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クラスの女子全員+俺だけの異世界帰還  作者: うなぎ
ゼオン編

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62/120

ゼオンの弱点

 刀神ゼオンとの遭遇。

 それは俺たちの危機であると同時に、無事に逃げたはずのリンカやエドワードの命の危険をはらんでいた。

 だが結論から言うと、その不安は杞憂だった。

 ゼオンが言うには、遭遇はしたものの見逃したらしい。戦闘狂であるこいつだから、妊娠した小鳥たちに興味をなくしてしまったのかもしれない。


 全力で戦いたいから、場所を移動したい。

 そう主張すると、ゼオンは快諾してくれた。


 こういう言い分が通用しない魔族もいるが、このゼオンとかいう奴はとにかく戦闘狂なところがある。俺が全力で戦えないといえば、それなりの環境を提供してくれるのだ。


 こうして俺たちがやってきたのは、郊外の荒れ地だった。

 ここにはかつて倉庫か何かが建っていたのだが、イグナートの大規模魔法によって完全に破壊されてしまった。今は荒れ地になっているから、誰も犠牲を出さず戦うのにはうってつけだった。


「ぬぅんっ!」

「うおおおおおおおおおおっ!」


 俺たちは互いに聖剣・魔剣を発動させた。


「〈白王刃〉っ!」

「〈百針光〉っ!」


 様々な技を放ち、応戦した。 

 互いに複数の聖剣・魔剣を保持する者だ。膨大な手数の中、一つの聖剣・魔剣の力だけで圧倒することは難しい。


 つまりこれだけで勝利することなど不可能。ここまでの戦闘は……軽い準備運動。


 やがて、ゼオンが一歩後ろに引いた。

 ……来る。


「来たれ我が力っ!」


 ゼオンの背後に、まるで巨大な翼のようにはためく……千本に近いほどの聖剣・魔剣。


 〈千刃翼〉、と呼ばれる刀神ゼオンの戦闘陣形である。奴は背後にこうやって聖剣・魔剣を配置し、同時に技を放つことができる。


 かつて俺はこの力に圧倒された。

 人間は基本的に一本の聖剣・魔剣しか扱うことができない。かつて俺も同時に聖剣を使ってみようと頑張ってみたこともあったが、体力を消耗してすぐに気絶してしまう。無尽蔵の力を持つ魔族だからこそできる芸当なのだ。


 普通に考えたら、勝てない。


 だがゼオン、お前は己の力を過信して、大切なことを忘れていないか?

 お前はどうやって俺に負けた? 力負けしたわけじゃなかっただろ?

 実力を伴わない方法だったことは否定しない。でもお前は多くの人間を傷つけた。だから俺は躊躇なくその方法を使い、僅差ではあるがお前に勝つことができたのだ。


 何も考えなくてもいい。

 俺はまた、同じ作戦を採用するだけだ。


「おい、聞こえるか! そこの聖剣っ! あんた人間なんだろ?」


 俺はゼオンの持つ聖剣へと叫んだ。


〝あ……あんた、俺たちが元は人間だって……知ってるのか?〟

「ああそうだ! お前の声も聞こえてるぞ!」


 俺には〈同調者〉という能力がある。こいつは聖剣・魔剣の元となった人間の声を聞き、会話を可能とする力だ。


「あんたたちも知ってるだろ? この魔族は日本を滅ぼそうとしている危険な存在だ。今すぐ俺に協力てくれっ! あんたたちが力を合わせれば、こいつを弱体化できるんだ!」


 ゼオンの力は聖剣・魔剣に特化している。

 そして最終奥義である〈真解〉は、持ち主と剣の心が一つになっていないと使えない。

 逆に言えば、俺に協力してくれるというなら俺がゼオンの剣の〈真解〉を使えるということだ。


 異世界でゼオンを倒した時には、こうして奴が持っていた剣に力をもらって……倒したのだった。


 同じ日本人なら、俺に協力してくれるよな?


〝……断る〟

「は……?」


 希望とは裏腹に、帰ってきたのは拒絶の声だった。 

 なんで協力してくれないんだ? ゼオンに逆らえないのか? 脅されている?


「あ……安心してくれっ! 俺の仲間に治癒の力を持つ女の子がいるんだ! あんたたちを剣の姿からもとの人間に戻すことだってできる。俺たちが力を合わせれば勝てるんだ! この国の未来のために、頼むから俺に……」

〝そうじゃねぇ、そうじゃねえんだ。……兄ちゃん、あんた若いな〟

「な……何の話をしてるんだ!」


 訳が分からなかった。

 若いからなんだっていうんだ? ゼオンに脅されて頭がおかしくなってしまったのか?


〝俺は末期のがんでな〟

「え……」

〝医者からも余命を宣告されて、病院で死んだように生きていた。若い兄ちゃんには……分からねぇだろうな〟

「…………」


 がん?

 しかも末期?

 この人は……聖剣になる前に死にかけていたのか?

 そういえば……クルーズ軍曹がもってた聖剣も、病院にいたって話だったな。彼は手術の後で命の心配はなかったが、もし……余命を宣告されるレベルの病人が、聖剣にされてしまったとしたら?

 

〝死にてぇ、死にてぇって思ったさ。自殺とか、安楽死とか、できもしねぇ妄想も何度かした。なんで俺がこんな目にあってるんだ、なんて神様を呪ったさ〟

「…………」

〝そんな時だ、病院が魔族に襲われた。その時俺はこの姿にされたんだ。痛みもねぇ、苦しみもねぇ、しかもファンタジーみたいな技が使えるようになってやがる〟


 嬉しそうな男の声。

 こいつは……もう……。


〝分かるか兄ちゃん! この魔族さんはな、俺たちを死の恐怖から解放してくれたんだ。恩人なんだ!〟

「だからって……何の罪もない人が苦しんで、死んでいいのか?」

〝あんたは日本を救う正義の味方なのかもしれない。だが俺たちにとっての救世主は、この魔族だった。俺は死んでもこの方を助けるぜ。何度も言わせんな、お前に協力はしないっ!〟

〝そうだそうだ!〟

〝何も知らないくせに、勝手なこと言ってんじゃねぇ!〟

〝国や家族が俺の命を助けてくれたか? あんたは俺が苦しんでるときに助けてくれたのか?〟


 後ろの聖剣・魔剣たちから、怒声が響いてくる。


 な……なんてことだ。

 俺は、とんでもない思い違いをしていた。


 ゼオンは見つけ出したんだ。自ら望んで聖剣・魔剣となり、心から持ち主に協力してくれる……そんな都合の良い人間を。

 それが、死にかけの病人だった。 

 

 ゼオンの弱点は……塞がれた。

 俺に勝ち目は……あるのか?


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