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クラスの女子全員+俺だけの異世界帰還  作者: うなぎ
神雷編

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魔王の思惑


 俺は、異世界で子供を失った。

 当時、乃蒼は俺との間にできた子供をその身に宿していた。そのまま平和に時を過ごせば、異世界で出産して……俺たちの最初の子供になるはずだった。

 しかしここで、最大の悲劇が訪れた。

 元クラスメイトの御影が……乃蒼を攻撃したのだ。

 腹部を狙うように攻撃をしかけてきた奴のせいで、乃蒼は半分死にかけた状態になってしまった。母体がそうならお腹の子に関してはわざわざ言うまでもない。

 誰がどう見ても……お腹の子は即死。

 

 その話は……そこで終わりのはずだった。

 

「なんで、お前が俺たちの娘の体を……。あの時確かに、御影は乃蒼のお腹を切り裂いて……」

「そのようなことはもうどうでもよいであろう? 勇者よ。今、ここに我が立っているこの現実を……理解するべきだ」

「…………」

 

 魔王降臨。

 魔王は異世界において一番強い魔族だと聞いている。さっき強大な魔法を仕掛けてきたイグナートよりも、そしてジギスヴァルトの主であるゼオンよりも……。

 

 だが、奴は魔族の王。奴を倒せばこの戦いが終わるかもしれない。


「くっ、ヴァイス……」


 俺は即座に聖剣ヴァイスを構えようとして……気が付いた。


 し、しまった。

 さっき飛行機からの魔法を防ぐために、〈真解〉を使用してしまった。あれは聖剣・魔剣の奥義であると同時に、剣自体を傷つけてしまう技だ。

 今のヴァイスは折れてこそいないものの、刀身がボロボロになってしまっている。白い刃を生み出す聖剣としての力が振るえない状態だった。


「ゼオンの剣で我に勝とうとは……無謀だな」

「がはっ……」


 一瞬の隙が命取りだった。魔王はその幼い肉体からは考えられないようなすさまじい速度で近づき、こちらの脇腹を蹴り上げた。速度と同様に人知を超えたその力に……、俺はなすすべもなく地面へと崩れ落ちてしまった。 

 体が変わっても力は変わらないのか。魔力で強化されているのかもしれない。


 魔王は倒れた俺の体に馬乗りした。

 体重は大したことないのだが、今の俺は自力で立ち上がることすら不可能なほどにダメージを受けている。


「くそ……放せ。何のつもりだ……」 

「ふふふ、我とお前の間で子を作る、というのはどうだ?」


 一瞬、俺は耳を疑ってしまった。

 こいつは何を言ってるんだ?


「お前と我の間に生まれ子。男児であればお前に返し、女児であれば御影新にくれてやる。茶番としては悪くない」


 身の毛もよだつとは、まさにこの事だ。魂は魔王といってもその体は娘のそれなんだ。近親相姦になってしまう。

 それに、御影に与える? 

 あいつは乃蒼のことが好きだった。そして性格もひねくれていた。吐き気を催す想像ではあるが、乃蒼の孫にあたるその女の子に、特別な関心を示さないとも限らない。


 絶対に許されない事態。

 だけど俺はこいつに抗うことができない。


「や……やめ……ろ」


 魔王は俺の下半身委手を伸ばしてきた。俺は必死に抗おうとしたが、体が思うように動かない。

 最悪の結果を予想した……その瞬間。


 黒い風が、一瞬にして俺と魔王レオンハルトを引き離した。

 この力は……まさか。


「こ、小鳥……」


 振り向くと、そこには赤毛の女の子が立っていた。

 俺の妻であり魔剣使いでもある……小鳥だった。


「匠君、やっと会えた」

「小鳥……お前も……来てたのか?」

「あの……光の柱が見えて。それで急いでここまできたの」


 光の柱? あのヴァイスの〈真解〉か。

 魔族ジギスヴァルトを破ったあの一撃は、結果として悪魔王イグナートの攻撃を招いてしまった。ただ奴が〈真解〉の光を見つけたのと同様に、俺の仲間もまた光の柱を発見してここまできてくれたということだ。


 助太刀はとてもうれしい。

 しかしこの魔王は、人間が一人二人増えたところでどうにかできる相手ではない。犠牲が増えるだけだ。


「逃げてくれ、小鳥……お前だけでも」

「匠君を見捨てるなんて、そんなこと……できないよ。たとえ命に代えても、私が匠君を……守る」

 

 無力な俺の前で、小鳥が殺されてしまう。そんな最悪の未来を想像して……いたのだが。


「……まあ、待て。死に急ぐな」


 と、魔王は両手を上げて俺たちに話しかけてきた。そこには全く敵意が存在しない。

 

「ど、どういうつもりだ?」


 まさか、戦う気がないのか?

 さっきの子供がどうとか冗談みたいな話はさておき、魔王は俺に殺意らしきものを示したことはない。これまでの好戦的な魔族たちとはずいぶんと違う反応だ。


「忠義に従い異世界で命を散らした我が配下のために、お前の命をここで奪うのは止しておこうというのだ」

「…………配下のため? ゼオンやイグナートのためってことか?」

「あ奴らはお前が敵であるから。しかし我がお前を憎む理由など、ないであろう?」

「…………」


 俺たちは多くの魔族を殺した。


 魔族三巨頭の一体、刀神ゼオンは直接この手にかけた。悪魔王イグナートや大妖狐マリエルとは刃を交えて戦った。他の多くの魔族たちも、俺やその仲間たちに深いかかわりがある軍によって倒された。


 しかし魔王だけは……俺とは全く関係ないところで死んでいた。奴は俺の友人である優によって殺されたんだ。それすらも自殺に近い形ですらある。

 唯一といってもいいかもしれない。魔王は他の魔族たちとは違い、直接俺を恨む理由はないのだ。むしろ計画通り動いてくれたことに感謝しているのかもしれない。 


「戦え勇者よ。この世界を救いたくば、我が配下を見事打ち取って見せるのだ」


 そう言い残して、魔王は立ち去った。


 魔族の大軍。

 神雷のジギスヴァルト。

 悪魔王イグナート。

 そして最後は……魔王。


 波乱に満ちた地球での物語。

 いつか、この世界の訪れる日は来るのだろうか? 


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