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クラスの女子全員+俺だけの異世界帰還  作者: うなぎ
異世界からの来訪者編

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亞里亞の行方


 教室で話し合いをしていた俺たちの前に、突如として現れた女性。

 彼女は俺のことを知っているようだが……。


「あなたが勇者下条匠様ですね」

「あ……ああ、そうだが?」


 名前まで知ってたのか。どうやら人違いということではないらしい。


 突然、女性は俺の目の前に座り込んだ。

 そして手で十字を切り……俺のことを仏像か何かのように拝み始めた。

 こ、この仕草は……。


「おお、我が神よ」

「…………」


 俺はげんなりした。

 普通の人間がこんなことをされたなら、彼女の精神状態を心配してしまうかもしれない。突然誰を拝んでるんだ? 幻でも見てるのか? と。

 しかし俺はこんなことをする人間たちをよく知っている。


 〈勇者教〉だ。

 〈勇者教〉とは、かつて異世界に存在した宗教であり、世界を創生した最高神が俺という教えである。

 意味が分からないこの宗教は、俺の妻である細田亞里亞が創始したものだった。


 まさか、この世界でも信者に会えるなんてな……。


「聖女亞里亞様のおっしゃる通りでした。神はこの地にあらせられたのです。おお神よ……私たち迷える子羊にどうか祝福を」

「亞里亞? 亞里亞がいるのか? どこまにいるんだ?」


 信者モードでは話を聞いてくれそうにないから、とりあえず正気に戻ってほしい。俺はそう思いながら彼女の肩を揺さぶった。

 俺の行動が功を奏してか、彼女ははっとして俺の質問に答え始めた。


「私は東の方……茨城のあたりからここまで車で来ました。亞里亞様もそちらに」

「魔族や魔物に襲われなかったのか?」

「迂回してここまで来たので……。何度か遭遇したこともありましたが、車を走らせて逃げ切りました。他にも仲間がいたのですが……魔物たちの犠牲に……」

「…………」


 やはり、平穏無事というわけにはいかなかったようだ。仲間が犠牲になるということは、かなり危険な状況だったに違いない。

 でもこの女の人に関しては、運がよかったとしか言いようがない。

 今は、この人の無事を喜んでおこう。


「私は亞里亞様の話を聞いてここまで来ました。ここに勇者様がいるかもしれない、と。我々を救ってくれる勇者の存在を」

「亞里亞が俺のことを話したのか?」


 亞里亞は〈勇者教〉の創始者で俺のことを神か何かと勘違いしている節があるから、きっとあることないことこの女性に吹き込んでいるに違いない。


「外のクレーターはあなた様の力ですよね。勇者様は天地を創造し……(中略)……そして六日目には人を作った。あの話はやはり真実だったのですね」


 敵の魔法なんだが……。

 

 まあ実際のところ、〈真解〉を使えば似たような規模の跡を残せるわけで……。しかもあのクレーターは俺が魔法の軌道をそらした結果ああなってしまったのだ。

 当たらずとも遠からずといったところか。天地も人も作ってはいないが……。


「不安におびえ苦しんでいる私の仲間たちを……どうかお救いください」


 亞里亞は戦闘タイプではないが、魔法が全く使えないわけではない。あの世界で生きている人間であれば、手から水や火を出す魔法程度は覚えているものだ。

 加えて俺たちは魔物召喚の魔法を覚えている。


 なるほど、確かに何も知らない一般人から見れば、亞里亞の行いは神の奇跡そのものだったのかもしれない。

 おぼれるものは藁をも掴む。常識的に信じられない神=俺説であるが、この異常な状況下なら仕方なく……。


 いややっぱりどう理屈づけてもこの設定が現代日本で通用するわけないわ。亞里亞は洗脳魔法か何かを使えるのか? いや使えないよな?


 ……とはいえこんな与太話を信じてしまうほどに苦しんでいる人々がいるのは事実。俺に救えるというなら、喜んで救ってみせる。


「詳しく状況が聞きたいんだが、亞里亞たちはどうなってるんだ? 誰かに捕まっている状態なのか?」

「捕まっているわけではありませんが……。魔物のせいで身動きが取れず、苦しい思いをしています。外へ食料を集めに行くのも命懸けです。このままではやがて困窮し……餓死してしまう者たちが出てしまうかもしれません」


 魔物……か。

 俺たちであれば聖剣・魔剣や魔法を使って軽くあしらうことができる。しかし亞里亞は魔法や剣にうとい一般人。とてもではないが魔物を追い払えるだけの力はない。


 亞里亞を迎えにいかなければならない。

 魔物を倒すこと自体は、俺以外にもできる。しかし道中で危険な魔族に出会わないとも限らない。

 ここは……。


「分かった、すぐにそちらに向かう」


 俺が出ることにしよう。

 俺は改めてみんなの方を見た。

 

「俺は亞里亞を迎えに行ってくる。道路さえうまくつながっていれば一日で帰れると思うから、それまでよろしく頼む」


 急な申し出だとは思うが、誰も反対はしなかった。

 当然だ。彼女たちにとっても……亞里亞は家族なのだから。


「なるべく外に出ないように、おとなしくしていることにするよ」

「子供たちは任せて」

「ありがとうみんな。必ず亞里亞たちを連れて帰ってくるからな」


 こうして、俺は再び外に出ることとなった。

 やっと見つけた仲間の足取り。

 亞里亞……待っててくれ。困っている人たちと一緒に、必ずお前を救って見せる。


 〈勇者教〉信者の女性の先導に従い、俺は車で東へと向かった。


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