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クラスの女子全員+俺だけの異世界帰還  作者: うなぎ
神雷編

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34/120

神雷


 都市郊外、道路周辺にて。


 魔物の死体を片づけていた俺たちのもとに現れたのは、一体の魔族だった。


 面識は……ない。

 異世界で多くの魔族と戦ってきた俺だが、この魔族には見覚えがなかった。だがこれは、さほど不自然な状況じゃない。


 魔族との戦いは国家クラスの戦争だった。一人一人丁寧に名乗りを上げて戦うような試合ではなく、総力戦の殺し合いだ。俺も、クラスメイトも、そして国の兵士たちだって何体かの魔族を殺している。中には俺が直接出会ってない魔族だっているはずだ。

 俺たちが殺した魔族は、魔王によってこの異世界に転生を果たしている。そして自慢するつもりはないが、俺は勇者だ英雄だと言われて異世界ではかなり活躍していたと思う。対魔族軍のリーダーといっても差し支えなかった。たとえこの魔族が俺の顔を知らなかったとしても、向こうの世界で死ぬ原因を作ってしまった俺のことを快く思っているはずがない。

 

 今、異世界に残っている善良な魔族たちみたいに、友好を結ぶことはできないのだ。


「……貴様、見たことのある顔だな」

「……俺のことを、知っているのか?」


 意外だった。

 俺はこいつのことを知らなかったが、こいつは俺のことを知っているらしい。もっとも、口ぶりから察するにそれほど強い印象を持たれているわけではなさそうだが。


「あの時、闘技場で宰相殿と戦っていた人間か。久しいな、なにゆえにこの地にやってきたのかは知らないが、俺の魔物を倒すほどの実力があるとは……」

「あの時の……」


 闘技場……か。


 かつて異世界で一紗を助けようとして、そんな場所に行ったこともあった。あの時は迷宮宰相ゲオルクと死闘を繰り広げ、なんことか勝つことができたのだが……。


 闘技場、というだけあって、あそこには数多くの観客魔族たちがいた。俺がいちいち顔を覚えられないほどにだ。おそらくあの中にこいつがいたのだろう。


 まあ、今となってはどうでもいい話だ。


 俺はまだ残っていた魔物たちの死体を指差した。


「お前があの魔物を差し向けたのか?」

「いかにも、俺が西を襲うように命令した」

「何のために?」

「……貴様のような強者が現れないかと思ってな。あまり期待はしていなかったのだが……思いのほか大物が釣れて俺も驚いている」


 こいつも多くの魔族の例にもれず、戦いを好むタイプらしい。


「戦える人間だけじゃないんだぞ? けがをしてた人たちだっているんだ。強い奴と戦いたいなら、大声でそう言えばいい。頼むから一般人を巻き込まないでくっ!」

「弱き者の叫びが、強き者を招く。貴様は誰も守らず500体の魔物を倒そうと思えたか? 一人ならば逃げていたのではないか?」

「…………」


 否定しきれない。

 ここには俺の故郷で、仲間たちや無関係な人もいる。おまけに今はまだここにいないクラスメイトたちが戻ってくるかもしれない。そう思ったからこそ、町を守るために一生懸命戦った。

 もし魔物がここではない場所で突然襲い掛かってきたら? 逃げるという選択肢も大いにありえたはずだ。


「だ、だからっていきなり殺すことはないだっ! お前はさ、人が死んでかわいそうだとか悪いことをしたとか思わないのか? 俺の知っている魔族は、命令でも人を殺すことをためらっていた。あんたには少しでもいいからそういう心はないのか?」

「ふっ、ブリューニングのことか?」

「……っ!」


 まさにこの男の言う通り、俺はブリューニングという魔族のことを考えていた。

 よくよく考えれば、闘技場の件で俺を導いていたのはブリューニングだった。その縁……というのは少し言い過ぎなのかもしれないが、彼は俺たちの仲間になった。

 この魔族も、そのあたりの人間関係を知っていたのかもしれない。


「奴は優しすぎた。しかしそれは主の命に背く理由にはならない。今、この異世界に立っていない魔族は……裏切り者だ。死を恐れる臆病な軟弱者」

「……そんなことはない。あんたたちは何も考えず魔王の命令に従った……ただのバカだ」

「真の武に情は必要ない。ただ己を鍛え、研ぎ澄ました刃のようになれ。それが我が主、刀神ゼオン様の教え。些末なことに心を揺らす愚か者と、俺の力を一緒にするなよ」

「…………」


 説得できるとは思っていなかったが、ここまで話が通用しないとは思っていなかった。


 どうやら無駄な話はこれで終わりらしい。


 敵魔族は両拳を叩き、気合を入れているように見える。空気を揺らすその覇気は、テレビで見るどんな格闘家よりも強く……そして禍々しかった。

 対する俺は聖剣ヴァイスを構えた。こいつが一体どんな攻撃をしてくるかは知らないが……この気迫だ。かなり苦戦する戦いになるだろうな……。


「第十階層迷宮公爵、神雷のジギスヴァルト――参る」


 そう宣言した魔族――ジギスヴァルトの姿がすぐに消失した。


 雨雲だ。


 雷光を孕んだ黒い雨雲が、まるで鎧か何かのようにジギスヴァルトの周囲を覆っている。下手に近づくのは危険だ。


「――〈白刃〉」 


 まずは様子見で〈白刃〉による遠距離からの攻撃。

 しかしすぐに雷光に弾かれた。

 やはりこの程度の力では通用しないか。せめて雨雲だけでも引きはがせるかと思ったんだけどな。


「来い」


 俺は即座に〈籠ノ鞘〉を起動させた。

 こいつで異空間に収納する千近くある俺の剣を取り出すことができる。


「――〈神雷〉」


 だが、敵が魔法を放つその速度は……まさしく雷光。俺が剣を出すよりも速い。油断していたわけではないが、やはり上級魔族というのは普通の敵とは格段に異なる。

 

 奴の放った魔法――〈神雷〉。

 その威力は……。


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