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クラスの女子全員+俺だけの異世界帰還  作者: うなぎ
やり直し編

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83/120

気持ち悪い男


 加藤を殺した俺はすぐに下の階へと下りた。

 ここにエドワードがいる、と事前に話を聞いていたからだ。

 例の加藤の話がはったりでなければ、効いていた部屋に捕らわれているはず……なのだが……。


「エドワードっ!」


 そこには、ロープでベッドに縛り付けられたエドワードがいた。

 猿ぐつわを噛まされているため、悲鳴を上げることもできなかったらしい。


 俺はすぐさま剣を使ってエドワードの拘束を解いた。 


「許してくれ。お前たちを安全なところに逃がしたつもりだったのに、まさか……こんな結果になってしまうなんて」

「お父様は何も悪くありません。僕がもっと強ければ……こんなことには……」

「…………」


 子供なのに、責任を感じているのか?


「体は大丈夫か? 歩けるか?」

「縛られていただけで、問題はありません」

「無理はするなよ。おぶってやろうか?」

「……お父様、僕のことはいいんです。姉さんを助けに行ってください」

「エドワード……」


 俺は……少し感動してしまった。

 自分だってきっと怖かっただろうに。もっと俺に甘えてくれてもいいのに。

 それなのに、行方不明になった姉のことを心配するなんて。俺と同じ気持ちだったなんて。


「親がなくても、子は成長するんだな」

「お父様は僕にたくさんの英雄伝を残してくれました。今、僕がこうして勇気を出せるのもお父様のおかげです」

「いや、いいんだ」


 肝心な時にいなかった親なんて……ほめられたもんじゃない。

 だから今は、親としてできる最善のことを果たしていきたい。

 エドワードと……そして俺の願い通り、リンカを助けに行くんだ。


「つぐみたちは校舎の方で待機してもらっている。場所は分かるか?」

「はい」

「念のため俺の〈操心術〉で操った加藤の配下を一人つけておく。お前のことを護衛するように命じれしてあるから心配ない」

「ありがとうございます」

「それとエドワードは聖剣に対する適性があったよな? 俺の聖剣を一本渡しておくから、何かあったら使ってくれ」


 俺は〈籠ノ鞘〉を起動し、異空間から聖剣を一本取り出した。

 ごくありきたりな、自然系の刃を生み出す系統のものだ。


「適性が低ければ、使って倒れてしまうこともありえる。慎重に判断してくれ」

「僕は適正が高いので大丈夫です。お父様譲りですよ」


 この辺りに野良の魔物がいいたことはないが、念には念を入れておく必要がる。


「それじゃあ行ってくる。リンカは必ず連れて帰ってくるからな」

「お気をつけて」


 俺は部屋の窓から飛び降りた。

 剣を壁に押し付け、摩擦力で落下の威力を相殺する。そうすればこの高さからでも、地上に降りることができる。

 とん、と小気味よい音を立てて俺は地面に着地した。

 ケガも何もない。


 俺は駆け出した。

 待っててくれ、リンカ! いますぐ行くっ!



 *********


 風俗街、とあるラブホテルにて。 


「……ん」


 リンカは目を覚ました。

 最初は寝ぼけ眼で目を擦っていたリンカだったが、次第に脳が冴え……冷静さを取り戻していく。


 魔族の脅威から逃れるため、関西方面に向かったこと。

 時任春樹の屋敷で世話になっていたこと。

 そして、何者かにさらわれてしまったこと。


「……っ!」


 実に迫る脅威を改めて自覚したリンカは、はっとして周囲を見渡した。

 見慣れぬ光景だった。

 自分はどうやら、明らかに一人用でない大きなベッドで寝ていたらしい。


「……ひぃ」

 

 リンカは思わず悲鳴を漏らしそうになってしまった。 


 男が、座っていた。


 ねっとりとした視線をこちらに向けるそのメガネ男は、近くの椅子に腰かけていた。そして、リンカと目があって口元に笑みを漏らす。

 

 そもそも、リンカが目を擦ってから意識を覚醒させるまで、一分程度は時間があったはずだ。にもかかわらず何も話しかけることなく、ただこちらの様子を舐めまわすようにずっと見つめていた。その事実だけでも、この男には吐き気を催すほどの嫌悪感を覚えた。


 この男を、覚えている。

 まだ京都にいたとき、リンカを連れ去った男たちの一人だ。 


「はぁはぁはぁはぁ」


 男は荒い息のまま、こちらを見つめている。

 熱でもあるのか、と疑ってしまうように顔が赤くなっていた。


「あ……あの……」

「はぁはぁはぁ、こ……こんにちは。お名前は、リンカちゃんでいいんだよね」

「は……はい……」


 リンカは身震いを覚えた。


「はぁはぁはぁ、僕の名前は御影新。安心して、お兄ちゃんは君のお父さんの知り合いだよ」


 安心して、と言われて安心できる状況ではないことは、頭の良いリンカでなくても十分に理解できることだった。

 

 そもそもこの御影新という名前、リンカたちが生まれた異世界においてとても有名であった。

 英雄、下条匠にたてついた悪役として。

 同じく悪役、加藤達也ととも人類の敵として広く知られている名前。その暴虐さが逆に魅力的とも言えなくもない加藤と違って、この御影という男は大衆の間で全く人気がない。下条匠の活躍をベースとした演劇や絵本においても、救いようのないクズとして描かれている。演劇で御影の役を、と指名された子供が泣いてしまうほどだった。


 それでもリンカは、感情を一切配した客観的視点をもって、この御影という男について冷静に考察したことがあった。英雄下条匠の活躍を引き立てるため、あえて醜悪で愚かに描かれているのではないかと。本当はそれほど気持ち悪い男ではないのではないかと?


 だが、そんな根拠のない考察は一気に吹き飛んでしまった。

 

 リンカは御影のことを気持ち悪いと思った。

 それは理屈ではない、感情の問題だった。


「はぁはぁはぁ、寝起きもかわいいね。キス、していいかな?」

「い、いやです」

「ふひひひひひぃ、じゃあさ、これ……見てくれる?」

 

 そう言って、御影は――

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