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クラスの女子全員+俺だけの異世界帰還  作者: うなぎ
捜索編

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27/120

東よりの知らせ


 アメリカ軍人たちが泊るホテルの一室で。

 クルーズ軍曹に大統領の写真を見せられた俺は、あることに気が付いた。彼の隣に写っている人物に見覚えがあったのだ。

 迷宮宰相ゲオルク。

 俺がかつて異世界で倒した魔族だった。


「確かにあいつは、昔、優の偽物を作り出していた。俺も一紗もあいつと付き合いは長いはずなのに、全く気が付かないほどによくできた偽物だった。俺と優しか知らない昔話なんかも話してくれたんだ」

 

 そのあまりに精巧すぎる出来のせいで、俺と一紗は優が死んだと勘違いしてしまったわけだ。


「じゃあゲオルクは、大統領とか軍の偉い人の偽物を作ってアメリカを陰で操っているってことか? つぐみはそう考えているのか?」

「…………おそらく、そうだろう。先の選挙より前、大統領候補の一人を偽物とすり替えれば……あるいは」

「なんでわざわざ選挙を挟むんだ? そのまま大統領をすり替えた方が……」

「その方が言動を操りやすいだろう? 職務に就いたまま閣僚や党に無断で奇抜な発言をすることは難しい。内容が内容だけにな」


 そうだな。

 偽物の大統領が、ゲオルクを側近として取り立てる。ここまではいい。

 日本を助けます、軍を派遣しますと言ってた大統領が、突然魔族の味方ですなんて言ってしまうのはあまりに不自然。いや不自然どころの話じゃない。下手をすれば弾劾ものだ。 

 大統領は完全に独裁というわけではない。国民がいて、州があって党があって初めて成立する。

 偽物にすり替えたからと言って、簡単に動かせる存在ではないのだ。


「匠の昔話を知っていたということは、相手の記憶を読む方法があるのかもしれない。そんな能力があれば、選挙を有利に進めることができるはずだ」


 昔話をできるほどの精巧な偽物を作れるんだ。その人物の記憶を読み取ったりできると考えることが自然か。

 大統領候補の一人を偽物にすり替え、自分はその側近のとなる。心を読む力を利用し、選挙を有利に進める。

 まぎれもないチート能力。魔法の存在を知らないこの世界の住人なら騙し通すとはできるかもしれない。


「重要なことは魔族を助けること。他の政策は国民に迎合すればいい」

「でもさ、日米同盟があるんだろ? そんなに簡単に逃げ出していいのか?」

「近年、世界各地のアメリカ軍駐留縮小が試みられている。撤退、縮小に関する議論はそれほど難しい話じゃない」

「…………」


 どちらにしろ、ゲオルクがいる以上……アメリカは敵なんだな。おそらく俺が魔族扱いして囚われてしまったのも、奴の暗躍が関係している。


「俺たちは……どうやってこんな奴と戦えばいいんだ?」


 巨大な敵に、俺はめまいを覚えてしまっていた。


 

 クルーズ軍曹との話を終え、校舎に戻った俺たち。

 そういえばいろいろと立て込んでいて、朝食がまだだった。まずはご飯を食べてから今後のことを考えることにしよう。


 などと考えながらグラウンドに近づいていた俺だったが、騒ぎ声が聞こえてきたことに違和感を覚えた。


 グラウンドには見慣れない車があった。急ブレーキでここまで入ってきたのだろうか? ブレーキ跡が大きい。

 車の先では、鈴菜と子猫が男と話をしている。この車の持ち主だろうか? とても焦っているように見える。


「匠」

「匠君っ!」


 子猫と鈴菜が俺を呼んでいる。

 どうやら、ただ避難してきたというわけではなさそうだな。


 近づくと、車の持ち主らしき男がこちらに駆け寄ってきた。


「あ、あなたがこの避難所のリーダーですか?」

「いや……リーダーというわけじゃないけど……。まあ、話は聞くよ」


 避難所、のつもりはなかったのだが、他人から見ればそう見えてしまうかもしれないな。


「それで、どうしたんだ?」

「魔物の大群が……ここに迫っているのです」

「魔物? どっちの方角だ? 数は?」

「東から。300……いえ500匹は超えているかと」

「500匹っ!」


 おいおい、桁が違うんじゃないか? そりゃ異世界でなら魔族や敵の兵士と集団戦で何千人も相手にしたことはあるけど、あれはあくまで戦争という形態であり、こっちの味方も多かった。

 しかしこの世界で、それだけの魔物が迫っているなんて……。


「疑っているわけじゃないが、本当にここに来るのか?」

「間違いなくこの付近に向かっています。今すぐ避難すべきです」

「……避難か」

「私は隣町に住んでいたものです。車を飛ばして何とかここまで逃げてこれましたが……中には逃げ遅れた人も」

「…………」

 

 確かに、隣町からまっすぐ西に進めばここにたどり着く。

 別に今は戦国時代というわけでもない。この男が虚言で俺をだましたところで何の利益もないはずだ。

 つまり……本当に魔物来るということか……。


「…………」


 鈴菜とつぐみ、そして子猫がじっと俺のことを見ている。

 戦うのは俺だ。決断するのも……当然俺ということになる。 


「教えてくれてありがとう。でも、俺はこの場に残ってその魔物と戦うよ。あんたはもっと西の方に逃げるといい」

「そ……そんな、私一人では……」


 確かに、数は少ないとはいえ道中に魔物がいないとは限らない。一人で逃げるのは命懸けだ。


「なら、一緒にここに残るか? 俺もできる限り守るようにするが」

「なぜ……逃げないのですか?」

「……ここを抜けて、次の都市に向かえばどれだけの人が死ぬ? みんなが避難しきれたわけじゃない。中には隠れている人や一人で助けを待ってるひとがいるかもしれない。魔物がいる限り人が死ぬ。だったら……俺が止めなきゃいけないと思うんだ」

「し、しかし、相手は魔物で」

「安心してくれ。俺たちは魔族と同じように魔法や魔物を扱えるんだ。悪いようにはならないと思う……」


 逃げることは簡単だ。

 ただ、ここを放棄はしたくない。

 行方不明のクラスメイトたちが……もしかするとここに向かっているかもしれない。もしその魔物の大群と遭遇してしまったら……死んでしまうかもしれない。

 そう考えると、戦わざるを得なかった。



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