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クラスの女子全員+俺だけの異世界帰還  作者: うなぎ
神雷編

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真解の使用者


 〈真解〉。


 それは聖剣・魔剣の最終奥義。剣と使用者の心、二つが重なり始めて使える至高の技。

 聖剣ヴァイスの特性、白い光がまるで巨大な建物のように白い柱を作り上げた。力の奔流があふれ出している感覚だ。

 凝視するだけで目が焼けてしまうような、そんな激しい閃光。

 逃げられるような攻撃ではない。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


 さすがの上級魔族も、この攻撃をくらって無事で済むはずがない。ジギスヴァルトは悲鳴を上げながら、光の中でもがき苦しんでいる。


「バカな……ゼオン様以外に、その技が……使えるなんて」


 魔族は……人間と比べ物にならないほどに体が頑丈にできている。だからトラックにはねられても刀で切られても死なないし、今回のように超レベルの必殺技を使って生きていることもそう珍しくはない。

 だが、それでもダメージというものは完全に消し去れないものだ。

 ジギスヴァルトは俺の〈真解〉をまともにくらった。体の半分が焼け焦げて、今は地面に倒れこんでいる。

 致命傷に近い一撃だ。


「ふっ、俺もまた……凡庸な魔族の一体であったというわけか」


 人間なら即死に近い怪我を負っているはずのジギスヴァルトは、虫の息ではあるが言葉を発した。


「だが……俺を倒していい気になるなよ。魔王陛下、そしてゼオン様は間違いなく貴様より上だ。なぜあの方が敗れたのか……いまだに理解できない」

「そんなことはお前に言われなくても分かっている」

「そう……か……」


 それっきり、ジギスヴァルトは両目を閉じた。


 倒した。


 町の中に侵入されなくてよかった。奴の力なら一般人を殺すことはたやすかったはずだ。もし市街戦となったら、確実に被害が出ていただろう。

 

「ヴァイス、大丈夫か?」

〝………………〟

「ヴァイス?」

〝う……うう……〟


 見ると、ヴァイスの刀身にひびが入っていた。

 

 〈真解〉は聖剣・魔剣の奥義。彼らの持っている力を完全に解放し放つ必殺技だ。

 だがこの技にはリスクがある。だからこそ俺はこれまで、この技を使うことなく封印していたのだ。


 〈真解〉は聖剣・魔剣を傷つける。時として壊れてしまうこともある。そうなってしまっては、剣の中に宿る人間は死んでしまう。まさに諸刃の剣といっていい技なのだ。


 だが壊れていなければ問題ない。乃蒼のヒーリングはこういった剣にまで効くからな。

 直してやらないと。


「耐えろよヴァイス、今、直してやるからな」


 俺は学園に向かって駆け出した。


 ***********


 下条匠は〈真解〉を放った。

 聖剣の奥義とされるその技は、すさまじい力を放出し上級魔族を倒した。その力は巨大な白い柱となって大気を吹き飛ばし、富士山に匹敵するほどの高さを誇っていた。


 多くの人々が、その光を見た。

 何かの兵器か? 魔族の力か? 戸惑いの声が広がる中……ごく一部ではあるが、冷静に事態を見極めた者たちもいた。


「あの光は……」


 その魔族は、西の空に光を見た。

 夜中、というわけではなく、太陽の降り注ぐ朝だ。にも拘わらず、白い閃光が目に突き刺さったのだ。

 ここは廃墟と化した都心、巨大なオフィスビルの屋上だった。住処のない魔王以下複数の魔族たちが、仮の拠点としてここを支配している。

 アパートやマンションのような、人が住む設計をされた建物ではない。しかし魔族たちにとって、人間の生活様式などあってないようなもの。背の高い、目立つ建物であればどれでもよかったというのが答えだ。


「ふっ」

 

 はるか遠くにそびえたつ白い柱を見て、そのサムライ風の魔族――刀神ゼオンは笑った。


「まずは魔王陛下にご報告申し上げねばな」


 振り返り、魔王の滞在する部屋に向かおうとした。

 しかしそれと同時に、出入り口の扉が開かれた。

 もう一体の魔族が、屋上にやってきたのだった。


「ゼオンよ、このようなところでなんじゃ? 太陽の光が恋しくなったか?」


 この老執事風の魔族は、悪魔王イグナート。

 かつて異世界ではゼオンとともに魔王配下の三巨頭としておそれられていた彼もまた、この地に滞在していた。


「ほほう、あの光は……」


 ゼオンが見ていた白い柱を、イグナートも見つけたようだ。

 彼クラスの魔族であれば、あれが聖剣・魔剣によって生み出されたものだとすぐにわかるだろう。しかしそれ以上のことを……ゼオンは知っている。


「巨大な柱。あれはまぎれもなくそれがしが生み出した聖剣の放つ光……〈真解〉。しかもあの白い光は……おそらく……」


 ゼオンは不的に笑った。


「元の世界でそれがしを倒した勇者――下条匠。あの男は白い光を発する聖剣をもっていた。あまねく聖剣・魔剣を生み出したこのゼオンが断言しよう。あの光は勇者下条匠が放ったものだ」

「かかかっ、これは一大事じゃて」


 イグナートは笑った。

 かつて異世界で自分たちを殺した男――下条匠。あの世界で死ぬことが魔王の計画の一部であったとはいえ、浅からぬ因縁を持つ人間である。


「あの世界で平和に暮らしておればよかったものの、なんと不運な英雄じゃ。此度の戦いは……手を抜けぬぞ」

「再戦の機会を得られようとは……これもすべては魔王陛下の采配か。このゼオン、同じ手で負けることは二度とない」

「マリエルにも伝えぬとのぅ」


 下条匠の知らぬその地で、魔王の配下たちは闘志を燃やし始めた。

 魔物の大軍、上級魔族ジギスヴァルト、そして魔王配下の三巨頭。

 争いが争いを呼び、避けられぬ因縁の対決が……始まろうとしていた。


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