聖剣ジュンパティー
ベヒーモスをほぼ倒し終えた俺たち。
しかし新たな脅威は目前まで迫っていた。
ギガースだ。
こいつはベヒーモスよりもやや大きい魔物だ。そのうえ四足歩行の奴らとは違い、二つの足で立ちながらこちらに走ってくる。その圧迫感は相当なもの。
そして空の上にはカースドラゴンとキラーイーグル。炎のブレスを吐いたりしてくるから危険極まりない。
そしてギガースの足元には、中型魔物が群れを成している。こいつら一匹でも防壁の内側に入ってしまえば、味方に死人が出てしまうかもしれない。
俺たち聖剣・魔剣使いの攻撃。
りんごたちの魔法。
召喚した魔物たち。
効果があるが絶対ではない。異世界帰還組でこの場にいる戦闘要員は一桁なのだ。いくら優秀だといっても、この数を相手にすることは不可能。
そこで俺の考えた次の手が生きてくる。
「みんな、頼んだぞ」
俺は彼らに語り掛けた。
「おうっ!」
答えたのは異世界帰りの俺の妻……ではなくクルーズ軍曹。そして後ろに控えているミゲルの元信者やアメリカ軍人たちもうなずいている。
そう、彼らが俺の切り札だった。
「解放、魔剣ドンナーっ!」
「魔剣グリューエンっ!」
「聖剣ブリッツっ!」
「聖剣ショックっ!」
彼らは一斉に聖剣、魔剣を発動させた。クルーズ軍曹はもともと持っていた聖剣を、そして他の人たちは俺が貸し与えたものを使用している。
「〈炎帝〉っ!」
一紗の魔剣を持ったミゲルの元信者が、さっそく技を使った。
魔剣の炎を敵にぶつける攻撃だ。
燃え盛る火炎はギガースの体を余すことなく包み込んだ。
「ゴオオオオオオオッ!」
すさまじい叫び声ととともに体を回転させ、ギガースは炎を振り払った。しかし熱による消耗は避けられなかったらしく、動きが緩慢になっている。
そこに俺たちの召喚したスライムたちが群がり攻撃を加える。あの動きなら弱小魔物でも十分に仕留められるはずだ。
魔剣グリューエンは完全に完ぺきに発動していた。
「やったっ! やりましたよ」
発動を喜ぶミゲルの元信者。
かつてクルーズ軍曹が聖剣勝負を仕掛けてきたときは、その負荷に耐えられずダウンしてしまっていた。しかし今、このミゲルの元信者には全くそんな気配は見られない。同じ技を何度も放つことができるだろう。
そう、彼らは完全に聖剣・魔剣を使いこなしているのだ。
むろん、アメリカ軍人もミゲルの信者も、もともと聖剣・魔剣をこれほどまでに扱える実力はもっていない。一応聖剣使いと呼ばれていたクルーズ軍曹ですら、実践レベルでは話にならないレベルだった。
これには、俺の秘策が一枚かんでいる。
今、俺が持っている剣。右手には聖剣ヴァイス。そして左手には……もう一つの聖剣。
聖剣ジュンパティーだ。
この剣は俺の聖剣・魔剣適性を他の人間に分け与えることができる。だから適性のない奴も、低かった奴も、俺と同等レベルまで聖剣・魔剣が使用できるようになる。
そして俺には千本近くの聖剣・魔剣――〈千刃翼〉がある。この一部を仲間たちに分け与え、全員で魔物の群れを叩こうという作戦だ。
これもまた、異世界での経験から生まれた戦術。
「うおおおおおおおおおおおおっ!」
「すげぇ、すげぇよ。俺があの聖剣を使いこなしてるなんて」
「お、俺の聖剣が……こんなに……」
みんなが勇んで魔物たちに聖剣・魔剣を使っている。
その威力は絶大。たとえ素人であろうとも、俺の才能を分け与えたのだ。放つ技は一流なのだ。
「………………へっ」
そして、クルーズ軍曹もまた気持ちを高ぶらせているように見える。
もともと聖剣使いであったクルーズ軍曹の感動は、ひときわ強かったのだろう。もう以前のような消耗は感じていないはずだ。威力も格段に上がっている。
「みんなに与えたのは遠距離系の聖剣・魔剣だ。無理に魔物たちに近づく必要はない。氷の壁に隠れながら、魔物たちを駆逐してくれ」
「はいっ!」
自信をつけた仲間たちが、一斉に防壁の上から攻撃を始めた。
「私も行きますっ!」
と、俺の隣にいた璃々が駆け出した。
妊娠中のりんご、エリナ。そして出産後間もない雫とダウンしている一紗。本来であれば第一線で働くはずの武闘派クラスメイトたちが、各々の事情で活躍の機会を失っている。
璃々は本来それほど強いとは言い切れない。しかし俺の力で魔剣の力を得た今なら、平時よりも活躍できるはずだ。
手数が増えて力が増したとはいえ、敵の力は強大だ。中には空を飛んでいる魔物すらいるわけだから、防壁をすり抜けてしまうかもしれない。
たとえ切り札を使ったとしても、油断できる相手じゃない。
長期戦は覚悟の上だ。
俺たちの故郷を……守り切ってみせるっ!
こうして、俺たちは戦った。
半日にも及ぶ熾烈な戦いは、俺たちを疲労困憊させるのに十分だった。俺も、りんごも璃々も子猫も……そしてアメリカ軍人やミゲルの元信者も、一歩も歩けないほどだった。
巨大地震にも等しい、ギガースの体当たり。
マグマを注ぐような、カースドラゴンのブレス。
氷の防壁を削り取る、キラーイーグルの強靭な爪。
魔族に劣る生き物とは言え、これほどの集団で攻めて来られれば脅威以外の何物ではない。俺たちは今、間違いなくこの世界に来て過去最大の危機に直面していると言ってよかった。
しかし眼前に広がるのは魔物たちの死屍累々たるありさま。もう土煙を上げて突進してくるものや、耳をつんざく鳴き声を発する生きた魔物はいない。
完勝だった。
俺たちは、勝利を掴みとったのだ。




