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クラスの女子全員+俺だけの異世界帰還  作者: うなぎ
イグナート・マリエル編

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ゼオンの首


 無線機から聞こえてきたのは、俺のクラスメイトである春樹の声だった。


「春樹なのか? 俺の声が聞こえるか?」

〝おお……匠の声。優は無事たどり着いたみたいだな〟

 

 俺の声もしっかり届いているようだ。


〝俺が関東で連絡を取れるのは優だけだったからね。校舎の場所もよく知っているわけだから、適任だという判断だよ〟

「俺がここにいることを知ってるってことは……」

〝君の息子たち家族は無事俺が保護している。その点は安心してくれていい〟

「……そうか」


 ゼオンに遭遇したという話を聞いたときは肝を冷やしたが、どうやら無事向こうにたどり着いてくれたらしい。


〝草壁が魔族の……刀神ゼオンのことを気にしていたぞ? そちらに向かっているかもしれないから、注意してくれ〟

「そのことなんだが……」


 俺はこれまで起こった出来事を春樹に説明した。

 小鳥たちと別れたゼオンが、そのまま俺のところにやってきたこと。

 奴の聖剣・魔剣に圧倒されたこと。

 そして剣にされた人々の仲間割れ。

 その隙を突いて……奴を倒せたこと。


〝驚愕、と言わざるを得ないね。刀神ゼオンは俺が異世界にいた頃にもよく知られていた、魔族の大幹部じゃないか。この世界でもアメリカの艦隊を壊滅させたことで、有名な魔族だったはずだ。それを倒してしまうとは〟

「……幸運が重なってな。実力だとは思っていない」


 リンカ・エドワードからもたらされた支援。

 ゼオンが聖剣・魔剣と意思疎通を図り切れていなかったこと。

 二つがなければ俺は確実にやられていた。


「ただ、俺がゼオンを倒した件でこのあたりの危険度はかなり高まってると思う。子供たちを逃がしたのは正解だった。春樹、いつか必ず恩を返すから、子供たちのことを頼む」

〝それについては全く問題ないのだが、一つ、頼みたいことがある〟

「なんだ?」

〝ゼオンを倒したなら、その首、俺に渡してくれないだろうか?〟

「は?」


 予想外の提案に、俺は変な声を出してしまった。


「首って? 戦国時代みたいにさらし首にするってことか?」

〝まあ、その理解で間違いはないよ。戦意高揚を図る意味でも有効な手段だ。首だけになればさすがの魔族も……と言えないのが、なかなかリスクの高い案件ではあるが……〟


 魔王の首だけ持って帰って、大失敗してしまった件か。

 かつて優と春樹は魔王を倒し、その首を俺たちのところに持ってきた。完全に死んでいるように見えたやつはその時生きており、そのおかげでこうしてこちらの世界で復活を果たすことができたのだ。

 春樹はゼオンが似たようなことにならないか心配しているらしい。


「……これは俺の個人的な感想なんだけど、ゼオンはそういう人を罠にかけて倒してしまうような戦略は好まないと思う」

〝それは確かな意見かね?〟

「奴が倒されるきっかけになったのは、聖剣・魔剣との協力関係にひびが入ったこと。あれは奴自身も望んでいない、少し無様な結果だった。俺との戦いにこだわっていたのに、手を抜いて負けるなんて考えにくい」


 ちなみにあの聖剣・魔剣たち、今は校舎の倉庫に眠っている。今はいろいろと忙しいから後回しになっているが、平和になったら彼らの処遇については考えるようにしよう。


「それにゼオンは、再生力の強い魔族じゃない。魔法も一種類以外使ったところを見たことがない。首だけになったら……それはもう死んでるはずだ」


 かつて異世界でゼオンを倒したときのことを思い出す。

 あの時、ゼオンは瀕死の重傷を負ったのち乃蒼の聖剣を使って体を回復させていた。単純に自分で再生できるんだったら、剣の力に頼ることはなかったはずだ。

 異世界で死んだのだって、ゼオンにとっては不本意な結果だったはずだ。奴は小鳥と戦いたがっていた。だからたとえ魔王の命令を受けていたとしても、あの時点では死にたくなかったはず。

 再生力の強い魔族であれば、あの戦いで死にきることはできなかったはずだ。


「ゼオンの首は安全だと思う。あくまで個人的な意見だけど」

〝ふむ、匠がそう主張するなら問題ないだろう。首は優に渡してくれ〟

「分かった、死体があるところまで案内するよ」

〝それと、これは提案なんだがね。ゼオンを倒したのは我が国の自衛隊である、ということにしてもらえないかね?〟

「え?」

〝手柄の横取り、といえば聞こえが悪いが、意味のある行為だ〟


 一瞬、春樹に言われた通りのことを考えてしまった。

 だが冷静に考察すると、メリットが見えてくる。


「魔族の目から俺をそらすため、ってことか?」

〝敵将を打ち取って褒賞をもらえるなど、戦国時代の話だ。国の軍隊が倒したということにしておけば、匠もいろいろと動きやすいだろう〟

「確かに……そうだな」


 悪い話じゃない。


〝優が持ってきた首をテレビで……というのは少しグロすぎるから、多少加工して全国放送しよう。むろん、魔族たちにもその内容が伝わるように、何らかの手段を講じるつもりだ〟

「…………」


 なるほど。

 確かにそれなら、俺に魔族が集中する結果は避けられる。

 そもそも手柄が欲しくて魔族を倒してたわけじゃないからな。こちらに被害が及ばないなら、何をしてくれても構わない。

 だけど……。


「いいのか? それってさ、魔族たちがそっちに押し寄せてくるかもしれないってことだろ? 耐えられるのか?」

〝いつまでも関東を占領されたままではよくないだろう? こちらもそれなりに時間があったからね、準備はしているさ〟

「準備?」

〝アメリカを除く友好国から、続々と援軍が集まっている。平和維持のための多国籍軍、という体裁をとり関東への派兵を決定した〟

「そこまで話が進んでいるのか」


 ここにいると外の情報は何も入ってこないからな。優の無線はできればもらっておきたいところだ。


〝この世界の軍に魔王の相手は心もとない。とはいえ、匠とって目くらまし程度の意味はあるはずだ〟

「とりあえず俺はゼオンの死体を引き渡せばいいんだな。分かった。春樹の言う通りにするよ」


 俺にとってメリットしかない話だ。

 ここは受けておくべきだろう。


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