異世界人との会話
魔族ブリューニング。
かつて異世界で俺と争い、魔族大侵攻にも参加していた。
しかし無抵抗にも等しい人間たちを殺すという悪行に耐えることができず、良心の呵責から俺たちの味方をしてくれた。
「先にこちらに来た王妃さんから話は聞いた。俺たち魔族がそっちの世界でも暴れまわってるんだってな。君にまで迷惑をかけてしまったことは、本当にすまないと思っている」
「あんたが悪いわけじゃない。気にしなくていいさ」
ブリューニングは俺たちの仲間だ。いまさら魔族だからと言って責めたりはしない。
「ゼオン様がそちらでも聖剣・魔剣を作り始めたという話は聞いている。俺もそちらの世界に向かいたかったんだが……無理だった」
「援軍の件は俺も残念だと思った。でもこうして話ができるだけでも有益だ」
「……そうだな」
分からないことも多いからな。
「ダグラスさんはそこにいるか? 聞きたいことがあるんだけど」
「僕に何か?」
ブリューニングの隣から現れた男。
この執事風の衣服を身に着けた男は、魔族ダグラス。
魔族三巨頭、悪魔王の副官として働いていたこともある。ブリューニングと似たような経緯で俺たちの味方となった。
「ダグラスさんは悪魔王の副官だったよな? あいつの部下に迷宮宰相ゲオルクってやつがいたと思うんだけど、そいつについて詳しく教えてくれないか?」
迷宮宰相ゲオルク。
今、俺を直接的に苦しめている魔族とは全く異質。アメリカで影から糸を引く……恐るべき存在だ。
「あいつが引き合わせてくれた俺の友人――園田優は偽物だった。偽物の人形を作る、そんな能力があるってことでいいんだよな」
「はい、その通りです」
異世界において、優の件は終わったこと。そしてゲオルクも死んでいた。だから俺はこれまで、ずっとダグラスさんにこの話題を振ることはなかった。そうする意味がないからだ。
しかし今、奴はこの地球で暗躍している。なら敵の情報を集めておくことは必要だ。
「肉人形、と彼は呼んでいました。対象の姿、記憶を移して全自動で動かせることのできる人形です。彼が生み出したものですから、当然その行動は彼に有利なものへと誘導されますが……」
「優の偽物が異世界にいたとき、まだ本人は向こうの世界に行ってなかったはずだ。その肉人形とかいう偽物は、本人が目の前にいなくても作れるのか」
「その通りです」
それは……厄介だな。
「とはいえ無から作り上げることは不可能です。この話はおそらく僕とイグナート様しか知っていないとは思うのですが、彼には相手の記憶を読み取る能力があります」
「記憶?」
「〈神の糸〉と呼ばれる特殊な魔法です」
その単語に、俺は聞き覚えがあった。
「俺の記憶ではその魔法、糸を束ねて攻撃や防御に使っていたはずだ。相手の心を読み取るとか、そんな能力まであるのか?」
「攻撃や防御に使う糸はただの見せかけです。そもそも彼はそれほど戦闘力の強い魔族ではありませんでしたので。魔力を宿した見えない糸を相手の首に突きさし、記憶を読み取る。そうすることで肉人形の原型に思考回路を与えているのです」
「だからあの偽物は俺たちの昔話を知っていたのか……」
「あなたの記憶を覗いたのでしょうね。もちろん、本人の記憶をそのまま読み取れば、本物同然の肉人形を生み出すことも可能です」
優の時とは違い、今回犠牲になったアメリカ大統領は本人が近くにいるはずだ。つまりゲオルクは優のときとは違い、完全な偽物を生み出していることになる。
これはどうにもならないな……。
「それと、持ってきてもらったアイテム。初めて見るものをあるから、いろいろと教えくれないか?」
「魔族が持っていたいくつかの魔具。それから天使たちが持ってきたもの。一つ一つ解説しますよ」
こうして、俺はダグラスや天使たちから、アイテムの詳細を聞くことにした。
異世界へと戻れる帰還の腕輪。
あらゆる異世界人のスキルを防ぐ盾――アイギス。
特殊な能力をもった聖剣や魔剣。
そのほか様々なアイテム。
中でも俺の目を引いたのは、宝石のはめ込まれたバッジだった。
「これは……スキルの?」
「そうです。異世界人が使う固有スキル。その発動に必要なバッジです」
俺は〈操心術〉というスキルを持っている。
これは他人を意のままに操る強力なスキルなのだが、特殊なバッジがなければ使うことができない。このため、俺は異世界にいたときほとんどこのスキルを活用できなかった。
それが再び使えるようになるのか。
相手を意のままに操れる。だとしたらどんな敵にも勝利は確実……なのだが。
「ダグラスさん、これ……魔王にも効くのか?」
「難しいでしょうね」
まあ、そうだよな。
異世界に来た頃ならともかく、今となっては大まかな力関係は把握できている。
魔族>天使>人間だ。
人間最強、スキルを使える異世界人。そのスキルを封じる力を持った天使たち。そしてそんな天使たちをも凌ぐ力を持った魔族たち。
「スキルを防げ、と言われれば僕にでも防ぐことはできるでしょうね。根幹は魔族の純魔法や天使の聖術とそう違いはありません。世界に干渉するレベルであればともかく、対象個人を操る力ともなれば……百パーセント防げる自信があります」
と、ダグラスは言う。
この魔族は三巨頭に次ぐ副官の地位についているわけだが、相当に強い。だから普通の魔族たちには俺のスキルが効くかもしれないが、魔王レベルでは話にならないということ。
とはいえ同じ人間であればかなり有利になれるのは事実。御影や加藤と戦うことになれば、有意義に活用させてもらおう。




