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クラスの女子全員+俺だけの異世界帰還  作者: うなぎ
捜索編

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32/120

第十階層迷宮公爵、神雷のジギスヴァルト

 

 山梨県にて。

 

 異世界帰還を果たした匠の妻の一人――草壁小鳥は何とかして近くの村へとたどり着いた。森の中で魔物と戦い、時には魔法で生み出した水を飲み獣の肉を食べ……散々な旅路だった。


 たどり着いたのは、田舎の村だった。

 山や森が険しければ、魔族も魔物も侵入しにくい。人里離れた田舎というのは、魔物にとっても娯楽の少ないところらしい。ここは魔物が全くいないように見える。


 しかしテレビもインターネットも発達したこのご時世、さすがに田舎だから何も知らないというわけがない。昼間なのに人が見当たらないのは、おそらく避難した結果だろう。


(どうしようかなぁ……)


 無断で無人の民家に侵入しようか? と小鳥が軽く犯罪になるかもしれない行動について熟考していた……ちょうどその時。


「……ん、あんた、どこから来たんだ?」


 背後から声が聞こえた。

 振り返ると、麦わら帽子をかぶった老人がいた。


「あなたは?」

「ここのもんだ。わしは畑の世話があるからな。若いもんと違って、魔族だなんだで遠くに逃げるわけにはいかなんだ」

 『魔族』。

 日本人からその言葉が出たことに、小鳥は軽い衝撃を覚えた。

 これまでも、さんざん魔物を倒してきた小鳥だ。魔物がいるなら魔族もいる。なんとなくその事実を想像はしていたが、こうして他人から聞くのは初めてだった。


 ともかく、黙っていては何も始まらない。


「あ……あの、私、魔物に襲われて、ここまで逃げてきました。必死に逃げてきて、森の中をいっぱい歩いたと思います。ここはいったいどこなんでしょうか?」


 まさか異世界から戻ってきたと言うわけにはいかない。小鳥は適当な理由をでっちあげた。

 

「そ、そりゃ大変だったな。とりあえずうちにきなさい。地図と、食事と風呂、良ければ孫の服をあげてもいい」

「あ、ありがとうございます」


 行く当てのない小鳥は、この老人の世話になることに決めた。

 

 そして、小鳥は知った。

 自分が山梨県にいること。

 日本に魔族が攻めて来たこと。


 そして、かつて異世界で自分がいた位置と、匠たちの屋敷があった位置。地図で見比べて、すぐに分かった。

 今小鳥がいる場所と、匠たちと一緒に通っていた学園。その位置が相関関係にあることを。

 つまり、召喚される前に住んでいた小鳥の故郷へと戻れば、匠と会えるかもしれない。


 小鳥はそう結論付け、。匠たちの元へと向かうことにした。



 ************


 匠たちが魔物との戦いに勝ち、勝利の宴を開いていたちょうどそのころ。


 匠たちの故郷から少し離れた、別の都市にて。


 廃墟となったデパートの最上階。

 一体の魔族が、無人となった都市の外観を見下ろしていた。


「……宰相殿から聞いていた話と違うな」


 と、空に向け独り言を呟く魔族。


 迷宮宰相、ゲオルクの提案。

 

 この国――日本の軍は極めて脆弱であり反抗する力は残っていない。強敵を望むのであれば、海を渡って大陸の国と戦えばよいのではないか?


 というのが、ゲオルクの提案だった。

 事実、これまで魔族たちは連戦連勝であった。少人数で瞬く間に幅広い地域を制圧し、反抗の芽すら生まれない。関東、と呼ばれるこの地域よりさらに遠くを制圧することも可能だったが、魔族たちの間ではすでに倦怠感すら生まれていた。

 しかし他の魔族たちと違い、迷宮宰相はいこの世界の情報を熟知していた。魔王と上級魔族たちに献上されたその世界地図には、自分たちが攻めていたこの国が小さな島であることが克明に描かれている。

 

 強敵を求めるなら、やはり東が西にある大陸へと攻め入るべきであろう。多くの魔族がそう結論付けた。


 そしてここにいる彼もまた、来るべき海外遠征に向けて準備を整えている最中であった。


 500体の魔物を暴れさせたことは、ただの戯れ。何の意味もない遊びのつもりだった。

 

 だが、この魔族が放った魔物は……全滅した。

 大型の、しかもかなり強力な魔物たち500体。総力を言えば下級……否、中級魔族に匹敵するレベルであるはずだった。

 それが、倒されてしまったのだ。

 この脆弱な軍しかいなかった国において、これまでありえなかった出来事であった。  

 

 存在するのだ。

 蹂躙されたはずのこの地域で、いまだ魔族に立ち向かうことのできる……強者が。


「この第十階層迷宮公爵――神雷のジギスヴァルト。魔物召喚に骨を折ったかいがあるというもの」


 ジギスヴァルトは魔物の死んだ場所を把握していない。しかし今彼がいる地点から西に向けて進軍するように指示を出したことは間違いない事実だ。

 つまり、彼がこのまま西に向かって進んでいけば、魔物の死骸を発見できるはずだ。

 そこにいる人間たちこそ、魔物の群れを倒した強者。


「上位の魔物を屠る強者。相手にとって不足なし」


 ジギスヴァルトは羽をもたない人型魔族である。したがってその移動手段は、人間と同じく両足を使った歩行である。

 しかし――


 ヒュン、と空気を切り裂く音がした。


 速い。

 空を滑空するように走るジギスヴァルの速度は、新幹線にすら匹敵するかもしれない。しかもそれだけではなく、彼が通り過ぎたその近くには、激しい閃光と焼け焦げた跡が残っている。


 これは雷だ。


 神雷の二つ名を持つ彼は、その言葉通り雷の力を扱うことに長けている。力だけでなく魔法を扱うスタイルであるから、魔物召喚にも慣れていた。

 刀神ゼオンの配下として自らを鍛え上げ、そして魔王の命に従い異世界で命を落とした。忠義と実力を兼ね備えた上級魔族である。

 

 この世界で類を見ないほどの強敵が、今、匠の元へ迫りつつある。

 


これで捜索編を終了します。

思ったより捜索寄りじゃない話になってしまった……。

捜索の気持ちはあったんですがね……。

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