四人のクラスメイト
悪魔王イグナートの強襲を経て、魔王と再会し、そしてクルーズ軍曹たちから別れた俺。
あれから半年がたった。
俺たちは転戦した。
元の町から逃げてしまったわけだが、魔族がこの地を蹂躙しているこの状況を無視できるわけがない。各地で暴れる魔物や、時にはそれを召喚した魔族を倒す。少しだがこの地域の平和に貢献できたと思う。
幸か不幸か、魔王や魔族三巨頭のような強敵に当たることはなかった。仮に奴らがこちらを探しまわっていたとしても、これだけ関東各地を走り回っていた俺たちだから、居場所を特定されないのは当然だと思う。
多くの人々を救った。
手遅れの場合もあったが、逃げ遅れた人をうまく救出できたこともあった。そのたびに感謝されて、決して嫌な気分じゃなかった。
俺は強い。そして雫もりんごも戦線に復帰した。小鳥も帰ってきて、さらに戦略の幅が広がった。
そして、半年という一区切りの時、俺は始まりの地に戻ったのだった。
「久しぶり、だな」
俺は故郷であるこの地に戻っていた。
究極光滅魔法による破壊の跡がくっきりと残っているその町並みは、俺が立ち去ったときそのままだった。
「あの時は……大変だったよね」
乃蒼がつぶやく。
多くの人々が傷ついた……巨大な魔法。以前仲間だったアメリカ軍人の死体が……今も頭を離れない。
聖剣となって彼らを救おうとした乃蒼だ。あの日のことを思い出しているのかもしれない。
「とりあえず、校舎に向かうか。誰か来てるかもしれないよな」
あの日、ここから立ち去って以来、俺は離れ離れになっているクラスメイトたちとまだ再開していない。
亞里亞。
咲。
月夜。
美織。
ひより。
ミカエラ。
魔族の暴れるこの日本で、彼女たちは果たして無事でいるのだろうか? 孤立無援で戦っていた俺たちにとって、仲間の安否は唯一気がかりなことだった。
ゆっくりと歩く俺たちの前に、学園の校舎が現れた。
変りない、記憶にある通りの建物だった。
どうやら魔物に襲われることもなかったらしい。魔王や他の魔族たちに見つかるから、とここを立ち去った俺の判断は間違っていたのだろうか?
ん?
あ、あれは……。
「咲っ!」
そこには、俺のクラスメイトである咲が立っていた。それだけじゃない、彼女の後ろから現れた三人もまた……
阿澄咲。
日隠月夜。
玉瀬美織。
玉瀬ひより。
間違いない。異世界では遠い異国の地……マルクト王国に滞在していたはずの仲間たちだ。
「三か月、ここで暮らしていたのよ。ここにいると思ったのだけれど、わたくしの予想が外れちゃったわね」
「……そうだったのか、入れ違いになってすまなかったな」
半年前、ここに住んでいた俺たちだ。もし悪魔王イグナートの攻撃がなかったら、きっと目論見通り再開できたに違いない。
ここに来るかもしれない咲たちのために手紙を残しておこうかとも思ったが、魔族に余計な情報を与えてしまってはまずい。完全に何も残さず立ち去ってきたのだった。
「でも、こうして会えてよかったわ。いろいろと聞きたいこともあるのよ」
「俺たちの方もいろいろあったんだ。ここにいたときも本当に大変で……。そういえばさ、ここに魔物や魔族がやってこなかったのか?」
「来なかったわねぇ。本当に無人、って感じで。近くの建物が吹き飛ばされてるみたいだから、廃墟だと思われたんじゃないのかしら?」
「…………」
俺が別の場所で魔族や魔物を倒していけば、奴らの目はそちらに向く。
どうやら考えていた通りになったらしい。もし、ここに俺の知り合いが来ても安全に過ごせるように、と思っての行動だ。
まあ、多少の魔物程度だったらどうにかなったかもしれないな。
美織は聖剣、ひよりは魔法を使える。そして月夜は暗殺者として働いていたこともあり、人間離れした体術を使うことができる。三人とも俺たち異世界帰還組の中では、戦力として数えてもいいレベルの人間だ。
咲は非戦闘員だが、それを補うだけの力がある。
「美織」
「え?」
俺は美織に聖剣を渡した。
千本に近い数を誇る……聖剣のうちの一本だ。
「俺の聖剣を一本預けておくよ。何かあったときのために取っておいてくれ」
「あ、ありがとう」
さて、と。
「とりあえず、だ。まずこの世界に戻ってから俺たちが経験した出来事を話した方がいいよな? いろいろあったんだが、そうだな……まず、俺が教室で目を覚まして……」
俺は四人にこれまでの経緯を話した。
目覚めてすぐに雫たちに会ったこと。
転生した魔族たちのこと。
アメリカ軍のこと。
イグナートの魔法と魔王の襲来について。
四人とも、さすがにショックが大きかったらしい。固まってしまっている。
「わたくしのいない間に、そんなことが」
「……驚愕」
「関東が封鎖されているのにもびっくりしましたが、まさか……魔王たちがここにいるなんて」
「あたしたち……このままずっと……帰れないのかな」
みんな、すまない。
特に咲に関しては申し訳なく思っている。彼女は俺なんかと違って、異世界の国家にかかわる王妃だった。戦争が終わった後の勇者である俺や、副大統領や大臣が配下にいるつぐみとは違う……代えの効かない存在だ。
俺が軽い気持ちでこの世界に戻ってしまったばかりに、彼女に多大な迷惑を……。
「ここに来て以来、ずっと考えていたことがあったんだ」
と、悩み続けている俺を置いて、つぐみが話を始めた。
「初めに断っておくが、決して悪気があってこんな話をするわけではない。冷静に現状を分析した結果、それが一番だと考えているだけだ」
つぐみは俺の方ではなく、再会した四人に向かって声をかけている。
悪気がどうとか、一体何の話なんだろうか?
「咲は……先に元の世界に戻っておくべきなんじゃないか?」
「え……?」
元の世界に、帰る?
考えてもいなかったそのセリフに、俺はただ驚くばかりだった。
ここからが『異世界からの来訪者編』になります。




