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クラスの女子全員+俺だけの異世界帰還  作者: うなぎ
捜索編

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聖剣の謎


 魔物たちを倒した俺たちは、ささやかながらパーティーを開いていた。

 食べ物、飲み物を用意しての……簡単な食事会だ。さすがに魔物を警戒して酒は飲んでいないが、それでも俺たちの心を癒すには充分な時間だと思う。


 ここに来た当初と比べ、食料事情は劇的に改善している。スーパー、コンビニに残された賞味期限の長いものは健在。そして郊外には畑も存在する立地なのだ。短期・中期的な食糧問題はこれで解決した。

 ……というわけで、こんな宴のような集まりができるようになったというわけだ。


「…………」

 

 遠くで、アメリカ軍人たちが合唱しているのが聞こえる。

 俺はそんな彼らや、つつましく話をしている妻たちを遠くから眺めながら、いろいろなことを考えていた。


 今回の勝利がもたらすのは、つかの間の平和だ。


 基本的に、召喚した魔物は召喚者の命令に従い行動する。その魔物がどこで何をしているか、召喚者は知る術がない。何か特殊な魔法がかかっているなら話は別だが、普通はそういう仕様になっている。

 だが自ら召喚した魔物が死ねば、召喚者にもその情報が伝わってくる。痛みとか感情とかそういうものではない。なんとなく繋がっていた糸のようなものが、ぷっつんと切れてしまう感覚があるのだ。

 この魔物を召喚した魔族は、間違いなくその異常に気が付いたはずだ。

 

 その魔族が攻めてくるかもしれない。

 ということを念頭に入れておかないとな。


 あとは……。

 

「クルーズ軍曹」


 俺は近くのベンチに座っていたクルーズ軍曹に声をかけた。彼もまた仲間たちの喧騒から一歩身を引き、休憩中だ。


「お、大将。ご機嫌か?」

「気分は悪くないな。っと、少し頼みがあるんだがいいか?」


 俺はクルーズ軍曹の足元を指差した。

 彼のいつも持っている聖剣だ。


「あんたのその聖剣、少しだけ俺に貸してくれないか? 俺以外の奴が持ってる聖剣に興味があるんだ」

「おうっ、んなこと断るまでもねーよ。あんだけ世話になったんだからな、なんならプレゼントしてもいいぜ」

「そこまでは……」

 

 俺はクルーズ軍曹から剣を受け取った。


「いろいろ試してみたいことがある。あまり見られたくないから、こっちは来ないでくれ」

「……お、おうよ」


 そう言って、俺はクルーズ軍曹から距離をとった。

 といっても近くの木陰に身を隠した程度だ。クルーズ軍曹がその気になればすぐにこちらに顔を出すことは可能だろう。 

 ただ、彼はそんなことをしないと思う。出会った当初ならともかく、今は俺の仲間なのだから。


「さて……と」


 俺は聖剣を握る手に力を込めた。


 ずっと、気になっていたことがあった。

 

 聖剣・魔剣は魔族の刀神ゼオンによって生み出されたものだ。それは異世界においては人類の希望であったが、それと同時に忌むべき真実も存在する。

 それは、聖剣・魔剣は元々人間だったということ。


 俺は異世界で刀神ゼオンを倒した。その時奴が持っていた聖剣・魔剣はすべて異世界に置き去りにされ、俺が没収した。

 つまりゼオンは、この地球にやってきたときに聖剣・魔剣を持っていなかったことになる。

 同じように異世界に帰った俺のクラスメイト――園田優が持っていた魔剣を除いて、この世界に聖剣・魔剣は存在しないはずなんだ。


 だがここに、こうして聖剣が存在する。

 クルーズ軍曹たちアメリカ軍は刀神ゼオンを倒してはいない。奴が間抜けにも剣を奪われたなんて考えにくいから、自分で捨てたか部下に預けたかそのあたりだろう。

 つまり、クルーズ軍曹の剣がどうでもよくなる程度に、聖剣・魔剣の数がそろっているということだ。


 この世界に存在しなかったはずの複数の聖剣・魔剣。

 その出所は……想像に難くない。


「おい、あんた、聞こえるか?」


 俺は自らの能力――〈同調者〉を起動した。

 こいつは聖剣・魔剣の元となった人間の声を聞くことができる。場合によっては生前の姿を幽霊のようにぼんやりと浮かび上がらせたりもできる。


 この能力を持たないクルーズ軍曹たちは、聖剣・魔剣をただの武器だとしか思っていない。知ったらあまりいい気はしないだろうから、今は伏せておきたい情報だ。


 俺の力によって浮かび上がってきたその人物は、男。風体はやはり日本人。

 普段着じゃない。これは……病院の服か? 患者がよく身に着けている……病衣? とかいうガウンタイプの地味な服だ。


〝あんた……俺に話しかけてるのか?〟

「分かってるぞ。人間なんだろ? 声も聞こえてたんだよな? あんたは魔族に襲われて聖剣にされた。そうだよな?」

〝ああ……まさかまた人と話ができるなんて……。あんたの言う通りだよ。魔族が……俺のいた病院に攻めて来たんだ〟


 やはりか……。


〝俺は当時、腸の手術が終わったばかりだった。そんなに大きな手術じゃなかったんだがな。痛みが強くてうまく動けなくて……気が付けばあの魔族に捕まっていた〟

「その魔族、どんな奴だった?」

〝サムライみたいな恰好した……変な魔族だった。自分のことを『それがし』なんて呼んだりして……時代劇か何かかと……〟

「…………」


 間違いない、ゼオンだ。


〝あの魔族に魔法を使われて、俺は剣になっちまった〟


 予想通りの内容だった。


「……安心してくれ。俺の力があれば元の姿に戻ることができる。待ってろ、今元に――」

〝やっ、やめてくれっ!〟


 乃蒼の聖剣が持つ癒しの力を使えば、聖剣・魔剣を元の姿に戻すことができる。

 そう思って良心からの提案をしたのだが、男は激しく拒絶した。


〝に、人間の姿になったら、今度こそ魔物たちに殺されちまうよ! 剣なら誰にも襲われないし、硬くてそう簡単には折れない。なにより魔物が倒せるっ! 頼むからこのままでいさせてくれっ〟

「そうか……」


 ここではあえて話さないが、魔剣・聖剣は老いることがない。


 もちろん武器である以上壊したり消耗させたりすることはできるのだが、それでも生身の人間よりははるかに頑丈だ。

 この人はこのままの方が安全かもしれない。少なくとも、この魔族たちとの戦いが終わるその時までは……。


「このままあのアメリカ人に剣を返す、それでいいのか?」

〝ああ……こんな俺でも人の役に立てるならな。死なない程度に戦ってみせるさ〟

 

 俺は〈同調者〉の能力を止めた。

 すると浮かび上がっていた男の姿は消え去り、物言わぬ剣が地面にぽつんと残されていた。


「…………」


 それにしてもゼオンめ、病院を襲うなんて非道なことを……。 

 おそらく相当数の人々が犠牲になっているはずだ。

 彼らを助けることも……必要になってくるだろうな。


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