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クラスの女子全員+俺だけの異世界帰還  作者: うなぎ
神雷編

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35/120

真解

 都市郊外、山間の道路にて。

 すでに璃々とクルーズ軍曹が退避したこの地で、俺とこの魔族――神雷のジギスヴァルトは戦いを始めていた。


〈神雷〉。


 名前からも分かるように、この魔法は雷系統の属性だ。

 ジギスヴァルトの体を覆った黒い雲は、雷光を発しながらその場に留まっている。この雷の効果範囲はとても広く、少し離れた俺のところまで届いてしまいそうなほどだ。

 次に奴の速度が大幅に向上しているのが気になる。雷の威力を利用しているのかは知らないが、目で近くできるレベルを超えていた。


 素早く動き、攻撃を加え、離脱する。


 攻撃と回避に優れた魔法、それが〈神雷〉の基本形というところだろうか。


「くくくっ、どうした? このままでは貴様を殺してしまいかねないぞ?」


 ジギスヴァルトは攻勢を強めているように見えるものの、俺は全くの無傷。放たれる電撃はおびただしい数に上っているが、すべてが俺の前で焼失している。俺が手を出したわけではなく、自分の意志でこの距離を保っているらしい。

 要するに手加減しているのだ。 


 俺は今までの経験からなんとなくそういうのを知っていた。こういう戦いだとか最強だとかにこだわっていそうな敵は、自分が納得するまで決して相手にとどめを刺したりはしないのだ。


 だがその慢心が……時に隙を作る。


「解放、聖剣ヴンター」


 俺は聖剣ヴンターを解放し、ジギスヴァルトに切りかかった。確率を操るこの聖剣は、奇跡を生み出す魔法の剣。俺にぶつかるはずだった〈神雷〉の雷光は、まるで見えない避雷針に引き寄せられているかのように遠ざかっていく。


「その剣は……」


 俺の斬撃を躱したジギスヴァルトが、驚きの表情のままこの剣を見ていた。


「ゼオン様の……」

「俺はお前の上司、刀神ゼオンの〈千刃翼〉を継承した。この剣もそのうちの一つだ。知らなかったのか?」

「……あのお方が負けたというのが信じられなかった。話には聞いていたが……そうか、貴様があの勇者下条匠だったというわけか。俺としたことが……気が付かなかった」


 闘技場で会った俺とゼオンを倒していた俺。二人が同一人物であることに気が付いていなかったのかもしれない。


 魔王配下の三巨頭は、主からの命令によって異世界で死ぬことを強要された。

 それはこちらの世界に転生するために必要なステップであったのだが、強すぎる奴らを倒せる者は魔王を除いていなかった。その魔王が先に死んでしまったのだから、もう自殺以外で命を絶つ方法がない状態だったのだ。

 現に大妖狐マリエル、悪魔王イグナートは俺たちが倒したが、戦略・戦術のミスが目立つ自殺同然の戦いだった。

 

 だがこいつの上司、刀神ゼオンは違った。

 奴はどうやら俺に殺人を依頼するつもりはなかったらしい。手加減して死んでいった他の三巨頭たちと違い、奴だけは全力で俺に向かって戦いを挑んできた。

 死闘、と呼ぶにふさわしい戦いだったと思う。だが俺はその戦いを制し、異世界で生き残ることができたのだ。


 俺だけの力だったとは思っていない。多くの兵士たちが働いてくれた。つぐみや咲は戦争の段取りをして、一紗や雫だって傷つきながらも戦ってくれた。みんなの勝利。

 でも結果として奴の剣を手に入れたのは俺だ。


「俺はゼオン様を倒した貴様を倒し、最強を証明してみせる」

「昔お前みたいなことを言って俺に戦いを挑んできた天使がいたぞ。そいつはもう死んだけどな」

「ならばなおのこと俺の強さが証明されるというものっ!」


 ジギスヴァルトが周囲を覆っていた雨雲が動き出す。彼の左手に凝縮したそれは、まるで武器のような形状に変化していく。

 

 あれは……弓か?


「〈神雷弓〉――穿っ!」

「うおっ!」


 雨雲色の弓から放たれた矢は、先ほどまで放たれていた雷光と同種。しかし雲が凝縮されたように、雷光の力もまた凝縮されているらしい。

 強い。ヴンターで跳ね返してはいるが……衝撃の桁が違う。


「〈神雷刀〉――斬っ」


 続いては刀の形状となり、俺に切りかかってくる。物理攻撃に近い形ではあるが、先ほどまでと威力が段違いだ。


「〈神雷斧〉――撃っ! 〈神雷槍〉――突っ! (神雷鎌)――狩っ! 〈神雷鞭〉――打っ!」


 怒涛の勢いで武器を変化させるジギスヴァルトに、俺は気が付けば押され気味となっていた。

 奇跡の聖剣ヴンターはあらゆる攻撃の確率を操作し、跳ね返す。しかし高速で武器の消失&変形を繰り返す奴の攻撃に、俺は反撃の機会を見い出せないでいた。

 このままの状態が続けば、いくら聖剣適性の高い俺といえども……力尽きる。そうなったらもうこいつを止めるものがいない。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 ジフィスヴァルトの咆哮が響く。


 こいつはまぎれもなく上級の魔族だ。

 かつて自殺に近い戦闘を強要された魔族たちと違い、今、この場において全力で俺に挑んできている。しかもミゲルなんかとは違う。重火器に頼らなくても、十分にそれ以上の出力がある……そんな敵なのだ。


「〈白王刃〉っ!」


 隙を見て攻撃を仕掛けてみても、奴は自ら生み出した武器を縦横無尽に振り回し……俺の攻撃を吹っ飛ばしてしまった。

 生半可な攻撃じゃ、奴を倒せない。 

 ならば――


「ヴァイス、頼めるか?」

〝生き恥を晒していた弟に……とどめを刺してくれた主の願い。あなたと私の心は一つです〟

「頼む」


 俺も……切り札を出す。


「――〈真解〉」


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