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クラスの女子全員+俺だけの異世界帰還  作者: うなぎ
ゼオン編

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教科書の偉人


 京都、時任邸にて。

 大広間に移動した小鳥は、クラスメイトの時任春樹と出会った。

 電話では話をつけてある。後ろに控えている子供たちや自分の面倒をみてもらうための話だ。同じ教室とは言っても他人に近い間柄だったから、拒絶されるのではないかと心配していた。


 だが、出会ってみると意外にも好意的な印象だった。


「呪いの剣に侵された君のことは心配していた。だがこうしてこの世界に戻ってきたということは、匠がうまくやったんだろうな。感謝しても感謝しきれないことだよ」

「え、えっと……ごめんなさい。あまりお話したこともないのに、急に押しかけてしまって……」

「構わないさ。無関係ではないだろう?」


 と、時任が笑う。


「謝るのはこちらの方だよ草壁。俺の見落としで御影はスキルを使えるまま戻ってきてしまった。しかもそのせいで魔王まで復活して。ふふっ、異世界でもとんだ道化ぶりだと思っていたが、この世界でも俺は無様を晒してしまったようだ。笑ってくれて構わないのだよ」

「そ……そんな」


 小鳥は何も言えなかった。

 彼女は魔王の一件時には正気を失っており、この件とはほぼ無関係だ。しかしだからと言って自分がいたとしても最善の手が尽くせるとは思ってなかった。

 あまり付き合いがなかった小鳥でも、春樹の優秀さは時々耳にしていた。そんな彼ができなかったのだから、他の誰かができるはずがない。


「そちらに控えているお子さんは、匠の子供たちかね? ああ、変に緊張しなくていいよ。ただ自己紹介をしてくれれば嬉しいというだけだ」


 本来、子供たちを紹介するのは小鳥の役割だったのかもしれない。しかし人づきあいが苦手な彼女にとって、こうして話をしていることが精一杯なのだ。とてもそこまで気を回せない。

 だが、小鳥が失念していても、子供たちは礼儀をわきまえていたらしい。


「初めまして、鈴菜お母様の娘……リンカです」


 まず挨拶をしたのは、子供たちの中で一番年長者のリンカだった。


「君が……あの方の……」


 大丸鈴菜と時任春樹の浅からぬ因縁は、小鳥も承知している。思い人の娘の姿を見て気を悪くしないかと不安に思っていたが、どうやら杞憂だったらしい。


「僕の名前はエドワード。つぐみお母さまの息子です」

「ふむ、赤岩のご子息か。母親に似て利発そうな顔つきをしている」

「時任様こそ、お話に聞いていた通りのイメージでした。州知事などではなく、大統領や宰相を務める器だと僕は思います!」

「ほう、俺がマルクトの州知事を務めていたと……知っているのか?」

「はい、教科書に書かれていましたので」


 小鳥は春樹がいた頃の記憶がないものの、呪いから解き放たれた後で春樹の活躍ぶりは聞いている。彼はあの世界では有名人だった。それはきっと、小鳥たちがいなくなって数年たっても変わらなかったのだろう。

 とはいえ、それはエドワードにとって生まれていない頃の話だ。多少勉強していなければ、州知事の話など頭に入ってくるものではない。


「匠の子とはとは思えないほどによく勉強しているな。これが赤岩の血か?」

「あなた様の名前は建国の歴史書にも登場します。悪の公爵を出し抜き、咲お母さまからの信任も厚かった……お父様に並ぶ英雄です。あなた様の叡智、州知事としての偉業、そして権力をつかみ取るまでの立志伝。僕はあなた様をお手本として、共和国に貢献していきたいと考えていました」

「はっはっはっ、よしてくれたまえエドワード君。俺を見本にしてもみじめな思いをするだけさ」

「そんなことはありませんっ!」


 どうやらエドワードは相当に春樹のことを尊敬しているようだ。父親である匠と同レベルに。

 小鳥は春樹のことを好きではないが、彼の優秀さはこの世界にいた頃からよく理解していた。エドワードの主張も、まんざら大げさでもないと思っている。

 

「よ、よろしければサインをいただけませんかっ! 部屋に飾って、僕が将来政治家になるための目標にしたいと思いますので! 大切にします!」

「はぁ、よしてくださいエドワード。恥ずかしい……」


 興奮気味のエドワード違い、リンカは冷めた目で彼のことを見つめていた。


「姉さんっ! こんなチャンスはもう絶対来ないよ! 教科書の偉人に会えるなんて……ここは奇跡の世界だ!」

「ふっ、俺は向こうの世界ではそんな偉人になっているのかね? 少々恥ずかしい気もするが、目標だと言われて悪い気はしないね。サインは後で色紙か何かを用意して渡そう。それでいいかね?」

「わ、わざわざ僕のために……。ありがとうございます」

「共和国は選挙制だったね。ならば俺と出会いサインをもらった話を存分に使うといい。マルクトとの国境沿いに住む人たちには心証がいいかもしれない。なに心配するな。人間という奴は血筋や肩書に弱いからね。英雄下条匠の息子が王になりたいと言えば、喜んで担ぎ上げてくれるだろうさ」

「はいっ!」

「さて……」


 話はこれで終わりのようだ。

 エドワードはその空気を読んで一歩下がり、春樹は小鳥に目線を移した。


「無事子供たちが来たことを、匠に伝えておく必要があるね」

「はい……私が落ち着いたら向こうに帰って……」

「草壁がそこまで気を揉む必要はないさ」


 そう言って、春樹は懐からあるものを取り出した

 黒い色をしたそれは、無線機のように見える。


「それは?」

「衛星を介した無線機だよ。関東には電話が通じないからね」


 春樹は無線を操作し、顔を近づけた。


「優、聞こえるか優! 応答してくれ」


 しばらくすると、無線機から声が聞こえてきた。


〝春樹、どうした? 緊急の用事か?〟


 小鳥は驚いた。

 その声は、確かに一紗の元恋人であり小鳥のクラスメイトでもある、園田優のものだった。

 


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