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クラスの女子全員+俺だけの異世界帰還  作者: うなぎ
異世界からの来訪者編

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亞里亞との再会


 亞里亞を迎えに東へと向かう俺たち。


 最初に話を聞いていた通り、やはり道中は楽にはいかなかった。


 魔物に襲われること二回。それほど強くないタイプではあったが、一般の人々には少々きつい相手だった。

 毒液を吐くタイプの大型スライムだ。包丁やハサミ程度で傷つけても無駄。エアガンや弓程度では力不足。大型の銃があれば対応は可能だろうが、一般の日本人にそれを期待するのは無理というものだ。


 俺がいなければ死んでいたかもしれない。


 こうして俺たちがたどり着いたのは、茨城県の田舎町だった。


「あちらの文化ホールに……みんなが隠れています」

 

 そう言ってこの先にある建物を指差した女性。その先には広い駐車場と大きな建物があった。

 なるほど、確かにあそこなら数百人程度入ることはできるだろうな。


 だが、収容できることと生活できることは同義ではない。みんなが椅子に座っておとなしく一日中過ごす……なんてことは不可能だ。

 劣悪な環境であることは十分に分かった。早く助けにいかないと。


「この中に亞里亞がいるのか?」

「はい、亞里亞様はみんなを励まして……」

「…………そうか」


 亞里亞も……この世界で人々を救っているんだな。

 

「正面の入り口はバリケードで封鎖されています。非常用で出入り口へご案内いたします。こちらへついてきて……」

「待て」


 俺は進み始めた彼女を無理やり引き止めた。


 いる。

 異世界で魔物たちとの戦いを繰り広げてきた俺。その時培われた気配を読む勘のようなものが……全力で警報を発していた。

 

 建物の隙間から現れたのは……魔物だった。


「ひっ!」


 信者の女性がしりもちをついた。


 黒い犬……いや狼型の魔物が七……いや十匹。

 たしかファントムウルフと呼ばれる魔物だったはずだ。どう猛な性格で、近づいてくる人間を見境なく襲い……食べてしまう。

 俺たちが召喚することはない魔物だ。気性が荒く……召喚者である人間自身を傷つけてしまう可能性があるからな。

 だがそれゆえに魔族と密に連絡を取り合っている可能性は低い。俺たちが召喚する護衛とは違い、適当に人間を襲うために放たれた知性の低い魔物だ。

 

「あ……あの魔物たちに、仲間も殺されてしまいました。勇者様……どうか、我々に祝福を……」


 女性は両目を瞑って祈りはじめてしまった。もう俺のことは見ていないし、きっと言葉も聞いていないだろう。

 よほど怖かったんだろうな。


 でも、俺は安心した。


 この程度・・の魔物なら、どうにでもなる。


「グオオオオオオンッ!」


 けたたましい咆哮とともに、ファントムウルフが駆け出した。奴らに駆け引きのような上等な戦術は存在しない。本能のままに敵に牙を突き立てる……それだけの存在だ。


「〈白刃〉っ!」


 俺の放った白い刃――〈白刃〉は、そのままの勢いでファントムウルフたちを両断した。

 それで終了だ。


「終わったぞ、もう目を開けていい」

「え?」 


 この程度の魔物なら、何も考えずとも倒すことができる。


「す、すごい。大の大人が何人かかっても勝てなかったあの魔物を一瞬で……。やはり神は偉大だった……」

「…………」

 

 いや、俺は神じゃない。


「と、とりあえず、これで魔物は全部なんだよな? 亞里亞のところにすぐに案内してもらえるか?」

「はい」


 と、建物の中に入ろうとしていた俺だったが、すぐに止まることとなってしまった。


「匠様?」

「亞里亞……」


 どうやら、案内してもらう必要はなかったようだ。

 聖剣を使っての戦いは、近くの障害物を巻き込んで大きな音を立てていた。近くで戦いが起こっていることを察知し、建物の中にいる人が様子を見にきたようだ。

 まさか、そこに亞里亞がいるとは思ってなかったけだな。


「匠様ぁっ!」

 

 じわり、と目に浮かべた彼女が、そのまま俺に抱き着いてきた。


「匠様! 我が神! お会いしたかった! ずっとお会いしたかったのですわっ!」


 泣きじゃくる亞里亞。

 自然と、俺も涙が込み上げてきた。


 こんなにも会えなくなるとは思っていなかった。この世界に一泊、ただそれだけの小旅行だったはずなのに。魔物がいて、魔族がいて、気が付けば魔王までこの世界にいて。逃げることはできなかった。でも戦いの中で、ずっと離れ離れになった家族のことが気がかりでしかたなかった。


「ごめん。もっと俺が早く助けに来ていれば……こんなにつらい思いをさせることはなかったんだよな。許してくれ」

「いえ。ここには魔物に怯え苦しんでいる人々が多くいました。ここにわたくしが召喚されたことは、きっと彼らを救えという神の……つまりは匠様の導き」

「…………」

 

 俺はそんな導きなんてしてない。


「とにかく、会えてよかった。俺たちは今、ミカエラと咲を除いて全員が学園に集まってるんだ。亞里亞もすぐに来てくれ。それと……」


 亞里亞を連れて帰るのが目的ではあるのだが、ここで苦しんでいる多くの人たちを見捨てて逃げかえるわけにもいかないからな。


「ここの住人たちの様子はどうなんだ? 必要なら食料か何かを持ってこようか? 魔物は倒しておいたけど、もし危険を感じるなら俺たちの都市まで案内しても……」


 とはいえ、半年前に激しく襲われてしまった経験があるからな。あそこに人を集めていいのかどうか……少し不安ではあるんだが。


「そ、そうですわね。最近は力のある方が少なくなり、補給物資も滞っていました。すぐに水と食料を用意していただく必要がありますわ。お願いできますか?」

「もちろんだ。俺が聖剣を使って守るから、何人か荷物持ちと道案内に来てくれ。この後のことは作業が済んでから考えよう」


 こうして、俺は困窮する避難民の支援に駆り出された。



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