藤君……いや加藤!

 こいつがすべての元凶だ!

 こいつさえ僕を蹴らなければ、魔法陣の中に入って召喚されてたはずなのに。そもそも僕がこの教室で暗くみじめな生活を送っているのは、全部全部こいつが悪いんだ。一番の悪人のくせに、僕を差し置いて異世界に召喚されるなんて……。


 ふつふつと、怒りが湧いてきた。

 どうして僕は……いつもこの男に邪魔されるんだ?

 


「このおおおおおおおおおおっ!」


 僕は加藤君の机を蹴り飛ばした。


「どうせ下条匠に負けるくせに! 少しスキルが使えるからっていい気になって! 僕のスキルがなければ薬の量産もできない負け犬のくせに」


 くそっ!! くそっ!

 この机みたいに、あいつの骨をへし折ってやりたい。


「ああああああっ! ホント腹立つなぁっ! スキルさえあれば、あいつをこの机みたいに蹴って、殴って、ぶっ壊してやることができるのに。死ねっ! 死ねっ お前なんて僕に蹴り殺されて死ねばいい――」

「やめんかあああああああああああっ!」

「え……」


 突然の声に、僕は思わず体を震わせてしまった。


 教室に入ってきたのは、数学教師の細井だった。


 鬼、と表現するのがふさわしい憤怒の形相で僕を睨みつけている。


「教室の備品を蹴るとは何事だっ! ものを大切に扱えっ!」

「ふざけるなっ! 何も知らない雑魚のくせに……。僕がこいつのせいでどれだけ苦しんだと思って」

「黙れええええええええっ!」


 ドンっ、と激しい衝撃に僕はめまいを覚えた。

 細井が僕のほほを殴ったのだ。

 

 この男性教師は、生徒に対して暴力を振るうことがある。それは今までずっと加藤君に向けられてきたから問題視されていなかった。

 でも、こいつが加藤君以外を殴るの……初めて見た。


「この校舎の備品はなっ! お前たちのご両親がお前たちのためを思って払ってくれたお金や、国や地方が支援してくれたお金で賄われているっ! お前は目上に人間に対する感謝の心が足りんっ!」

「う……うるさいなぁ。机くらい、倉庫かどこかに代わりがある――」 

「なんだその口の利き方はっ! 謝れええええええええええええええっ!」


 大気を震わすその怒声は、まるで大型魔物の咆哮のようだった。


「……ぅ」

 

 ふ……震えてる?

 僕が?

 下条匠だって、加藤君だって魔族だって怖くなかったこの僕が……。こ……こんなスキルも魔法も使えないただの人間に……怯えている?


 さっきぶたれた頬が、じんじんと鈍い痛みを発していた。口内は血の味でいっぱいだった。

 鬼のような細井先生の顔を見て……僕は……。

 

「あ…………」


 声が……でなかった。

 それはまるで、昔加藤君の目の前にした時のように。

 僕はあの時の弱い自分を乗り越えた……はずだった。

 でも目の前の細井先生は、僕よりも数段身長が高く、筋肉質で……。まるで……荒ぶる猛獣か何かのようだった……。


「謝れんのかあああああああああっ! 馬鹿者ががあああああああああっ!」

「ご……ごめんなさい」

 

 気が付けば、口が自然に動いていた。


「加藤君に……いじめられて、机に八つ当たりしてました。本当にごめんなさい。う……うううぅ……うううぅぐぐ」


 涙が止まらなかった。

 僕は……戻ってしまった。

 かつて加藤君にいじめれていたみじめな僕へと

 こんな筋肉教師一人、相手にできない自分の弱さに……吐き気がした。


「……ふん、謝ればすむ問題ではない。お前は自分勝手な行動で教室の備品を壊したんだ。部活に入ってはいなかったな? 来い。指導室で担任の先生と一緒に話をするぞ」

「……はい」

 

 細井はその野太い手で僕の手を掴み、強引に教室の外へと連れ出した。

 い……痛い。

 でも痛いって言ったら怒鳴られそうで……怖い。


「…………」


 こ……殺してやるっ!

 絶対、絶対に殺してやる! 僕が力を取り戻したら、加藤君の次に殺してやるっ! 

 家族がいるならまず目の間で家族を殺して、泣き叫ぶ姿を拝みながら嬲るように自慢の体をぼこぼこにしてやる。スキルさえあれば、お前の攻撃なんか僕に当たらない。仮に当たっても時間を戻せばすぐに回復することができる。

 雑魚のくせに僕に逆らったこと、必ず後悔させてやるからなっ!



 その後、僕は指導室に連れていかれて反省文を書くことになった。

 弁償、という話にならなかったのは、僕が日ごろから加藤君にいじめられていたことが憂慮されたのかもしれない。いじめは教師側の落ち度でもあるから、僕を責めるに責めきれない事情もあったということだ。

 部屋の中で、孤独に反省文を書きながら……僕は思った。

 ああ、僕は戻ってきてしまったのだと。

 力のないただの学生として、このつまらない糞だらけの元の世界へ……戻ってきてしまったのだ。

 

 ここから……どうすれば挽回できるんだろう?

 僕が異世界にいない。それがこの新しい世界でどんな影響を与えるのか想像もできない。

 加藤君を、魔王さんを、そして下条匠を出し抜いて、僕が再び力を得るために……。

 考えなきゃ……。


前作より約3年ぶりの登場、細井先生。

皆さん覚えていますでしょうか? 

覚えてるわけないですよね。

覚えてなくてもいいですよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ