異世界への救援要請
久しぶりにクラスメイト四人と再会した俺たち。
不本意に異世界へとやってきた彼女たちとの再会に、俺はこれまで起こった出来事を説明した。
そしてすべてを語り終えた後、つぐみが咲に提案したのだ。
彼女だけ元の世界に戻っておくべきじゃないか、と。
「これまで、この件はずっと保留にしてきた」
つぐみが、続きを話し始める。
「腕輪は六個だからな。もし帰りたいという人間が多ければ、ケンカになってしまうかもしれない。そうでなくても残された人間と戻った人間との間で不満はたまるだろう。匠と離れ離れになるか、一緒に帰るのかという問題もある。魔族の件やここにいないクラスメイトたちの件で悩んでいたこともあり、この問題はずっと保留になっていた。しかし今、ここにいないクラスメイトは二人だけ。そろそろ、向こうに一人だけ戻しても問題ないはずだ」
俺たちは、異世界からこちらの世界にやってきた。
両親に手紙を出すため、という軽い気持ちだった。そして当初の予定では、用事が済んだらすぐに異世界へと戻るつもりだった。
帰還の腕輪、という極めて珍しいマジックアイテム。これを使えば、俺たちはこの世界から異世界に戻ることができる。
ただ、俺を含めて六人でこの世界を訪問する予定だったから、腕輪は六個しか持ってきていない。クラスメイト全員が異世界へと戻るのにはとても足りないのだった。
「私たちの状態を、異世界のみんなに伝えてほしい。そしてできることなら援軍か、強力な武器、それに人数分の帰還の腕輪をここに持ってきてほしい」
援軍か。
確かに、つぐみの言う通りだ。
俺は各地を転戦し、多大な戦果を挙げてきた。しかし戦った相手の多くが魔物、そして低級・中級魔族。上級魔族もごく一部であるが戦ったものの、いわゆる幹部クラスの魔族三巨頭や魔王とはここで会って以来一度も戦ってない。
俺では……勝てるかどうか分からない。いや、負けてしまう可能性が高いといってもいいだろう。
援軍は……確かに必要なのだ。
正直なところ、向こうの世界から援軍が来ないものかと期待したこともあった。仲間になった天使や魔族の力を使えば、戦況を有利にできるかもしれないと思ったのだ。
しかし頼んでいないのにそんな都合のいいものがくるわけがなかった。
向こうの人たちは、魔王がこの世界に転生していることを知らないのだ。そもそも当初異世界を訪問する予定だった俺たちを除いては、ただ単に行方不明になっただけだと思われているかもしれない。向こうの世界で必死に捜索されている可能性がある。
もっとも、これだけ時間がたてば捜索は打ち切って死んだものとされているかもしれないが……。
それに魔王が言っていたな。異世界転移を異世界人以外が行うのは難しいと。魔王はそのために俺の娘――すなわち異世界人の血が流れる肉体を使った。ということはつまり、向こうの人間がそのままこっちにやってくるのは難しいということ。
この世界の住人である咲が向こうに向かえば、援軍はなくとも強力な武器を持って戻ってくることができるかもしれない。
「こんな大役、押し付けてしまって申し訳なく思う。しかし私は……」
「それは確かに大役ね。でもわたくしが一番適任。それを理解できないほど愚か者ではないわ。向こうの世界とこの世界、二つのためにその役目……果たして見せましょう」
つぐみも、そして咲も頭のいい方だ。何が得で何が損かよく理解している。余計な言い争いが生まれないことは本当に良かったと思っている。
しかしそれでも、心の中では不満に思っているかもしれないが……。
「せっかく下条君に会えてうれしかったけど、元の世界に残した陛下も気がかりよね。わたくしがいなくなって向こうではもう何年になってるのかしら? 五年、十年? 考えたくはないわね」
「…………」
異世界とこの世界は、時間の流れが違う。
かつて異世界にやってきた俺の友人、園田優がそんなことを言っていた。そして俺たちがここに戻ってきた時期も異世界で過ごしてきた時間とずれがある。
こちらの世界では時間が短く、異世界での時間が長いのだ。つまりここで半年過ごしたら、異世界では五~十年経過していてもおかしくない。
「もっと早く、俺が魔族たちを倒せていたらこんなことにはならなかったよな。許してほしい」
「ふふふ、謝るのは止してよ。わたしくには陛下もいるけど、あなたの妻でもあるのよ。お腹の子供の次代の王。実の親の武勇伝が増えてうれしく思うわ」
咲のお腹の中には俺たちの子供がいる。
俺は生まれる前の子供に王位だとか次代だとかそんな未来を決めさせたくはないのだが、咲の中ではもうこの話は確定路線らしい。
ちゃんと子供が成長したら確認するんだぞ? 絶対だぞ?
「すぐにあっちの世界に戻る……つもりじゃないよな」
「そうね、せっかくみんなに会えて、すぐさよならなんて少し寂しいわ。旅立つのは明日の朝ってことでいいかしら? 時間の流れが違うことを考えるなら、一日でも早く帰る方がいいのでしょうけど……それぐらいのわがまま、許してもらえるわよね」
「当たり前だろ。今日はこれから送迎会をしよう」
こうして、俺たちは送迎会を開くことになった。
再開した仲間と、また別れる。
悲しいことだが、それで一歩も前に進めるのなら……。




