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クラスの女子全員+俺だけの異世界帰還  作者: うなぎ
異世界からの来訪者編

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リンカの気持ち


 久しぶりに、異世界人とコンタクトを取った俺たち。

 しかしダグラスさんとアイテムについて話してもらったあと、すぐに通信をやめることとなった。


 アイテムの説明はしてもらったんだから、最低限の情報は得たことになる。

 あとでもっと聞きたいことが出てくるだろう。ここで無理に長話をしておく必要はない。


「エドワード。俺たちのためにありがとうな。これで戦況を有利にできそうだ」

「僕はお父様に会えてうれしかったです。お礼を言われるほどのことではありませんよ」


 さて……と。

 俺は鈴菜のもとへと向かっていった。


「リンカ。リンカなんだよな?」

 

 リンカ。

 この世界にやってきたもう一人の異世界人。俺の鈴菜との間に生まれた子供。


 別に無視していたわけではないが、俺はまだリンカと話をしていない。彼女が鈴菜との話に夢中になっていたから、話すタイミングを失っていたともいえる。


「覚えて……ないよな? お前の父さんの匠だ。別れたときはまだ小さかったのに、こんなに背が大きくなって……」


 まだ言葉も流暢に話せなかった赤ん坊。俺の中にはそんな記憶しか戻っていない。

 懐かしい気持ちでいっぱいだった。泣き叫ぶ彼女をなだめたり、成長を喜んだりしていた異世界の記憶がよみがえっていく。

 昔そうしていたように、自然と手が伸びていた。頭を撫でたいというごく自然な気持ちからだった。


 その瞬間。

 パチン、という音がした。


「え?」


 一瞬、俺は何が起きたのか分からなかった。

 手に残る鈍痛が、何があったのかを鮮明に示している。 

 リンカが俺の手を弾いたのだ。


「触らないでください」


 まるで汚物を見るかのようなその目線に、俺は思わず怯んでしまった。


「ご、ごめんな。女の子だもんな。頭撫でられるの、嫌だったんだよな?」

「勝手に勘違いしないでもらえますか? お母様からであればともかく、あなたからそのようなことをされても嬉しくない。不快で気持ち悪い印象を受けていると伝えておきます」

「え?」


 不快? 気持ち悪い?


「お、俺は何かリンカの気に入らないようなことをしたのか? 真っ先に声をかけなかったことを怒ってるのか?」

「私が嫉妬したと? おめでたい頭の中ですね」


 馬鹿にされている。

 いや、確かに鈴菜に比べて俺はバカかもしれない。それは事実だ。でも実の娘からこうも辛らつに指摘されるとは……思ってもみなかった。


「共和国の憲法で男女は平等とされています。ですがあなたはこれほど多くの女性を妻だと言って憚らず、何人も子供を作って……。屋敷の使用人は全員女性で、夜は毎日巨大ベッドで淫行の毎日。親として、否……人として恥ずかしくないんですか?」

「け……憲法……」


 俺は政治家でも学者でもないから、共和国の憲法について詳しいことは知らない。

 しかしこの共和国というのは、もともと王国からの革命によって興した国だ。その政変のエネルギーとなったのは、行き過ぎた男尊女卑だった。

 つぐみは虐げられた女性たちを率いて革命を起こした。ならばその憲法の内容も、おのずと男女平等寄りになっているのだろう。


「あなたは不潔です! 憲法に反する犯罪者なのですっ! 性欲の権化のようなあなたの血が私に流れていると思うと、鳥肌が止まりません。あなたが実の親でなかったらと、何度心に願ったことか……」

「し、しかし、法律では女性の多夫一妻を許す代わりに一夫多妻制も認めている。これは男女両方に与えられた同等な権利だ。匠は間違ってないっ」


 と反論したのは、共和国の大統領であり憲法の起草者でもあるつぐみだった。

 確かあの世界で、つぐみも名目上は俺以外にも夫がいることになってたな。

 もっとも、それは名ばかりで実質夫は俺一人ということだったのだが。

 

「それは制度上の問題です! ましてや十人以上妻がいるなどという話は聞いたことがありません! とにかく、私はあなたを絶対に親であると認めません! 私の親は鈴菜お母様一人でいいんです!」

「…………そんな」


 よく、おっさんが年頃の娘に嫌われるという話は聞く。体が臭いとか、禿だとかうるさいとかいって邪魔者扱いされる感じだ。

 だけどリンカは反抗期というにはあまりに幼い。いやその外見よりは早熟なように見えるものの……俺の嫌う理由も感情や感覚的なものではなく理路整然としている。

 時間がたてば……という単純な話でないことは明白だ。


 俺は……娘に嫌われているのだ。


「姉さんっ!」


 気落ちした俺とリンカとの間に割って入ったのは、エドワードだった。


「き、気を悪くしないでくださいお父様。リンカ姉さんはいつもああなんです。共和国の憲法では男女平等だからって。お父様は唯一無二の英雄なのに……」

「いや、いいんだエドワード。俺だって、無条件で愛されてると思ってたわけじゃない」


 そうだよな。

 大切な時期にその場にいなかった俺なんだ。いまさら父親面しても……ただうざったいだけだ。


 むしろエドワードの反応が不自然なくらいだ。大統領の息子として、あるいは単純に男の子として俺の武勇伝にあこがれているだけなのかもしれないが……。俺の常識で考えるなら少し変わっているといってもいい。


 娘に嫌われる、か。

 キツいな。


「……璃々と琥珀も、俺のことを嫌ってるのか?」


 思わず、そうエドワードに聞いてしまった。

 ここにはいない、璃々と俺との間に生まれた双子だ。


「あの二人は子供なので、リンカ姉さんみたいなことは言いませんよ」


 エドワードたちと一歳程度しか違いがないはずなんだが……。

 いや、この年齢だと一年歳が離れているだけでも結構違うものだよな。それに俺の目から見てもリンカは早熟なように見える。


 嫌われているのはリンカだけ。

 そう思っても、やはり心は沈んだままだった。数の問題ではないのだ。


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