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クラスの女子全員+俺だけの異世界帰還  作者: うなぎ
イグナート・マリエル編

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聖獣

 イグナートの猛攻を一部の妻たちに任せた俺は、そのままもう一体の魔族を相手にすることとなった。

 大妖狐マリエル。  

 かつて戦った時とは完全に違う形態。狐という共通点はあるが、この格上の相手に果たしてどうやってかみついていけばいいのだろうか?


「――〈白王刃〉っ!」


 俺はまず〈白王刃〉を放った。こいつは聖剣の刃を複数発生させて相手にぶつける技だ。ただでさえ巨体と化した大妖狐マリエルに、避けられる攻撃ではない。


「……無駄無駄無駄」


 マリエルは俺の攻撃を全く避けようとしなかった。百を超える白い刃はほぼ同時に奴の体へと着地した。

 しかし……無傷。

 キン、とまるで金属に当たったような鈍い音を放ったのち、俺の攻撃は消失してしまった。

 硬い。


 そういえば、異世界で戦ったときもこんな感じだった。毛皮が鋼鉄のように硬くて、うまく刃が通らなかったんだ。

 あのときは……一体どうやって戦ったんだっけ?


「――付加エンチャント


 背後から、そんな声が聞こえた。

 すると同時に、一本の矢がこちらに向かってきた。

 ただの矢ではない、先端部分に三角形の形をした黒い霧状の刃が張り付いている。


 そうだ。

 雫が魔力を付与した矢で攻撃したんだった。

 この黒い刃のような物質は魔族の魔法を応用して生み出されたもの。魔法を付加することによって矢の威力を向上させ、マリエルの体を貫くレベルまで昇華させたのだ。

 

「…………ちくちくと、煩わしい攻撃よな」


 しかし、今の大妖狐マリエルはあまりにも巨体。

 人型であったときは、矢一本の攻撃がそれなりに傷となり、ダメージを与えていた。しかし今の奴にとって矢一本の攻撃など、画びょうか何かで指をさしてしまうようなもの。とてもではないが体力を削れているのかどうか分からない。


 それでも奴にとって不快な攻撃であったことは間違いないらしく、目標を俺から雫へと変えた。

 

 だが、奴は二の足を踏むことになった。


「ぬ……」


 その歩みを止めた大妖狐マリエル。

 周囲を炎が覆ったからだ。


 これは聖剣による炎ではない。


「クエエエエエエエエエエエエエエエエッ!」


 空高く舞う赤い怪鳥の名は……鳳凰。

  

 これは通常の魔物とは異なる、天使たちの配下――すなわち聖獣である。

 

 ペガサス。

 ユニコーン。

 麒麟。

 鳳凰。

 

 対魔族用に開発、運用されたこの聖獣たちは、魔族の配下である魔物たちとは格が違う戦闘力を誇っている。


 これもまた、エドワードとリンカがこの地にやってきたことによって、もたらされた技術の一つ。


「ふっ、聖獣とは懐かしいものを」


 大妖狐マリエルは、笑いながら鳳凰を薙ぎ払った。

 普通の魔物であれば一撃で死んでしまうような攻撃ではあるが、鳳凰はそのダメージにかなり耐えているように見える。無傷とは程遠い様子ではあるが、あと数回程度なら同じ攻撃を受けても無事なはずだ。

 

 まさに、魔物の上位互換。


 だが聖獣にも弱点がある。

 その高い戦闘能力ゆえに、魔物ほど複数用意することができないのだ。


 そして並みの中級魔族であればともかく、上級……しかもその中でも抜きんでて強力な力を持つ魔族三巨頭にとって、聖獣はただ煩わしいだけの存在でしかない。大地をえぐり、海を裂き空を貫く奴らの実力は、少し強い魔物程度ではどうにもならないのだ。


 だが、それでも俺たちは戦う。


 天使の技術。

 魔族の力。

 そして人の努力。


 三つが重なり生み出された俺たちの力。決して弱いとは言わせない。

 

 俺は天を舞うペガサスの上に飛び乗った。

 翼を生やす魔法も存在するが、それを使う動きが単調になり狙われやすい。

 その点ペガサスに飛び乗るというのは、不規則で狙いを定めにくい。現に大妖狐マリエルは俺を目で追っているように見えるが、すぐに視線をそらしている。


「〈白王刃〉っ!」


 こうして敵の攻撃を避けながら、攻撃を繰り返していく。


 しばらく、そうやって戦っていたのだが……。


「くっ」

 

 駄目だ。


 聖獣は使った。

 聖剣だって魔法だって使っている。

 雫も頑張っている。

 それにも関わらず、大妖狐マリエルを倒す決定打には至っていない。

 

 ゼオンのように正々堂々と戦うような奴とは違う。こいつらは俺たちを殺しに来ている。だから多少見苦しい攻撃方法も選んでくるし、手加減したり見逃したりなんていう選択肢はない。

 俺たちの攻撃が全く効いていないわけではないと思うが、それでも体力の底が見えない。


 まだ奴に試していない方法の中で、効きそうな攻撃は……。


 〈真解〉だ。


 幸いなことに聖剣ヴァイスはすでに乃蒼の手によって癒されている。これならもう一度放つことができるし、何より後方には乃蒼が控えているわけだから、壊れそうになれば回復すればいい。

 だがタイミングが重要だ。

 大妖狐マリエルは巨体だが、力も素早さも並外れている。

 俺の攻撃が外れることはないだろうが、もし〈真解〉の発動を妨害されてしまったら……それでおしまいだ。


 どうする?

 やはり……このまま時間を稼いでチャンスをうかがうしかないのか?

 いや、そもそも奴らの体力と俺たちの体力、どちらが先に尽きる?

 

 ……考えるまでもない。俺たちの方が先に力尽きる。

 

 なら、早く決着をつけないと……。


 などと考えていた俺の耳に、突然、激しい爆発音が響いてきた。


「な、なんだっ!」


 会われて周囲を見渡すと、大妖狐マリエルの腕辺りに煙が上がっていた。


 あの爆発……。

 俺は一瞬ミサイルか何かを想像した。だがさすがにそんなでかい飛来物があれば気が付くだろう。


 周囲を見渡して、すぐに気が付いた。

 瓦礫の影に、ロケットランチャーを構える兵士の姿が見えた。


 あれは……。


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